オジギソウは、なぜ触るとすぐに葉を閉じるの?
― 動かしているのは、細胞から出ていく水です
指先で葉にちょっと触れただけで、小さな葉がぱたぱたと閉じ、葉の柄までおじぎをするように垂れ下がります。植物には筋肉も骨もありません。それなのに、なぜあんなに速く動けるのでしょうか。答えは「水」です。葉のつけねにある小さなふくらみから水が一気に抜けて、その部分がしぼむ。それだけで、葉は倒れます。
夏の花だんや、学校の理科室の鉢に、細かい葉をたくさんつけた草があります。名前はオジギソウ。指をそっと近づけて、いちばん先の葉に触れてみます。
触れたしゅんかん、葉が内側へ折りたたまれます。それも、触ったところだけではありません。となりの葉、そのとなりの葉と、閉じる動きが波のように伝わっていきます。最後には葉の柄ごと、かくんと下を向きます。
しばらくすると、何ごともなかったように葉は開き、柄も持ち上がります。同じ株にもう一度触れれば、また同じことが起きます。
理由は、大きく2つです
葉の柄のつけねには、少しふくらんだ部分があります。ここの細胞は水でぱんぱんにふくらんでいて、突っぱり棒のように葉を支えています。水が抜けると、支えを失って葉は倒れます。
触られた場所で起きた変化は、細胞から細胞へ電気的な信号として伝わります。神経はありませんが、信号は走ります。だから、触っていない葉まで次々と閉じていきます。
この2つは、順番につながっています。まず合図が走り、合図が届いた場所で水が抜ける。順に見ていきましょう。
1. 支えているのは、水でふくらんだ細胞です
葉の柄のつけねにある小さなふくらみを、葉枕(ようちん)と呼びます。ここが、オジギソウの関節にあたる部分です。
葉枕の中の細胞は、内側から水に押されています。ゴム風船に水を入れると、ぱんと張って形が保たれますね。あれと同じで、細胞のかべが内側から押されることで、かたさが生まれます。この押す力を膨圧といいます。
葉枕は、上半分と下半分に分けて考えると分かりやすくなります。ふだんは下半分の細胞がよくふくらんでいて、葉の柄を下から持ち上げています。触られると、この下半分の細胞から水が外へ逃げ出します。下側だけがしぼむので、柄は支えを失い、かくんと下を向きます(図1)。
水が動くきっかけは、細胞の中の塩けです。細胞の中にたまっていたカリウムなどの粒が、かべにある出口から一気に外へ出ていきます。すると細胞の中の塩けがうすくなり、水は塩けの濃いほうへ引かれて出ていきます。これが、しぼむ正体です。
2. 神経はないのに、合図は走ります
不思議なのは、触っていない葉まで閉じることです。刺激は、どうやって遠くまで伝わるのでしょうか。
植物の細胞も、中と外で電気の状態に差を持っています。刺激を受けると、その差が一時的にくずれます。くずれた場所はとなりの細胞にも影響し、そのとなりへ、さらにそのとなりへと、変化が波のように広がっていきます。動物の神経で起きていることと、原理はよく似ています。
ただし、速さはまるで違います。オジギソウで測られた合図の伝わる速さは、1秒あたり数センチメートルほどとされています。動物の神経がふつう1秒に数十メートル進むことを考えると、ずいぶんゆっくりです。それでも、葉1枚の長さはせいぜい十数センチメートル。数秒あれば、端から端まで届きます。私たちには「一瞬で全部閉じた」ように見えるわけです。
合図が届いた葉枕では、出口が開いて水が逃げ、その場所がしぼみます。閉じるのは速いのに、開くのに10分以上かかるのは、水をもう一度細胞の中へ運び入れるのに手間がかかるからだと考えられています。抜くのは一気にできても、汲みなおすのは時間がかかります。
オジギソウは、誰も触らなくても夕方になると葉を閉じます。これは就眠運動と呼ばれ、体の中の時計にしたがって毎日くりかえされるものです。動く場所は同じ葉枕ですが、きっかけが「触られたこと」ではなく「時刻」である点が違います。暗い部屋に置いても、しばらくは同じリズムで開いたり閉じたりを続けるとされています。
はっきりした答えは、まだ決まっていません。葉を食べに来た虫を驚かせて落とすため、葉をたたんで細く見せ、食べる価値がなさそうに見せるため、強い雨や風から葉を守るため。どれももっともらしく、実験による支持もあります。ひとつだけが正解とは限らず、いくつかの役割をかねている可能性が高いと考えられています。
まとめ
オジギソウは、筋肉のかわりに水を使って動きます。葉のつけねの葉枕という部分で、下半分の細胞がふくらんで葉を支えている。触られると電気の合図が走り、その細胞から塩けが出て、続いて水が出ていく。支えが消えて、葉は倒れる。それだけのしくみです。
植物は、力ではなく水の出し入れで動きます。
おじぎは、しぼんだ結果です。
植物が水をあやつる話は、ほかにもあります。木が高いところまで水を運ぶしくみは木はなぜ、100メートルの高さまで水を吸い上げられるの?で、雨のあとキノコが一晩で伸びるしくみはキノコは、なぜ雨のあとに急に生えてくるの?で扱っています。根と芽が向きを決めるしくみは植物の根はなぜ下に、芽は上に伸びるの?をどうぞ。
- オジギソウの葉の、いちばん先のほうに指で軽く触れます。どこから閉じ始め、どちらへ広がっていくかを目で追ってください。閉じる向きに規則があるはずです。
- 次に、閉じたあと何分で元にもどるかをはかります。閉じるのは1秒もかからないのに、開くには10分以上かかることが多いはずです。この差が、水を出すのと入れるのの手間の差です。
- 同じ葉に、続けて何度も触れてみます。だんだん反応が鈍くなることがあります。植物にも「慣れ」に似た現象があると報告されており、いま研究が進んでいるところです。
※ 強くつまんだり、葉をちぎったりはしないでください。株が弱ります。軽く触れるだけで十分に動きます。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「生物基礎・生物」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(植物生理学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 葉枕(ようちん):葉の柄のつけねにある、少しふくらんだ部分。ここの細胞が水を出し入れすることで、葉が動きます。オジギソウの「関節」にあたります。
- 膨圧(ぼうあつ):細胞の中の水が、細胞のかべを内側から押す力。水が多いほど大きく、植物のはりを生み出します。しおれた葉がぐったりするのは、この力が下がるためです。
- 浸透(しんとう):うすい液から濃い液へ、水がかべを通って移動すること。細胞の中の塩けがうすくなると、水は外へ出ていきます。
中学高校式で確かめる:合図は、葉の端から根元まで何秒で届く?
合図の伝わる速さがわかれば、葉1枚を横切るのにかかる時間は、わり算だけで出せます。ここでは、よく報告されている値を使ってざっと見積もってみます。単位は、長さがセンチメートル、時間が秒です。
| 触った先から、葉のつけねまでの長さ | およそ 6 センチメートル |
| 合図が伝わる速さ | 1秒あたり およそ 2 センチメートル とされる |
| 1分あたりの秒数 | 60 秒 |
| 端からつけねまで届く時間(秒) | 6 ÷ 2 = 3 |
| 1分間に進む長さ(センチメートル) | 60 × 2 = 120 |
| メートルに直す | 120 ÷ 100 = 1.2 |
葉の端に触れてから、つけねが動きだすまで3秒ほど。1分待っても、合図は1.2メートルしか進みません。人の神経がその何十倍もの距離を1秒で走ることと比べると、植物の合図はずいぶんのんびりしています。それでも、葉1枚という小さな世界では十分に速いのです。
高校高校+水を動かしているのは、何でしょう
高校高校の生物では、細胞と水のやりとりを浸透圧で考えます。細胞の中の溶けている粒が多いほど、水を引きこむ力は強くなります。葉枕の細胞は、ふだん粒を多くかかえこんで水を保ち、膨圧を高く保っています。
高校+刺激を受けると、細胞のかべにある通り道が開き、カリウムや塩化物の粒が外へ流れ出ます。中の粒が減れば、水を引きとめる力も減ります。そこで水は外へ移り、細胞はしぼみます。動いているのは水ですが、水に指示を出しているのは粒の出入りだ、と整理できます。
大学変動電位と、水の通り道
大学の植物生理学では、この合図を活動電位や変動電位として扱います。膜をはさんだ電位の差が刺激で一時的に逆転し、それが軸の方向へ伝わっていく現象です。カルシウムの濃度の変化も同時に走ることが、光る目印を組みこんだ植物の観察で可視化されています。水そのものは、膜にある専用の通り道を通って出入りすると考えられています。粒の移動、電気の変化、水の移動という三つが、短い時間の中でつながっている点が、この現象の面白さです。
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 何のために動くのか。 虫を追い払うため、という説は実験で支持されつつありますが、葉をたたむことで日ざしや乾燥を避ける効果も指摘されています。主な役割がどれかは、まだ決着していません。
- 合図の正体は一つか。 電気の変化のほかに、水圧の変化や、細胞の外を伝わる物質も関わっている可能性が議論されています。どれが主役かは、条件によって変わるとも言われます。
- 「慣れる」のはなぜか。 くり返し刺激すると反応が弱まり、しばらく置くと戻ることが知られています。これを記憶と呼んでよいのか、どこに残っているのかは、はっきりしていません。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。しくみの骨組みは確かめられていますが、その意味づけは、これからの研究で変わるかもしれません。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科第2分野・植物のからだのつくり | 葉枕という部分と、水がはりを生むという話 |
| 高校 | 生物基礎・細胞と浸透、生物・植物の環境応答 | 膨圧と浸透で細胞がしぼむしくみ |
| 高校+ | 生物・膜を通る物質の出入り | 粒が出ていくことが引き金になる話 |
| 大学 | 植物生理学・膜輸送・電気生理 | 変動電位と水の通り道の節 |
| 研究 | 植物の環境応答・行動生態 | 役割と「慣れ」をめぐる未解決の話 |
| ― | 生活とのつながり | しおれた花に水をあげると立ち上がるのも、同じ膨圧の話 |
- 日本植物生理学会(植物の運動や水の出入りについて、一般向けの解説を公開しています)
- Hagihara T. ほか「Calcium-mediated rapid movements defend against herbivorous insects in Mimosa pudica」Nature Communications, 2022
- Volkov A. G. ほか「Mimosa pudica: Electrical and mechanical stimulation of plant movements」Plant, Cell & Environment, 2010
- 増田芳雄『植物生理学』培風館(膨圧による運動と葉枕のしくみについての基礎的な記述)
- チャールズ・ダーウィン『植物の運動力』(就眠運動をふくむ植物の動きを体系的に記録した古典)
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。植物の反応の速さや元にもどるまでの時間は、株の状態や気温、その日の水の量によって大きく変わります。