自然のふしぎ 波動 予備知識なしでOK 読了 約6分

月のまわりに、虹色の小さな輪が見えるのはなぜ?
― 雲の粒が小さいほど、輪は大きく広がります

秋のお月見の夜、薄い雲ごしの月に、ぼんやりした虹色の輪がかかることがあります。これは「光冠(こうかん)」と呼ばれる現象です。光が雲の小さな水の粒のふちを回りこむことで生まれます。ふしぎなことに、粒が小さいほど、輪は大きく広がります。

公開:2026.10.18 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

十五夜や十三夜の夜、月を見上げると、薄い雲が流れてきました。

月がかくれるかと思ったら、月のまわりに、内側が青白く、外側が赤茶色の丸い光がにじみます。雲が動くたびに、輪は大きくなったり小さくなったりします。

「月にかさがかかると雨」という言い伝えを思い出すかもしれません。けれども、この小さな輪は「かさ」とは別ものです。

理由は、2つだけです

1
光は「波」なので、粒のふちを回りこむ

月の光は、雲の水の粒に当たると、粒のふちをわずかに回りこんで広がります。この回りこみを「回折(かいせつ)」といいます。広がった光の波どうしが強め合う向きと、弱め合う向きが、月を中心とした輪になって並びます。

2
小さな粒ほど、大きく曲げる

回りこむ角度は、粒が小さいほど大きくなります。また、波の長い赤い光ほど大きく曲がります。だから輪の外側が赤くなり、粒の大きさがそろった雲ほど、色がはっきり出ます。

順番に見ていきましょう。最後に、「かさ」との見分け方も紹介します。

水の粒が、光を「回りこませ」ている

雲は、直径100分の1ミリほどの水の粒の集まりです。月の光は、その粒のすき間をまっすぐ通るだけではありません。光は波なので、粒のふちで少しだけ向きを変えて広がります。

池の水面の波が、杭の向こう側へ回りこむのと同じです。回りこんだ波は、場所によって山と山が重なって明るくなったり、山と谷が重なって暗くなったりします。その明るい向きと暗い向きが、月を囲む同心円になります。

図1のつまみで、雲の粒の大きさを変えてみてください。粒を小さくすると、輪がぐんと広がるのが分かります。

まん中の白い点が月(見かけの直径0.5度) 輪の大きさを決めるもの 雲の粒の直径:1000分の10 mm 輪の半径:およそ 3.8 度 = 月を 7.7 個 並べた長さ 小さい粒 → 大きな輪 大きい粒 → 小さな輪 どの輪も、外側ほど赤っぽい くらべると:氷の粒がつくる暈(かさ)は、 粒の大きさによらず、いつも半径22度
つまみを動かすと、月を囲む輪の大きさが変わります
図1:月のまわりにできる光冠の模式図(色の並びは目安)。左の白い点が月で、まん中から右へのびる点線が、輪の半径です。内側の青白い光の円の外を、赤茶色の太い縁が囲み、さらに外側に薄い緑と赤の輪が続きます。つまみで雲の粒を小さくすると、輪が大きく広がることが分かります。右の文字は、そのときの輪の半径の角度です。

色がはっきり出る雲と、出ない雲がある

光が回りこむ角度は、光の色によっても違います。波の長い赤い光は、波の短い青い光より大きく曲がります。そのため、青白い光の円の外側が赤茶色に縁どられ、その外に緑と赤の輪が並びます。

ただし、きれいな虹色が見えるのは、雲の粒の大きさがそろっているときだけです。大きさがばらばらだと、粒ごとに違う大きさの輪ができて重なり合います。色は混ざって、月のまわりが白くぼやけるだけになります。

粒がそろいやすいのは、できたばかりの薄い雲です。高い空にうろこのように並ぶ雲や、流れの速い雲の縁が、よい観察相手になります。同じしくみで、雲そのものが虹色に光るのが「彩雲(さいうん)」です。

💡 「月にかさ」と光冠は、大きさで見分けられます

言い伝えの「かさ(暈)」は、高い空の氷の粒で光が折れ曲がってできる輪です。半径はいつも約22度で、腕をのばして広げた手のひらほどあります。光冠は月のすぐまわり、半径数度ほどです。赤い色の位置も逆で、かさは内側が赤く、光冠は外側が赤くなります。

💡 春は、花粉でも光冠ができます

スギやヒノキの花粉がたくさん飛ぶ日には、太陽のまわりに光冠が見えることがあり、「花粉光環」と呼ばれています。花粉は大きさがよくそろっているため、色がはっきり出やすいとされています。太陽を直接見ると目を痛めるので、建物や電柱で太陽を隠して見ます。

まとめ

月のまわりの小さな虹色の輪は、光が雲の水の粒のふちを回りこんでできる「光冠」です。粒が小さいほど、光は大きく曲がり、輪は大きくなります。輪の大きさを見れば、手の届かない雲の粒の大きさまで見積もれます。

月を囲む輪の大きさは、
雲の粒の大きさを映すものさしです。

光が波として広がる話は、霧の中の白い虹や、傘の布ごしに街灯を見ると光が並ぶ話、丸い影のまん中に光の点が現れる話でも紹介しています。

🧪 今夜の月で確かめてみよう
  1. 薄い雲が月にかかったら、月のまわりに青白い光と赤茶色の縁があるかを見ます。
  2. 腕をのばして親指を立て、輪の半径が親指の幅(約2度)の何本ぶんかを数えます。
  3. 雲が流れるにつれて、輪の大きさや色のはっきりさが変わるかを見くらべます。

輪が大きいときほど、その雲の粒は小さいことになります。手のひらほどの大きな輪なら、それは光冠ではなく氷の粒の「かさ」です。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「物理」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(光学・大気光学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:輪の半径は何度になる?

直径1000分の10ミリ(10マイクロメートル)の雲の粒で、緑の光がつくる輪の半径を見積もります。角度は、月の見かけの直径と比べて実感に直します。

⓪ もとになる式
記号で書くとθ ≒ 1.22 × λ ÷ d (θ はラジアン)
言葉で書くと輪の半径の角度 = 1.22 × 光の波長 ÷ 雲の粒の直径
どこから来る式か粒のふちを回りこんだ光の波が、ちょうど打ち消し合う向き(最初の暗い輪)を求めた式です。丸い粒は、同じ大きさの丸い穴と同じ回折の模様をつくります。
θ輪の半径の角度(ラジアン。1ラジアンは約57.3度)
λ光の波長(単位はマイクロメートル。緑の光で約0.55)
d雲の粒の直径(単位はマイクロメートル)
1.22丸い形のときに出てくる係数(円の回折で決まる数)
① もとになる数値
緑の光の波長約0.55マイクロメートル
雲の粒の直径(例)約10マイクロメートル
1ラジアンを度に直すと約57.3度
月の見かけの直径約0.5度
② 計算してみる
係数 × 波長1.22 × 0.55 ≒ 0.671
粒の直径でわる(ラジアン)0.671 ÷ 10 ≒ 0.0671
度に直す0.0671 × 57.3 ≒ 3.84
月の直径の何個ぶんか3.84 ÷ 0.5 ≒ 7.7
粒が半分(5マイクロメートル)なら3.84 × 2 ≒ 7.7
暈(22度)は光冠の何倍か22 ÷ 3.84 ≒ 5.7

直径10マイクロメートルの粒なら、輪の半径は約3.8度、月を8個近く並べた長さです。粒が半分になれば、輪は2倍の約7.7度に広がります。暈はさらに6倍ほど大きく、ひと目で区別できます。

高校高校+波の回折と、色が分かれるわけ

高校高校物理では、すき間やふちで波が回りこむ「回折」と、波が重なって強め合ったり弱め合ったりする「干渉」を習います。光冠は、この2つが同時に起きている例です。式から、波長が長い赤い光ほど輪が大きくなることも分かります。

高校+粒は穴ではなく「さえぎるもの」ですが、同じ大きさの穴と同じ回折の模様をつくります。これを「バビネの原理」といいます。そのため、丸い穴の回折で知られる式を、そのまま雲の粒に使えます。

大学フラウンホーファー回折とエアリーディスク

遠くから届く平行な光が小さな円を回りこむと、「フラウンホーファー回折」の模様ができます。中心の明るい円は「エアリーディスク」と呼ばれ、その縁の角度が 1.22 × λ ÷ d です。光冠の青白い円は、これを空に映したものにあたります。粒が波長に近いほど小さくなると、この近似は合わなくなり、「ミー散乱」の理論で正確に計算します。

📖 式の導出や、さらに先の内容:エアリーディスク(ウィキペディア) / フラウンホーファー回折(ウィキペディア)

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。輪の大きさの式も、粒がそろった丸い水滴のときの目安です。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科「光の性質」「雲のでき方」雲は小さな水の粒、光の色の違い
高校物理「波の回折と干渉」粒のふちを回りこむ光、赤い光ほど大きな輪
高校+物理の発展「バビネの原理」粒と穴が同じ模様をつくること
大学光学・大気光学フラウンホーファー回折、エアリーディスク、ミー散乱
研究大気光学・雲物理氷の粒の光冠、花粉光環の形、粒の大きさの推定
―生活とのつながりお月見の夜に、光冠と暈を見分ける
参考・出典
  1. 光冠(ウィキペディア)
  2. 柴田清孝『光の気象学』朝倉書店
  3. M. Minnaert, "Light and Color in the Outdoors", Springer
  4. D. K. Lynch, W. Livingston, "Color and Light in Nature", Cambridge University Press

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。太陽のまわりの光冠を見るときは、太陽を直接見ないでください。