🌳 日常のふしぎ 🌾 食と農の話 予備知識なしでOK 読了 約6分

お茶碗1杯のごはんは、
お米何粒なの?

数えた人がいます。答えはおよそ3000粒。そして、その3000粒を実らせるのに必要な苗は、たった5本ほどです。1粒のもみが半年で数百粒に増える、その増え方には、はっきりしたしくみがあります。

公開:2026.09.13 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

茶碗によそったごはんを、箸の先で少しだけすくってみます。ほんのひとくちのはずなのに、白い粒がいくつもくっついています。

では、茶碗1杯ぜんぶでは何粒あるのでしょうか。100粒でしょうか、500粒でしょうか。

実際に数えると、たいていの人の予想を大きく超えます。そして、その粒が実った田んぼの広さを聞くと、もう一度おどろくことになります。

1粒があれだけ増えるのは、2つの理由があります

1
茎が地ぎわで枝分かれする

イネは、地面すれすれのところで茎が次々と枝分かれします。分げつといいます。植えたときは細い1本でも、夏のあいだに何本もの茎に増えていきます。

2
1本の穂に、花が何十個もつく

増えた茎は、それぞれ先端に穂をつけます。穂は1つの花ではありません。小さな花が枝分かれした軸にびっしり並び、そのほとんどが粒になります。

つまり「枝分かれする回数」と「1本あたりの粒の数」が、かけ算で効いてきます。かけ算だからこそ、もとが1粒でも、秋には思いがけない数になります。順番に見ていきましょう。

夏のあいだに、1本の苗が何本にもなる

田植えのとき、農家は苗を1か所に2〜3本まとめて植えるのがふつうです。このひとかたまりを「株」と呼びます。植えた直後の株は、頼りないほど細く見えます。

ところが6月から7月にかけて、株の根元から新しい茎が持ち上がってきます。これが分げつです。増えた茎からさらに次の茎が出るので、増え方は足し算ではなく、ねずみ算に近い形になります。日本の水田では、秋までに1株で20本前後の穂が立つのが目安とされています。株には2〜3本の苗が入っていますから、苗1本から見れば5本から10本ほど、というところです。

ただし、出た茎がすべて実るわけではありません。遅れて出た細い茎は穂をつけずに枯れます。これを無効分げつといい、農家が夏に田んぼの水をわざと抜くのは、この無駄な枝分かれを止める意味もあります。

① 春:苗 1本 もみ 1粒から ② 秋:分げつのあと 穂7本 = 約630粒 ③ お茶碗 1杯 約3250粒 苗 約5本ぶん
図1:左のパネルが春の苗1本、中央のパネルが秋の姿です。中央では細い線の茎が扇のように7本に分かれ、先に楕円の穂がついています。右のパネルの茶碗1杯ぶんは、左の苗にしておよそ5本ぶん。パネルのあいだの2本の矢印は、左から右へ時間が進むことを表しています。

穂を数えると、1本で約90粒

秋の田んぼで、垂れた穂をひとつだけ手に取ってみてください。穂は1本の棒ではなく、軸から小さな枝がいくつも出ていて、その枝に粒がぶら下がっています。

この粒ひとつひとつが、もとは花です。イネの花は花びらを持たず、朝のうちに数時間だけ開いて自分の花粉で受粉します。目立たないので気づかれませんが、粒の数だけ花が咲いたということになります。品種や育ち方で幅はありますが、1本の穂につく粒は70〜100粒ほどとされています。

ここまでの数をかけ合わせると、苗1本あたりおよそ630粒。図1の中央のパネルが、その姿です。そして炊いたごはん150gは、炊く前の米にして約65g。米1粒はおよそ0.02gですから、茶碗1杯はおよそ3250粒になります。苗にして5本ぶん、株にすれば2株にも足りません。

💡 1年分のごはんは、10メートル四方の田んぼ

日本の水稲は、1平方メートルあたり0.5kgほどの米がとれるとされています。1人が1年に食べる米はおよそ50kg。単純に割れば100平方メートル、つまり10メートル四方の田んぼが、1人の1年分ということになります。教室の広さより、少し大きいくらいです。

💡 「一粒万倍」は、言いすぎ?

1粒のもみが万倍になるという昔からの言い方があります。今回の数え方では約600倍でした。ただし条件よく育った株は、もっと多くの茎を出します。倍率は育て方と場所しだいで、大きく動きます。

まとめ

茶碗1杯の3000粒は、たくさんの田んぼから少しずつ集めたものではありません。苗5本が、半年かけて作った量です。枝分かれの回数と、穂1本の粒の数。この2つのかけ算が、小さな種を食卓の一杯に変えています。

茶碗1杯は約3000粒。
それを作ったのは、苗5本と半年の時間です。

夏に田んぼの水を抜く理由は「田んぼの水は、なぜ夏にわざと抜くの?」で、収穫のあとに甘さが変わる話は「渋柿は、干すとなぜ甘くなるの?」でくわしく書いています。

🧪 自分で確かめてみる
  1. 炊く前の米を、台所のはかりで10gだけ量ります。デジタルのはかりがあれば正確です。
  2. その10gを、紙の上で10粒ずつまとめながら数えます。5分ほどで終わります。500粒前後になるはずです。
  3. 茶碗1杯ぶんは炊く前で約65gですから、数えた数を6.5倍してみてください。3000粒を超えるはずです。

品種によって粒の重さは変わります。もち米や大粒の品種なら、数は少なめに出ます。ちがいが出たら、それも発見です。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「生物基礎・生物」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(作物学・植物生理学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:茶碗1杯は、苗何本ぶんか

本文で出した数を、順番に計算してみます。使うのはかけ算とわり算だけです。

① もとになる数値
苗1本から実る穂の数約7本とされる
穂1本につく粒の数約90粒とされる
米1粒の重さ約0.02g
茶碗1杯ぶんの米(炊く前)約65g
② 計算してみる
苗1本が実らせる粒の数7 × 90 = 630
茶碗1杯の粒の数65 ÷ 0.02 = 3250
必要な苗の本数3250 ÷ 630 ≒ 5.2

茶碗1杯は、苗にして約5本ぶん。田植えで1か所に2〜3本植えることを思えば、2株ぶんにも届きません。植えるときの、あの細い苗ひとかたまりが、ごはん2杯ぶんに育つということです。

高校高校+なぜ、茎はいくらでも増えないのか

高校植物が実らせる粒の重さは、結局のところ光合成で作った糖の量で決まります。葉が受け取れる光の量には限りがあるので、茎をいくら増やしても、葉が重なり合えば下の葉は暗くなり、増えたぶんだけ収穫が増えるわけではありません。

高校+そこで作物学では、粒の数を「株数 × 1株の穂数 × 1穂の粒数」に分け、さらに実った割合と千粒重をかけて収量を見積もります。ある要素を増やすと別の要素が減る関係があり、この押し合いを収量構成要素の相補性と呼びます。田んぼの肥料や水の管理は、この配分を調整する作業だといえます。

大学枝分かれを止めている物質

植物の枝分かれは、気まぐれに起きているわけではありません。ストリゴラクトンと呼ばれる植物ホルモンが、わき芽の伸びを抑える向きに働くことが2008年ごろに報告され、以後、イネやエンドウで詳しく調べられてきました。この物質が作れない変異体は、茎が異常に多く枝分かれします。土の中の栄養、とくにリンが乏しいとこの物質が増え、枝分かれが抑えられることも知られています。分げつの数は、株が土の状態を読み取った結果でもあるわけです。

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。数値は代表的な目安で、品種・地域・その年の天気で大きく変わります。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科・植物のつくりと働き花が実になる、という話
高校生物基礎・光合成とエネルギー粒の重さは糖の量で決まる
高校+生物・植物の生殖と成長収量構成要素の押し合い
大学作物学・植物生理学枝分かれを抑える植物ホルモン
研究作物育種学・土壌微生物学高温で粒が白くなる問題
生活とのつながり茶碗1杯を数える、食べ残しを考える
参考・出典
  1. 農林水産省「作物統計調査 水稲の収穫量」(10アール当たり収量の全国平均)
  2. 文部科学省「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」こめ・水稲穀粒の項
  3. 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)「イネの生育ステージと分げつ」に関する栽培解説資料
  4. Umehara ほか「Inhibition of shoot branching by new terpenoid plant hormones」Nature 455巻(2008年)
  5. 星川清親『解剖図説 イネの生長』農山漁村文化協会

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。品種・地域・栽培方法によって実際の値は大きく変わります。