木の板は、なぜいつも決まった向きに反るの?
― 大工は、切り口の年輪を見ただけで言い当てます
まな板も、棚板も、床板も、何年か使ううちに少し反ります。でたらめな向きに曲がるのではありません。年輪の弧が平らになろうとする向きへ、ほぼ必ず反ります。木は縮むとき、向きによって縮む量が2倍ちがうからです。
台所のまな板を、しばらく立てかけたまま忘れていました。久しぶりに置いてみると、まん中が浮いて、押すとカタカタ鳴ります。
裏返すと、こんどはぴたりと収まります。反りは、いつも決まった側がへこんでいます。
大工さんは、板の切り口をちらっと見るだけで「こっちが上だね」と言います。なぜ、見ただけで分かるのでしょうか。
理由は2つだけです
木が乾いて縮むとき、年輪にそった向きは、中心から外へ向かう向きの約2倍縮みます。長さの向きは、ほとんど縮みません。
丸太から切り出した板は、表側と裏側で年輪の向きがちがいます。よく縮む側が強く引っぱられ、板は弓なりに曲がります。
この2つを合わせると、反る向きは最初から決まっていることになります。順番に見ていきます。
木は、どの向きにどれだけ縮むのか
木は、細いストローの束のようなつくりをしています。ストロー1本1本が、水を運んでいた細胞です。この細胞のかべには、たくさんの水がしみこんでいます。
木が乾くと、まずストローの中の水が出ていきます。このあいだ、木の大きさはほとんど変わりません。中身が減るだけだからです。
ところが、中の水がなくなったあとも乾き続けると、こんどは細胞のかべそのものから水が抜けます。かべが薄くなるので、木全体が縮みはじめます。この切りかわる点を、木の世界では繊維飽和点と呼びます。
ここからが本題です。縮み方は、向きによって大きく差があります。図1の左を見てください。丸太の切り口には、年輪が同心円のように並んでいます。
年輪にそって回る向きを接線方向、中心から外へ向かう向きを半径方向と呼びます。同じ木でも、接線方向は半径方向の約2倍縮むことが知られています。
この差を生んでいるのは、木の中を中心から外へ放射状にのびる細胞の列です。放射組織といいます。外へのびる向きに、木をつっぱり棒のように支えています。
だから、反る向きが最初から決まる
丸太から板を切り出すと、板の中で年輪は弧を描いて並びます。図1の右のとおりです。弧がふくらんでいる側が、丸太の外側にあった面です。これを木表、反対の樹心側の面を木裏と呼びます。
木表の側は、年輪の向きが板の面と平行に近くなります。つまり、よく縮む接線方向です。木裏の側は半径方向に近いので、縮みが小さくなります。
板の片側だけが大きく縮めば、板は縮んだほうを内側にして曲がります。こうして、年輪の弧が平らになる向きへ反るのです。木表の面が、へこむ側になります。
大工が切り口を見るのは、この弧の向きを確かめるためです。床板を張るときは木表を上に向けます。上面がわずかにへこめば、板の端は下へ押しつけられて浮きにくくなるからです。
丸太の中心を通るように切ると、板の面のどこでも半径方向がそろいます。表と裏で縮む量に差が出ないので、ほとんど反りません。この木取りを柾目といいます。高価なのは、1本の丸太から少ししか取れないためです。
この縮みは、こわれてしまう変化ではありません。湿気が多い季節には水をすいもどして、また膨らみます。ふすまや障子が夏と冬で動きの重さを変えるのも、同じ理由です。
まとめ
木は向きによって縮む量がちがい、年輪にそう向きが最もよく縮みます。板の表と裏でその差が出るため、年輪の弧が平らになる向きへ反ります。向きが決まっているから、切り口を見れば予測できるのです。
板は、でたらめに曲がっているのではありません。
年輪という設計図のとおりに、動いているだけです。
木の年輪そのもののでき方は「木の年輪は、なぜ1年に1本ずつできるの?」で、木の水分を減らすために冬に切り出す知恵は「木を切り出すのは、なぜ秋から冬なの?」で扱っています。目を読む職人の技は石にもあり、「石工は、なぜ大きな岩をくさびだけで割れるの?」で紹介しています。
- まな板や棚板の、短いほうの切り口を見ます。年輪の線が、弧を描いているのが分かります。
- その弧がふくらんでいる側と、板の反っている向きを比べます。弧が平らになる向きへ反っているはずです。
- 割りばしを1本、水に30分ひたしてから、平らな場所で1日乾かします。まっすぐだったはしが、わずかに曲がります。
集成材や合板は、向きをたがいちがいに張り合わせてこの動きを打ち消しています。反りを見るなら、1枚板を選んでください。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理基礎・化学基礎」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(材料力学・木材科学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 含水率:木にふくまれる水の重さを、水を完全に抜いた木の重さで割った割合です。生の木では100を超えることもあります。
- 繊維飽和点:細胞のすきまの水がなくなり、細胞のかべの水が抜けはじめる境目です。多くの木で含水率30ほどとされています。ここから下で木は縮みます。
- 木表と木裏:切り口の年輪の弧が、ふくらんでいる側を向いている面が木表です。丸太の外側にあった面にあたります。反対の、樹心を向いていた面が木裏です。
中学高校式で確かめる:幅15センチの板は、どれだけ反るのか
板の表と裏で縮む量に差があると、板は弓なりに曲がります。そのまん中の浮き上がりを計算します。2枚の金属をはり合わせた温度計の針が曲がるのと、同じ考え方です。
| 記号で書くと | δ = (αt − αr) × ΔU × W² ÷ (8 × h) |
| 言葉で書くと | 反りの高さ = (接線方向と半径方向の収縮率の差)×(含水率の変化)×(板幅の2乗)÷(8 × 板の厚さ) |
| どこから来る式か | 板の表と裏でひずみに差があると、板は一定の曲率をもつ円弧になります。その曲率は「両面のひずみの差 ÷ 厚さ」で決まります。円弧のまん中の高さは「曲率 × 幅の2乗 ÷ 8」です。この2つをつないだ式です。 |
| 板の幅 W | 150 mm |
| 板の厚さ h | 15 mm |
| 接線方向の収縮率 αt | 含水率1あたり 0.0025(スギの目安) |
| 半径方向の収縮率 αr | 含水率1あたり 0.0012(スギの目安) |
| 含水率の変化 ΔU | 20 から 10 へ、つまり 10 |
記号の読み方です。単位はすべてミリメートルにそろえてあります。収縮率は「含水率が1下がるごとに、何割縮むか」を表す、単位のない数です。
| 収縮率の差 | 0.0025 − 0.0012 = 0.0013 |
| 表と裏のひずみの差 | 0.0013 × 10 = 0.013 |
| 板幅の2乗 | 150 × 150 = 22500 |
| 分子をまとめる | 0.013 × 22500 = 292.5 |
| 分母(厚さの8倍) | 8 × 15 = 120 |
| 反りの高さ δ | 292.5 ÷ 120 ≒ 2.4 |
③ 実感に直します。幅15センチの板のまん中が、2.4ミリ浮くということです。10円玉2枚分ほどの厚みにあたります。まな板がカタカタ鳴るには十分な高さです。板を厚くすれば反りは減り、幅を広げれば一気に増えることも、式から読み取れます。
高校高校+縮み方の差は、どこから生まれるのか
高校細胞のかべの主な成分はセルロースで、細長い分子が束になって並んでいます。束の向きには水がしみこみにくく、束と直角の向きに水が出入りします。だから木は長さの向きにはほとんど縮まず、太さの向きに縮みます。
高校+接線方向と半径方向の収縮率の比を、木材の分野ではティー・アール比と呼びます。多くの木でおよそ2です。半径方向を押さえているのは放射組織と、晩材と早材が交互に重なった層のつくりだと説明されています。年輪の濃い部分である晩材は密度が高く、縮もうとする薄い部分を引き止めます。
大学木材は、直交異方性の材料として扱われる
木材は、長さ方向・半径方向・接線方向の3つが互いに直角な主軸をなす、直交異方性の材料として扱われます。その弾性を表すには、等方性の材料で使う2つの定数では足りず、9つの独立な定数が必要です。この枠組みは複合材料力学と共通で、繊維強化プラスチックの設計と同じ数学が使われます。乾燥による変形は、温度による伸び縮みと同じ形の式で、収縮率を含水率に対する係数として与えて解きます。
📖 用語の背景や、さらに先の内容:異方性(ウィキペディア日本語版) / 木材(ウィキペディア日本語版)
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 比がおよそ2になる理由。 放射組織の量が多い木ほど比が小さい傾向は見られますが、量だけでは説明しきれない例も報告されています。層のつくりの寄与との切り分けが続いています。
- 乾燥中に残る内部の力。 表面が先に乾いて固まると、板の内部には力が残ります。これを数値計算で正確に予測することは、いまも難しい課題とされています。
- 年をまたぐ変形。 湿ったり乾いたりをくり返すうちに、もとの形へ完全には戻らない変形がたまっていきます。そのしくみは、完全には解明されていません。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。数値は樹種や部位で大きく変わるため、目安として読んでください。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・植物のつくり/状態変化 | 細胞のかべと水、乾いて縮むこと |
| 高校 | 物理基礎・力と変形/化学基礎・高分子 | ひずみと曲がり、セルロースの向き |
| 高校+ | 物理・熱による伸び縮みとはり | 2枚はり合わせが曲がる考え方 |
| 大学 | 材料力学・木材科学 | 直交異方性、収縮率の係数 |
| 研究 | 木材物理学 | 比の由来、残る力、くり返しの変形 |
| ― | 生活とのつながり | まな板・床板・棚板の置き向き |
- 木材(ウィキペディア日本語版) ― 組織・含水率・木取りの概説
- 森林総合研究所監修『木材工業ハンドブック』丸善出版 ― 樹種別の収縮率と繊維飽和点
- 日本木材学会編『木質科学ハンドブック』朝倉書店 ― 木材の異方性と乾燥による変形
- 伏谷賢美ほか『木材の物理』文永堂出版 ― 収縮の異方性と放射組織の役割
- 異方性(ウィキペディア日本語版) ― 方向によって性質が変わる材料の考え方
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。収縮率は樹種・部位・乾燥のしかたで大きく変わります。実際の木工や建築では、材料の表示や専門家の助言にしたがってください。