自然のふしぎ 環境・生態 予備知識なしでOK 読了 約5分

同じ雨なのに、街ではなぜすぐ道路が川になるの?
― 土のない地面は、1時間でプール100杯分の水を行き場なくします

山や畑では、かなりの雨が降っても地面は水を吸いこんでいきます。ところが街では、同じ強さの雨で道路があっという間に川のようになります。降った量は同じです。ちがうのは「地面が1時間に何ミリ吸えるか」という、あまり知られていない数字のほうです。

公開:2026.09.21 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

夏の夕方、急に激しい雨が降り出しました。10分もしないうちに、車道のはしを水が音を立てて流れていきます。

同じころ、少し離れた雑木林でも同じ雨が降っています。でも林の地面は、ぬかるんではいても、水が流れてはいません。

雨雲はひとつです。降った量も同じです。それなのに、片方だけが川になります。

理由は2つだけです

1
土は「吸える速さ」に上限がある

土は水を吸いますが、無限に速く吸えるわけではありません。1時間に何ミリまで吸えるか、という上限があります。雨がその上限より弱ければ、水は地面に消えていきます。

2
舗装した地面は、上限がほぼゼロ

アスファルトやコンクリートには、水が通るすき間がありません。吸える速さがほぼゼロなので、降った雨はほぼ全部が地表を流れます。行き先は、すべて排水路にゆだねられます。

どちらも「量」ではなく「速さ」の話です。ここが、この現象のいちばん分かりにくいところだと思います。バケツの大きさではなく、バケツの口の太さが問題になっているのです。

土が吸える速さは、どれくらい?

土が水を吸いこめる最大の速さを、専門的には浸透能と呼びます。単位は雨と同じミリ毎時です。手入れされた林の土では1時間に50ミリ以上、よく踏み固められた校庭では1時間に10ミリ程度、といった値が知られています。

この数字を、雨の強さと並べてみてください。天気予報で「1時間に30ミリ」と言われたら、林はほぼ吸いきれますが、踏み固めた地面では3分の2があふれます。同じ雨が、地面によって別の顔を見せるわけです。

図1を見てください。左が土の地面、右が舗装された地面で、降ってくる雨の量は同じです。

左:土の地面 右:舗装された地面 同じ強さの雨 同じ強さの雨 下へ:大半がしみこむ 横へ:ほぼ全部が流れ去る 下へ向かう矢印は、ありません 降った量は同じ。ちがうのは「どこへ行くか」の割合です 横へ流れる割合を、流出係数と呼びます
図1:左の土の地面では、下向きの太い矢印のとおり大半がしみこみ、横へ流れるのは右上の細い矢印だけです。右の舗装された地面には下向きの矢印がなく、横向きの太い矢印だけが残ります。降った雨の量は左右で同じです。

街では、その水はどこへ行くのか

しみこめなかった雨は、消えてなくなるわけではありません。道路の勾配に沿って集まり、側溝から下水道へ入ります。街の排水は、この水を運びきる前提で設計されています。

ただし、その設計にも上限があります。多くの都市の下水道は、1時間に50ミリ前後の雨を流せるように作られているとされます。それを超える雨が降ると、水は管に入りきらず、低いところにたまりはじめます。

だから街の水たまりは、坂の下・線路の下をくぐる道・地下への階段の前など、いつも決まった場所にできます。土地の低さは、雨のたびに同じ答えを出すからです。

💡 「雨に強い地面」を増やす工夫

最近の歩道や駐車場には、わざと水を通すように作った舗装が使われることがあります。雨水を地下のますにいったんためて、ゆっくり流す仕組みもあります。どちらも、失われた「土の吸う速さ」を人の手で取り戻す試みです。

💡 水がたまった場所には近づかない

道路が冠水すると、側溝のふたが外れていても水面からは見えません。深さも見た目では分かりません。地下道や地下の駐車場は水が集まりやすい場所なので、雨の強いときは近づかず、高いところへ移動してください。人が取り残されているなど危険を感じたら、ためらわず119番へ連絡してください。

まとめ

街で道路が川になるのは、雨が特別に多いからではありません。その土地から「水を吸う速さ」が失われているからです。土という見えない受け皿が、舗装の下で働けなくなっています。

問題は、降った量ではありません。
地面が1時間に何ミリ吸えるか、です。

街の地面が変わると、雨だけでなく気温も変わります。都市はなぜ暑いの? ― 昼より、夜の差が大きいもあわせて読むと、舗装がもたらす変化の全体像が見えてきます。土と水の関係をもう少し知りたい方は、土砂崩れは、なぜ雨がやんだあとにも起きるの?もどうぞ。

🧪 自分で確かめてみる:地面が吸う速さをはかる
  1. 底を抜いたペットボトル(上下を切り、筒にしたもの)を用意します。庭や公園の土に、口のほうを下にして数センチ差しこみます。
  2. 筒の中に水を注ぎ、水面が2センチ下がるまでの秒数をはかります。10センチ分の水が下がる時間から、1時間あたり何ミリ吸えるかが概算できます。
  3. 同じことを、踏み固められた通路わきの土と、落ち葉の積もった木の下の土で比べます。手つかずの土のほうが、はるかに速く吸うはずです。

※ 人の土地では行わないでください。実験のあとは、穴を埋めて元に戻しておきましょう。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「地学基礎」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(水文学・河川工学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:1平方キロメートルの街から、1時間に何トン流れ出るか

激しい雨が1時間降ったとき、林と街では流れ出る量がどれだけちがうのかを、実際に計算してみます。

⓪ もとになる式
記号で書くとQ = C × r × A
言葉で書くと流れ出る水の量 = 流出係数 × 雨の強さ × 面積
どこから来る式か降った水の量が、しみこむ分・たまる分・流れ去る分に分かれるという、水の量の保存です。短時間の大雨では蒸発する分がほぼ無視でき、しみこめなかった分がそのまま流出になります。この形の式を合理式と呼びます。
Q1時間に流れ出る水の体積。単位は立方メートル
C流出係数。降った雨のうち流れ去る割合で、単位はありません
r雨の強さ。単位はメートル毎時(ミリ毎時を1000で割った値)
A雨を受ける土地の面積。単位は平方メートル
① もとになる数値
雨の強さ1時間に 50 ミリ(気象庁が「非常に激しい雨」と呼ぶ強さ)
土地の面積1 平方キロメートル = 1000000 平方メートル
舗装の多い市街地の流出係数およそ 0.9 とされます
林や畑の流出係数およそ 0.2 とされます
25メートルプール1杯の水およそ 360 立方メートル
② 計算してみる
雨の深さをメートルに直す50 ÷ 1000 = 0.05
1時間に降る水の体積(立方メートル)0.05 × 1000000 = 50000
市街地から流れ出る量50000 × 0.9 = 45000
林や畑から流れ出る量50000 × 0.2 = 10000
その差45000 - 10000 = 35000
市街地の量はプール何杯分か45000 ÷ 360 = 125

③ 実感に直すと:同じ雨なのに、街からは林の4.5倍の水が一気に流れ出ます。差の35000立方メートルは、25メートルプールにしておよそ97杯分です。この水が1時間のうちに、側溝と下水道だけを通って運び去られなければなりません。街の水があふれやすい理由は、雨の量ではなくこの割合にあります。

高校高校+吸う速さは、降っている間に変わっていきます

高校乾いた土は、はじめは勢いよく水を吸います。すき間に空気しかないため、水は重力だけでなく、細いすき間が水を引きこむ力にも引かれて入っていくからです。この力を毛管力といいます。

高校+ところが、すき間が水で満たされてくると引きこむ力が弱まり、吸う速さは下がって、やがて一定の値に落ち着きます。この落ち着いた値は、その土の透水係数に近づきます。長く降り続いた雨で、途中からいきなり流れ出す水が増えるのはこのためです。雨の強さが同じでも、降り始めと2時間後では、地面の振るまいがちがいます。

大学浸透能の時間変化と、流出量の予測

浸透能が時間とともに下がっていく様子は、ホートンの浸透能式で表されます。初期の浸透能と最終浸透能の差が、時間とともに指数関数的に小さくなるという形の式です。これを降雨の記録と組み合わせると、いつ表面流出が始まるかを予測できます。より物理に立ち返った扱いでは、土の中の水の動きをリチャーズ式という偏微分方程式で解きます。本文で使った合理式は、こうした計算を極端に単純化して「係数1つ」にまとめたもので、設計の現場で今も広く使われています。

📖 式の導出や、さらに先の内容:合理式(ウィキペディア日本語版)浸透能(ウィキペディア日本語版)

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。使った流出係数は代表的な目安であり、実際の土地では土質や傾きによって大きく変わります。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科・大地の変化/自然と人間土のすき間と水のしみこみ、土地の利用と災害
高校地学基礎・地球の水と大気水の循環と、降った雨の行き先の内訳
高校+物理基礎の発展・表面張力/毛管現象乾いた土が最初だけ速く吸う理由
大学水文学・河川工学合理式、ホートンの浸透能式、リチャーズ式
研究都市水文学・気候変動影響評価流出係数の物理的な決め方、短時間強雨の将来変化
生活とのつながり冠水しやすい場所の見分け方、雨の日の移動の判断
参考・出典
  1. 合理式(ウィキペディア日本語版):ピーク流量の推定式と、流出係数の意味
  2. 浸透能(ウィキペディア日本語版):浸透能の定義と、時間による変化
  3. 気象庁「雨の強さと降り方」:1時間降水量の区分と、そのときの様子の説明
  4. 土木学会編『水理公式集』:流出係数の代表値と、合理式の適用範囲について
  5. 日本水文科学会編『水文科学』:浸透と流出の基礎的な扱いについて

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。実際の浸水の危険は土地ごとに大きく異なります。お住まいの自治体が公開しているハザードマップを確認し、雨のときは気象庁・自治体・消防の発表する情報と指示に従ってください。