月のまわりに、虹色の小さな輪が見えるのはなぜ?
― 雲の粒が小さいほど、輪は大きく広がります
秋のお月見の夜、薄い雲ごしの月に、ぼんやりした虹色の輪がかかることがあります。これは「光冠(こうかん)」と呼ばれる現象です。光が雲の小さな水の粒のふちを回りこむことで生まれます。ふしぎなことに、粒が小さいほど、輪は大きく広がります。
十五夜や十三夜の夜、月を見上げると、薄い雲が流れてきました。
月がかくれるかと思ったら、月のまわりに、内側が青白く、外側が赤茶色の丸い光がにじみます。雲が動くたびに、輪は大きくなったり小さくなったりします。
「月にかさがかかると雨」という言い伝えを思い出すかもしれません。けれども、この小さな輪は「かさ」とは別ものです。
理由は、2つだけです
月の光は、雲の水の粒に当たると、粒のふちをわずかに回りこんで広がります。この回りこみを「回折(かいせつ)」といいます。広がった光の波どうしが強め合う向きと、弱め合う向きが、月を中心とした輪になって並びます。
回りこむ角度は、粒が小さいほど大きくなります。また、波の長い赤い光ほど大きく曲がります。だから輪の外側が赤くなり、粒の大きさがそろった雲ほど、色がはっきり出ます。
順番に見ていきましょう。最後に、「かさ」との見分け方も紹介します。
水の粒が、光を「回りこませ」ている
雲は、直径100分の1ミリほどの水の粒の集まりです。月の光は、その粒のすき間をまっすぐ通るだけではありません。光は波なので、粒のふちで少しだけ向きを変えて広がります。
池の水面の波が、杭の向こう側へ回りこむのと同じです。回りこんだ波は、場所によって山と山が重なって明るくなったり、山と谷が重なって暗くなったりします。その明るい向きと暗い向きが、月を囲む同心円になります。
図1のつまみで、雲の粒の大きさを変えてみてください。粒を小さくすると、輪がぐんと広がるのが分かります。
色がはっきり出る雲と、出ない雲がある
光が回りこむ角度は、光の色によっても違います。波の長い赤い光は、波の短い青い光より大きく曲がります。そのため、青白い光の円の外側が赤茶色に縁どられ、その外に緑と赤の輪が並びます。
ただし、きれいな虹色が見えるのは、雲の粒の大きさがそろっているときだけです。大きさがばらばらだと、粒ごとに違う大きさの輪ができて重なり合います。色は混ざって、月のまわりが白くぼやけるだけになります。
粒がそろいやすいのは、できたばかりの薄い雲です。高い空にうろこのように並ぶ雲や、流れの速い雲の縁が、よい観察相手になります。同じしくみで、雲そのものが虹色に光るのが「彩雲(さいうん)」です。
言い伝えの「かさ(暈)」は、高い空の氷の粒で光が折れ曲がってできる輪です。半径はいつも約22度で、腕をのばして広げた手のひらほどあります。光冠は月のすぐまわり、半径数度ほどです。赤い色の位置も逆で、かさは内側が赤く、光冠は外側が赤くなります。
スギやヒノキの花粉がたくさん飛ぶ日には、太陽のまわりに光冠が見えることがあり、「花粉光環」と呼ばれています。花粉は大きさがよくそろっているため、色がはっきり出やすいとされています。太陽を直接見ると目を痛めるので、建物や電柱で太陽を隠して見ます。
まとめ
月のまわりの小さな虹色の輪は、光が雲の水の粒のふちを回りこんでできる「光冠」です。粒が小さいほど、光は大きく曲がり、輪は大きくなります。輪の大きさを見れば、手の届かない雲の粒の大きさまで見積もれます。
月を囲む輪の大きさは、
雲の粒の大きさを映すものさしです。
光が波として広がる話は、霧の中の白い虹や、傘の布ごしに街灯を見ると光が並ぶ話、丸い影のまん中に光の点が現れる話でも紹介しています。
- 薄い雲が月にかかったら、月のまわりに青白い光と赤茶色の縁があるかを見ます。
- 腕をのばして親指を立て、輪の半径が親指の幅(約2度)の何本ぶんかを数えます。
- 雲が流れるにつれて、輪の大きさや色のはっきりさが変わるかを見くらべます。
輪が大きいときほど、その雲の粒は小さいことになります。手のひらほどの大きな輪なら、それは光冠ではなく氷の粒の「かさ」です。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(光学・大気光学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 光冠(こうかん):月や太陽のすぐまわりに、雲の水の粒などによってできる、色のついた小さな輪。
- 回折(かいせつ):波が、障害物のふちやすき間を回りこんで広がること。音や水面の波でも起きます。
- 暈(かさ):氷の粒の中を光が通って折れ曲がり(屈折)、半径約22度の輪ができる現象。光冠とは別ものです。
中学高校式で確かめる:輪の半径は何度になる?
直径1000分の10ミリ(10マイクロメートル)の雲の粒で、緑の光がつくる輪の半径を見積もります。角度は、月の見かけの直径と比べて実感に直します。
| 記号で書くと | θ ≒ 1.22 × λ ÷ d (θ はラジアン) |
| 言葉で書くと | 輪の半径の角度 = 1.22 × 光の波長 ÷ 雲の粒の直径 |
| どこから来る式か | 粒のふちを回りこんだ光の波が、ちょうど打ち消し合う向き(最初の暗い輪)を求めた式です。丸い粒は、同じ大きさの丸い穴と同じ回折の模様をつくります。 |
| θ | 輪の半径の角度(ラジアン。1ラジアンは約57.3度) |
| λ | 光の波長(単位はマイクロメートル。緑の光で約0.55) |
| d | 雲の粒の直径(単位はマイクロメートル) |
| 1.22 | 丸い形のときに出てくる係数(円の回折で決まる数) |
| 緑の光の波長 | 約0.55マイクロメートル |
| 雲の粒の直径(例) | 約10マイクロメートル |
| 1ラジアンを度に直すと | 約57.3度 |
| 月の見かけの直径 | 約0.5度 |
| 係数 × 波長 | 1.22 × 0.55 ≒ 0.671 |
| 粒の直径でわる(ラジアン) | 0.671 ÷ 10 ≒ 0.0671 |
| 度に直す | 0.0671 × 57.3 ≒ 3.84 |
| 月の直径の何個ぶんか | 3.84 ÷ 0.5 ≒ 7.7 |
| 粒が半分(5マイクロメートル)なら | 3.84 × 2 ≒ 7.7 |
| 暈(22度)は光冠の何倍か | 22 ÷ 3.84 ≒ 5.7 |
直径10マイクロメートルの粒なら、輪の半径は約3.8度、月を8個近く並べた長さです。粒が半分になれば、輪は2倍の約7.7度に広がります。暈はさらに6倍ほど大きく、ひと目で区別できます。
高校高校+波の回折と、色が分かれるわけ
高校高校物理では、すき間やふちで波が回りこむ「回折」と、波が重なって強め合ったり弱め合ったりする「干渉」を習います。光冠は、この2つが同時に起きている例です。式から、波長が長い赤い光ほど輪が大きくなることも分かります。
高校+粒は穴ではなく「さえぎるもの」ですが、同じ大きさの穴と同じ回折の模様をつくります。これを「バビネの原理」といいます。そのため、丸い穴の回折で知られる式を、そのまま雲の粒に使えます。
大学フラウンホーファー回折とエアリーディスク
遠くから届く平行な光が小さな円を回りこむと、「フラウンホーファー回折」の模様ができます。中心の明るい円は「エアリーディスク」と呼ばれ、その縁の角度が 1.22 × λ ÷ d です。光冠の青白い円は、これを空に映したものにあたります。粒が波長に近いほど小さくなると、この近似は合わなくなり、「ミー散乱」の理論で正確に計算します。
📖 式の導出や、さらに先の内容:エアリーディスク(ウィキペディア) / フラウンホーファー回折(ウィキペディア)
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 氷の粒でも光冠はできるのか。 高い空の小さな氷の粒による光冠の報告があり、どんな条件で起きるのかが調べられています。
- 花粉光環の形。 花粉の光冠は、きれいな円ではなく、ゆがんだ形になることがあるとされます。花粉の形や向きのそろい方との関係は、まだ調べられている途中です。
- 光冠から雲の粒の大きさを測る。 輪の大きさと色から粒の大きさを見積もる試みがあります。ただし、粒の大きさのばらつきをどこまで読み取れるかは、研究が続いています。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。輪の大きさの式も、粒がそろった丸い水滴のときの目安です。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科「光の性質」「雲のでき方」 | 雲は小さな水の粒、光の色の違い |
| 高校 | 物理「波の回折と干渉」 | 粒のふちを回りこむ光、赤い光ほど大きな輪 |
| 高校+ | 物理の発展「バビネの原理」 | 粒と穴が同じ模様をつくること |
| 大学 | 光学・大気光学 | フラウンホーファー回折、エアリーディスク、ミー散乱 |
| 研究 | 大気光学・雲物理 | 氷の粒の光冠、花粉光環の形、粒の大きさの推定 |
| ― | 生活とのつながり | お月見の夜に、光冠と暈を見分ける |
- 光冠(ウィキペディア)
- 柴田清孝『光の気象学』朝倉書店
- M. Minnaert, "Light and Color in the Outdoors", Springer
- D. K. Lynch, W. Livingston, "Color and Light in Nature", Cambridge University Press
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。太陽のまわりの光冠を見るときは、太陽を直接見ないでください。