「風速1mで体感温度は1℃下がる」って本当?
― 弱い風ではほぼ当たり、強い風では言いすぎです
冬の天気予報や登山の本でよく聞く目安です。実際に気象機関が使う式で計算すると、風速5メートルくらいまではよく当たります。ところが風が強くなるほど、体感温度の下がり方はにぶくなっていきます。風が奪っているのは「温度」ではなく、肌をおおう暖かい空気の膜だからです。
気温0℃の朝、天気予報が「北風が強く、風速10メートル」と言っています。
「1メートルで1℃」の目安どおりなら、体感はマイナス10℃です。真冬の北海道なみの寒さを覚悟して、厚手の上着を出すかもしれません。
ところが外へ出てみると、たしかに寒いけれど、そこまでではない。この目安は、どこまで信じてよいのでしょうか。
目安が当たる理由と、外れる理由は2つ
肌のまわりには、体温で温まった薄い空気の層があります。風はこの層を吹き飛ばし、冷たい空気を肌に押し当て続けます。だから風が吹くと、同じ気温でも寒く感じます。
風が強くなると膜は薄くなりますが、薄くなるほど、それ以上は薄くなりにくくなります。だから風速が2倍になっても、寒さは2倍にはなりません。
つまり「1メートルで1℃」は、弱い風の範囲で、下がり方をまっすぐな線で近似したものです。線が曲がり始める強い風の領域では、目安は実際より大げさになります。
風は、肌の暖かい膜をはがしている
風のない日に、じっと立っているところを考えます。肌の表面からは熱が少しずつ出ていき、まわりの空気を温めます。温まった空気は、肌にまとわりつく数ミリほどの薄い層になります。この層が、毛布のように熱の逃げ道をふさいでくれます。
風が吹くと、この層は次々に運び去られます。肌はいつも「まだ温まっていない空気」に触れることになり、熱が速く逃げます。体はその熱の逃げる速さを、「寒さ」として感じています。
気象機関が発表する「体感温度」は、この考え方を数字にしたものです。いまの風の中で顔から逃げる熱と同じだけ、無風に近い状態で熱が逃げるのは何℃のときか。その温度を「体感温度」と呼んでいます。図1のつまみで風速を変えて、目安と実際の式をくらべてみてください。
膜は、薄くなるほどはがしにくくなる
図1の実線が寝ていくのは、肌の空気の膜の性質によるものです。風が弱いうちは、少し風が強まるだけで膜が大きくはがれ、熱の逃げ方が一気に変わります。ところが膜がすでに薄くなっていると、さらに風を強めても、はがせる量はわずかです。
しかも、熱は体の中から肌まで運ばれてこないと逃げられません。空気の膜がどれだけ薄くなっても、皮膚と皮下の組織が熱をせき止める壁として残ります。どんな強風でも、体感温度が際限なく下がることはありません。
気温0℃で計算してみると、風速5メートルの体感温度は約マイナス5℃で、目安とほぼ同じです。ところが風速10メートルでは約マイナス7℃、風速20メートルでも約マイナス9℃にとどまります。目安のマイナス20℃とは、10℃以上も離れます。
一方で、気温が低いほど、風による下がり方は大きくなります。気温マイナス10℃なら、風速10メートルで体感はマイナス20℃ほどになり、目安とほぼ一致します。寒い土地ほど、この目安は「当たる範囲」が広いのです。
体感温度は、熱が逃げる「速さ」の話です。乾いた水道管や車のボディは、どんなに強い風に当たっても、気温より冷たくはなりません。風が早めるのは、気温まで冷えるまでの時間だけです。ただし濡れた物は別で、水が蒸発するときに熱を奪うので、気温より冷えることがあります。
天気予報の風速は、ふつう地上10メートルの高さで測った値です。人の顔の高さでは、地面との摩擦で風はそれより弱くなります。気象機関の体感温度の式は、この差も織り込んで作られています。
まとめ
「風速1メートルで体感温度は1℃下がる」は、風速5メートルくらいまでの弱い風では、よく当たる目安です。けれども風が強まるほど、体感温度の下がり方はにぶくなります。気温0℃では、風速20メートルでも体感はマイナス9℃ほどです。寒さを左右するのは、風が肌の暖かい空気の膜をどれだけはがすかで、その膜は薄くなるほどはがしにくくなります。
風が奪うのは温度ではなく、肌の空気の毛布。
最初の数メートルの風が、いちばん寒さを増やします。
風で熱が奪われるしくみの全体は低体温症は、なぜ「そこまで寒くない日」でも起きるの?で、空気の層で寒さを防ぐ話は厚手の1枚より、薄手の重ね着のほうが暖かいのは、なぜ?で詳しく解説しています。風が吹くと涼しい理由を夏の側から見た扇風機の風は、なぜ涼しく感じるの?もあわせてどうぞ。
- 扇風機を「切」にしたまま、前に手のひらをかざし、肌の感じを覚えておきます。
- 次に「弱」にします。「切」から「弱」に変えたときの、ひやりとした変化の大きさに注目します。
- 続けて「中」「強」と上げていき、1段ごとの変化が「切→弱」より小さく感じられるかをくらべます。
乾いた温度計を扇風機の前に置いても、表示はほとんど変わりません。風は空気を冷やしているのではなく、肌から熱が逃げる速さを変えているだけだと分かります。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理」「地学」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(伝熱工学・生気象学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 体感温度:人が肌で感じる寒さ・暑さを、温度の数字に置きかえたもの。風や湿度、日ざしによって、気温とは違う値になります。
- 風冷え指数(風冷温度):風による寒さだけを数字にした体感温度。北米の気象機関が2001年から使っている式が代表的です。
- 境界層:物の表面にまとわりつく、動きのにぶい薄い空気の層。熱はこの層を通り抜けて逃げていきます。
中学高校式で確かめる:気温0℃、風速10メートルの体感温度
カナダ環境省と米国気象局が2001年から使っている風冷え指数の式で、体感温度そのものを計算します。気温0℃を選ぶと、気温のつく項が消えて計算が簡単になります。
| 記号で書くと | W = 13.12 + 0.6215 × T − 11.37 × V0.16 + 0.3965 × T × V0.16 |
| 言葉で書くと | 体感温度 = 気温で決まる部分 から、風速の0.16乗に比例する「風で奪われる分」を引いたもの |
| どこから来る式か | 顔の皮膚から逃げる熱の量を、体の中から肌への熱の流れと、肌から空気への熱の流れのつり合いで計算し、同じ熱が逃げる「ほぼ無風(時速4.8km)」の気温に置きかえた式です |
| W | 体感温度(風冷え温度)、単位は℃ |
| T | 気温、単位は℃(10℃以下で使う) |
| V | 高さ10メートルの風速、単位は時速km(時速4.8km以上で使う) |
| 気温 | 0℃(T のつく2つの項は0になる) |
| 風速 | 秒速10メートル |
| 秒速を時速kmに直す係数 | 3.6 |
| 時速36kmの0.16乗 | およそ 1.774 とされる |
| 秒速5メートル(時速18km)の場合の0.16乗 | およそ 1.588 とされる |
| 風速を時速kmに直す | 10 × 3.6 = 36 |
| 風で奪われる分 | 11.37 × 1.774 ≒ 20.17 |
| 風速10メートルの体感温度(℃) | 13.12 − 20.17 ≒ −7.05 |
| 目安「1mで1℃」の値(℃) | 0 − 10 = −10 |
| 風速5メートルで風に奪われる分 | 11.37 × 1.588 ≒ 18.06 |
| 風速5メートルの体感温度(℃) | 13.12 − 18.06 ≒ −4.94 |
風速5メートルでは式が約マイナス4.9℃、目安がマイナス5℃で、ほぼ一致します。風速10メートルでは式が約マイナス7.1℃、目安がマイナス10℃で、3℃ほど目安のほうが寒く見積もっています。風速が2倍になっても、風で奪われる分は約1.1倍にしか増えていません。これが、0.16乗という小さな指数の意味です。
高校高校+なぜ「0.16乗」なのか
高校熱は、温度の高いところから低いところへ流れます。流れる量は、温度差と、流れやすさ(熱の伝わりやすさ)のかけ算で決まります。風が変えるのは温度差ではなく、この「流れやすさ」のほうです。
高校+物の表面から風へ逃げる熱の伝わりやすさは、風速のおよそ0.5乗で増えるとされます(強制対流)。けれども人の顔では、熱は皮膚の組織という「風に関係しない壁」も通らなければなりません。2つの壁が直列につながっているため、全体としては風速への効き方がさらに弱まります。模型の計算結果を簡単な式に当てはめた結果が、0.16乗という小さな指数だとされます。
大学強制対流と熱伝達率
伝熱工学では、表面から流体への熱の移りやすさを熱伝達率で表し、ヌセルト数とレイノルズ数の関係式で見積もります。円柱のまわりの強制対流では、ヌセルト数がレイノルズ数のおよそ0.5〜0.6乗に比例するとされます。2001年の風冷え指数は、顔を円柱とみなしたこの関係と、皮膚組織の熱抵抗を組み合わせた模型から作られました(オシェフスキーとブルースタインの2005年の論文)。
📖 式の導出や、さらに先の内容:ウィキペディア「体感温度」 / Wikipedia "Wind chill"(英語、式と歴史)
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 人による感じ方の差。 式は、平均的な大人の顔を模型にしています。子どもや高齢の人、顔の大きさや皮下脂肪の違いで、実際の冷え方がどれだけ変わるかは、まだ十分には調べられていないとされます。
- 日ざしと湿り気。 2001年の式は、晴れた日の日ざしや、濡れた肌からの蒸発を含んでいません。これらをどう一つの数字に入れるかは、いまも議論があります。
- 体全体の寒さとの関係。 式が扱うのは顔の皮膚の冷えです。服を着た体全体の寒さや、体の中心の温度の下がり方とどう結びつくかは、別の模型が研究されています。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。体感温度は、寒さを比べるための約束ごとの数字だと考えるのが安全です。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・気象の観測(気温と風) | 風速と気温、体感温度という考え方 |
| 高校 | 物理・熱の移動 | 熱の流れは温度差と伝わりやすさで決まる |
| 高校+ | 物理・熱の伝わり方(対流) | 風速の0.5乗と0.16乗の違い |
| 大学 | 伝熱工学・生気象学 | 強制対流、ヌセルト数、皮膚の熱抵抗 |
| 研究 | 生気象学・人間工学 | 個人差、日ざしと湿り気の扱い |
| ― | 生活とのつながり | 冬の服装選び、天気予報の風速の読み方 |
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。体感温度は日ざし・湿り気・服装・個人差を含まない数字です。寒冷地や山での行動は、気象情報や自治体・山岳関係機関の案内に従ってください。