輪ゴムを引っぱると、なぜ温かくなるの?
― ゴムは温めると、のびずに縮みます
引き出しに入っている輪ゴムを1本、唇に軽く当ててみてください。そのまま一気に引きのばすと、はっきり温かくなります。数秒待ってからゆるめると、今度はひやりと冷たくなります。しかもこの輪ゴム、温めると金属とは逆に「縮む」のです。針金でも消しゴムでもなく、ゴムだけがこうふるまうのには、はっきりした理由があります。
輪ゴムを両手の指にかけ、唇に触れるくらいまで近づけます。そこから、思いきりよく一気に引きのばします。唇に当てた部分が、ぽっと温かくなるのが分かります。
そのまま5秒ほど、のばしたままで待ちます。輪ゴムの熱は、まわりの空気へ逃げていきます。
そして、するっと力をぬきます。すると輪ゴムは、さっきより明らかに冷たくなっています。引っぱると温かく、もどすと冷たい。同じ1本のゴムが、行きと帰りで逆のことをしています。
理由は、大きく2つです
ゴムは、細長い分子がぐしゃぐしゃに丸まって、からみ合ってできています。引きのばすと、この鎖がまっすぐに引きそろえられます。散らかっていた状態が整列させられ、そのぶんの余りが熱として外に出ます。
ゴムが縮もうとするのは、ばねのように結合が引きのばされて反発しているからではありません。まっすぐな鎖が、また丸まった散らかった形にもどりたがっているからです。だから温度が上がって鎖が激しく動くほど、縮む力は強くなります。
ふつうの物質は、温めるとのびます。ゴムは逆です。この一点に、ゴムの正体がすべて表れています。順に見ていきます。
のばすと熱が出るのは、鎖を整列させたからです
ゴムの中には、炭素がつながった細長い分子が、ちぢれた毛糸のようにびっしり詰まっています。分子1本は、ほどけばおよそ1万個以上の単位がつながっているとされています。ふだんこの鎖は、まったくでたらめな形で丸まっています。
ここで大事なのは、「丸まった形」は1通りではないということです。同じ鎖が同じ両端の位置におさまる丸まり方は、天文学的な数だけあります。ところが両端を思いきり引き離すと、鎖はほぼまっすぐになるしかなく、とれる形はごくわずかになります(図1)。
散らかっていられる度合いのことを、科学ではエントロピーと呼びます。引きのばすとは、鎖からこの散らかる自由を取り上げることです。取り上げられた分は消えてなくならず、まわりの原子のこまかな振動、つまり熱に姿を変えます。だから、のばした瞬間に温かくなります。もどせば逆のことが起き、熱を吸って冷たくなります。
温めると縮むのは、なぜでしょう
金属の棒を温めると、わずかにのびます。原子どうしが激しくゆれて、平均の間かくが広がるからです。鉄道のレールのつなぎ目にすき間が空けてあるのも、こうしてのびる分を逃がすためです。
ところが輪ゴムにおもりをつるし、温風を当てると、輪ゴムは縮んでおもりを持ち上げます(図2)。鎖の縮もうとする力が、丸まりたがる勢いから来ているためです。温度が高いほど鎖は激しく動き、まっすぐな形からより強く逃げ出そうとします。つまりゴムは、温めるほど強く引くのです。
この違いは、ばねとゴムがまったく別の原理で動いていることを意味します。ばねの力は原子の結合をゆがめた反発から生まれ、ゴムの力は形の散らかりやすさから生まれます。見た目はどちらも「のばすと引きもどす」ですが、中身は別物です。
木から採った生のゴムは、夏はべたつき、冬は固くなって使いものになりませんでした。硫黄を混ぜて加熱し、鎖どうしをところどころ橋わたしする方法が19世紀に見つかって、はじめて「のばしても必ずもどる」ゴムになりました。この橋わたしがないと、鎖はただ滑って流れてしまい、もとの形に帰れません。
のばすと熱が出て、もどすと熱を吸う。この性質は、冷やす道具に使えるのではないかと研究されています。気体を圧縮したりふくらませたりする代わりに、金属やゴムを引っぱったりゆるめたりして熱を運ぶ考え方で、実用化に向けた研究が各国で進められています。
まとめ
輪ゴムが引っぱられて温かくなるのは、まさつのせいではありません。中の長い分子の鎖が、散らかった形をとる自由をうばわれ、その分が熱として吐き出されるからです。同じ理由で、ゴムは温めるほど強く縮みます。金属がのびるのと正反対のこのふるまいは、ゴムの力が「形の自由」から生まれていることの、いちばん分かりやすい証拠です。
ゴムを引きもどしているのは、ばねの反発ではありません。
丸まった形にもどりたい、という散らかりへの欲求です。
のびることで強さを得る素材の話はクモの巣は、なぜ雨や風で壊れないの?にもあります。熱を消すのではなく運ぶ考え方は冷蔵庫は、なぜ部屋を暖めるの?で、同じ温度でも感じ方が変わる話はなぜ金属は木より冷たく感じるの?で扱っています。
- 輪ゴムを唇に軽く当て、一気に引きのばします。温かくなるのが分かります。のばしたまま5秒待ち、力をぬくと、今度は冷たく感じます。
- 輪ゴムを何本かつないで、目玉クリップなどの軽いおもりをつるします。定規を横に置き、おもりの位置に印をつけます。
- ドライヤーの温風を、輪ゴムの部分にだけ20秒ほど当てます。おもりが少し上がれば、ゴムが温められて縮んだ証拠です。
温風は輪ゴムに当て、手や顔には当てないでください。輪ゴムは古いと切れやすくなります。目の高さより下で行い、切れて飛んでも当たらない場所で試してください。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理・化学」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(高分子物理・統計力学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- エントロピー弾性:形のとり方の多さが減ることによって生まれる、もとにもどろうとする力。ゴムの力はほとんどこれだとされています。
- エネルギー弾性:原子どうしの結合をゆがめた反発から生まれる力。金属のばねやガラスの弾性はこちらです。
- 加硫:ゴムに硫黄を混ぜて加熱し、分子の鎖どうしをところどころつなぐ処理。これでゴムは形をおぼえます。
- ガラス転移:温度を下げていくと、鎖が動けなくなって固くなる変化。天然ゴムではおよそマイナス70度あたりとされています。
中学高校式で確かめる:温めると、引く力は何割強くなるか
理想的なゴムでは、引きもどす力は絶対温度に比例するとされています。絶対温度とは、マイナス273度をゼロとして数えなおした温度のことです。手でにぎって温めるだけで、力がどれくらい変わるかを見てみます。
| 記号 | 意味と単位 |
|---|---|
| ティー | 絶対温度。単位はケルビン |
| エフ | ゴムが引きもどす力。単位はニュートン |
| エル | ゴムの長さ。単位はメートル |
| エス | 散らかっていられる度合い。単位はジュール毎ケルビン |
| 部屋の温度 | 20 ℃ |
| 手でにぎって温まった温度 | 40 ℃ |
| 理想的なゴムの引く力 | 絶対温度に比例するとされる |
| 部屋の温度を絶対温度に直す | 20 + 273 = 293 |
| 温めた温度を絶対温度に直す | 40 + 273 = 313 |
| 引く力の比をとる | 313 ÷ 293 ≒ 1.07 |
| 百分率に直す | 1.07 × 100 = 107 |
20度から40度に温めるだけで、引く力はおよそ7パーセント強くなる計算です。金属なら、温めれば逆にやわらかくなっていきます。ゴムだけが、熱を加えられて力を増します。
高校高校+熱が出る、をもう少していねいに
高校手が輪ゴムにした仕事は、どこかへ行かなければなりません。ゴムの場合、その仕事のほとんどは、鎖の形をそろえるという「散らかりを減らす」ことに使われます。減った散らかりの分は、原子のこまかな振動、つまり熱として外へ出ます。素早くのばすほど熱が逃げる時間がなく、温度上昇をはっきり感じられます。
高校+逆に、のばしたまましばらく置くとゴムは室温にもどります。この状態から一気にゆるめると、鎖は散らかりを取りもどす一方で、それを支える熱が足りません。足りない分をゴム自身の熱から借りるので、温度が下がります。冷蔵庫が気体をふくらませて冷やすのと、筋書きはよく似ています。
大学鎖1本を数え上げる考え方
大学の高分子物理では、鎖を「向きがでたらめな短い棒がつながったもの」と見なします。両端の距離を決めたとき、その条件を満たす棒の並べ方が何通りあるかを数え上げると、散らかりの度合いが求まります。並べ方の数は両端を引き離すほど急速に減り、そこから引きもどす力が導かれます。この計算からは、力が絶対温度に比例することと、伸びが小さいうちは力が伸びにほぼ比例することが、同時に出てきます。
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 大きくのばしたときのずれ 数倍以上に引きのばすと、天然ゴムでは鎖の一部が並んで結晶のようになり、単純な数え上げの予測から外れます。この結晶化がいつ、どれだけ起きるかを予測しきるのは、いまも難しい問題とされています。
- 切れる場所の予測 ゴムがどこから裂けるかは、鎖のからまり方や橋わたしのむらに左右されます。分子の並びから寿命を当てる方法は、まだ確立していません。
- 冷やす道具としての実用化 のばして冷やすしくみには、くり返し使ううちに材料がへたる問題があります。何万回のばしても性能が落ちない材料をどう作るかが、研究の焦点のひとつです。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。ゴムのように身近な材料でも、大きく変形させたときのふるまいには、まだ分かっていないことが残っています。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・物質のすがた/力と物体 | 温めるとのびる金属と、縮むゴム |
| 高校 | 物理・仕事と熱/化学・高分子化合物 | のばした仕事が熱に変わる話 |
| 高校+ | 物理・熱力学第一法則の発展 | ゆるめると冷える理由 |
| 大学 | 統計力学/高分子物理 | 鎖の形を数え上げる考え方 |
| 研究 | 材料科学・弾性熱量材料 | のばして冷やす技術の研究 |
| ― | 生活とのつながり | 輪ゴムやタイヤが、使ううちに熱をもつ理由 |
- L. R. G. Treloar『The Physics of Rubber Elasticity』Oxford University Press(ゴム弾性の標準的な教科書)
- J. P. Joule「On Some Thermo-Dynamic Properties of Solids」Philosophical Transactions of the Royal Society, 1859(引きのばしたゴムの温度変化を精密に測った古典的研究)
- J. Gough, Memoirs of the Literary and Philosophical Society of Manchester, 1805(ゴムをのばすと温かくなること、温めると縮むことの最初の報告とされる)
- 日本ゴム協会『ゴム工業便覧』(加硫と天然ゴムの物性に関する記述)
- 高分子学会編『基礎高分子科学』(鎖の統計的な扱いとエントロピー弾性の解説)
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。輪ゴムは古くなると切れやすくなります。実験の際は目の高さより下で行い、切れて飛んでも人に当たらない場所で試してください。加熱器具の扱いは製品の説明書に従い、やけどに注意してください。