はちみつを垂らすと、なぜくるくると渦を巻いて積もるの?
― 細い糸が、下で詰まって曲がっています
スプーンからはちみつを垂らすと、パンの上で糸がくるくると輪を描きます。だれも回していないのに、なぜ回るのでしょうか。答えは、落ちてくる糸が下で行き場をなくし、押されて曲がることにあります。ロープを床へ下ろしたときと、同じことが起きているのです。
朝、トーストにはちみつをかけようと、スプーンを少し高く持ち上げます。金色の糸がすうっと細くのびて、パンに届きます。
すると糸の先が、パンの上で小さな輪を描きはじめます。くるくる、くるくると、まるで糸を巻き取る機械のようです。輪は少しずつ重なって、小さな塔になっていきます。
ところが、スプーンをパンに近づけると、輪はぴたりと止まります。同じことを水でやっても、輪はできません。いったい、何が違うのでしょうか。
理由は2つだけ
落ちてきた糸は、パンに当たって止まります。上からは次の糸がどんどん届きます。押された細い糸は、まっすぐ立っていられずに横へ曲がります。
はちみつは、水よりずっとねばい液体です。そのため、押されてもちぎれずに、やわらかいロープのようにふるまいます。水は粒に分かれて、はねてしまいます。
この2つがそろったとき、曲がった糸の先は、まわりながら輪を描き続けます。順番に見ていきましょう。
糸は、なぜ下で「詰まる」の?
スプーンを離れたはちみつは、重さに引かれて落ちながら速くなります。速くなると、同じ量を運ぶのに太さはいりません。だから糸は、下へ行くほど細くなります。蛇口から出る水が、下ほど細くなるのと同じしくみです。
図1を見てください。細くなった糸の先は、パンに当たったところで急に止められます。ところが上からは、同じ速さで次の糸が届き続けます。止まった部分と届く部分のあいだで、糸は縦にぎゅっと押されます。
細い棒を上から押すと、ある力をこえたとたん、ぐにゃりと横に曲がります。この現象を「座屈」といいます。乾いたスパゲッティを1本、指で机に押しつけると体験できます。はちみつの糸も、これと同じように曲がります。
曲がった糸の先は、横へずれた場所に置かれます。次に届いた糸もまた押されて、少し先へずれます。これがくり返されると、糸の先は円をなぞるように回ります。糸は輪を1つ描くたびに、輪の周の長さぶんずつ積もっていきます。
水では、なぜ輪ができないの?
はちみつのねばりは、水の数千倍とされています。ねばい液体は、形を変えるのにゆっくりとしか応じません。押されてもすぐには横へ広がれず、しばらくは糸の形を保ちます。そのあいだに、糸全体が曲がるのです。
水はさらさらしています。細い流れは、途中でくびれて粒に分かれやすい性質があります。粒になった水は、皿に当たってはね返り、ひと続きの糸として押し合うことができません。図2の左と右をくらべてください。
スプーンを低くすると輪が止まるのも、同じ理由で説明できます。落ちる距離が短いと、糸はあまり速くならず、細くもなりません。太く短い糸は押されても曲がりにくく、皿の上でそのまま広がるだけになります。
ねばい液体なら、はちみつでなくても輪を巻きます。シャンプーを手のひらに出すときや、溶かしたチョコレートを垂らすときも、高さがあれば同じ輪が見られます。冷えたはちみつほどねばりが強く、輪がきれいに出やすいとされています。
まとめ
はちみつの糸は、落ちながら細く速くなり、皿の上で止められて押されます。押された細い糸は座屈して横へ曲がり、その先が円をなぞって回ります。水で輪ができないのは、ねばりが足りず、糸が粒に分かれてしまうからです。
はちみつは回っているのではなく、
行き場をなくした糸が、押されて曲がり続けているのです。
下ほど細くなるしくみは蛇口の水が下ほど細くなる理由で、ねばりの感じ方はミジンコにとって水がはちみつのようにねばい理由でも詳しく紹介しています。急に流れ出すふしぎはケチャップの記事もどうぞ。
- スプーンにはちみつをすくい、皿の上2cmくらいから垂らします。糸は太く、輪はほとんどできないはずです。
- 次に、10〜20cmくらいの高さから垂らします。糸が細くなり、皿の上でくるくると輪を描きはじめます。
- 同じことを水と、シャンプーでもためしてみます。どれが輪を描き、どれが描かないかをくらべます。
細いひもや毛糸を、上から少しずつ机へ下ろしてみるのもおすすめです。ひもも机に当たると曲がり、輪を描いて積もります。はちみつの糸は、この「やわらかいひも」と同じふるまいをしています。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(流体力学・弾性体力学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 液体ロープのコイリング:ねばい液体の細い流れが、着いた面の上で輪を描いて積もる現象。ロープを巻くように見えることから、こう呼ばれます。
- 座屈:細長いものを縦に押したとき、ある力をこえると急に横へ曲がる現象。柱や棒の強さを考えるときの大切な考え方です。
- 粘度:液体のねばりの強さ。はちみつは水の数千倍とされています。
中学高校式で確かめる:はちみつは1秒に何回巻くの?
糸の先は、輪を1つ描くたびに、輪の周の長さぶんの糸を置いていきます。だから「1秒に届く糸の長さ」を「輪の周」で割れば、1秒に巻く回数が出ます。届く糸の長さは、流れる量と糸の太さから決まります。
| 記号で書くと | v = Q ÷ A 、 f = v ÷ ( π × D ) |
| 言葉で書くと | 糸の速さ = 1秒に流れる量 ÷ 糸の断面の面積。1秒に巻く回数 = 糸の速さ ÷ 輪の周の長さ |
| どこから来る式か | 前半は、途中で液体が増えも減りもしないこと(量の保存、連続の式)。後半は、1回まわるごとに輪の周の長さだけ糸が置かれるという、長さの勘定です |
| 記号 | 意味と単位 |
|---|---|
| Q | 1秒に流れるはちみつの量(立方ミリメートル毎秒) |
| A | 皿に届く直前の糸の断面の面積(平方ミリメートル) |
| v | 糸が皿に届く速さ(ミリメートル毎秒) |
| D | 輪の直径(ミリメートル) |
| f | 1秒にまわる回数 |
| 1秒に流れる量 | 0.5 mL = 500 立方mm |
| 皿に届く直前の糸の太さ | 直径 2 mm(断面はおよそ 3.14 平方mm) |
| 輪の直径 | 5 mm |
| 糸が届く速さ(mm/秒) | 500 ÷ 3.14 ≒ 159 |
| 輪の周の長さ(mm) | 3.14 × 5 = 15.7 |
| 1秒にまわる回数 | 159 ÷ 15.7 ≒ 10.1 |
糸は秒速16cmほどで届き、1秒に約10回まわる計算になります。目で追うと「くるくる」がかなり速く見えるのは、このためです。実際の回数は、はちみつの温度や高さでかなり変わります。図1のつまみは、この計算と同じ式で動いています。
高校高校+なぜ下ほど細く、速くなるの?
高校落ちる糸は重力で加速します。流れる量が同じなら、速い所ほど断面は小さくなります。これは、上の式の前半そのものです。
高校+はちみつの糸は自由に落ちるわけではなく、上の部分が下の部分を引きとめています。ねばりが、糸の中で引っぱり合う力を生むためです。そのため、水ほど速くはなりません。高く落とすほど細く速くなり、輪が出やすくなります。
大学細長い粘性ジェットの座屈
この現象は「液体ロープのコイリング」と呼ばれ、細長い粘性ジェットが圧縮で座屈する問題として扱われます。糸の中の流れはレイノルズ数がとても小さく、ねばりが慣性に勝つ領域です。研究では、輪の回り方を決める力のつり合いによって、粘性が主な領域・重力が主な領域・慣性が主な領域などに分けて整理されています。落とす高さを上げていくと、領域が切りかわり、回る速さの決まり方も変わるとされています。
📖 式の導出や、さらに先の内容:座屈(ウィキペディア) / 粘度(ウィキペディア)
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 同じ高さで、回り方が何通りもある。 ある範囲の高さでは、同じ条件なのに速い回り方と遅い回り方が入れかわることが報告されています。どちらが選ばれるかの細かいしくみは、いまも調べられています。
- 領域の境目のふるまい。 粘性・重力・慣性の領域が切りかわるあたりでは、回る速さが急に変わったり、揺れたりします。その全体像は、実験と計算の両方で詰められている最中です。
- ものづくりへの応用。 溶かした材料を細い糸にして積み上げる立体の造形や、食品の製造では、この輪が品質を左右します。狙った形に巻かせる方法は、研究が続いています。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。台所でよく見る現象ですが、すべてが解き明かされたわけではありません。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・力と運動 | 落ちながら速くなる糸、押されて曲がる棒 |
| 高校 | 物理・落下運動 | 重力で加速し、下ほど細くなる糸 |
| 高校+ | 物理・流体の発展 | 量の保存(連続の式)と、ねばりが糸を引きとめる力 |
| 大学 | 流体力学・弾性体力学 | 粘性ジェットの座屈、レイノルズ数、領域の分類 |
| 研究 | 非線形の流体力学 | 回り方が何通りもある現象、領域の境目 |
| ― | 生活とのつながり | はちみつ・シャンプー・チョコレートを垂らすとき |
- Barnes, G. and Woodcock, R. (1958) "Liquid rope-coil effect", American Journal of Physics 26, 205.
- Mahadevan, L., Ryu, W. S. and Samuel, A. D. T. (1998) "Fluid 'rope trick' investigated", Nature 392, 140.
- Ribe, N. M. (2004) "Coiling of viscous jets", Proceedings of the Royal Society A 460, 3223–3239.
- Ribe, N. M., Habibi, M. and Bonn, D. (2012) "Liquid rope coiling", Annual Review of Fluid Mechanics 44, 249–266.
- ウィキペディア「粘度」
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。回る回数や輪の大きさは、液体の種類・温度・落とす高さで大きく変わります。