自然のふしぎ 環境・生態 予備知識なしでOK 読了 約6分

秋から冬の木の実は、なぜ赤いものが多いの?
― 赤は、鳥にだけ届く「食べてください」の看板です

ナナカマド、ピラカンサ、ナンテン、マンリョウ。葉が落ちはじめるころ、庭や公園には赤い実が目立ちます。あの赤は、たまたまの色ではありません。木が、種を運んでくれる相手として鳥を選び、その鳥の目にいちばん目立つ色で実を飾っているのだと考えられています。

公開:2026.11.05 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

11月の朝、生け垣のピラカンサに赤い実がびっしり付いています。ヒヨドリが1羽やってきて、実を次々に丸のみしていきます。

数週間後に見ると、あれほどあった実がすっかり減っています。代わりに、近くの塀やベンチの上に、小さな種の混じった鳥のふんが落ちています。

木は動けません。それなのに、子どもにあたる種は、こうして知らないうちに遠くへ旅立っています。

赤い実の理由は、大きく2つです

1
赤は、鳥の目にいちばん目立つ

鳥は色を見分ける力がとても強く、緑の葉の中の赤をはっきり見分けます。一方、犬やタヌキなど多くのけものには、赤と緑の区別がつきにくいとされています。

2
鳥は種をかまずに、遠くへ運ぶ

鳥には歯がありません。実を丸のみし、果肉だけを消化して、種はふんと一緒に別の場所へ落とします。親の木の下から離れた場所のほうが、芽は育ちやすいのです。

つまり赤い実は、「目立つ色で鳥を呼ぶ」と「種を壊さずに遠くへ運んでもらう」の2つを、1つにまとめた仕掛けです。順番に見ていきましょう。

赤は、鳥の目にだけ「くっきり」見える

目の奥には、色を感じる細胞が何種類か並んでいます。人はこれが3種類です。鳥の多くは4種類を持ち、人には見えない紫外線まで感じるとされています。

ところが、犬・猫・シカ・タヌキなど多くのけものは2種類しか持たないとされます。この目では、赤と緑がどちらも似たくすんだ色に見え、葉と実の区別がつきにくくなります。図1を見てください。

鳥の見え方(色の細胞 4種類) 多くのけものの見え方(2種類) 丸い実が、葉からはっきり浮かぶ 丸い実と葉が、同じような色に溶ける 右は見え方の模式です(実際の見え方は動物ごとに異なります)
図1:同じ枝を、左は鳥の目、右は多くのけものの目に近づけて描いた模式図。左では丸い実が葉の中ではっきり目立ちますが、右では実と葉がほぼ同じ色になり、形でしか見分けられません。

赤や黒の小さな実で、硬い殻もなく、においも弱い。鳥に運ばれる実には、こうした共通の特徴があるとされています。反対に、けものに運ばれる実は大きく、茶色や緑で地味な色が多く、においで呼ぶ傾向があるといわれます。

鳥は「かまない運び屋」です

けものは歯で実をかむので、種まで砕いてしまうことがあります。鳥には歯がなく、小鳥の多くは実を丸のみします。果肉だけがおなかの中で消化され、硬い種は形を保ったまま出てきます。

種がおなかにいるあいだも、鳥は飛び回ります。そのため、種は親の木から離れた場所に落ちます。親の木の真下は日陰で、同じ木を好む虫や病気も集まっているため、芽が育ちにくいと考えられています。

では、どれくらい遠くまで運ばれるのでしょう。図2のつまみで、種がおなかにある時間を変えてみてください。

まっすぐ飛び続けたら、種はどこまで行く?(秒速10mで計算) 親の木 0 10 km 20 km 30 km 最大 約18 km 実際には途中の木や電線で休むので、多くの種はもっと近くに落ちます
つまみを動かすと、種が運ばれうる最大の距離が変わります
図2:左の親の木から右へ伸びる横棒が、鳥が休まずまっすぐ飛んだ場合に種が運ばれうる最大の距離です。つまみで時間を変えると、時間に比例して棒が伸び縮みすることが分かります。

最大で十数キロというのは、あくまで休まずに飛び続けた場合の上限です。実際の鳥はあちこちに止まりながら食べ歩くので、多くの種は親の木から数十〜数百メートルの範囲に落ちるとされています。それでも、真下に落ちるよりはずっと遠くです。

💡 電線の下に、木が一列に生えるわけ

空き地のフェンスや電線の真下に、ナンテンやクワなどの若い木が一列に並んでいることがあります。そこは鳥がよく止まる場所です。鳥が止まって休むあいだに落としたふんの種が、そのまま芽を出したと考えられています。

💡 鳥はトウガラシが辛くない

トウガラシの辛さの成分カプサイシンは、けものの舌には強い刺激になります。ところが鳥はこの辛さをほとんど感じないとされます。種をかみ砕くけものを遠ざけ、丸のみする鳥にだけ食べてもらう仕掛けだと考える研究があります。

なぜ「秋から冬」に多いの?

秋は、北の国からツグミなどの冬鳥が渡ってくる季節です。一年じゅういるヒヨドリやメジロも、虫が減る冬には木の実をよく食べるようになります。実を食べる鳥が増えて、しかも食べ物に困る時期に、木はちょうど実を熟させているのです。

葉が落ちたあとの枝に実が残るのも、都合がよいと考えられています。緑の葉が無くなれば、赤い実はいっそう目立つからです。なお、赤い実の中には人が食べてはいけないものもあります。鳥が食べているからといって、口に入れないでください。

まとめ

秋から冬に赤い実が多いのは、種を運んでくれる鳥の目に、赤がいちばん目立つからです。鳥は歯がないので種を壊さず、飛び回るうちに親の木から離れた場所へ落とします。木は動けない代わりに、色で運び屋を雇っているのです。

赤い実は、鳥にあてた「食べてください」の看板。
代金は果肉、届け先は、まだ見ぬ遠くの地面です。

花の色が虫を呼ぶしくみは「花はなぜ、あんなに色とりどりなの?」で、葉の色づきは「紅葉は、なぜ赤や黄色に色づくの?」で紹介しています。ドングリのように、けものや鳥が「埋めて忘れる」ことで運ばれる実の話は「どんぐりは、なぜ豊作の年と不作の年があるの?」にあります。

🧪 近所の赤い実を、何週間か見張ってみよう
  1. 庭や公園で、赤い実の付いた木(ピラカンサ、ナナカマド、ナンテン、クロガネモチなど)を1本決め、ひと枝の実の数を数えます。
  2. 1週間おきに同じ枝の実を数え、どんな鳥が来ていたかもメモします。減り方が急な週があるか見てみましょう。
  3. 近くの塀や電線の下を見て、小さな種の混じった鳥のふんや、一列に並んだ若い木がないか探します。

実は観察するだけにして、食べたり持ち帰ったりしないでください。木によって、実が早くなくなるものと、冬の終わりまで残るものがあります。その違いも記録すると面白い発見になります。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「生物」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(生態学・進化生態学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:種はどこまで運ばれうるか

鳥が実を食べてから種を出すまでの時間と、飛ぶ速さから、運ばれうる距離の上限を見積もります。

⓪ もとになる式
記号で書くとL = v × t
言葉で書くと種が運ばれる距離 = 鳥の飛ぶ速さ × 種がおなかにある時間
どこから来る式か「距離 = 速さ × 時間」という、等速で動くものの関係です。休まずまっすぐ飛ぶと仮定した上限になります。
記号意味と単位
L種が運ばれる距離(m)
v鳥の飛ぶ速さ(m/s)
t実を食べてから種が出るまでの時間(s)
① もとになる数値
小鳥がふつうに飛ぶ速さ秒速 およそ 10 m とされます
小さな果実食の鳥で、種が出てくるまでの時間数十分ほどとされます(ここでは 30 分)
1 分60 秒
② 計算してみる
30 分を秒に直す30 × 60 = 1800 秒
運ばれうる距離10 × 1800 = 18000 m
キロメートルに直す18000 ÷ 1000 = 18 km

休まず飛べば、種は親の木から最大で約18 km 先まで行けることになります。実際には止まり木で休むため、多くは数十〜数百メートルに落ちるとされます。それでも、実が真下に落ちるだけの場合とは比べものにならない距離です。

高校高校+色の見え方と、植物と動物の「持ちつ持たれつ」

高校網膜の錐体は、それぞれ違う波長の光によく反応します。人は3種類、多くの鳥は紫外線まで含む4種類を持つとされます。鳥の錐体には色のついた油滴があり、色の見分けをさらに鋭くしていると考えられています。

高校+植物は果肉という「報酬」を払い、動物は種を運ぶ。このように、異なる生き物どうしが互いに得をする関係を相利共生といいます。花と虫の関係と同じ形です。

大学散布シンドロームと、ジャンゼン・コネル仮説

運び手ごとに実の特徴がそろう傾向は、散布シンドロームと呼ばれます。鳥散布の実は赤や黒で小さく、においが弱い傾向があるとされます。親の木から離れると芽が生き残りやすい理由は、ジャンゼン・コネル仮説として説明されます。親の近くでは、その木に特化した虫や病原菌が集中するという考え方です。種が落ちる距離の分布は、散布カーネルと呼ばれる関数で表されます。

📖 式の導出や、さらに先の内容:種子散布(ウィキペディア) / 色覚(ウィキペディア)

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。色の意味については、今も野外での観察や実験が続いています。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科「植物のなかま」「速さ」種の運ばれ方、距離 = 速さ × 時間
高校生物「動物の反応と行動(視覚)」錐体の種類と色の見え方
高校+生物「生態系・生物どうしの関係」相利共生としての被食散布
大学生態学・進化生態学散布シンドローム、ジャンゼン・コネル仮説、散布カーネル
研究種子散布の野外研究紅葉の目印説、冬まで残る実の意味
―生活とのつながり庭木や公園の実の観察、電線の下に並ぶ若い木
参考・出典
  1. 種子散布 ― ウィキペディア
  2. 色覚 ― ウィキペディア
  3. カプサイシン ― ウィキペディア
  4. Tewksbury, J. J. & Nabhan, G. P. (2001) Directed deterrence by capsaicin in chilies. Nature 412, 403–404.
  5. Janzen, D. H. (1970) Herbivores and the number of tree species in tropical forests. The American Naturalist 104, 501–528.
  6. Stiles, E. W. (1982) Fruit flags: two hypotheses. The American Naturalist 120, 500–509.

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。鳥の飛ぶ速さや種がおなかにある時間は、鳥の種類や状況で大きく異なります。野外の実は食べないでください。