お風呂に入ると、なぜ指がしわしわになるの?
― ふやけたのではなく、神経が「しわを作れ」と命じています
長湯をすると、指先が梅干しのようにしわしわになります。多くの人は「皮膚が水を吸ってふやけたから」と考えます。ところが、指の神経を傷めた人の指は、いくらお湯につけてもしわになりません。しわは、体が自分で作っているのです。
寒い夜、ゆっくりお風呂につかっていると、ふと指先を見て驚きます。いつの間にか、指の腹に細かい溝がびっしり並んでいます。
ところが、手の甲や腕を見ても、しわはどこにもありません。同じお湯に、同じ時間つかっていたはずなのに、です。
お風呂から上がってしばらくすると、しわは跡形もなく消えます。水を吸っただけなら、なぜ指先と足の裏にだけ出るのでしょうか。
理由は2つだけ
お湯につかってしばらくすると、神経が指先の細い血管に「縮め」と命令を出します。血液が減って、指先の中身が少しだけ細くなります。
指先の皮膚は、奥の組織にしっかりつなぎとめられています。中身がしぼんでも皮膚は縮まないので、余った分が溝のように折れ曲がります。
つまり、しわの主役は「水」ではなく「神経」です。水は、しわを作り始める合図にすぎないと考えられています。
神経を傷めた指は、しわにならなかった
この謎を解く手がかりは、1930年代のイギリスの医師たちの観察にありました。腕の神経をけがで傷めた患者の指は、お湯につけてもしわにならなかったのです。同じ人の、神経が無事な指には、ふつうにしわが出ました。
もし皮膚がふやけるだけでしわになるなら、神経の有無は関係ないはずです。この観察から、しわは神経の働きで起きると考えられるようになりました。のちにこの性質は、手の神経が働いているかを調べる簡単な検査にも使われています。
さらに2000年代には、しわが出るときに指先の血の流れが減っていることが測定で確かめられました。神経の働きを薬で止めると、しわが出にくくなるという報告もあります。
神経から命令を受けるのは、指先にたくさんある細い血管です。ここは体温の調節にも使われていて、寒いときに指が白っぽくなるのも同じ血管の働きです。
中身がしぼむと、なぜ溝になるの?
指先を輪切りにしたところを想像してください。図1を見ると分かるように、中には血管の多いやわらかい組織がつまっています。そのまわりを、長さの決まった皮膚がぐるりと包んでいます。
中身が少し細くなると、皮膚の長さが余ります。皮膚は奥の組織に点々とつなぎとめられているので、だぶつかずに、決まった間隔で内側へ折れ込みます。これが、しわの溝の正体です。
同じ時期に、皮膚のいちばん外側の層は水を吸って少しふくらみます。外側が伸び、内側がしぼむので、余りはさらに大きくなります。指先と足の裏は、この外側の層がとくに厚い場所です。
しわは、何のためにあるの?
体がわざわざしわを作るのなら、何か役に立っているのかもしれません。有力な考えの一つは「ぬれた物をつかみやすくするため」というものです。車のタイヤの溝が雨の日に水を逃がすように、指の溝が水を逃がすという考え方です。
2013年のイギリスの実験では、しわのある指のほうが、水の中のビー玉を速く移し替えられたと報告されました。ただし、別の研究グループの実験では差が見られなかったという報告もあります。役割については、いまも決着していません。
海水のような塩水につかると、真水よりしわができるのが遅いと報告されています。指先の汗の出口から入る水の塩分の違いを、体が感じ取っているのではないかと考えられています。手の甲にしわが出ないのは、そこに縮める血管も、厚い外側の層も少ないためです。
まとめ
お風呂で指がしわしわになるのは、皮膚がふやけたからではありません。神経が指先の血管を縮めて中身が細くなり、長さの変わらない皮膚が余って折れ込むためです。中身の半径がわずか数%細るだけで、目に見える溝ができます。
しわは、水のしわざではなく、神経のしわざ。
体は、お湯の中で自分の指の形を変えています。
寒いと肌に起きるもう一つの変化は「寒いと鳥肌が立つのは、なぜ?」で、指先がさわったものを感じ分けるしくみは「『ざらざら』と『すべすべ』は、なぜ指でさわると分かるの?」で解説しています。
- ぬるめのお湯に、片手だけをつけます。もう片方の手は乾いたままにしておきます。何分でしわが出始めるか、時計で測ってみましょう。
- しわが出たら、指の腹・手のひら・手の甲を見比べます。しわはどこに多く、どこに無いでしょうか。
- 洗面器を2つ用意し、片方に塩をたっぷり溶かします。左右の手を別々につけて、しわの出方を比べます。
しわのある指とない指で、水の中の小石やおはじきを移し替える速さを比べるのもおすすめです。長湯で体が温まりすぎないよう、ぬるめのお湯で短めに行いましょう。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「生物」「物理基礎」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(生理学・材料力学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 浸水による指のしわ:水につかった手足の指先や足の裏に、一時的にできる溝のこと。医学では、神経の働きを調べる「しわ検査」にも使われます。
- 自律神経(交感神経):自分の意思と関係なく、血管の太さや汗などを調節する神経。しわを作る命令はこの神経から出ます。
- 角質層:皮膚のいちばん外側にある、死んだ細胞が重なった層。水を吸うとふくらみ、指先と足の裏ではとくに厚くなっています。
中学高校式で確かめる:中身がどれだけ細ると、皮膚はどれだけ余る?
指先の断面を半径8mmの円とみなします。皮膚の長さは変わらず、中身の半径だけが少し小さくなったとき、皮膚がどれだけ余るかを計算します。中身が細る量は、ここでは仮に0.3mmとしておきます。
| 記号で書くと | ΔL = 2π × Δr 、 余りの割合 = ΔL ÷ C = Δr ÷ r |
| 言葉で書くと | 余る皮膚の長さ = 2 × 円周率 × 中身が細った量。割合にすると「細った量 ÷ もとの半径」 |
| どこから来る式か | 円周 = 2 × 円周率 × 半径(中学の円の式)。皮膚の長さは縮まずに保たれるので、中身の円周が減った分がそのまま余りになります |
| 指先の半径 r(大人の人さし指の目安) | およそ 8 mm |
| 中身が細る量 Δr(ここでの仮定) | 0.3 mm |
| 円周率 π | 3.14 として計算 |
| 記号 | 意味と単位 |
| r | 指先の断面の半径(mm) |
| Δr | 血管が縮んで中身の半径が小さくなる量(mm) |
| C | もとの円周、つまり皮膚の長さ(mm) |
| ΔL | 余る皮膚の長さ(mm) |
| 皮膚の長さ(もとの円周) | 2 × 3.14 = 6.28 |
| 6.28 × 8 = 50.24 mm | |
| 余る皮膚の長さ | 6.28 × 0.3 ≒ 1.88 mm |
| 余りの割合 | 0.3 ÷ 8 ≒ 0.0375 |
| 百分率に直す | 0.0375 × 100 = 3.75 % |
中身の半径が4%足らず細るだけで、ひと回りあたり2mm近い皮膚が余ります。皮膚は横から押しても縮みにくいので、この余りは溝になるしかありません。図1のつまみで、細る量と余りの関係を確かめられます。
高校高校+血管と神経のはたらきを、もう一段くわしく
高校血管の太さを変えるのは自律神経のうちの交感神経です。高校の生物では、交感神経が皮膚の血管を収縮させ、体の熱を逃がしにくくすることを習います。指先のしわは、この血管収縮が目に見える形で表れたものといえます。
高校+指先には、細い動脈と静脈を近道でつなぐ「動静脈吻合(どうじょうみゃくふんごう)」が多くあります。ここが閉じると、指先を流れる血液の量が大きく減ります。お湯の中でしわが出る指では、指先の血流が下がっていることが、血流計で確かめられています。
大学薄い膜が、やわらかい土台の上で折れる現象
生理学では、この現象は交感神経による皮膚血管の収縮として扱われます。指の神経が切れると起こらないことから、末梢神経の検査に用いられてきました。一方、溝ができる形そのものは、材料力学でいう座屈の問題です。かたい薄い膜(角質層)が、やわらかい土台(その下の組織)の上で押し縮められると、膜は決まった間隔の波になって折れます。この波の間隔は、膜と土台のかたさの比と、膜の厚さで決まるとされています。
📖 式の導出や、さらに先の内容:座屈(ウィキペディア) / 交感神経系(ウィキペディア)
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- しわは、本当に「つかむため」にあるのか。 ぬれた物を扱いやすくなるという実験結果と、差がないという実験結果の両方が報告されています。人以外にはサルの仲間でも見られるとされますが、進化の理由ははっきりしていません。
- 体は、何を合図にしわを作り始めるのか。 汗の出口から入った水で、皮膚の中の塩分が薄まることが引き金ではないかという考えがあります。ただし、そのしくみは確かめきれていません。
- しわの位置は、毎回同じなのか。 同じ人の同じ指では、しわの模様がほぼ同じ場所に出るという報告があります。皮膚と奥の組織をつなぐ点の配置が関わっていると考えられていますが、詳しいことはこれからの研究です。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。しわが神経の働きで起きることはよく確かめられていますが、「なぜ体がそうするのか」は、まだ研究が続いています。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・刺激と反応(神経のはたらき)/数学・円周 | 神経が命令を出すこと、円周の式による計算 |
| 高校 | 生物・自律神経と体温調節 | 交感神経が皮膚の血管を縮めること |
| 高校+ | 生物の発展・血液循環 | 動静脈吻合と指先の血流 |
| 大学 | 生理学・材料力学 | 神経検査としての利用、薄い膜の座屈 |
| 研究 | 進化生物学・皮膚の力学 | しわの役割、しわを作る引き金 |
| ― | 生活とのつながり | お風呂・水仕事・水泳のあとの指先 |
- Lewis, T. & Pickering, G. W. (1935). Circulatory changes in the fingers in some diseases of the nervous system, with special reference to the digital atrophy of peripheral nerve lesions. Clinical Science, 2.
- O'Riain, S. (1973). New and simple test of nerve function in hand. British Medical Journal.
- Wilder-Smith, E. P. V. & Chow, A. (2003). Water-immersion wrinkling is due to vasoconstriction. Muscle & Nerve.
- Kareklas, K., Nettle, D. & Smulders, T. V. (2013). Water-induced finger wrinkles improve handling of wet objects. Biology Letters.
- Haseleu, J. et al. (2014). Water-induced finger wrinkles do not affect touch acuity or dexterity in handling wet objects. PLOS ONE.
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。指先の感覚やしわの出方に左右差など気になる変化がある場合は、医療機関に相談してください。