化学調味料(うま味調味料)は体に悪いって本当?
― 中身は、トマトや昆布と同じグルタミン酸です
「化学調味料は体に悪い」と聞いたことがある人は多いはずです。ところが、その中身であるグルタミン酸は、昆布にもトマトにも、赤ちゃんが飲む母乳にも入っている物質です。そして体は、それがどこから来たのかを見分けられません。この話がどこから生まれ、調べるとどうなったのかをたどります。
スーパーで食品の裏を見ると「調味料(アミノ酸等)」と書いてあります。なんとなく体に悪そうで、棚に戻したことはありませんか。
一方で、昆布とかつお節でとった「だし」は、体にやさしいものの代表のように言われます。
実はこの2つ、うま味を生んでいる物質の中心は同じです。では「体に悪い」という評判は、どこから来たのでしょうか。
調べてみると、理由は2つに行き着きます
うま味調味料のグルタミン酸と、昆布やトマトのグルタミン酸は、まったく同じ形の分子です。お腹の中では、どちらも同じように使われます。
評判のもとは、1968年に医学雑誌へ届いた1通の投書でした。どちらを食べたか本人に分からない形で試すと、はっきりした差は出ませんでした。
順番に見ていきましょう。ついでに、うま味調味料の「塩分」についての意外な数字も出てきます。
グルタミン酸は、もともと食べ物の中にある
うま味の正体を突き止めたのは、日本の化学者・池田菊苗です。1908年、湯豆腐の昆布だしの味がどこから来るのかを調べました。そして、昆布から取り出した結晶がグルタミン酸だと突き止めました。
グルタミン酸は、体をつくるたんぱく質の材料(アミノ酸)の1つです。肉にも魚にも豆にも、たんぱく質の一部として大量に入っています。これが熟成や発酵、加熱でばらばらにほどけると、舌で感じられる「うま味」になります。
図1を見てください。100gあたりに含まれる、ほどけたグルタミン酸の量の目安です。上の昆布や粉チーズ(パルメザン)は、うま味の「かたまり」のような食品です。トマトも熟すほど増えます。いちばん下の母乳にも入っていることに注目してください。
うま味調味料は、サトウキビなどの糖を微生物に食べさせて作るグルタミン酸に、ナトリウムを組み合わせた粉です。水に溶ければ、昆布だしの中にあるのと同じグルタミン酸になります。
さらに、食べたグルタミン酸の大部分は、小腸の壁の細胞がその場でエネルギー源として使ってしまうとされています。血液に乗って全身や脳へ届く量は、ごくわずかだと考えられています。
1通の投書から始まり、目隠しの試験で消えた
1968年、アメリカの医学雑誌に、ある医師の投書が載りました。中華料理店で食事をすると、しばらくして首のしびれや動悸を感じる、という内容です。原因の候補の1つとして、料理に使われるうま味調味料が挙げられていました。
この投書は大きな反響を呼び、「中華料理店症候群」という名前まで付きました。こうして「化学調味料は体に悪い」という印象が世界に広がりました。
ところが、後から丁寧に確かめると話が変わります。本人にも配る人にも、中身がうま味調味料か偽物か分からない形で飲んでもらう試験が行われました。これを二重盲検といいます。すると、「自分は敏感だ」と言う人でも、症状が出るかどうかは中身とほとんど関係しませんでした。
「これを食べると具合が悪くなる」と思い込むと、実際に体調が悪く感じられることがあります。目隠しの試験は、この思い込みの効果を取り除くための方法です。国連の専門家会議も、1日に食べてよい量の上限を「特に定める必要なし」としています。
ただし、空腹時に食事なしで数グラムを一度にとると、一時的な不調を訴える人がわずかに増えたという報告はあります。それも再現性がはっきりしません。ふつうの料理に使う量とは、けたが違う話です。
塩分は、食塩の約3分の1
うま味調味料にはナトリウムが入っています。そのため「塩分が多そう」と思われがちです。でも同じ重さで比べると、ナトリウムは食塩の約3分の1しかありません。
図2のつまみで、使う量を変えてみてください。上の段は、同じグルタミン酸を含むトマトの個数です。下の段は、同じ重さの食塩とナトリウムの量を比べています。
ナトリウムが少なくて済む理由は、分子の重さにあります。うま味調味料の粉は、重さの大部分がグルタミン酸の部分で、ナトリウムはその一部にすぎません。うま味がしっかりあると、塩を減らしても物足りなさを感じにくいことも知られています。減塩の工夫として使われることがあるのは、このためです。
昆布のグルタミン酸と、かつお節や干ししいたけに多い別のうま味成分をいっしょに使うと、うま味は足し算以上に強く感じられます。これを「うま味の相乗効果」といいます。昆布とかつお節の合わせだしは、この効果を経験的に使った知恵です。
食後に具合が悪くなる原因には、食べすぎ、塩分やアルコールのとりすぎ、脂っこさなど、いろいろあります。本当に食べ物で症状が出るなら、自己判断で1つの成分を犯人と決めず、医師に相談するのが近道です。
まとめ
うま味調味料の中身は、昆布やトマトやチーズに入っているのと同じグルタミン酸です。「体に悪い」という評判は1通の投書から広まりましたが、目隠しの試験では症状がはっきり再現されませんでした。ナトリウムは同じ重さの食塩の約3分の1です。もちろん、どんな調味料でも入れすぎれば味も体も偏ります。
体は、うま味の出どころを知りません。
気にするなら「何から」より「どれだけ」です。
味を感じるしくみはかぜをひくと味がしなくなる理由で解説しています。塩を入れたお湯の温度はお湯に塩を入れると早く沸くのか、栄養が足りないときの体の変化はビタミンCが足りないと体はどうなるかで解説しています。
- コップ2つにぬるま湯を100mLずつ入れ、片方にだけ昆布を1かけら入れて30分おきます。
- 家族に頼んで、どちらがどちらか分からないように並べてもらい、飲み比べます。昆布の側を当てられるか試しましょう。
- 次に、昆布の湯にかつお節をひとつまみ入れて、こしてから味見します。うま味がぐっと強まるのを感じられるはずです。
手順2で「どちらか分からないようにする」のが、この記事に出てきた目隠しの試験と同じ考え方です。思い込みを外して、舌だけで判断してみてください。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「化学」「生物」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(栄養生理学・薬理学・疫学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- グルタミン酸ナトリウム:うま味調味料の主成分。グルタミン酸にナトリウムが結びついた塩で、水に溶けるとグルタミン酸の部分とナトリウムに分かれる。
- アミノ酸:たんぱく質を組み立てる部品。グルタミン酸はその1つで、たんぱく質の中にも多く含まれる。
- 二重盲検:試す人も配る人も、どちらが本物か知らない形で行う試験。思い込みの影響を取り除く。
- ノセボ効果:「害がある」と思い込むことで、実際に不調を感じてしまう現象。
中学高校式で確かめる:うま味調味料0.5gは、トマト何個分?
粉に含まれるグルタミン酸の量は、分子の重さの比で決まります。1つの粒(分子)が溶けると、グルタミン酸が1つ出てくるからです。ナトリウムの量も同じ考え方で出せます。
| 記号で書くと | mG = m × ( MG ÷ M ) |
| 言葉で書くと | グルタミン酸の量 = 調味料の重さ × ( グルタミン酸の分子量 ÷ 調味料の式量 ) |
| どこから来る式か | 化学式の比(物質量の保存)。溶けても粒の数は変わらず、1粒の調味料から1粒のグルタミン酸が出るので、重さは分子量の比で分けられる。ナトリウムも同じく 23 ÷ 式量 の割合。 |
| 記号 | 意味と単位 |
|---|---|
| m | うま味調味料の重さ(g) |
| mG | その中のグルタミン酸の重さ(g) |
| MG | グルタミン酸の分子量(147) |
| M | 調味料(グルタミン酸ナトリウム一水和物)の式量(187) |
| グルタミン酸の分子量 | 147 |
| グルタミン酸ナトリウム一水和物の式量 | 187 |
| ナトリウムの原子量 | 23 |
| 食塩(塩化ナトリウム)の式量 | 58.5 |
| トマト100gのグルタミン酸(目安) | 約250 mg とされます |
| 粉チーズ100gのグルタミン酸(目安) | 約1700 mg とされます |
| 使う調味料の量 | 0.5 g |
| グルタミン酸の割合 | 147 ÷ 187 ≒ 0.786 |
| 0.5gの中のグルタミン酸(g) | 0.5 × 0.786 ≒ 0.393 |
| ミリグラムに直す | 0.393 × 1000 = 393 |
| トマト1個(150g)のグルタミン酸(mg) | 250 × 1.5 = 375 |
| トマト何個分か | 393 ÷ 375 ≒ 1.05 |
| 粉チーズなら何gか(100gあたりの割合) | 393 ÷ 1700 ≒ 0.231 |
| 粉チーズのグラム数に直す | 0.231 × 100 = 23.1 |
| 調味料の中のナトリウムの割合 | 23 ÷ 187 ≒ 0.123 |
| 食塩の中のナトリウムの割合 | 23 ÷ 58.5 ≒ 0.393 |
| 比べると | 0.123 ÷ 0.393 ≒ 0.31 |
うま味調味料0.5gのグルタミン酸は、トマト約1個分、粉チーズなら大さじ数杯ぶん(約23g)と同じです。ナトリウムは、同じ重さの食塩の約0.31倍、つまり約3分の1です。図2のつまみの中でも、この同じ式で計算しています。
高校高校+アミノ酸としてのグルタミン酸
高校グルタミン酸は、酸性の側鎖(カルボキシ基)を2つ目に持つアミノ酸です。水の中では電荷を帯びた形で存在し、うま味調味料由来でも食品由来でも区別はありません。たんぱく質を加水分解すると遊離し、熟成チーズやしょうゆ、生ハムのうま味の源になります。
高校+舌には、グルタミン酸を受け取るうま味受容体(T1R1とT1R3の組)があります。イノシン酸やグアニル酸は、この受容体に結合したグルタミン酸を外れにくくするため、相乗効果が生まれると考えられています。
大学初回通過代謝と、試験デザインの話
口から入ったグルタミン酸は、小腸の粘膜細胞でエネルギー源として大量に消費されます。これを腸での初回通過代謝といい、血中濃度はほとんど上がらないとされています。さらに、脳は血液脳関門によって血中のグルタミン酸から守られています。安全性の評価では、国連食糧農業機関と世界保健機関の合同食品添加物専門家会議(JECFA)が1987年に、1日許容摂取量を「特定しない」と判断しました。症状の有無を調べる研究では、二重盲検プラセボ対照試験と、同じ人に何度も試す反復負荷試験が使われます。これにより、ノセボ効果と偶然の体調変化が取り除かれます。
📖 式の導出や、さらに先の内容:グルタミン酸ナトリウム(ウィキペディア) / 中華料理店症候群(ウィキペディア)
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 本当に敏感な人は、ごく一部にいるのか。 大きな試験では一貫した反応が見られていませんが、参加者の数には限りがあり、少数の敏感な人を否定しきれてはいません。
- 腸のうま味受容体は何をしているのか。 舌と同じ仕組みの受容体が胃や腸にもあり、消化の準備や満腹感に関わる可能性が調べられています。
- 空腹時の大量摂取で起きる一時的な不調。 食事なしで数グラムを一度にとったときの報告がありますが、再現性や仕組みはまだはっきりしていません。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。とはいえ、ふつうの料理で使う量について、害を示す一貫した証拠は見つかっていません。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科「消化と吸収」「原子・分子」 | たんぱく質がアミノ酸に分かれる話、粒の数の考え方 |
| 高校 | 化学「物質量と化学式」「アミノ酸とたんぱく質」 | 分子量の比でグルタミン酸とナトリウムの量を出す計算 |
| 高校+ | 生物「受容体と感覚」 | うま味受容体と相乗効果 |
| 大学 | 栄養生理学・疫学 | 初回通過代謝、二重盲検プラセボ対照試験、許容摂取量 |
| 研究 | 味覚・消化管生理の研究 | 腸のうま味受容体、個人差の有無 |
| ― | 生活とのつながり | 食品表示の読み方、減塩の工夫、だしのとり方 |
- Kwok, R. H. M. (1968) Chinese-Restaurant Syndrome. New England Journal of Medicine 278: 796.
- Geha, R. S. et al. (2000) Review of Alleged Reaction to Monosodium Glutamate and Outcome of a Multicenter Double-Blind Placebo-Controlled Study. Journal of Nutrition 130: 1058S–1062S.
- 池田菊苗(1909)「新調味料に就て」東京化学会誌 30: 820–836.
- JECFA(1988)L-glutamic acid and its ammonium, calcium, monosodium and potassium salts. WHO Food Additives Series 22.
- Reeds, P. J. et al. (2000) Intestinal glutamate metabolism. Journal of Nutrition 130: 978S–982S.
- うま味インフォメーションセンター「食品に含まれるうま味成分」(食品中のグルタミン酸量の目安)
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。食品中の成分量は種類・産地・熟し方で大きく変わります。食べ物で体調に異変を感じる場合は、医師に相談してください。