秋から冬の木の実は、なぜ赤いものが多いの?
― 赤は、鳥にだけ届く「食べてください」の看板です
ナナカマド、ピラカンサ、ナンテン、マンリョウ。葉が落ちはじめるころ、庭や公園には赤い実が目立ちます。あの赤は、たまたまの色ではありません。木が、種を運んでくれる相手として鳥を選び、その鳥の目にいちばん目立つ色で実を飾っているのだと考えられています。
11月の朝、生け垣のピラカンサに赤い実がびっしり付いています。ヒヨドリが1羽やってきて、実を次々に丸のみしていきます。
数週間後に見ると、あれほどあった実がすっかり減っています。代わりに、近くの塀やベンチの上に、小さな種の混じった鳥のふんが落ちています。
木は動けません。それなのに、子どもにあたる種は、こうして知らないうちに遠くへ旅立っています。
赤い実の理由は、大きく2つです
鳥は色を見分ける力がとても強く、緑の葉の中の赤をはっきり見分けます。一方、犬やタヌキなど多くのけものには、赤と緑の区別がつきにくいとされています。
鳥には歯がありません。実を丸のみし、果肉だけを消化して、種はふんと一緒に別の場所へ落とします。親の木の下から離れた場所のほうが、芽は育ちやすいのです。
つまり赤い実は、「目立つ色で鳥を呼ぶ」と「種を壊さずに遠くへ運んでもらう」の2つを、1つにまとめた仕掛けです。順番に見ていきましょう。
赤は、鳥の目にだけ「くっきり」見える
目の奥には、色を感じる細胞が何種類か並んでいます。人はこれが3種類です。鳥の多くは4種類を持ち、人には見えない紫外線まで感じるとされています。
ところが、犬・猫・シカ・タヌキなど多くのけものは2種類しか持たないとされます。この目では、赤と緑がどちらも似たくすんだ色に見え、葉と実の区別がつきにくくなります。図1を見てください。
赤や黒の小さな実で、硬い殻もなく、においも弱い。鳥に運ばれる実には、こうした共通の特徴があるとされています。反対に、けものに運ばれる実は大きく、茶色や緑で地味な色が多く、においで呼ぶ傾向があるといわれます。
鳥は「かまない運び屋」です
けものは歯で実をかむので、種まで砕いてしまうことがあります。鳥には歯がなく、小鳥の多くは実を丸のみします。果肉だけがおなかの中で消化され、硬い種は形を保ったまま出てきます。
種がおなかにいるあいだも、鳥は飛び回ります。そのため、種は親の木から離れた場所に落ちます。親の木の真下は日陰で、同じ木を好む虫や病気も集まっているため、芽が育ちにくいと考えられています。
では、どれくらい遠くまで運ばれるのでしょう。図2のつまみで、種がおなかにある時間を変えてみてください。
最大で十数キロというのは、あくまで休まずに飛び続けた場合の上限です。実際の鳥はあちこちに止まりながら食べ歩くので、多くの種は親の木から数十〜数百メートルの範囲に落ちるとされています。それでも、真下に落ちるよりはずっと遠くです。
空き地のフェンスや電線の真下に、ナンテンやクワなどの若い木が一列に並んでいることがあります。そこは鳥がよく止まる場所です。鳥が止まって休むあいだに落としたふんの種が、そのまま芽を出したと考えられています。
トウガラシの辛さの成分カプサイシンは、けものの舌には強い刺激になります。ところが鳥はこの辛さをほとんど感じないとされます。種をかみ砕くけものを遠ざけ、丸のみする鳥にだけ食べてもらう仕掛けだと考える研究があります。
なぜ「秋から冬」に多いの?
秋は、北の国からツグミなどの冬鳥が渡ってくる季節です。一年じゅういるヒヨドリやメジロも、虫が減る冬には木の実をよく食べるようになります。実を食べる鳥が増えて、しかも食べ物に困る時期に、木はちょうど実を熟させているのです。
葉が落ちたあとの枝に実が残るのも、都合がよいと考えられています。緑の葉が無くなれば、赤い実はいっそう目立つからです。なお、赤い実の中には人が食べてはいけないものもあります。鳥が食べているからといって、口に入れないでください。
まとめ
秋から冬に赤い実が多いのは、種を運んでくれる鳥の目に、赤がいちばん目立つからです。鳥は歯がないので種を壊さず、飛び回るうちに親の木から離れた場所へ落とします。木は動けない代わりに、色で運び屋を雇っているのです。
赤い実は、鳥にあてた「食べてください」の看板。
代金は果肉、届け先は、まだ見ぬ遠くの地面です。
花の色が虫を呼ぶしくみは「花はなぜ、あんなに色とりどりなの?」で、葉の色づきは「紅葉は、なぜ赤や黄色に色づくの?」で紹介しています。ドングリのように、けものや鳥が「埋めて忘れる」ことで運ばれる実の話は「どんぐりは、なぜ豊作の年と不作の年があるの?」にあります。
- 庭や公園で、赤い実の付いた木(ピラカンサ、ナナカマド、ナンテン、クロガネモチなど)を1本決め、ひと枝の実の数を数えます。
- 1週間おきに同じ枝の実を数え、どんな鳥が来ていたかもメモします。減り方が急な週があるか見てみましょう。
- 近くの塀や電線の下を見て、小さな種の混じった鳥のふんや、一列に並んだ若い木がないか探します。
実は観察するだけにして、食べたり持ち帰ったりしないでください。木によって、実が早くなくなるものと、冬の終わりまで残るものがあります。その違いも記録すると面白い発見になります。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「生物」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(生態学・進化生態学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 種子散布:植物が種を親から離れた場所へ運ぶこと。風・水・動物などが運び手になります。
- 被食散布:動物に実を食べてもらい、ふんと一緒に種をまいてもらう運び方。赤い実の多くはこの型です。
- 錐体(すいたい):目の網膜にある、色を感じる細胞。種類の数で、見分けられる色の幅が決まります。
中学高校式で確かめる:種はどこまで運ばれうるか
鳥が実を食べてから種を出すまでの時間と、飛ぶ速さから、運ばれうる距離の上限を見積もります。
| 記号で書くと | L = v × t |
| 言葉で書くと | 種が運ばれる距離 = 鳥の飛ぶ速さ × 種がおなかにある時間 |
| どこから来る式か | 「距離 = 速さ × 時間」という、等速で動くものの関係です。休まずまっすぐ飛ぶと仮定した上限になります。 |
| 記号 | 意味と単位 |
| L | 種が運ばれる距離(m) |
| v | 鳥の飛ぶ速さ(m/s) |
| t | 実を食べてから種が出るまでの時間(s) |
| 小鳥がふつうに飛ぶ速さ | 秒速 およそ 10 m とされます |
| 小さな果実食の鳥で、種が出てくるまでの時間 | 数十分ほどとされます(ここでは 30 分) |
| 1 分 | 60 秒 |
| 30 分を秒に直す | 30 × 60 = 1800 秒 |
| 運ばれうる距離 | 10 × 1800 = 18000 m |
| キロメートルに直す | 18000 ÷ 1000 = 18 km |
休まず飛べば、種は親の木から最大で約18 km 先まで行けることになります。実際には止まり木で休むため、多くは数十〜数百メートルに落ちるとされます。それでも、実が真下に落ちるだけの場合とは比べものにならない距離です。
高校高校+色の見え方と、植物と動物の「持ちつ持たれつ」
高校網膜の錐体は、それぞれ違う波長の光によく反応します。人は3種類、多くの鳥は紫外線まで含む4種類を持つとされます。鳥の錐体には色のついた油滴があり、色の見分けをさらに鋭くしていると考えられています。
高校+植物は果肉という「報酬」を払い、動物は種を運ぶ。このように、異なる生き物どうしが互いに得をする関係を相利共生といいます。花と虫の関係と同じ形です。
大学散布シンドロームと、ジャンゼン・コネル仮説
運び手ごとに実の特徴がそろう傾向は、散布シンドロームと呼ばれます。鳥散布の実は赤や黒で小さく、においが弱い傾向があるとされます。親の木から離れると芽が生き残りやすい理由は、ジャンゼン・コネル仮説として説明されます。親の近くでは、その木に特化した虫や病原菌が集中するという考え方です。種が落ちる距離の分布は、散布カーネルと呼ばれる関数で表されます。
📖 式の導出や、さらに先の内容:種子散布(ウィキペディア) / 色覚(ウィキペディア)
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 紅葉は、実の「目印」なのか。 色づいた葉が、鳥に実のありかを知らせる旗の役をしているという説があります。ただし、はっきりした証拠はまだ得られていないとされます。
- 冬の終わりまで残る実の意味。 すぐ食べられる実と、長く残る実があります。残る実は、ほかの食べ物が尽きた時期に鳥を呼ぶ戦略なのか、単に好まれないだけなのか、議論が続いています。
- 赤と黒、どちらが有利か。 鳥散布の実には黒も多く見られます。色の違いが、どの鳥にどれくらい効いているのかは、まだ詳しく分かっていません。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。色の意味については、今も野外での観察や実験が続いています。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科「植物のなかま」「速さ」 | 種の運ばれ方、距離 = 速さ × 時間 |
| 高校 | 生物「動物の反応と行動(視覚)」 | 錐体の種類と色の見え方 |
| 高校+ | 生物「生態系・生物どうしの関係」 | 相利共生としての被食散布 |
| 大学 | 生態学・進化生態学 | 散布シンドローム、ジャンゼン・コネル仮説、散布カーネル |
| 研究 | 種子散布の野外研究 | 紅葉の目印説、冬まで残る実の意味 |
| ― | 生活とのつながり | 庭木や公園の実の観察、電線の下に並ぶ若い木 |
- 種子散布 ― ウィキペディア
- 色覚 ― ウィキペディア
- カプサイシン ― ウィキペディア
- Tewksbury, J. J. & Nabhan, G. P. (2001) Directed deterrence by capsaicin in chilies. Nature 412, 403–404.
- Janzen, D. H. (1970) Herbivores and the number of tree species in tropical forests. The American Naturalist 104, 501–528.
- Stiles, E. W. (1982) Fruit flags: two hypotheses. The American Naturalist 120, 500–509.
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。鳥の飛ぶ速さや種がおなかにある時間は、鳥の種類や状況で大きく異なります。野外の実は食べないでください。