中性子星は、小さじ1杯で10億トン以上あるって本当?
― 原子の「すき間」を、重力が押しつぶした星です
本当です。計算すると、小さじ1杯で20億トン前後になります。ただし、そこに特別に重い物質があるわけではありません。わたしたちの体も机も、じつは中身のほとんどが「すき間」です。そのすき間を、星の重力が残らず押しつぶすと、こうなります。
台所で、小さじに砂糖をすくいます。重さは数グラム。指先で持っても、何も感じません。
では、同じ小さじに「中性子星」の中身をすくえたとしたら。宇宙の本や番組で、「スプーン1杯で何億トン」という話を聞いたことがあるかもしれません。
大げさな例え話のようですが、これは数字どおりの話です。なぜそんなことが起こるのか。答えは、遠い宇宙ではなく、あなたの手の中の原子にあります。
とんでもなく重くなる理由は、2つだけ
原子の重さは、ほぼすべて中心の小さな「原子核」に集まっています。原子核の大きさは、原子全体の10万分の1ほど。残りは、電子が飛びまわるだけの、がらんとした空間です。
とても重い星が一生の最後に中心からつぶれると、ふだんすき間を守っている電子が、重力に負けます。電子は原子核に押しこまれ、あとには中性子がぎっしり詰まった球が残ります。
つまり中性子星は、「重い物質でできた星」ではありません。「すき間をなくした星」です。順番に見ていきましょう。
原子の中は、ほとんどからっぽ
原子の大きさは、およそ1千万分の1ミリです。その中心にある原子核は、さらに10万分の1ほどしかありません。原子を直径100メートルの球まで拡大しても、原子核はゴマ粒ほど、直径1ミリにしかならない計算です。
それでいて、原子の重さの99.9%以上は、この原子核が持っています。まわりの電子は、とても軽いのです。図1の左を見てください。ふつうの物質は、重さのある点がぽつぽつと浮かぶ、すかすかの世界です。
それでも机に手をつくと、手は突き抜けません。電子どうしが「これ以上は近づけない」と押し返すからです。すき間は、ただ空いているのではありません。電子が守っているのです。
電子が重力に負ける瞬間
太陽の10倍ほどより重い星は、一生の最後に、中心に鉄のかたまりをつくります。大きさは地球くらいで、重さは太陽と同じくらいです。このかたまりも、しばらくは電子の押し返しで支えられています。
ところが、かたまりが太陽の約1.4倍の重さをこえると、電子はもう支えきれません。中心は1秒もかからずにつぶれます。電子は原子核の中の陽子に押しこまれ、陽子は中性子に変わります。図2は、その流れを左から右へ並べたものです。
中性子は電気を持たないので、たがいに反発しません。原子核どうしがくっつくところまで詰まって、ようやく止まります。こうして、地球ほどの大きさだったものが、直径20キロあまりの球になります。外側の層は、そのはね返りで吹き飛ばされます。これが超新星爆発です。
中性子星の平均の密度は、原子核そのものの密度とほぼ同じか、それより大きいとされています。中性子星は、いわば直径20キロの巨大な原子核です。小さじ1杯が20億トン前後になるのは、このためです。80億人の人類全員の体重を足しても、およそ5億トン。小さじ1杯は、その4倍ほどになります。
体重60キロの人を中性子星と同じ密度まで詰めると、直径は1000分の7ミリほどになります。血液の中の赤血球1個と同じくらいです。地球をまるごと詰めても、直径300メートルほどの球に収まります。東京タワーの高さより小さい計算です。
2017年、2つの中性子星がぶつかって合体したときの揺れが、重力波として初めてとらえられました。そのとき、金やプラチナのような重い元素が大量にできた証拠が見つかっています。地球にある金の一部は、こうした衝突でできたと考えられています。
まとめ
中性子星がとんでもなく重いのは、特別な物質があるからではありません。ふつうの物質がほとんどすき間でできていて、重い星の重力がそのすき間を押しつぶしたからです。ふだんそのすき間を守っているのは、電子の押し返しです。わたしたちが床をすり抜けずに立っていられるのも、同じ力のおかげです。
重さは原子核に、大きさは電子に。
中性子星は、その「大きさ」をすべて捨てた星です。
宇宙の温度の話は「宇宙は寒いって本当?」、星が光るしくみは「星はなぜ、何十億年も光り続けられるの?」でくわしく解説しています。
- 食パン1枚をキッチンスケールにのせ、重さを量ります。定規で厚みも測っておきます。
- パンを手で強く押しつぶし、小さな団子にします。もう一度重さを量り、大きさも測ります。
- 重さはほとんど変わらないのに、体積は数分の1になったはずです。同じ小さじですくえる量は、何倍も重くなります。
パンのすき間は空気の泡です。中性子星で消えたのは、それよりはるかに小さい、原子の中のすき間です。押しつぶせた割合は、パンでは数倍、中性子星では数百兆倍にもなります。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理」「地学」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(量子力学・天体物理学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 密度:同じ体積あたりの重さ(質量)。水は1立方センチあたり1グラムです。
- 原子核と電子:原子の中心にある重い芯が原子核で、陽子と中性子でできています。そのまわりを軽い電子が取りまいています。
- 中性子星:重い星が超新星爆発を起こしたあとに残る、ほぼ中性子だけでできた星。速く自転しながら電波を規則正しく出すものは「パルサー」と呼ばれます。
中学高校式で確かめる:小さじ1杯の中性子星は何トン?
中性子星の重さと大きさから、密度を出します。そこから小さじ1杯(5立方センチ)の重さを計算します。
| 記号で書くと | ρ = M ÷ V 、 V = (4 ÷ 3) × π × R³ |
| 言葉で書くと | 密度 = 質量 ÷ 体積。体積は、球なので「3分の4 × 円周率 × 半径の3乗」 |
| どこから来る式か | 密度の定義(中学理科)と、球の体積の公式(中学数学)を組み合わせたもの。中性子星はほぼ完全な球とみなせます。 |
| ρ | 密度。単位は kg/m³(1立方メートルあたりのキログラム) |
| M | 中性子星の質量。単位は kg |
| V | 中性子星の体積。単位は m³ |
| R | 中性子星の半径。単位は m |
| 太陽の質量 | 約 2.0 × 10³⁰ kg |
| 典型的な中性子星の質量 | 太陽の約 1.4 倍とされる |
| 中性子星の半径 | 約 12 km(10〜13 km 程度とされる) |
| 小さじ1杯 | 5 立方センチ |
| 質量 M(kg) | 2.0 × 10³⁰ × 1.4 = 2.8 × 10³⁰ |
| 3分の4 × 円周率 | (4 ÷ 3) × 3.14 ≒ 4.19 |
| 半径の3乗(m³) | 12000³ = 1.728 × 10¹² |
| 体積 V(m³) | 4.19 × (1.728 × 10¹²) ≒ 7.24 × 10¹² |
| 密度 ρ(kg/m³) | (2.8 × 10³⁰) ÷ (7.24 × 10¹²) ≒ 3.9 × 10¹⁷ |
| 1立方センチあたり(kg):1 m³ は 100万立方センチ | (3.9 × 10¹⁷) ÷ 1000000 = 3.9 × 10¹¹ |
| 小さじ1杯(kg) | (3.9 × 10¹¹) × 5 ≒ 1.95 × 10¹² |
1.95 × 10¹² kg は、およそ20億トンです。半径を13 kmとしても15億トンほどで、「10億トン以上」は動きません。
| 人類全員の体重(kg):80億人 × 60 kg | (8.0 × 10⁹) × 60 = 4.8 × 10¹¹ |
| 小さじ1杯は人類全員の何倍か | (1.95 × 10¹²) ÷ (4.8 × 10¹¹) ≒ 4.1 |
| 水(1立方センチで0.001 kg)と比べると何倍か | (3.9 × 10¹¹) ÷ 0.001 = 3.9 × 10¹⁴ |
| 地球(6.0 × 10²⁴ kg)を同じ密度に詰めた体積(m³) | (6.0 × 10²⁴) ÷ (3.9 × 10¹⁷) ≒ 1.54 × 10⁷ |
| その球の半径 | 体積を4.19で割った数の立方根で、およそ 150 m とされます |
水の約400兆倍の密度です。地球は、直径300メートルほどの球に収まる計算になります。
高校高校+なぜ電子は「これ以上近づけない」のか
高校原子核は陽子と中性子でできており、原子の半径はおよそ 10⁻¹⁰ m、原子核の半径は 10⁻¹⁵ m ほどです。長さで10万倍ちがうので、体積では10万の3乗、つまり1000兆倍ちがいます。密度が水の数百兆倍になるのは、この体積の差がそのまま効いているからです。
高校+電子が押し返す力の正体は、電気の反発だけではありません。電子は同じ状態に2つ以上入れないという性質(パウリの排他原理)を持ちます。狭い場所に押しこむほど、電子は高いエネルギーの状態へ追いやられ、それが圧力として外へ押し返します。これを電子の縮退圧といいます。温度に関係なく働くので、星が冷えても消えません。
大学チャンドラセカール限界と、中性子星の構造
電子の縮退圧で支えられる質量には上限があり、太陽の約1.4倍とされます。これをチャンドラセカール限界と呼びます。これをこえた鉄の芯は重力崩壊し、電子捕獲(陽子+電子 → 中性子+ニュートリノ)で中性子化します。中性子星は、中性子の縮退圧と核力の反発で支えられます。その内部構造は、一般相対性理論の星の平衡の式(トルマン・オッペンハイマー・ヴォルコフ方程式)と、核物質の状態方程式を組み合わせて計算します。表面の重力は地球の千億倍をこえるとされます。
📖 式の導出や、さらに先の内容:中性子星(ウィキペディア) / チャンドラセカール限界(ウィキペディア)
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 中心部は何でできているのか。 中心近くでは、中性子すら形を保てず、より小さな粒(クォーク)がばらばらになった物質になっている可能性も議論されています。
- どこまで重くなれるのか。 太陽の2倍ほどの中性子星も見つかっており、上限は2〜3倍の間とされます。それをこえるとブラックホールになると考えられていますが、境目の値はまだ決まっていません。
- 半径を正確に測る。 質量と半径の組み合わせが分かれば、内部の物質の性質が絞りこめます。表面から出るエックス線の観測や、合体のときの重力波から、半径を測る試みが続いています。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。半径の値が変われば、小さじ1杯の重さも数割変わります。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科「物質のすがた(密度)」「原子の成り立ち」 | 密度の式、原子核と電子 |
| 高校 | 物理「原子と原子核」、地学「恒星の進化」 | 原子核の大きさ、超新星爆発 |
| 高校+ | 物理の発展(パウリの排他原理) | 電子の縮退圧 |
| 大学 | 量子統計力学、天体物理学 | チャンドラセカール限界、中性子星の構造 |
| 研究 | 核物理・重力波天文学 | 中心部の物質、最大質量 |
| ― | 生活とのつながり | 床をすり抜けずに立てる理由、指輪の金の出どころ |
- Lattimer, J. M. & Prakash, M. (2004) The Physics of Neutron Stars. Science 304, 536–542.
- Hewish, A., Bell, S. J., et al. (1968) Observation of a Rapidly Pulsating Radio Source. Nature 217, 709–713.
- 小山勝二・嶺重慎 編『ブラックホールと高エネルギー現象』(シリーズ現代の天文学 第8巻)日本評論社
- 国立天文台 編『理科年表』丸善出版(太陽の質量などの定数)
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。中性子星の半径や内部の性質には観測・理論の不確かさがあり、数値は研究の進展で変わる可能性があります。