日常のふしぎ 食と農 予備知識なしでOK 読了 約6分

サンマは、なぜ秋になると脂がのっておいしくなるの?
― 北の海で食べためた「旅の燃料」を、ちょうど日本の近くで運んでいます

秋のサンマがおいしいのは、たまたまではありません。サンマは夏のあいだ北の海で食べ続け、これから始まる長い旅のために、体に脂をためこみます。その「満タン」の状態で日本の近くを通りかかるのが、ちょうど秋なのです。

公開:2026.09.15 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

9月の夕方、どこかの家からサンマを焼くにおいがしてきます。網の上では、皮のすき間から脂がぷつぷつと湧き、炭に落ちて煙が上がります。

同じサンマでも、冬の終わりに見かける細身のものは、焼いても脂がほとんど落ちません。身もぱさついて、別の魚のように感じます。

同じ種類の魚なのに、季節でこれほど中身が変わるのは、なぜでしょうか。

理由は2つだけ

1
夏の北の海は、食べものがあふれている

冷たい北の海では、夏になると小さなプランクトンが一気に増えます。サンマはそこで、ひたすら食べて太ります。

2
脂は、長い旅と産卵のための燃料

秋になると、サンマは南の暖かい海へ下り始めます。脂はその旅と卵づくりに使われるので、南へ進むほど減っていきます。

つまり「旬」とは、魚の一生の中で燃料がいちばん満ちている瞬間と、日本の近くを通る時期が重なった状態です。1つずつ見ていきましょう。

夏の北の海は、なぜそんなに食べものが多いの?

サンマは、北太平洋の広い範囲を季節ごとに移動しながら暮らす魚です。春から夏にかけては北へ上り、千島列島の沖などの冷たい海で過ごすとされています。

日本の東の沖には、北から冷たい海流が流れてきます。これを「親潮」と呼びます。魚を育てる親のような潮、という意味でつけられた名前だといわれています。

冷たい海が豊かになるのには、わけがあります。海の深いところには、生きものの死がいが分解されてできた栄養がたまっています。冷たい海では、この栄養が海面近くまで運ばれやすいのです。

そこへ夏の強い日ざしが当たります。北の海は夏の昼が長いので、光も十分です。栄養と光がそろうと、植物プランクトンが爆発的に増えます。それを食べる小さなエビのような動物プランクトンも増えます。

サンマが食べているのは、この動物プランクトンです。夏のサンマは、いわば食べ放題の店に長く居座っている状態です。食べたぶんのうち、すぐに使わなかったエネルギーが、脂として体にたまっていきます。

サンマの1年の旅 上:北の冷たい海(夏) プランクトンを食べて太る 中:日本の近く(秋) 南へ下りながら通過=旬 下:南の暖かい海(冬〜春) 卵を産み、脂を使いきる 春に北へ戻る(点線) 体の脂の量(目安) 増えていく いちばん多い 少ない 冬〜春 北の海 日本の近く 南の海
図1:左はサンマの1年の旅。上の北の海で太り、下向きの矢印のとおり秋に日本の近くを通って、下の南の海で卵を産みます。右端の点線は北へ戻る道です。右の棒グラフは、真ん中の秋の棒がいちばん高く、脂が満ちた状態で日本の近くを通ることを示しています(高さは目安)。

脂は、なぜ秋のあとで減っていくの?

秋が深まって北の海の水温が下がると、サンマは群れで南へ下り始めます。図1の真ん中が、ちょうどこの時期です。日本の漁船がサンマを獲るのは、この南へ向かう群れです。

南への旅は長く、途中で十分に食べられるとは限りません。さらに冬から春にかけて、暖かい海で卵を産みます。卵をつくるには、たくさんのエネルギーが要ります。

そこで使われるのが、夏にためた脂です。脂は、同じ重さで比べると、糖やたんぱく質の2倍以上のエネルギーを持っています。重い荷物を背負わずに遠くまで泳ぐには、いちばん効率のよい燃料です。

ですから、南へ進むほど、そして産卵が近づくほど、脂は燃やされて減っていきます。冬の終わりに見かける細身のサンマは、燃料を使い果たした帰り道の姿なのです。

食品成分表の値では、脂ののった生のサンマは、100gあたり脂質が20gを超えるとされています。一方で、時期や獲れた場所によっては、その数分の1しかないこともあるといわれます。

💡 「戻りガツオ」も、同じ話です

カツオは春に黒潮に乗って北へ上り、秋に南へ戻ります。春の「初ガツオ」はさっぱり、秋の「戻りガツオ」は脂がのっているとよくいわれます。北の海でたっぷり食べてから帰ってくる、という点でサンマとよく似ています。

💡 口の先が黄色いサンマは、脂がのっている?

市場では、口の先が黄色いものは脂ののりがよい目安だといわれます。ただし、これは経験から語られている見分け方です。体の厚みや、腹の張り具合もあわせて見るのが確かです。

まとめ

サンマの脂は、夏の北の海でプランクトンを食べてためこんだ、長い旅と産卵のための燃料です。秋はその燃料がいちばん満ちている時期で、しかも群れが日本の近くを通ります。旬とは、魚の暮らしの予定表と、私たちの漁の予定表がぴったり重なる時期のことです。

秋のサンマの脂は、北の海の夏が形を変えたもの。
私たちは、旅立つ直前の燃料をいただいています。

サンマを追う群れの上に集まる海鳥の話は「漁師は、なぜ海鳥の群れを見ただけで魚の居場所が分かるの?」で紹介しています。また、秋の海そのものの変化は「海の水がいちばん温かいのは、なぜ8月ではなく9月なの?」で読めます。

🧪 自分で確かめてみよう:季節ごとのサンマを比べる
  1. 9〜10月と、1〜3月に、それぞれサンマを1匹ずつ買います。表示にある産地(獲れた場所)もメモしておきます。
  2. アルミホイルを敷いたグリルで、同じ時間だけ焼きます。ホイルにたまった脂の量を、スプーンで比べます。
  3. 焼く前に、背中から腹までの厚みと、口の先の色も見比べます。脂の量と、どの特徴がいちばんよく合っていたかを考えます。

冷凍ものは獲れた時期が分かりにくいので、生のものどうしで比べるのがおすすめです。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「生物」「地学」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(水産学・海洋学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:脂ののったサンマは、どれだけ燃料を持っている?

1匹のサンマがためている脂を、エネルギーの量に直してみます。脂の割合は時期によって大きく違うので、ここでは「多いとき」と「少ないとき」の目安の値で比べます。

① もとになる数値
サンマ1匹の重さ(目安)150 g
脂の割合:秋ののっているとき(目安)20 %
脂の割合:産卵のころの少ないとき(目安)5 %
脂1gが持つエネルギー(栄養の計算で使う値)9 kcal
② 計算してみる
秋の脂の重さ150 × 0.2 = 30 g
秋の脂のエネルギー30 × 9 = 270 kcal
産卵のころの脂の重さ150 × 0.05 = 7.5 g
産卵のころの脂のエネルギー7.5 × 9 = 67.5 kcal
何倍ちがうか270 ÷ 67.5 = 4 倍

同じ大きさのサンマでも、脂だけで4倍ほどのエネルギーの差があることになります。270kcalは、ご飯を茶わんに軽く1杯半食べたくらいに当たります。この差のぶんが、南への旅と卵づくりに使われていく燃料だと考えられます。

記号の代わりに言葉で書いています。重さの単位はg(グラム)、エネルギーの単位はkcal(キロカロリー)です。

高校高校+なぜ「脂」でためるのか

高校生物は、使いきれなかったエネルギーを、糖(グリコーゲン)や脂肪の形でためます。脂肪は水をほとんど含まず、同じ重さあたりのエネルギーが大きいので、長期の貯蔵に向いています。渡り鳥が渡りの前に太るのも、同じ理由です。

高校+親潮の海域が豊かなのは、冬に冷えた海面の水が沈んで深い水とよく混ざり、栄養が表面へ補われるためとされます。春から夏に日ざしが強まると、表面が温まって混ざりにくくなる一方、光が十分になって植物プランクトンが急増します。これを「春のブルーム」と呼びます。

大学水産学から見た「旬」と魚の脂

水産学では、魚の脂の量は、成熟の段階・えさの量・水温などで変わる「体の状態」の指標として調べられます。サンマの脂には、DHAやEPAと呼ばれる、体の中でほとんど作れない脂肪酸が多く含まれます。これらはもともと海の植物プランクトンがつくったもので、食物連鎖を通ってサンマに集まったものと考えられています。

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。サンマの暮らしは、海そのものの変化とともに今も変わり続けています。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科「生物どうしのつながり」プランクトンからサンマへの食物連鎖
高校生物「代謝」/地学「海流」脂肪でのエネルギー貯蔵、親潮
高校+生物「生態系と物質循環」冷たい海で栄養が表面へ補われるしくみ
大学水産学・海洋学脂の量と成熟段階、脂肪酸の由来
研究水産資源学不漁の原因、回遊の道すじ
生活とのつながり季節ごとの魚の選び方、旬の意味
参考・出典
  1. 文部科学省・食品成分データベース(日本食品標準成分表)
  2. 水産研究・教育機構「我が国周辺水域の水産資源の現状(サンマ)」
  3. 北太平洋漁業委員会(NPFC)
  4. 気象庁「海洋の健康診断表(親潮)」

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。魚の脂の量は、個体・獲れた時期や場所によって大きく変わります。