小惑星は、なぜ2時間より速く回れないの?
― 正体は、がれきが重力だけで寄り集まった「砂山」です
望遠鏡で小惑星の明るさの変化を測ると、何回転しているかが分かります。何千個も調べると、ふしぎな「壁」が見えてきました。数百メートルより大きい小惑星は、どれも約2.2時間より速く回っていないのです。理由は、小惑星の中身にありました。
公園の回転遊具に乗って、だれかに速く回してもらいます。体が外へ外へと引っぱられ、手すりを強くにぎらないと振り落とされそうになります。
2018年、探査機「はやぶさ2」が小惑星リュウグウに着きました。写真に写っていたのは、赤道がぐるりとふくらんだ「そろばん玉」のような形です。表面は大小の岩でおおわれていました。
もし小惑星に手すりがなかったら、速く回ったときに何が起きるでしょう。そろばん玉の形は、その答えを体で示しているのかもしれません。
速く回れない理由は、2つだけ
回っているものの上では、外へ押し出す力(遠心力)が働きます。回る速さが2倍になると、この力は4倍になります。小惑星の重力はとても弱いので、すぐに追いつかれます。
大きめの小惑星の多くは、一枚岩ではありません。ぶつかって砕けた岩が、重力だけで集まった「がれきの山」です。のりも手すりもないので、遠心力が重力に勝つと、表面の石は飛んでいきます。
この2つを組み合わせると、ふしぎなことが分かります。限界の速さは、小惑星の大きさではなく、中身のつまり具合(密度)だけで決まるのです。順に見ていきましょう。
重力と遠心力の綱引きは、どこで決着がつくの?
小惑星の赤道に、小石が1つのっているとします。小石は重力で中心へ引かれ、自転による遠心力で外へ押されます。この2つの綱引きで、小石がとどまるか飛ぶかが決まります。
図1のつまみで、1回転にかかる時間を変えてみてください。密度が水の2倍ほどの小惑星なら、約2.3時間を切ったところで、遠心力が重力を上回ります。ここが限界です。
ここで大事なのは、小惑星を大きくしても限界は変わらないことです。大きくすると重力は強くなります。しかし赤道の小石が回る円も大きくなり、遠心力も同じ割合で強くなります。2つが打ち消し合うので、限界の時間は密度だけで決まります。
本当に「壁」は見つかっているの?
2000年ごろ、チェコとアメリカの研究者が、自転の速さが測られた小惑星を大きさごとに並べました。すると、直径が数百メートルより大きいものは、ほぼ全部が約2.2時間より遅く回っていました(図2)。
この時間は、がれきの山の計算で出てくる限界とよく合います。小惑星の多くは、一枚岩ではないことを示す有力な手がかりになりました。のちに、はやぶさが訪れたイトカワも、がれきの寄せ集めであることが確かめられています。
一方、図2の左側を見ると、直径数十メートルより小さいものには、数分、ときには1分もかからず回るものがあります。小さな小惑星は一枚岩のことが多く、岩そのものの強さで形を保てるからだと考えられています。
速く回りすぎた小惑星は、どうなるの?
小惑星の自転は、ずっと同じではありません。太陽の光で温まった表面が熱を出すと、そのわずかな反動で回り方が少しずつ変わります。形によっては、何百万年もかけて回転が速くなっていきます。
限界に近づくと、まず赤道の石や砂が少しずつずり落ち、赤道に集まります。リュウグウやベンヌのそろばん玉の形は、昔もっと速く回っていたころに、こうしてできたという説があります。さらに進むと、飛び出したかけらが集まり、小さな「月」になることもあると考えられています。
アメリカの探査機オシリス・レックスは2019年、小惑星ベンヌの表面から小石が飛び出す様子を何度も撮影しました。ベンヌは約4.3時間で1回転しており、回転が少しずつ速くなっていることも観測されています。
地球の平均密度で同じ計算をすると、限界はおよそ1時間24分になります。地球は24時間で回っているので、まだ余裕はたっぷりです。地球は岩の強さで形を保つ星なので、実際にばらばらになるかは別の話です。
まとめ
大きめの小惑星は、がれきが重力だけで集まった山です。速く回ると、遠心力が弱い重力に勝ち、表面の石が飛んでいきます。この限界は大きさに関係なく、密度だけで決まり、水の2倍ほどの密度なら約2.3時間です。望遠鏡で見つかった「2.2時間の壁」は、小惑星の中身を外から教えてくれる手がかりでした。
小惑星の「速さの限界」は、
中身が砂山であることの、何よりの証拠です。
星がなぜ丸くなるのかは「地球は、なぜ丸いの?」で、回りながら落ち続けるしくみは「月は、なぜ地球に落ちてこないの?」で解説しています。
- ケーキ用の回転台(または回るいす)に紙皿をのせ、中心近くと外側に米粒を数粒ずつ置きます。
- ゆっくり回し始め、少しずつ速くします。外側の米粒から先に飛んでいくことを確かめます。
- 飛び始めた速さの、だいたい半分の速さで回してみます。米粒は飛ばなくなるはずです。
紙皿では米粒を止める力(摩擦)がどこでも同じなので、外側ほど飛びやすくなります。小惑星では外側ほど重力も強くなるので、大きさに関係なく同じ速さで限界が来ます。回すときは周りに物や人がいないことを確かめてください。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(惑星科学・天体力学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 自転周期:天体が1回転するのにかかる時間。小惑星では、明るさが周期的に変わる様子(光度曲線)から求めます。
- ラブルパイル天体:砕けた岩のかたまりが、重力で寄り集まってできた天体。「がれきの山」の正式な呼び名です。
- スピンバリア(自転の壁):直径数百メートル以上の小惑星で、約2.2時間より速い自転がほとんど見られないという観測上の境目。
中学高校式で確かめる:がれきの山は何時間で限界になる?
球の形をした小惑星の赤道で、重力と遠心力がちょうどつり合う自転周期を求めます。周期がこれより短いと、赤道の石は表面を離れます。
| 記号で書くと | P = √( 3π ÷ ( G × ρ ) ) |
| 言葉で書くと | 限界の周期 = (3 × 円周率)÷(万有引力定数 × 密度)、の平方根 |
| どこから来る式か | 赤道の石にかかる重力(万有引力)と遠心力のつり合い。半径 R は両辺で打ち消し合って消えるので、密度だけが残ります。 |
| 記号 | 意味と単位 |
|---|---|
| P | 限界の自転周期(秒) |
| G | 万有引力定数(6.67 × 10⁻¹¹ m³/(kg・s²)) |
| ρ | 小惑星全体の平均密度(kg/m³) |
| π | 円周率(約3.14) |
| 万有引力定数 G | 6.67 × 10⁻¹¹ m³/(kg・s²) |
| 石っぽい小惑星の平均密度(すき間込み) | およそ 2000 kg/m³(水の2倍) |
| リュウグウの平均密度 | およそ 1190 kg/m³ とされる |
| リュウグウの実際の自転周期 | およそ 7.63 時間 |
| 3 × 円周率 | 3 × 3.14 = 9.42 |
| G × ρ の数字の部分(10⁻¹¹ は最後に回す) | 6.67 × 2000 = 13340 |
| つまり G × ρ はおよそ 1.334 × 10⁻⁷。9.42 をこれで割る | 9.42 ÷ 1.334 ≒ 7.06 |
| 割った答えは 7.06 × 10⁷(秒²)。その平方根 | およそ 8400 秒 とされます |
| 秒を時間に直す | 8400 ÷ 3600 ≒ 2.33 |
| リュウグウの密度で G × ρ の数字の部分 | 6.67 × 1190 ≒ 7937 |
| つまり G × ρ はおよそ 0.794 × 10⁻⁷。9.42 をこれで割る | 9.42 ÷ 0.794 ≒ 11.9 |
| 11.9 × 10⁷(秒²)の平方根 | およそ 10900 秒 とされます |
| リュウグウの限界の周期(時間) | 10900 ÷ 3600 ≒ 3.03 |
| 限界の周期 ÷ 実際の周期 | 3.03 ÷ 7.63 ≒ 0.397 |
| 遠心力 ÷ 重力 は、その2乗 | 0.397 × 0.397 ≒ 0.158 |
水の2倍の密度なら限界は約2.3時間で、観測された「2.2時間の壁」とよく合います。リュウグウはすかすかで密度が低いため、限界は約3時間とさらに長くなります。いまの約7.6時間の自転では、赤道の遠心力は重力の16%ほどです。そろばん玉の形は約3.5時間で回っていた時代にできたという説があり、その速さは限界のすぐ近くでした。
高校高校+なぜ大きさで変わらないのか
高校半径 R の球の質量は、密度 × 4/3 × π × R³ です。赤道での重力加速度は G × 質量 ÷ R² なので、R に比例します。一方、角速度 ω で回る赤道の向心加速度は ω² × R で、これも R に比例します。両方が R に比例するので、つり合いの条件 ω² = 4/3 × π × G × ρ に R が残りません。
高校+この周期は、表面すれすれを回る人工衛星の周期と同じです。地球の表面すれすれの円軌道の周期は約84分で、地球の密度で同じ式を使った値と一致します。「自転の限界」とは、赤道の石が地面の上で軌道を回り始める速さだと言い換えられます。
大学強さのない天体の形と、自転を変える太陽の光
実際の小惑星は完全な球ではなく、岩どうしの摩擦(内部摩擦角)や、細かい砂の間に働くファンデルワールス力による弱い結びつき(凝集力)もあります。これらを入れた安定性の解析は、土の力学のモール・クーロンの破壊条件を天体に当てはめて行われます。自転を速めたり遅くしたりする主な原因は、表面からの熱放射の反動が生む YORP効果(ヤルコフスキー・オキーフ・ラジエフスキー・パダック効果)とされます。
📖 式の導出や、さらに先の内容:ラブルパイル天体(ウィキペディア) / YORP効果(ウィキペディア)
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 壁より速く回る、大きめの小惑星。 直径1キロ前後でも2.2時間より速く回るものがわずかに見つかっています。内部の凝集力が思ったより強いのか、一枚岩なのか、議論が続いています。
- そろばん玉の形ができた時期。 リュウグウとベンヌの形が、速い自転でできたのか、生まれたときの集まり方でできたのかは、まだ決着していません。
- ベンヌが石を飛ばすしくみ。 回転の速さだけでは説明しきれず、温度変化による岩の割れや、小さな隕石の衝突なども候補に挙がっています。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。探査機が持ち帰った試料の分析が進むと、小惑星の中身についての理解はさらに変わるかもしれません。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・太陽系と天体、力のはたらき | 小惑星の大きさと形、重力 |
| 高校 | 物理・等速円運動、万有引力 | 遠心力と重力のつり合い、限界の周期の式 |
| 高校+ | 物理・人工衛星の周期 | 表面すれすれの軌道と自転の限界が同じになること |
| 大学 | 惑星科学・天体力学、土の力学 | ラブルパイル天体、モール・クーロンの条件、YORP効果 |
| 研究 | 小惑星探査、光度曲線の観測 | 壁より速い大型小惑星、ベンヌの粒子放出 |
| ― | 生活とのつながり | 回転遊具で外へ引っぱられる感覚、はやぶさ・はやぶさ2のニュース |
- Pravec, P. & Harris, A. W. (2000) Fast and Slow Rotation of Asteroids. Icarus 148, 12–20.
- Watanabe, S. et al. (2019) Hayabusa2 arrives at the carbonaceous asteroid 162173 Ryugu — A spinning top-shaped rubble pile. Science 364, 268–272.
- Fujiwara, A. et al. (2006) The Rubble-Pile Asteroid Itokawa as Observed by Hayabusa. Science 312, 1330–1334.
- Lauretta, D. S. et al. (2019) Episodes of particle ejection from the surface of the active asteroid (101955) Bennu. Science 366, eaay3544.
- リュウグウ (小惑星)(ウィキペディア)
- アメリカ国立標準技術研究所・基礎物理定数(万有引力定数の推奨値と不確かさ)
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。小惑星の密度や自転周期は観測によって値に幅があり、研究の進展で見直されることがあります。