日常のふしぎ 電磁気 予備知識なしでOK 読了 約6分

アルミホイルを噛むと、なぜ歯が「キーン」とするの?
― 口の中に、一瞬だけ電池ができています

ホイルの切れはしを噛んだとたん、歯の奥に電気が走ったような痛みが来る。あれは気のせいではありません。アルミと歯の詰め物、そしてだ液がそろうと、口の中で本物の電池ができあがります。流れた電流を、歯の神経が「痛み」として伝えているのです。

公開:2026.10.18 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

お昼に、アルミホイルで包んだおにぎりをほおばります。はがし残したホイルの小さなかけらを、うっかり奥歯で噛んでしまいました。

その瞬間、「キーン」という鋭い痛みが歯の芯に走ります。冷たい水がしみるのとも、虫歯の痛みとも違う、電気のような感じです。

ところが、同じホイルを噛んでも平気な人もいます。違いはどこにあるのでしょうか。じつは、その人の口の中に「金属の詰め物」があるかどうかが分かれ目です。

理由は2つだけ

1
2種類の金属とだ液で、電池ができる

アルミと銀歯のように、性質の違う金属が水分の中でふれると、電気が流れます。理科の実験で作る電池と、まったく同じしくみです。

2
歯の神経は「痛い」としか言えない

歯の芯にある神経は、熱でも冷たさでも電気でも、届いた刺激をすべて「痛み」として伝えます。だから小さな電流でも、鋭い痛みになります。

つまり、痛みの原因はホイルの硬さでも、とがった角でもありません。口の中で一瞬だけ生まれた電流です。順番に見ていきましょう。

金属にも「電子を手放しやすい・手放しにくい」がある

金属は、それぞれ電子を手放しやすさが違います。アルミは手放しやすい側の代表で、金や銀は手放しにくい側です。この差が大きい2つの金属をつなぐほど、電子を押し出す力、つまり電圧が大きくなります。

電池になるには、もう1つ条件があります。2つの金属のあいだに、電気を運べる水分があることです。だ液には塩分などが溶けているので、この役目を十分に果たします。

図1を見てください。縦の目盛りは、金属ごとの電子の手放しにくさを表しています。いちばん下のアルミと、相手の金属との高さの差が、理屈の上での電圧です。つまみで相手を変えると、銀や金ほど差が大きくなるのが分かります。

電子を手放しにくい ↑ 金 +1.50 銀 +0.80 銅 +0.34 スズ −0.14 鉄 −0.44 亜鉛 −0.76 アルミ −1.66 電子を手放しやすい ↓(単位:ボルト) 高さの差 アルミとの電圧(理屈の上の値) 2.46 ボルト 乾電池 約 1.6 本分 1.5 乾電池1本
つまみを動かすと、相手の金属と電圧が変わります
図1:金属ごとの「電子の手放しにくさ」の目盛り。左の縦軸で、下にあるほど電子を手放しやすい金属です。いちばん下のアルミと相手の金属の高さの差が、右の太い棒の長さ(理屈の上の電圧)になります。つまみで相手を変えると、銀や金を選んだときに棒が右端の乾電池1本分より高くなることが分かります。

銀歯と呼ばれる詰め物や、金の冠には、銀・金・スズなどが含まれています。どれもアルミより目盛りの上のほうにある金属です。理屈の上では、乾電池1本を超える電圧が生まれる組み合わせもあります。

実際の口の中では、アルミの表面にあるうすい膜などのせいで、電圧はこれよりずっと小さくなるとされています。それでも、歯の神経にとっては十分すぎる刺激です。

電流は、詰め物を通って神経に届く

ホイルが詰め物にふれた瞬間、電池の回路がつながります。金属どうしがふれた点では、電子がアルミから詰め物へ移ります。体の側では、だ液と歯ぐきから歯の中を通って詰め物へ、水分に溶けた電気を帯びた粒(イオン)が電流を運びます。図2の矢印が、そのひと回りの道です。

ふつうの歯なら、いちばん外側のエナメル質が電気を通しにくい壁になります。エナメル質には神経がありません。ところが詰め物のある歯では、金属が壁を突き抜けて、神経の近くまで届いています。金属は電気をよく通すので、電流は神経のすぐそばまで一気に運ばれます。

歯ぐき アルミホイル だ液 詰め物 エナメル質 (神経なし) 象牙質 神経 ↑ 電流 電流のひと回り(矢印) ① ホイル → だ液 → 歯ぐき ② 歯の中 → 神経 → 詰め物 ③ 詰め物 → ホイル(ふれた点) 神経は、刺激の種類を問わず 「痛い」とだけ脳に伝える
図2:奥歯の断面と電流の通り道。上に乗った波線がアルミホイル、その下の灰色が金属の詰め物です。白いエナメル質には神経がありませんが、詰め物は中心の神経(黄色の線)の近くまで届いています。右側の点線の矢印と中央の上向きの矢印が、ホイルからだ液と歯ぐきを回って神経を通り、詰め物からホイルへ戻る電流の道を示しています。

エナメル質の内側にある象牙質には、髪の毛よりずっと細い管が、神経に向かってびっしり走っています。管の太さは1000分の1ミリほどとされ、中は液体で満たされています。冷たい水が「しみる」のも、この管を伝わって刺激が神経に届くためと考えられています。

そして、ここが感覚のふしぎなところです。歯の芯の神経は、熱い・冷たい・押された・電気が来た、を区別して伝えることがほとんどできません。どんな刺激も、強さに応じた「痛み」という1種類の信号になります。舌なら同じ電流を「すっぱい」「ピリッとする」と感じ分けられるのに、歯は「キーン」としか言えないのです。

💡 歯医者さんも、わざと電気を流すことがある

歯科では、歯の神経が生きているかを調べるために、ごく弱い電流を歯に流す検査が使われることがあります。生きた神経は、電気にも「痛い・ピリッ」と反応するからです。ホイルの痛みは、この検査を自分の口で不意に受けたようなものです。

💡 詰め物どうしでも、電池はできる

口の中に種類の違う金属の詰め物が2つあると、それどうしがだ液の中で小さな電池になることがあります。金属のフォークが銀歯に当たったときにピリッとするのも、同じしくみです。気になる痛みが続くときは、歯科で相談できます。

まとめ

アルミホイルを噛んで歯が痛むのは、アルミ・金属の詰め物・だ液の3つで、口の中に電池ができるからです。詰め物が電流を神経の近くまで運び、刺激を区別できない歯の神経が、それを鋭い痛みとして伝えます。詰め物のない人が平気なのは、電池の相方になる金属がないためです。

ホイルの「キーン」は、口の中の電池の音。
歯の神経には、電気も「痛み」としか聞こえません。

電気で体が動くことを最初に確かめた人たちの話は「カエルの脚は、なぜ金属に触れただけでピクッと動いたの?」に、痛みを運ぶ神経の速さの違いは「足の小指をぶつけると、痛みが少し遅れてくるのは、なぜ?」にあります。皮ふのセンサーが分子にだまされる話は「ミントは、なぜ冷たくないのにスーッとするの?」で読めます。

🧪 歯を使わずに、口の電池を確かめる
  1. 1円玉(アルミ)と10円玉(銅が主成分)を、せっけんでよく洗って水ですすぎます。
  2. 1円玉を舌の上に、10円玉を舌の下に置き、それだけでは何も感じないことを確かめます。
  3. 舌の前で2枚のふちをそっとふれ合わせます。ふれた瞬間だけ、すっぱいような、ピリッとした味がしたら、それが電池の電流です。

硬貨は飲みこまないよう注意し、小さな子どもは大人と一緒に行ってください。金属の詰め物がある人は、ホイルをわざと噛んで試すのはやめましょう。舌が感じた「味」と、歯が感じる「痛み」の違いこそが、この記事の主役です。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「化学」「生物」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(電気化学・歯科学・神経生理学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:アルミと銀歯で、何ボルトの電池になる?

電池の電圧は、2つの金属の「電子の手放しにくさ」を数字にした値(標準電極電位)の差で見積もれます。記号の意味は次の通りです。単位はどれもボルトです。

記号意味と単位
E電池の電圧(起電力)。単位はボルト
E正電子を受け取る側(正極)の金属の値。ここでは銀。単位はボルト
E負電子を手放す側(負極)の金属の値。ここではアルミ。単位はボルト
⓪ もとになる式
記号で書くとE = E正 − E負
言葉で書くと電池の電圧 = 電子を受け取る金属の値 − 電子を手放す金属の値
どこから来る式か金属ごとに決まった「電子を手放しにくさ」(標準電極電位)の差が、電子を押し出す力になる。電子は手放しやすい金属(アルミ)から、手放しにくい金属(銀)へ流れる
① もとになる数値
アルミの標準電極電位−1.66 ボルト
銀の標準電極電位+0.80 ボルト
スズの標準電極電位−0.14 ボルト
乾電池1本の電圧1.5 ボルト
② 計算してみる
銀とアルミの電池(マイナスを引くので足し算になる)0.80 + 1.66 = 2.46 ボルト
乾電池にすると何本分か2.46 ÷ 1.5 ≒ 1.6 本分
スズとアルミの電池1.66 − 0.14 = 1.52 ボルト
銀とスズの差(詰め物の中の金属どうし)0.80 + 0.14 = 0.94 ボルト

理屈の上では、アルミと銀歯の組み合わせは乾電池1本半ほどの電池になります。実際の口の中では、アルミ表面の酸化膜やだ液の成分のせいで、電圧はこれよりかなり低くなるとされています。それでも、神経のすぐそばまで金属が届いているため、痛みとして感じるには十分です。流れる電流の大きさは、電圧を通り道の電気抵抗で割った値(オームの法則)で決まります。

高校高校+電池のしくみと、歯がしみるしくみ

高校化学では、負極で金属が酸化され(アルミが電子を手放して陽イオンになる)、正極で何かが還元される、と学びます。口の中の正極側では、銀そのものが溶けるのではなく、だ液に溶けた酸素などが電子を受け取ると考えられています。生物では、神経が刺激を受けると電気的な信号(活動電位)を出し、それが脳に届いて感覚になることを学びます。外から流れこんだ電流は、この信号を直接引き起こせます。

高校+歯がしみる理由としては、「動水力学説」が有力とされています。象牙質の細い管(象牙細管)の中の液体が、温度や乾燥で動き、その流れを管の奥の神経が感じとる、という考え方です。電気の刺激は、この液体の動きを介さず、神経を直接ゆさぶると考えられています。

大学電気化学から見た「口の中の電池」

実際の起電力は、標準電極電位の差そのものではありません。イオンの濃度や温度によるずれはネルンストの式で表され、さらに金属表面では複数の反応が同時に進むため、混成電位と呼ばれる中間の値に落ち着きます。異なる金属がふれあって片方が溶けていく現象は、工学では異種金属接触腐食(ガルバニック腐食)と呼ばれ、船や配管でも問題になります。歯科では、口腔内の異種金属による電流や、それに伴う痛み・味の変化を「口腔ガルバニー」として扱います。

📖 式の導出や、さらに先の内容:標準電極電位(ウィキペディア) / 異種金属接触腐食(ウィキペディア)

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。ホイルで痛むしくみの大筋は確かですが、神経の中で何が起きているかの細部は、これからの研究にゆだねられています。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科3年「化学変化とイオン」(電池)2種類の金属と水分で電池ができる(理由1、図1)
高校化学「電池と電気分解」/生物「神経と刺激の受容」標準電極電位の差、神経の信号(式で確かめる)
高校+歯の構造(教科書のコラム的な内容)象牙細管と動水力学説
大学電気化学・腐食工学・歯科学ネルンストの式、混成電位、口腔ガルバニー
研究口腔生理学・歯科材料学電気刺激の経路、個人差、長期の影響
―生活とのつながりホイルの扱い、銀歯とフォーク、歯の痛みの相談
参考・出典
  1. 標準電極電位 - ウィキペディア
  2. 異種金属接触腐食 - ウィキペディア
  3. 象牙質 - ウィキペディア
  4. 日本化学会 編『化学便覧 基礎編』丸善出版(標準電極電位の値)
  5. Brännström, M. の象牙質知覚に関する動水力学説(1960年代の一連の論文)

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。歯の痛みが続く場合や、詰め物の違和感がある場合は、歯科医師に相談してください。