自然のふしぎ 環境・生態 予備知識なしでOK 読了 約6分

人1人が出す二酸化炭素は、木何本で吸いきれるの?
― 呼吸のぶんは約26本、暮らし全体では500本をこえます

息を吐くたびに、私たちは二酸化炭素を出しています。では、それを吸い取るには木が何本あればいいのでしょう。計算すると、呼吸のぶんは意外なほど少ない本数で足ります。本当に桁が変わるのは、息ではないところでした。

公開:2026.09.14 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

公園のベンチで、大きく深呼吸をします。まわりには背の高い木が何本も立っています。

「木は二酸化炭素を吸ってくれる」と、学校で習いました。ふと、こんな疑問がわきます。

自分1人が出すぶんを吸いきるには、この公園の木で足りるのでしょうか。それとも、森がまるごと必要なのでしょうか。

数字で見ると、ポイントは2つだけ

1
呼吸のぶんなら、木は約26本で釣り合う

人が1日に吐く二酸化炭素は、約1キログラムとされています。1年で約365キログラム。よく育ったスギ1本が1年に吸う量の目安で割ると、約26本です。

2
大きいのは、息ではなく「燃やすもの」

電気・ガソリン・ガスまで含めると、1人あたりの量は呼吸の20倍をこえます。しかも呼吸で出る炭素は、もともと植物から借りたものです。

順番に、実際の数字を当てはめていきます。

呼吸のぶんは、小さな林ひとつで足りる

私たちの吐く息には、吸った空気より多くの二酸化炭素がふくまれています。体が食べ物を燃やして、エネルギーを取り出しているからです。宇宙船の生命維持の設計では、1人1日あたり約1キログラムという値が目安に使われています。

一方の木はどうでしょう。木は葉で二酸化炭素を取りこみ、炭素を幹や根の材料にします。手入れされた育ちざかりのスギなら、1本で1年に約14キログラムを吸うという目安が、行政の資料などでよく紹介されています。

1年分の呼吸を、この目安で割ると約26本です。図1の上の短い棒がそれにあたります。木の間隔をふつうの人工林なみにとれば、テニスコート1面ほどの林で、1人ぶんの息は受け止められる計算です。

木が吸った炭素は、消えたわけではありません。乾いた木材の重さの約半分は炭素です。スギ1本は、1年に数キログラムずつ、空気からできた「自分の体」を増やしていることになります。

1人が1年に出す二酸化炭素を、スギ何本で吸いきれる? 呼吸のぶん 約26本(約365kg) 暮らし全体 電気・燃料ふくむ 約570本(約8トン) 点線の矢印:下の棒は上の棒の約22倍の長さ スギ1本が1年に吸う量を約14kgとした目安の計算。木の年齢や手入れで大きく変わります。
図1:上の短い棒が呼吸のぶん(約26本)、下の長い棒が電気や燃料までふくめた暮らし全体のぶん(約570本)。点線の矢印が示すように、長さは約22倍ちがいます。

桁が変わるのは、「地下の炭素」を燃やすとき

ところが、家の電気、車のガソリン、工場や発電所のぶんまで国全体で合わせて人数で割ると、話が変わります。日本では、エネルギーを使うことで出る二酸化炭素が、1人あたり年に約8トンとされています。これをスギの目安で割ると、約570本です。図1の下の長い棒です。

さらに大事なちがいがあります。図2を見てください。左の輪は、呼吸の炭素のめぐりです。お米やパンの炭素は、ここ1年ほどのあいだに植物が空気から取りこんだものです。私たちはそれを食べ、息として空気へ返しているだけです。借りたものを返しているので、空気の中の量は差し引きで増えません。

右の一方通行の矢印は、石炭・石油・天然ガスです。これらは数千万年から数億年前の生き物が、地下にしまいこんだ炭素だと考えられています。燃やすと、長く眠っていた炭素が空気に「新しく」加わります。そのぶんを木を植えて受け止めようとしても、とても追いつきません。

左:呼吸の炭素(ぐるっと戻る輪) 右:燃料の炭素(一方通行) 植物 食べ物 人の体 空気 約1年で ひと回り 空気 燃やすと 新しく加わる 地下の石炭・石油・ガス 数千万〜数億年しまわれていた炭素
図2:左の点線の輪は、植物→食べ物→人の体→空気→植物と、約1年でひと回りする呼吸の炭素。右の太い矢印は、地下にしまわれていた炭素が燃やされて、空気へ一方通行で加わる流れです。
💡 森の広さに直すと、どれくらい?

手入れされたスギの人工林1ヘクタールは、1年に約8.8トンの二酸化炭素を吸うと推定されています。1人あたり約8トンなら、ほぼ1ヘクタール、つまり100メートル四方の森が1人に1つ必要です。日本の全員ぶんを合わせると、日本の森をすべて足した広さの4倍をこえます。

💡 木は、年をとると吸う量が減る

木が二酸化炭素を多く吸うのは、体をどんどん大きくしている若いうちです。育ちきった森は、吸うぶんと落ち葉や枯れ木から戻るぶんが近づいていきます。また、切った木を燃やしたり腐らせたりすれば、炭素は空気へ戻ります。

まとめ

人が息で出す二酸化炭素は、スギ約26本で釣り合う程度です。しかもそれは、植物から借りた炭素を返しているだけです。一方、電気や燃料で出るぶんは1人あたり約570本ぶんにのぼり、地下に眠っていた炭素を空気へ新しく足しています。数字で比べると、気にするべき場所がはっきり見えてきます。

息は、借りた炭素を返しているだけ。
木が追いつけないのは、地下から出した炭素のほうです。

空気へ出た二酸化炭素のうち、海がどれだけ吸いこみ、その先で何が起きているのかは海は二酸化炭素を吸っている ― では、その先は?で、森の落ち葉がどうやって炭素を空へ返しているかは森の落ち葉は、なぜ積み上がって山にならないの?で解説しています。

🧪 自分の数字で計算してみよう
  1. 電気料金の明細を見て、1か月に使った電気の量(キロワット時)を探します。
  2. 電気1キロワット時あたりの二酸化炭素は、電力会社が毎年公表しています。日本の平均では、およそ0.4〜0.5キログラムとされています。使った量にかけて、1か月ぶんを出します。
  3. それを12倍して1年ぶんにし、スギ1本の目安の14キログラムで割ります。電気だけで何本ぶんになるか、呼吸の26本と比べてみましょう。

家族の人数で割ると、1人あたりの数字になります。季節によって電気の量が変わるので、夏と冬の明細を比べるのもおすすめです。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「生物」「化学」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(生態学・地球化学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:必要な木の本数と森の広さ

記号は使わず、目安の値をそのまま当てはめます。単位はキログラム(kg)、本、ヘクタール(ha)です。いずれも条件で大きく変わる目安なので、桁をつかむための計算として見てください。

① もとになる数値
人が1日に吐く二酸化炭素約1kg
育ちざかりのスギ1本が1年に吸う量(目安)約14kg
日本のエネルギー由来の排出量(1人あたり1年)約8000kg
スギ人工林1haが1年に吸う量(推定)約8.8トン
日本の人口約1.24億人
日本の森林面積約0.25億ha
② 計算してみる
1年に吐く二酸化炭素(kg)1 × 365 = 365
呼吸のぶんに必要なスギ(本)365 ÷ 14 ≒ 26
暮らし全体に必要なスギ(本)8000 ÷ 14 ≒ 571
暮らし全体は呼吸の何倍か8000 ÷ 365 ≒ 22
1人に必要な森の広さ(ha)8 ÷ 8.8 ≒ 0.91
全員ぶんの森の広さ(億ha)0.91 × 1.24 ≒ 1.13
日本の森林の何倍か1.13 ÷ 0.25 ≒ 4.5

呼吸のぶんは小さな林で足りますが、暮らし全体では、日本の森をすべて使っても4分の1ほどしか受け止められない計算になります。

高校高校+吸った二酸化炭素は、木の重さに換算できる

高校二酸化炭素の分子の重さは44、炭素原子は12です。二酸化炭素14キログラムにふくまれる炭素は、14に12/44をかけて約3.8キログラムです。

高校+乾いた木材は重さの約半分が炭素なので、炭素3.8キログラムは乾いた木材で約7.6キログラムにあたります。これは幹だけでなく、枝・葉・根まで合わせた増え方の目安です。実際には葉や根の一部は毎年入れかわるため、幹に残るぶんはこれより少なくなります。

大学「総生産」と「正味の吸収」は別の数字

生態学では、植物が光合成で取りこむ量を総一次生産、そこから植物自身の呼吸を引いた量を純一次生産と呼びます。森全体の正味の吸収は、さらに落ち葉や土の生き物の呼吸(従属栄養呼吸)を引いた純生態系生産で考えます。「木1本が吸う量」という目安は、ふつう幹の成長量などから逆算した値で、どの段階の数字かによって大きさが変わります。

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。木の本数はあくまで桁をつかむための目安で、森ができること・できないことを考える入り口として使ってください。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科2分野「植物のからだのはたらき」「自然界のつり合い」光合成と呼吸、炭素のめぐり(図2)
高校化学基礎「物質量」/生物基礎「生態系と物質循環」分子の重さによる炭素の換算
高校+生物「生態系のエネルギーの流れ」木材の重さへの換算
大学生態学・地球化学総一次生産と純生態系生産のちがい
研究森林の炭素収支の観測古い森の吸収・土の炭素
生活とのつながり電気料金の明細から、自分の排出量を木の本数に直す
参考・出典
  1. 林野庁「森林はどのぐらいの量の二酸化炭素を吸収しているの?」(スギ人工林の吸収量の推定)
  2. 国立環境研究所 温室効果ガスインベントリオフィス(日本の温室効果ガス排出量データ)
  3. IPCC 第6次評価報告書 第1作業部会(第5章 炭素循環)
  4. NASA, Life Support Baseline Values and Assumptions Document(1人あたりの二酸化炭素排出量の設計値)

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算で、木の種類・年齢・手入れの状態や統計の取り方によって大きく変わります。