同じ雨なのに、街ではなぜすぐ道路が川になるの?
― 土のない地面は、1時間でプール100杯分の水を行き場なくします
山や畑では、かなりの雨が降っても地面は水を吸いこんでいきます。ところが街では、同じ強さの雨で道路があっという間に川のようになります。降った量は同じです。ちがうのは「地面が1時間に何ミリ吸えるか」という、あまり知られていない数字のほうです。
夏の夕方、急に激しい雨が降り出しました。10分もしないうちに、車道のはしを水が音を立てて流れていきます。
同じころ、少し離れた雑木林でも同じ雨が降っています。でも林の地面は、ぬかるんではいても、水が流れてはいません。
雨雲はひとつです。降った量も同じです。それなのに、片方だけが川になります。
理由は2つだけです
土は水を吸いますが、無限に速く吸えるわけではありません。1時間に何ミリまで吸えるか、という上限があります。雨がその上限より弱ければ、水は地面に消えていきます。
アスファルトやコンクリートには、水が通るすき間がありません。吸える速さがほぼゼロなので、降った雨はほぼ全部が地表を流れます。行き先は、すべて排水路にゆだねられます。
どちらも「量」ではなく「速さ」の話です。ここが、この現象のいちばん分かりにくいところだと思います。バケツの大きさではなく、バケツの口の太さが問題になっているのです。
土が吸える速さは、どれくらい?
土が水を吸いこめる最大の速さを、専門的には浸透能と呼びます。単位は雨と同じミリ毎時です。手入れされた林の土では1時間に50ミリ以上、よく踏み固められた校庭では1時間に10ミリ程度、といった値が知られています。
この数字を、雨の強さと並べてみてください。天気予報で「1時間に30ミリ」と言われたら、林はほぼ吸いきれますが、踏み固めた地面では3分の2があふれます。同じ雨が、地面によって別の顔を見せるわけです。
図1を見てください。左が土の地面、右が舗装された地面で、降ってくる雨の量は同じです。
街では、その水はどこへ行くのか
しみこめなかった雨は、消えてなくなるわけではありません。道路の勾配に沿って集まり、側溝から下水道へ入ります。街の排水は、この水を運びきる前提で設計されています。
ただし、その設計にも上限があります。多くの都市の下水道は、1時間に50ミリ前後の雨を流せるように作られているとされます。それを超える雨が降ると、水は管に入りきらず、低いところにたまりはじめます。
だから街の水たまりは、坂の下・線路の下をくぐる道・地下への階段の前など、いつも決まった場所にできます。土地の低さは、雨のたびに同じ答えを出すからです。
最近の歩道や駐車場には、わざと水を通すように作った舗装が使われることがあります。雨水を地下のますにいったんためて、ゆっくり流す仕組みもあります。どちらも、失われた「土の吸う速さ」を人の手で取り戻す試みです。
道路が冠水すると、側溝のふたが外れていても水面からは見えません。深さも見た目では分かりません。地下道や地下の駐車場は水が集まりやすい場所なので、雨の強いときは近づかず、高いところへ移動してください。人が取り残されているなど危険を感じたら、ためらわず119番へ連絡してください。
まとめ
街で道路が川になるのは、雨が特別に多いからではありません。その土地から「水を吸う速さ」が失われているからです。土という見えない受け皿が、舗装の下で働けなくなっています。
問題は、降った量ではありません。
地面が1時間に何ミリ吸えるか、です。
街の地面が変わると、雨だけでなく気温も変わります。都市はなぜ暑いの? ― 昼より、夜の差が大きいもあわせて読むと、舗装がもたらす変化の全体像が見えてきます。土と水の関係をもう少し知りたい方は、土砂崩れは、なぜ雨がやんだあとにも起きるの?もどうぞ。
- 底を抜いたペットボトル(上下を切り、筒にしたもの)を用意します。庭や公園の土に、口のほうを下にして数センチ差しこみます。
- 筒の中に水を注ぎ、水面が2センチ下がるまでの秒数をはかります。10センチ分の水が下がる時間から、1時間あたり何ミリ吸えるかが概算できます。
- 同じことを、踏み固められた通路わきの土と、落ち葉の積もった木の下の土で比べます。手つかずの土のほうが、はるかに速く吸うはずです。
※ 人の土地では行わないでください。実験のあとは、穴を埋めて元に戻しておきましょう。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「地学基礎」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(水文学・河川工学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 浸透:地表の水が、土のすき間を通って地中へ入っていくこと。すき間の多さと、すでに入っている水の量で速さが決まります。
- 浸透能:その土が1時間に吸いこめる水の深さの上限。単位はミリ毎時です。雨の強さと直接くらべられる数字です。
- 表面流出:しみこめずに地表を流れていく水のこと。降った雨のうち表面流出になる割合を、流出係数と呼びます。
中学高校式で確かめる:1平方キロメートルの街から、1時間に何トン流れ出るか
激しい雨が1時間降ったとき、林と街では流れ出る量がどれだけちがうのかを、実際に計算してみます。
| 記号で書くと | Q = C × r × A |
| 言葉で書くと | 流れ出る水の量 = 流出係数 × 雨の強さ × 面積 |
| どこから来る式か | 降った水の量が、しみこむ分・たまる分・流れ去る分に分かれるという、水の量の保存です。短時間の大雨では蒸発する分がほぼ無視でき、しみこめなかった分がそのまま流出になります。この形の式を合理式と呼びます。 |
| Q | 1時間に流れ出る水の体積。単位は立方メートル |
| C | 流出係数。降った雨のうち流れ去る割合で、単位はありません |
| r | 雨の強さ。単位はメートル毎時(ミリ毎時を1000で割った値) |
| A | 雨を受ける土地の面積。単位は平方メートル |
| 雨の強さ | 1時間に 50 ミリ(気象庁が「非常に激しい雨」と呼ぶ強さ) |
| 土地の面積 | 1 平方キロメートル = 1000000 平方メートル |
| 舗装の多い市街地の流出係数 | およそ 0.9 とされます |
| 林や畑の流出係数 | およそ 0.2 とされます |
| 25メートルプール1杯の水 | およそ 360 立方メートル |
| 雨の深さをメートルに直す | 50 ÷ 1000 = 0.05 |
| 1時間に降る水の体積(立方メートル) | 0.05 × 1000000 = 50000 |
| 市街地から流れ出る量 | 50000 × 0.9 = 45000 |
| 林や畑から流れ出る量 | 50000 × 0.2 = 10000 |
| その差 | 45000 - 10000 = 35000 |
| 市街地の量はプール何杯分か | 45000 ÷ 360 = 125 |
③ 実感に直すと:同じ雨なのに、街からは林の4.5倍の水が一気に流れ出ます。差の35000立方メートルは、25メートルプールにしておよそ97杯分です。この水が1時間のうちに、側溝と下水道だけを通って運び去られなければなりません。街の水があふれやすい理由は、雨の量ではなくこの割合にあります。
高校高校+吸う速さは、降っている間に変わっていきます
高校乾いた土は、はじめは勢いよく水を吸います。すき間に空気しかないため、水は重力だけでなく、細いすき間が水を引きこむ力にも引かれて入っていくからです。この力を毛管力といいます。
高校+ところが、すき間が水で満たされてくると引きこむ力が弱まり、吸う速さは下がって、やがて一定の値に落ち着きます。この落ち着いた値は、その土の透水係数に近づきます。長く降り続いた雨で、途中からいきなり流れ出す水が増えるのはこのためです。雨の強さが同じでも、降り始めと2時間後では、地面の振るまいがちがいます。
大学浸透能の時間変化と、流出量の予測
浸透能が時間とともに下がっていく様子は、ホートンの浸透能式で表されます。初期の浸透能と最終浸透能の差が、時間とともに指数関数的に小さくなるという形の式です。これを降雨の記録と組み合わせると、いつ表面流出が始まるかを予測できます。より物理に立ち返った扱いでは、土の中の水の動きをリチャーズ式という偏微分方程式で解きます。本文で使った合理式は、こうした計算を極端に単純化して「係数1つ」にまとめたもので、設計の現場で今も広く使われています。
📖 式の導出や、さらに先の内容:合理式(ウィキペディア日本語版) / 浸透能(ウィキペディア日本語版)
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 流出係数の決め方。 現場で使われる値は、過去の観測から経験的に決められたものが中心です。土地の使われ方が変わったとき、どの値に移るべきかを物理から決める方法は、まだ確立していません。
- 短時間の強い雨の増え方。 気温が上がると空気が含める水蒸気は増えますが、それが1時間単位の雨の強さをどこまで押し上げるのかは、地域差も大きく、研究が続いています。
- 水を通す舗装の寿命。 すき間が土やほこりで詰まると性能は落ちます。実際の街で何年もつのか、どう手入れすれば戻るのかは、長期の観測が足りていません。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。使った流出係数は代表的な目安であり、実際の土地では土質や傾きによって大きく変わります。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・大地の変化/自然と人間 | 土のすき間と水のしみこみ、土地の利用と災害 |
| 高校 | 地学基礎・地球の水と大気 | 水の循環と、降った雨の行き先の内訳 |
| 高校+ | 物理基礎の発展・表面張力/毛管現象 | 乾いた土が最初だけ速く吸う理由 |
| 大学 | 水文学・河川工学 | 合理式、ホートンの浸透能式、リチャーズ式 |
| 研究 | 都市水文学・気候変動影響評価 | 流出係数の物理的な決め方、短時間強雨の将来変化 |
| ― | 生活とのつながり | 冠水しやすい場所の見分け方、雨の日の移動の判断 |
- 合理式(ウィキペディア日本語版):ピーク流量の推定式と、流出係数の意味
- 浸透能(ウィキペディア日本語版):浸透能の定義と、時間による変化
- 気象庁「雨の強さと降り方」:1時間降水量の区分と、そのときの様子の説明
- 土木学会編『水理公式集』:流出係数の代表値と、合理式の適用範囲について
- 日本水文科学会編『水文科学』:浸透と流出の基礎的な扱いについて
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。実際の浸水の危険は土地ごとに大きく異なります。お住まいの自治体が公開しているハザードマップを確認し、雨のときは気象庁・自治体・消防の発表する情報と指示に従ってください。