自然のふしぎ 天文・宇宙 予備知識なしでOK 読了 約6分

太陽の光は、何分前に太陽を出たの?
― 地球までは8分。でも太陽の中から出るまでに、数万年かかっています

太陽の光は、表面を出てから約8分20秒で地球に届きます。ここまではよく知られた話です。ところが、その光のもとになったエネルギーは、太陽の中心で生まれてから表面にたどり着くまでに、数万年もかかっていると考えられています。宇宙を1億5000万km飛ぶ旅より、太陽の中の70万kmのほうが、ずっと長い旅なのです。

公開:2026.10.18 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

晴れた秋の日、窓ぎわで日なたぼっこをしていると、腕がぽかぽかと温まってきます。

この光は、8分ほど前に太陽を出発したものです。「8分前の太陽を見ている」という話を、聞いたことがある人も多いでしょう。

では、その光は太陽の中のどこで、いつ生まれたのでしょうか。たどっていくと、人類が農業を始めるより前の時代に行き着きます。

旅は2つに分かれていて、長さがまるで違います

1
外の旅:何もない宇宙を、まっすぐ8分

太陽の表面から地球までは、途中にほとんど何もありません。光は1秒に30万km進み、1億5000万kmを約8分20秒で渡りきります。

2
中の旅:ぎっしりのガスの中を、千鳥足で数万年

太陽の中はガスが非常に濃く、光はほんの少し進むたびに何かにぶつかり、でたらめな向きへはね返されます。そのため、前へ進むのがとても遅くなります。

速さそのものは、どちらも同じ光の速さです。違うのは、進む道がまっすぐか、ジグザグか、という一点だけです。それだけで、かかる時間が何十億倍も変わります。

太陽の中で、光は何をしているの?

太陽のエネルギーは、中心近くで水素がヘリウムに変わる「核融合」で生まれます。生まれた直後のエネルギーは、目に見えない、とても強い光(ガンマ線)の形をしています。

ところが太陽の内側は、ガスが押し縮められて、ものすごく密度が高くなっています。光は、次にガスの粒にぶつかるまで、1ミリ前後しか進めないとされています。ぶつかるたびに、光は吸いこまれては出し直され、向きがでたらめに変わります。

図1を見てください。左の大きな円が太陽で、中心から出ている細かいジグザグの線が、光の通り道のイメージです。前へ進んだり戻ったりを繰り返しながら、少しずつ外へにじみ出ていきます。酔った人が、ふらふら歩きながら少しずつ遠ざかるのに似ているので、この動きは「千鳥足の歩き方」とも呼ばれます。

太陽(半径 約70万km) ジグザグの線:光の中の旅(数万年) 表面に出た 点線:ニュートリノ すり抜けて約2秒で外へ 外の旅:まっすぐ約8分20秒 約1億5000万km(ほぼ何もない宇宙) 地球 大きさ・距離は縮尺どおりではありません
図1:光の2つの旅。左の円(太陽)の中心から伸びる細かいジグザグの線が、ぶつかっては向きを変えながら外へにじみ出る光のイメージで、表面に届くまで数万年かかります。右向きの白い矢印が、表面から地球までのまっすぐな旅で、約8分20秒です。中心から右下へ伸びる点線は、ガスをほとんどすり抜けるニュートリノという粒で、約2秒で外へ出ます。

なぜ、ジグザグだとそんなに遅くなるの?

でたらめな向きに進むと、せっかく前へ進んでも、次の一歩で戻ってしまうことがよくあります。結果として、100歩あるいても、出発点からは平均して10歩ぶんほどしか離れません。1万歩なら100歩ぶん、100万歩なら1000歩ぶんです。

つまり、遠くへ行くほど、必要な歩数は距離の「2乗」で増えていきます。太陽の半径は、1ミリの一歩に直すと7000億歩ぶんです。その2乗ですから、歩数は気の遠くなる数になります。

図2のつまみで、光が一度にまっすぐ進める距離を変えてみてください。この距離は太陽の深さによって大きく違い、正確な値は分かっていません。それでも、どの値を選んでも、外の旅の8分とは比べものにならないことが分かります。

かかる時間の目盛り(右へ行くほど、時間がけた違いに長くなる) 1秒 1時間 1日 1年 100年 1万年 100万年 ニュートリノが 太陽を出る 約2秒 光が地球まで 届く 約8分 光が中心から 表面へ出るまで 約5.2万年 中の旅は、外の旅の 約33億倍
つまみを動かすと、光が太陽の表面へ出るまでの時間が変わります
図2:かかる時間を、右へ行くほどけた違いに長くなる目盛りに並べた図。左端の小さな丸がニュートリノの約2秒、その右の白い丸が地球までの約8分です。右端近くの大きな丸が、光が太陽の中心から表面へ出るまでの時間です。つまみで一歩の距離を短くすると、この丸はさらに右へ動き、何十万年にもなります。
💡 太陽の中心の「今」を知らせる粒がある

核融合では、光と同時にニュートリノという小さな粒も生まれます。この粒はガスとほとんどぶつからないので、約2秒で太陽を抜け、8分あまりで地球に届きます。岐阜県の地下にある観測装置スーパーカミオカンデは、この粒をとらえて「8分前の太陽の中心」を調べています。

💡 出てくるのは、生まれたときと同じ光ではありません

光は途中で何度も吸いこまれては出し直され、そのたびに少しずつ穏やかな光に変わります。中心で生まれた強いガンマ線は、表面に着くころには、目に見える光や赤外線になっています。旅をしているのは「同じ一粒」ではなく、受け渡されていくエネルギーだと考えると正確です。

まとめ

太陽の光は、表面から地球まではわずか8分あまりです。けれども、そのエネルギーが太陽の中心から表面へにじみ出るまでには、数万年かかると考えられています。濃いガスの中で、ぶつかっては向きを変える千鳥足の旅だからです。今日あなたの腕を温めている日ざしは、氷河時代のころに太陽の奥深くで生まれたエネルギーなのです。

宇宙の1億5000万kmより、太陽の中の70万kmのほうが遠い。
まっすぐ進めない道は、距離の2乗で長くなります。

光がとても速いことがどうやって分かったのかは「光の速さは、どうやって初めて測ったの?」で、太陽がなぜ何十億年も光り続けられるのかは「星はなぜ、何十億年も光り続けられるの?」で紹介しています。

🧪 コインで「千鳥足」を体験してみよう
  1. 方眼紙のまん中に点を打ち、出発点にします。10円玉を2枚用意します。
  2. 2枚を投げて、表表なら上、裏裏なら下、表裏なら右、裏表なら左へ1マス進み、線を引きます。
  3. これを100回繰り返し、最後に出発点から何マス離れたかを測ります。何人かでやって平均をとると、10マス前後になりやすいはずです。

100歩も歩いたのに、10歩ぶんしか進まない。これが、太陽の中で光が出てこられない理由の縮図です。400回にしても、離れる距離は2倍の20マスほどにしかなりません。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「物理」「地学」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(天体物理学・統計物理学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:光が太陽の中から出るまで、何年かかる?

一歩の長さを ℓ、太陽の半径を R として、千鳥足で R だけ離れるのにかかる時間を見積もります。比較として、表面から地球までのまっすぐな旅の時間も出します。

⓪ もとになる式
記号で書くとt ≒ R² ÷ ( ℓ × c ) = ( R ÷ c ) × ( R ÷ ℓ ) (比較:まっすぐなら t = d ÷ c)
言葉で書くとかかる時間 = 「半径を光がまっすぐ進む時間」×「半径が一歩の何個分か」
どこから来る式かランダムウォークでは N 歩で √N × ℓ だけ離れる。これが R になる歩数は N = ( R ÷ ℓ )²。実際に歩く道のりは N × ℓ = R² ÷ ℓ で、それを光の速さ c で割ったものが時間になる
記号意味と単位
tかかる時間(秒)
R太陽の半径(約70万km)
ℓ光が一度にまっすぐ進める距離(ここでは1 mm と仮定)
c光の速さ(約30万km/秒)
d太陽から地球までの距離(約1億5000万km)
① もとになる数値
太陽の半径 R約700000 km
光の速さ c約300000 km/秒
一歩の距離 ℓ(目安)1 mm(深さによって大きく違うとされます)
太陽から地球まで d約150000000 km
1年約31500000 秒
② 計算してみる
外の旅:地球までの時間(秒)150000000 ÷ 300000 = 500
分に直す500 ÷ 60 ≒ 8.3
半径を光がまっすぐ進む時間(秒)700000 ÷ 300000 ≒ 2.33
半径をmmに直す(=一歩の何個分か)700000 × 1000000 = 700000000000
中の旅:表面に出るまでの時間(秒)2.33 × 700000000000 = 1631000000000
年に直す1631000000000 ÷ 31500000 ≒ 51778
外の旅との比1631000000000 ÷ 500 = 3262000000

一歩を1 mm とすると、光が太陽の表面へ出るまで約5.2万年、地球までの8分あまりのおよそ33億倍になります。ちなみに半径を光がまっすぐ進む約2.3秒は、ニュートリノが太陽を抜ける時間とほぼ同じです。

高校高校+なぜ一歩がそんなに短いのか

高校太陽の中心は約1500万℃、密度は水の100倍以上とされます。原子は電子をはぎ取られ、ばらばらの電子と原子核が詰まった「プラズマ」になっています。光は、この電子や原子核と次々にやりとりするため、まっすぐ進めません。

高校+光の進みにくさは「不透明度」という量で表されます。中心に近いほどガスが濃く、一歩は短くなります。一方、外側の対流層では、エネルギーは光ではなくガスの湧き上がりで運ばれ、こちらは数か月ほどで抜けるとされています。旅の時間の大部分は、内側の放射層で使われます。

大学放射拡散と光子拡散時間

大学の天体物理学では、この過程を「放射拡散」として扱い、エネルギーの流れを拡散方程式で書きます。一歩の長さは「平均自由行程」と呼ばれ、不透明度(ロスランド平均不透明度)と密度から決まります。深さごとの値を太陽の標準模型に入れて積み上げた「光子拡散時間」は、研究によって1万年から十数万年まで幅があるとされます。ミタラスとシルズによる1992年の見積もりでは、約17万年という値が示されています。

📖 式の導出や、さらに先の内容:ランダムウォーク(ウィキペディア) / 放射層(ウィキペディア)

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。「数万年」という数字は、桁の目安として受け取ってください。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科「太陽系と恒星」、速さの計算地球まで8分あまりの計算
高校地学「太陽の構造とエネルギー」核融合、放射層と対流層
高校+数学「確率」(発展)N歩で√N歩ぶん離れる千鳥足
大学天体物理学・統計物理学放射拡散、平均自由行程、光子拡散時間
研究恒星内部の物理、ニュートリノ天文学不透明度の不確かさ、太陽の組成問題
―生活とのつながり日なたで感じる温かさの「年齢」

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。太陽の内部で光が表面へ出るまでの時間は、計算の前提によって大きく変わり、研究者のあいだでも幅のある値です。太陽を直接見ることは目を傷めるので避けてください。