砂糖も塩も固まるのに、対処法が正反対なのは、なぜ?
― 片方は水を失って、もう片方は水を吸って固まります
どちらも白い粒で、どちらも台所で固まります。ところが砂糖に良いことを塩にすると、塩はもっとひどく固まります。固まった結果が似ているだけで、そこに至る道のりが逆向きだからです。
しばらく使っていなかった砂糖の袋を開けると、中身がひとかたまりになっています。スプーンの先で突くと、こつん、と固い音がします。
同じ棚の塩の容器はどうでしょう。こちらはしっとりと湿って、振っても出てきません。ふたを開けて指で押すと、じゃりっと崩れます。
よく言われる対処法も、じつは正反対です。砂糖には食パンを一切れ入れる。塩には乾燥剤や煎り米を入れる。片方に水気を足し、もう片方から水気を取るのです。
固まる理由は、大きく2つに分かれます
砂糖の粒の表面には、ごくうすい糖の水溶液の膜がついています。空気が乾くとその水だけが逃げ、溶けていた砂糖が粒と粒のすき間で結晶に戻ります。これが接着剤の役をします。
塩には、空気中の水蒸気を引き寄せる成分がまじっています。湿った日にはそれが水を集めて表面が溶け、乾いた日にまた乾いて、粒どうしをつなぐ橋ができます。
どちらも最後にできるのは「結晶の橋」という同じものです。ちがうのは、その橋を作るために水がどちらへ動いたか。この向きの差が、そのまま対処法の差になります。
砂糖は、なぜ乾いたところで固まるのでしょう
家庭でよく使う上白糖は、さらさらに見えても少しだけ水を含んでいます。この水には砂糖がたっぷり溶けていて、粒の表面を濃い蜜の膜が包んでいる状態です。
乾いた空気の中に置くと、この膜から水だけが蒸発します。残された砂糖は行き場を失い、粒どうしが触れ合っている一点に結晶として析出します。細い柱が無数にできて、袋の中身がひとつの塊になるわけです。
だから食パンを入れる方法が効きます。パンから出た水蒸気が膜を作りなおし、橋をふたたび溶かすからです。図1の左側が、この「水が出ていく側」の流れになります。
塩は、なぜ湿った日に固まるのでしょう
塩そのもの、つまり塩化ナトリウムは、そこまで水を吸いたがる物質ではありません。空気の湿り具合が75%ほどをこえたときに、はじめて表面が溶けはじめるとされています。
ところが食卓の塩には、にがりに由来する別の成分が少量まじっています。その代表である塩化マグネシウムは、湿り具合が33%ほどで水を集めはじめるとされています。梅雨どきでなくても、台所ならふつうに起きる湿度です。
集めた水が塩の表面を少しだけ溶かします。そして乾いた日が来ると、その水が抜けて、溶けていた塩が粒の接点で固まります。塩の容器に乾燥剤を入れるのは、この最初の一歩を止めるためです。
にがりを減らした精製塩が固まりにくいのは、水を集める成分そのものが少ないからです。逆に天日塩や藻塩がしけりやすいのも、同じ理由で説明できます。粒が大きいほど接点の数が減るため、あら塩は固まっても崩しやすくなります。
まとめ
砂糖と塩は、同じ「結晶の橋」で固まります。けれど橋を作るきっかけは、砂糖では水が出ていくこと、塩では水が入ってくることです。だから砂糖の袋にはパンを、塩の容器には乾燥剤を入れる、という正反対の手当てが両方とも正解になります。
白い粒が固まる理由は、ひとつではありません。
水が逃げた跡にも、水が来た跡にも、同じ橋が残ります。
水が少しだけあると、かえって粒どうしが強く結びつく話は濡れた砂の記事にも出てきます。砂糖がなくても甘くなるしくみは焼きいもの記事で扱っています。
- 小皿に砂糖と塩を大さじ1杯ずつ取り、同じ部屋に3日から1週間ほど置いてみてください。梅雨どきや雨の続く日を選ぶと差が出やすくなります。
- 毎日、竹串の先でそっと突いて、表面のようすを比べます。塩はしっとりして光り、砂糖は乾いて白っぽくなっていくはずです。
- 固まったら、砂糖のほうにだけ食パンの小片を添えてふたをします。1日おいて、砂糖がほぐれ、塩は変わらないことを確かめます。
冷蔵庫の中は乾いているため、砂糖の保存には向きません。冷蔵庫に入れた砂糖が特に固くなるのは、この実験と同じことが起きているからです。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「化学基礎・化学」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(物理化学・食品工学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 固結(こけつ):粉や粒の集まりが、時間とともにひとかたまりになる現象。粉を扱う工場でいちばん嫌われる不具合のひとつです。
- 潮解(ちょうかい):物質が空気中の水蒸気を取りこみ、自分から水溶液になること。塩化マグネシウムや塩化カルシウムが代表です。
- 結晶の橋:粒と粒の接点で、溶けていた成分がふたたび結晶になってできる細い柱。固結の正体はこれです。
中学高校式で確かめる:橋になる砂糖は、どれくらいの量でしょう
袋の中で乾いて逃げる水は、ほんのわずかです。それでも塊を作れるのか、溶解度を使って量を出してみます。
| 記号で書くと | M = W × (S ÷ 100) |
| 言葉で書くと | 橋になる砂糖の質量 = 逃げた水の質量 × 水100gに溶ける砂糖の質量 ÷ 100 |
| どこから来る式か | 溶解度の定義そのものです。飽和した水溶液から水だけが抜けると、そこに溶けていた分が質量保存のぶんだけ結晶として残ります。 |
| 上白糖1袋の質量 | 1000 g |
| 上白糖に含まれる水分の割合 | およそ1%(0.01)とされます |
| 20℃で水100gに溶けるショ糖 | およそ204 g とされます |
| 記号の意味と単位 | Mは橋になる砂糖の質量(単位はグラム)、Wは逃げた水の質量(単位はグラム)、Sは溶解度(水100gあたりのグラム数) |
| 袋に含まれる水の質量 | 1000 × 0.01 = 10 |
| その水に溶けていた砂糖 | 10 × 2.04 = 20.4 |
| 袋全体に対する割合 | 20.4 ÷ 1000 = 0.0204 |
袋1つぶんの水がすべて抜けると、20.4 g の砂糖が結晶に戻ります。全体のわずか2%ほどです。しかし砂糖の粒はとても小さく、1袋に数千万個の粒が入っています。橋はその接点だけに集まるので、2%でも塊にするには十分な量になります。
高校高校+「湿り具合がいくつで溶けはじめるか」は決まっています
高校飽和水溶液の上では、水の蒸発する力が純粋な水より小さくなります。これを蒸気圧降下といいます。だから飽和水溶液は、乾いた空気の中でも完全には乾ききらず、湿った空気からは水を受け取ります。
高校+この釣り合う湿り具合を臨界相対湿度と呼びます。塩化ナトリウムでは約75%、塩化マグネシウム六水和物では約33%とされています。部屋の湿度がこの値をこえた瞬間から、粒の表面は水溶液に変わりはじめます。砂糖の側では、同じ考え方が水分活性という量で扱われます。
大学粉が固まる速さを決めるもの
固結の理論は、粒どうしの接点に集まった液体の量と、そこからの結晶成長で組み立てられます。液がつくる曲面のせいで蒸気圧が変わることを扱うのがケルビンの式で、液の量と引きつけ合う力の関係を扱うのが液架橋力の理論です。混合した塩の臨界相対湿度が、それぞれの成分より低くなることも知られています。食品工学では、これらを水分活性の等温線として一枚の図にまとめ、保存性の設計に使います。
📖 式の導出や、さらに先の内容:潮解(ウィキペディア日本語版) / 溶解度(ウィキペディア日本語版)
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 橋がいつ折れるか 固まった粉をどれだけの力で崩せるかは、橋の太さと本数で決まるはずです。しかし袋の中の接点の分布を測る方法が乏しく、予測はいまも経験に頼っています。
- 温度が上下する効果 昼夜の温度変化がある棚では、固まりが速く進むことが知られています。水が移動と再結晶をくり返すためと考えられていますが、何回でどれだけ進むかは分かっていません。
- 固まりにくくする添加物 粉を流れやすくする微粒子がどのように働くのか、表面を覆っているのか橋の成長を邪魔しているのか、説明は一つに定まっていません。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。台所で起きることの多くは、まだ工学の課題として残っています。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・水溶液と溶解 | 水が蒸発すると溶けていたものが出てくるところ |
| 高校 | 化学・溶解度と蒸気圧降下 | 式で確かめるの計算と、飽和水溶液の説明 |
| 高校+ | 化学・臨界相対湿度 | 塩が75%と33%で振る舞いを変えるところ |
| 大学 | 物理化学・食品工学 | ケルビンの式と水分活性の等温線 |
| 研究 | 粉体工学 | 橋の強さと、固まりにくくする添加物のはたらき |
| ― | 生活とのつながり | 砂糖にはパン、塩には乾燥剤、という正反対の手当て |
- 公益財団法人塩事業センター「塩百科」
- 日本食品工学会ほか編『食品工学ハンドブック』(水分活性と保存性の章)
- 化学便覧 基礎編(塩化ナトリウム・塩化マグネシウム・ショ糖の溶解度と潮解の項)
- 精糖工業会「砂糖の種類と性質」に関する解説資料(上白糖の水分と転化糖の項)
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。食品の保存については、製品の表示や製造元の案内を優先してください。