太陽の両わきに出る「にせの太陽」(幻日)は、なぜいつも22度離れているの?
― 空に浮かぶ六角形の氷の板が、光をきっちり22度だけ曲げています
冬の朝や夕方、太陽の左右に、小さな虹色の光のかたまりが現れることがあります。「幻日(げんじつ)」と呼ばれる現象です。光らせているのは、高い空に浮かぶ六角形の氷の板です。氷の板は小さなプリズムになり、光をほぼ22度だけ曲げます。しかも板は、落ち葉のように水平にそろって浮いています。この2つがそろうと、光は太陽の真横の2点にだけ集まります。
よく晴れた冬の夕方です。西の空には、うすいベールのような白い雲がかかっています。
ふと見ると、沈みかけた太陽の右と左に、もう1つずつ明るい光があります。太陽側が赤く、外側にいくほど白っぽい、にじんだ光です。
「太陽が3つある」と写真に撮る人もいます。でも、左右の光はいつも同じくらい太陽から離れています。腕をのばして手のひらを広げると、ちょうど親指から小指までの幅です。なぜ、決まった距離なのでしょうか。
理由は2つだけ
雲の中の氷の粒は、雪の結晶と同じ六角形です。光が1つおきの面から入って出ると、60度の角をもつプリズムを通ったのと同じになります。このとき光が曲がる角度は、どんなに小さくても約22度より小さくなりません。光は、その最小の角度のところに一番たくさん集まります。
平たい板の形の氷は、空気の抵抗を受けて、平らな面を下にして落ちていきます。板がみな水平にそろうと、光は横向きにだけ曲げられます。そのため、太陽と同じ高さの、左と右の2点だけが明るくなります。
1つめは「何度離れるか」を決め、2つめは「どこに出るか」を決めています。順に見ていきましょう。
光は、なぜ「22度」のところに集まるの?
プリズムを通った光は折れ曲がります。曲がる角度は、光がプリズムに当たる向きで変わります。ところが、どんな向きから当てても、曲がる角度には下限があります。氷の場合、それが約22度です。
向きがいろいろな氷の粒がたくさんあると、曲がる角度もいろいろになります。でも、下限の近くでは、向きを少し変えても曲がる角度がほとんど変わりません。そのため、たくさんの光が22度付近に重なって集まります。22度より内側には、光がまったく来ません。幻日の内側のふちがくっきりしているのは、このためです。
色が分かれるのは、色によって曲がりやすさが少しちがうからです。赤い光は曲がりにくく、青い光は曲がりやすいとされています。だから赤は少し内側(太陽側)に、青は少し外側に出ます。図1の左側に、氷の中を通る光の道すじを描きました。
なぜ、輪ではなく「左右の2点」なの?
氷の粒の向きがばらばらなら、光はどの方向にも22度曲がります。すると、太陽を中心にした半径22度の輪ができます。これが「暈(かさ)」で、図1の右下にあたります。
一方、平たい六角形の板は、落ちるときに空気に押されて、平らな面を下に向けます。紙を落とすと、ひらひらしながらも面を下にして落ちるのと似ています。板がみな水平だと、板の側面を通る光は、水平な向きにしか曲げられません。そのため、輪のうち、太陽と同じ高さの左右2か所だけが明るくなります。これが幻日です。
太陽が高くなると、幻日は外へ逃げていく
じつは「いつも22度」がぴったり成り立つのは、太陽が地平線近くにあるときです。太陽が高くなると、光は氷の板にななめ上から入ります。すると、板の中を通る道のりが変わり、プリズムが実際より強く光を曲げるようにはたらきます。
その結果、太陽が高くなるほど、幻日は22度の暈の外側へ離れていきます。太陽の高さが約61度をこえると、光は板から出られなくなり、幻日は消えるとされています。幻日が冬の朝夕によく目につくのは、太陽が低い時間が長いからでもあります。図2のつまみで、太陽の高さを変えてみてください。
幻日は珍しい現象だと思われがちです。でも、うすい雲(巻層雲や巻雲)がかかった日の朝夕には、意外とよく出ているとされています。ほとんどの人が気づかないのは、まぶしい太陽のすぐ近くを見ようとしないからです。手のひらや建物で太陽をかくし、その左右を探してみてください。
幻日を探すときも、太陽そのものを見つめるのは目を傷める原因になります。必ず太陽を手や建物でさえぎってから、まわりの空を見ましょう。双眼鏡やカメラのファインダーで太陽をのぞくのも危険です。
まとめ
幻日は、高い空に浮かぶ六角形の氷の板がつくる光です。氷の板は60度のプリズムになり、光を最低でも約22度曲げます。光はその22度の近くにどっと集まります。さらに板が水平にそろっているので、光は太陽と同じ高さの左右2点にだけ集まります。太陽が高くなると、幻日は22度より外へ離れていきます。
「にせの太陽」の22度は、
六角形の氷が決めた、光の曲がり角の下限です。
月のまわりに小さな虹色の輪ができるしくみは月のまわりに虹色の輪が見えるのはなぜ?で、雪の結晶がなぜ六角形になるのかは雪の結晶の記事で解説しています。
- 腕をまっすぐ前にのばし、手のひらをいっぱいに広げます。親指の先から小指の先までが、およそ20度とされています。
- うすい白い雲がかかった日の朝か夕方、親指の先で太陽をかくします(太陽を直接見ないこと)。
- 小指の先のあたりを見ます。そこに、太陽側が赤い、にじんだ光が見えたら幻日です。反対側でも同じことをして、左右に1つずつあるか確かめましょう。
昼に近い時間に見つけたら、幻日が手のひら1つ分よりも外にずれていないか見てください。太陽が高いほど、外へ離れているはずです。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(光学・大気光学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 幻日(げんじつ):太陽の左右、同じ高さに現れる光のかたまり。水平にそろった板の形の氷の粒による屈折でできます。
- 暈(かさ・内暈):太陽や月を囲む半径約22度の光の輪。向きがばらばらの氷の粒による屈折でできます。
- 屈折:光が空気から氷や水に入るとき、境目で進む向きが折れ曲がること。中学で習う光の性質です。
- 最小偏角:プリズムを通った光が曲がる角度(偏角)のうち、一番小さい値。幻日と暈の22度はこれです。
中学高校式で確かめる:氷のプリズムは、光を何度曲げるか
頂角がAのプリズムで、光がいちばん曲がりにくいとき(最小偏角)の角度を求めます。氷の六角形の1つおきの面は、頂角60度のプリズムになります。
| 記号で書くと | D = 2 × arcsin( n × sin( A ÷ 2 ) ) − A |
| 言葉で書くと | 最小偏角 = 2 × (屈折率 × 頂角の半分の正弦、を角度に戻したもの) − 頂角 |
| どこから来る式か | 境目での屈折の法則(スネルの法則)を入口と出口の2回使い、光がプリズムの中を左右対称に通るとき(曲がり方が最小になるとき)の条件を入れると出てきます |
| D | 最小偏角(度)。光がもとの向きから曲がる角度の下限 |
| n | 氷の屈折率(単位なし)。空気に対して光がどれだけ曲がりやすいか |
| A | プリズムの頂角(度)。六角形の1つおきの面なら60度 |
| arcsin | 正弦(サイン)の値から、もとの角度を求める操作 |
| 頂角 A(六角形の1つおきの面) | 60度 |
| 氷の屈折率 n(目に見える光の中ほどの色) | 1.31 とされます |
| 30度の正弦 | 0.5 |
| 正弦が 0.655 になる角度 | 約 40.9度 |
| 頂角の半分 | 60 ÷ 2 = 30 |
| 屈折率 × 30度の正弦 | 1.31 × 0.5 = 0.655 |
| その角度(約40.9度)を2倍 | 40.9 × 2 = 81.8 |
| 頂角を引くと、最小偏角 | 81.8 − 60 = 21.8 |
光は、最低でも約21.8度曲がります。これが「22度」の正体です。赤い光(屈折率およそ1.307)では約21.6度、青い光(およそ1.317)では約22.4度になります。赤が内側に来るのはこのためです。
| 腕をのばして広げた手のひらの幅 | 約20度とされます |
| 太陽の見かけの直径 | 約0.5度 |
| 幻日までの距離を太陽の大きさでわる | 21.8 ÷ 0.5 ≒ 44 |
幻日は、太陽を横に約44個並べたところに出ます。手のひら1つ分より少し外、と覚えておくと探しやすくなります。
高校高校+なぜ「最小」のところが明るくなるのか
高校高校物理では、プリズムに入る角度を変えると偏角が変わり、ある入射角で最小になることを習います。最小のところでは、入射角を少し変えても偏角がほとんど変わりません。多くの入射角の光が同じ偏角に重なるので、その方向が明るく見えます。虹の約42度も、水滴の中での同じような「曲がり角の極値」で説明されます。
高校+太陽が高いと、光は板の側面にななめに入ります。このとき、水平方向の曲がり方だけを見ると、屈折率が実際より大きいプリズムと同じふるまいになります。この見かけの屈折率は「ブラベの屈折率」と呼ばれ、太陽の高さ h を使って √( n² − sin²h ) ÷ cos h と表されます。図2の動きは、この式から計算しています。見かけの屈折率が2をこえると光は板から出られなくなり、それが太陽の高さ約61度にあたります。
大学大気光学:ハロ(暈)の仲間たち
大気中の氷晶による光の現象をまとめて「ハロ」(暈)と呼びます。大学の大気光学では、氷晶の形(板状・柱状)と向き(水平・ばらばら・回転)の組み合わせごとに、光線追跡という計算で現れる模様を求めます。板状の氷晶の底面と側面の組み合わせ(頂角90度)からは46度の暈が、水平な板の上面で反射した光からは太陽柱ができます。水平な板の中で光が2回以上反射すると、太陽と同じ高さをぐるりと一周する「幻日環」になります。
📖 式の導出や、さらに先の内容:幻日(ウィキペディア) / 暈(ウィキペディア) / スネルの法則(ウィキペディア)
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 板はどこまで水平にそろっているのか。 幻日の広がり方から、板の傾きのばらつきは数度以内とされます。ただし、落ちながら揺れる氷晶の動きを直接測るのは難しく、大きさや形によるちがいは調べられている最中です。
- めったに見られないハロは、どんな氷晶がつくるのか。 まれにしか出ない弧の中には、どの形・向きの氷晶が原因か意見が分かれるものがあります。
- 巻雲の氷晶の形と、地球の気温の関係。 氷晶の形によって、雲が太陽の光をはね返す割合が変わります。気候の予測に雲の効果をどう入れるかは、今も大きな課題とされています。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。22度という数字は確かですが、空の氷晶がどんな姿で漂っているかは、まだ調べる余地が残っています。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科1年「光の屈折」、2年「雲のでき方」 | 氷の中で光が折れ曲がること、高い空の雲が氷でできていること |
| 高校 | 物理「光の屈折・分散・プリズム」 | 最小偏角の計算、赤が内側に来る理由 |
| 高校+ | 物理の発展(虹・プリズムの極値) | 最小のところに光が集まる理由、ブラベの屈折率 |
| 大学 | 光学・大気光学・雲物理 | ハロの分類、46度の暈、幻日環 |
| 研究 | 雲物理・気候科学 | 氷晶の向きのばらつき、巻雲と気候 |
| ― | 生活とのつながり | 冬の朝夕の空の観察、うすい雲は天気の変わり目の手がかり |
- ウィキペディア「幻日」
- ウィキペディア「暈」
- Walter Tape, "Atmospheric Halos", American Geophysical Union (1994)
- Robert Greenler, "Rainbows, Halos, and Glories", Cambridge University Press (1980)
- David K. Lynch, William Livingston, "Color and Light in Nature", Cambridge University Press
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。太陽を直接見たり、双眼鏡やカメラで太陽をのぞいたりしないでください。