太陽の光は、何分前に太陽を出たの?
― 地球までは8分。でも太陽の中から出るまでに、数万年かかっています
太陽の光は、表面を出てから約8分20秒で地球に届きます。ここまではよく知られた話です。ところが、その光のもとになったエネルギーは、太陽の中心で生まれてから表面にたどり着くまでに、数万年もかかっていると考えられています。宇宙を1億5000万km飛ぶ旅より、太陽の中の70万kmのほうが、ずっと長い旅なのです。
晴れた秋の日、窓ぎわで日なたぼっこをしていると、腕がぽかぽかと温まってきます。
この光は、8分ほど前に太陽を出発したものです。「8分前の太陽を見ている」という話を、聞いたことがある人も多いでしょう。
では、その光は太陽の中のどこで、いつ生まれたのでしょうか。たどっていくと、人類が農業を始めるより前の時代に行き着きます。
旅は2つに分かれていて、長さがまるで違います
太陽の表面から地球までは、途中にほとんど何もありません。光は1秒に30万km進み、1億5000万kmを約8分20秒で渡りきります。
太陽の中はガスが非常に濃く、光はほんの少し進むたびに何かにぶつかり、でたらめな向きへはね返されます。そのため、前へ進むのがとても遅くなります。
速さそのものは、どちらも同じ光の速さです。違うのは、進む道がまっすぐか、ジグザグか、という一点だけです。それだけで、かかる時間が何十億倍も変わります。
太陽の中で、光は何をしているの?
太陽のエネルギーは、中心近くで水素がヘリウムに変わる「核融合」で生まれます。生まれた直後のエネルギーは、目に見えない、とても強い光(ガンマ線)の形をしています。
ところが太陽の内側は、ガスが押し縮められて、ものすごく密度が高くなっています。光は、次にガスの粒にぶつかるまで、1ミリ前後しか進めないとされています。ぶつかるたびに、光は吸いこまれては出し直され、向きがでたらめに変わります。
図1を見てください。左の大きな円が太陽で、中心から出ている細かいジグザグの線が、光の通り道のイメージです。前へ進んだり戻ったりを繰り返しながら、少しずつ外へにじみ出ていきます。酔った人が、ふらふら歩きながら少しずつ遠ざかるのに似ているので、この動きは「千鳥足の歩き方」とも呼ばれます。
なぜ、ジグザグだとそんなに遅くなるの?
でたらめな向きに進むと、せっかく前へ進んでも、次の一歩で戻ってしまうことがよくあります。結果として、100歩あるいても、出発点からは平均して10歩ぶんほどしか離れません。1万歩なら100歩ぶん、100万歩なら1000歩ぶんです。
つまり、遠くへ行くほど、必要な歩数は距離の「2乗」で増えていきます。太陽の半径は、1ミリの一歩に直すと7000億歩ぶんです。その2乗ですから、歩数は気の遠くなる数になります。
図2のつまみで、光が一度にまっすぐ進める距離を変えてみてください。この距離は太陽の深さによって大きく違い、正確な値は分かっていません。それでも、どの値を選んでも、外の旅の8分とは比べものにならないことが分かります。
核融合では、光と同時にニュートリノという小さな粒も生まれます。この粒はガスとほとんどぶつからないので、約2秒で太陽を抜け、8分あまりで地球に届きます。岐阜県の地下にある観測装置スーパーカミオカンデは、この粒をとらえて「8分前の太陽の中心」を調べています。
光は途中で何度も吸いこまれては出し直され、そのたびに少しずつ穏やかな光に変わります。中心で生まれた強いガンマ線は、表面に着くころには、目に見える光や赤外線になっています。旅をしているのは「同じ一粒」ではなく、受け渡されていくエネルギーだと考えると正確です。
まとめ
太陽の光は、表面から地球まではわずか8分あまりです。けれども、そのエネルギーが太陽の中心から表面へにじみ出るまでには、数万年かかると考えられています。濃いガスの中で、ぶつかっては向きを変える千鳥足の旅だからです。今日あなたの腕を温めている日ざしは、氷河時代のころに太陽の奥深くで生まれたエネルギーなのです。
宇宙の1億5000万kmより、太陽の中の70万kmのほうが遠い。
まっすぐ進めない道は、距離の2乗で長くなります。
光がとても速いことがどうやって分かったのかは「光の速さは、どうやって初めて測ったの?」で、太陽がなぜ何十億年も光り続けられるのかは「星はなぜ、何十億年も光り続けられるの?」で紹介しています。
- 方眼紙のまん中に点を打ち、出発点にします。10円玉を2枚用意します。
- 2枚を投げて、表表なら上、裏裏なら下、表裏なら右、裏表なら左へ1マス進み、線を引きます。
- これを100回繰り返し、最後に出発点から何マス離れたかを測ります。何人かでやって平均をとると、10マス前後になりやすいはずです。
100歩も歩いたのに、10歩ぶんしか進まない。これが、太陽の中で光が出てこられない理由の縮図です。400回にしても、離れる距離は2倍の20マスほどにしかなりません。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理」「地学」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(天体物理学・統計物理学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 光の速さ(光速):何もない空間で、1秒に約30万km。太陽から地球までの約1億5000万kmを、約500秒で進みます。
- ランダムウォーク(酔歩):一歩ごとに向きがでたらめに変わる進み方。N歩で出発点から離れる距離は、平均して√N歩ぶんほどになります。
- 放射層:太陽の中心部を取りまく層で、エネルギーが光の形でじわじわと外へ運ばれる部分。その外側の対流層では、ガスの湧き上がりがエネルギーを運びます。
中学高校式で確かめる:光が太陽の中から出るまで、何年かかる?
一歩の長さを ℓ、太陽の半径を R として、千鳥足で R だけ離れるのにかかる時間を見積もります。比較として、表面から地球までのまっすぐな旅の時間も出します。
| 記号で書くと | t ≒ R² ÷ ( ℓ × c ) = ( R ÷ c ) × ( R ÷ ℓ ) (比較:まっすぐなら t = d ÷ c) |
| 言葉で書くと | かかる時間 = 「半径を光がまっすぐ進む時間」×「半径が一歩の何個分か」 |
| どこから来る式か | ランダムウォークでは N 歩で √N × ℓ だけ離れる。これが R になる歩数は N = ( R ÷ ℓ )²。実際に歩く道のりは N × ℓ = R² ÷ ℓ で、それを光の速さ c で割ったものが時間になる |
| 記号 | 意味と単位 |
| t | かかる時間(秒) |
| R | 太陽の半径(約70万km) |
| ℓ | 光が一度にまっすぐ進める距離(ここでは1 mm と仮定) |
| c | 光の速さ(約30万km/秒) |
| d | 太陽から地球までの距離(約1億5000万km) |
| 太陽の半径 R | 約700000 km |
| 光の速さ c | 約300000 km/秒 |
| 一歩の距離 ℓ(目安) | 1 mm(深さによって大きく違うとされます) |
| 太陽から地球まで d | 約150000000 km |
| 1年 | 約31500000 秒 |
| 外の旅:地球までの時間(秒) | 150000000 ÷ 300000 = 500 |
| 分に直す | 500 ÷ 60 ≒ 8.3 |
| 半径を光がまっすぐ進む時間(秒) | 700000 ÷ 300000 ≒ 2.33 |
| 半径をmmに直す(=一歩の何個分か) | 700000 × 1000000 = 700000000000 |
| 中の旅:表面に出るまでの時間(秒) | 2.33 × 700000000000 = 1631000000000 |
| 年に直す | 1631000000000 ÷ 31500000 ≒ 51778 |
| 外の旅との比 | 1631000000000 ÷ 500 = 3262000000 |
一歩を1 mm とすると、光が太陽の表面へ出るまで約5.2万年、地球までの8分あまりのおよそ33億倍になります。ちなみに半径を光がまっすぐ進む約2.3秒は、ニュートリノが太陽を抜ける時間とほぼ同じです。
高校高校+なぜ一歩がそんなに短いのか
高校太陽の中心は約1500万℃、密度は水の100倍以上とされます。原子は電子をはぎ取られ、ばらばらの電子と原子核が詰まった「プラズマ」になっています。光は、この電子や原子核と次々にやりとりするため、まっすぐ進めません。
高校+光の進みにくさは「不透明度」という量で表されます。中心に近いほどガスが濃く、一歩は短くなります。一方、外側の対流層では、エネルギーは光ではなくガスの湧き上がりで運ばれ、こちらは数か月ほどで抜けるとされています。旅の時間の大部分は、内側の放射層で使われます。
大学放射拡散と光子拡散時間
大学の天体物理学では、この過程を「放射拡散」として扱い、エネルギーの流れを拡散方程式で書きます。一歩の長さは「平均自由行程」と呼ばれ、不透明度(ロスランド平均不透明度)と密度から決まります。深さごとの値を太陽の標準模型に入れて積み上げた「光子拡散時間」は、研究によって1万年から十数万年まで幅があるとされます。ミタラスとシルズによる1992年の見積もりでは、約17万年という値が示されています。
📖 式の導出や、さらに先の内容:ランダムウォーク(ウィキペディア) / 放射層(ウィキペディア)
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 本当の「旅の時間」はいくつか。 不透明度の計算には、高温高密度での原子のふるまいが入り、実験で確かめるのが難しいとされます。値の幅は、主にここから来ています。
- 太陽の内部の組成。 表面の観測から決めた元素の量と、太陽の振動(日震学)から推定した内部の構造とが、うまく合わないことが知られています。不透明度の見直しが、その解決の候補のひとつとされています。
- 中心の「今」と、表面の「今」のずれ。 ニュートリノの観測で中心の核融合の様子は8分遅れで分かりますが、それと表面の明るさの関係を細かく結びつける研究は続いています。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。「数万年」という数字は、桁の目安として受け取ってください。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科「太陽系と恒星」、速さの計算 | 地球まで8分あまりの計算 |
| 高校 | 地学「太陽の構造とエネルギー」 | 核融合、放射層と対流層 |
| 高校+ | 数学「確率」(発展) | N歩で√N歩ぶん離れる千鳥足 |
| 大学 | 天体物理学・統計物理学 | 放射拡散、平均自由行程、光子拡散時間 |
| 研究 | 恒星内部の物理、ニュートリノ天文学 | 不透明度の不確かさ、太陽の組成問題 |
| ― | 生活とのつながり | 日なたで感じる温かさの「年齢」 |
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。太陽の内部で光が表面へ出るまでの時間は、計算の前提によって大きく変わり、研究者のあいだでも幅のある値です。太陽を直接見ることは目を傷めるので避けてください。