磁石を半分に割ったら、N極だけの磁石ができるの?
― 何度割っても、切り口に新しい極が生まれます
答えは「できません」。割ると、割れた両方にN極とS極がそろって現れます。もう一度割っても同じです。磁石は、端に極が貼りついているのではなく、中身そのものが小さな磁石でびっしり埋まっているからです。
棒磁石の片方が赤、もう片方が青に塗られています。赤がN極、青がS極です。子どもがそれをしばらく眺めて、こう聞きます。「じゃあ、まん中で折ったら、赤だけの磁石ができるの?」
言われてみると、そう思えます。棒の左半分には、赤しか入っていないように見えるからです。
ところが実際に折ると、折れた左半分の切り口が、その場で青くふるまいはじめます。青だけの磁石も同じで、切り口が赤になります。何度割っても、これが延々と続きます。
理由は、大きく2つです
磁石の中は、目に見えない小さな磁石がぎっしり同じ向きに並んだ状態です。棒の内側では、となり合う小さな磁石のN極とS極が打ち消し合い、外からは何も感じません。打ち消す相手がいない端だけが、極として顔を出しています。
電気にはプラスだけの粒、マイナスだけの粒があります。ところが磁気のもとは、電気が小さく回っていることそのものです。輪っかを切っても輪っかは輪っかで、「回る向きの片方だけ」を取り出すことはできません。
この2つは、同じことを別の言い方で述べたものです。順に見ていきます。
切ったところが、その場で新しい極になる
棒磁石の中身を、小さな方位磁針がずらりと一列に並んだものだと思ってください。全部が同じ向きを向いています。ある磁針のN極のすぐ右には、次の磁針のS極があります。となり合った反対どうしは、外から見ると打ち消し合います。
だから棒の真ん中あたりに砂鉄を近づけても、ほとんどつきません。砂鉄が群がるのは両端だけです。端の磁針だけは、外を向いた面に打ち消す相手がいないからです。
ここで棒を真ん中で折ると、どうなるでしょうか。図1を見てください。切り口のすぐ内側にいた磁針は、これまで相手と打ち消し合っていたのに、その相手が向こう側へ行ってしまいます。その瞬間、この面がむき出しの極になります。左半分の右端にはS極が、右半分の左端にはN極が、新しく生まれます。
鉄はくっつくのに、鉄自身は磁石でない理由
ここまで読むと、次の疑問が出てきます。小さな磁石でできているのなら、なぜ鉄のクギは磁石ではないのでしょうか。クギも鉄なのに、机の上のクリップを引き寄せたりはしません。
鉄の中にも、小さな磁石はあります。ただし向きがそろっていません。鉄の内部は、向きのそろった小さな集団にいくつも分かれていて、集団どうしは思い思いの方向を向いています。この集団を磁区といいます。集団ごとに向きがばらばらなので、全部足すとほぼ帳消しになり、外からは磁石に見えません。図2の左が、その状態です。
ここへ磁石を近づけると、磁区の境目が動き、磁石の向きに近い集団が大きくなっていきます。そろった分だけ鉄は磁石らしくなり、引き寄せられます。これが「くっつく」の正体です。図2の右が、その状態です。磁石を遠ざけると、鉄ではまた向きが乱れて元に戻ります。いっぽう、そろった状態がそのまま保たれる材料でできているのが、私たちが磁石と呼んでいるものです。
そろった向きは、熱でこわれます。鉄の場合、およそ770℃を超えると磁石としての性質を失うとされています。この温度はキュリー温度と呼ばれます。冷やせば、また磁石になれる状態に戻ります。
ネオジムでできた磁石は、小さくても指の皮膚をはさむほどの力で引き合います。とくに小さな球状の磁石を子どもが飲みこむと、体の中で離れた場所どうしが引き合い、手術が必要になることがあるとされています。飲みこんだ疑いがあれば、様子を見ずにすぐ医療機関に相談してください。
まとめ
磁石の極は、端に貼りついた部品ではありません。中身が小さな磁石の行列でできていて、その端が極として見えているだけです。だから割れば、切り口が新しい端になり、そこに新しい極が生まれます。N極だけを取り出すことは、少なくともいまの私たちにはできません。
磁石は、端に極があるのではない。
中身がまるごと磁石だから、端に極が見える。
地球そのものが大きな磁石としてふるまう話はコンパスの針は、なぜ北を向くの?に、その磁力線が宇宙からの粒を導く話はオーロラは、なぜ北極や南極の近くでしか見られないの?にあります。
- 安い黒いフェライト磁石(百円店の棒磁石など)を厚い布で包み、ペンチで折ります。かけらが飛ぶので、必ず布の中で、大人といっしょに行ってください。
- 折れた2つのかけらそれぞれに、方位磁針を近づけます。どちらのかけらでも、片側では針が引かれ、反対側ではしりぞけられるはずです。つまり両方のかけらが、N極とS極をそろって持っています。
- 割る前の棒磁石に、砂鉄か細かく切ったスチールたわしを近づけます。まん中にはほとんどつかず、両端にだけ群がることを確かめてください。
ネオジム磁石は割れるとき鋭く飛び散るので、この観察には向きません。もろくて折りやすい黒いフェライト磁石を使ってください。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理基礎・物理」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(電磁気学・固体物理学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 磁気双極子:N極とS極が必ずセットになった、磁気のいちばん小さな単位。磁石を割っても、この単位そのものは割れません。
- 磁区:材料の中で、小さな磁石の向きがそろっている区画。ふつうの鉄では、区画ごとに向きがばらばらです。
- キュリー温度:それより高い温度では、そろった向きが熱でこわれて磁石でなくなる温度。鉄ではおよそ770℃とされています。
- 磁気単極子:N極だけ、あるいはS極だけを持つと考えられている粒。理論では想像されていますが、まだ見つかっていません。
中学高校式で確かめる:何回割ったら「もう割れない」ところに届くか
割るたびにN極とS極が出てくるなら、割り続ければどうなるのでしょうか。長さ5センチの棒磁石を、毎回きっちり半分にしていくとして、原子1個の大きさに届くまでに何回かかるかを数えてみます。使う記号の意味は、次のとおりです。
| L | 磁石の長さ(単位はメートル) |
| n | 半分に割った回数(単位は回) |
| d | 鉄原子の直径(単位はメートル) |
| 棒磁石の長さ L | 0.05 メートル(5センチ) |
| 鉄原子の直径 d | およそ 0.00000000025 メートル(0.25ナノメートル)とされる |
| 2を28回かけた数 | 268435456 |
| 1回割ったあとの長さ | 0.05 ÷ 2 = 0.025 |
| 10回割ったあとの長さ | 0.05 ÷ 1024 ≒ 0.0000488 |
| 28回割ったあとの長さ | 0.05 ÷ 268435456 ≒ 0.00000000019 |
28回目で、長さは0.19ナノメートルほどになります。これは鉄原子の直径0.25ナノメートルより小さい値です。つまり28回も割れば、もう原子1個より小さくなってしまいます。たった28回です。そしてその手前の、原子がいくつか並んだ段階でも、かけらはまだN極とS極をそろって持っています。
高校高校+なぜ「回る電気」だと極を分けられないのか
高校コイルに電流を流すと、コイルは棒磁石とそっくりにふるまいます。片側がN極、反対側がS極になります。このとき、コイルのどこを切ってもN極だけは取り出せません。電流の輪が作るものは、必ず「出ていく側」と「入ってくる側」がセットだからです。
高校+原子の中の電子も、これとよく似たふるまいをします。電子は原子核のまわりを回り、さらに電子そのものが自転に似た性質(スピン)を持っています。どちらも小さな電流の輪と同じはたらきをするので、原子1個がそのまま小さな磁石になります。磁石の正体は、この原子の磁石が大量にそろったものです。もとが輪である以上、極を1つだけ切り出す入り口がありません。
大学「磁荷はない」が式に書きこまれている
電磁気学の基本になる4つの式(マクスウェル方程式)のうち1つは、「磁場から湧き出すものも、吸いこまれるものもない」ことを述べています。電場のほうには、湧き出しの源として電荷が書かれています。磁場のほうには、それに当たる項がありません。つまり現代の電磁気学は、はじめから「N極だけの粒は存在しない」という前提で組み立てられています。
この非対称は、理論として気持ちのよいものではありません。もし磁荷が存在するなら、4つの式はきれいな対称形になります。物理学者が磁気単極子を探し続けている理由のひとつが、これです。
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 磁気単極子は本当に無いのか。 1931年にディラックは、磁気単極子が1つでも存在すれば、電気の量がとびとびの値しか取れない理由を説明できると示しました。素粒子の統一理論の多くも、その存在を予言します。しかし加速器でも、宇宙線の観測でも、まだ確実な発見はありません。
- 物質の中の「単極子のようなもの」。 スピンアイスと呼ばれる特殊な結晶では、単極子のようにふるまう乱れが観測されています。ただしこれは素粒子ではなく、たくさんの原子が集まって初めて現れる見かけの存在です。本物の単極子とどこまで同じなのかは、議論が続いています。
- 磁石の強さの限界はどこか。 室温で使える磁石をどこまで強くできるかは、まだ答えが出ていません。ネオジム磁石に使う希土類は産地が限られるため、それに頼らない強い磁石を探す研究が続いています。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。もし磁気単極子が見つかれば、冒頭の子どもの質問への答えは、将来書きかえられるかもしれません。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・電流と磁界 | 磁石の極、磁力線、鉄が引き寄せられるしくみ |
| 高校 | 物理・電流と磁場 | コイルが磁石と同じにふるまう話 |
| 高校+ | 物理の発展・原子 | 電子のスピンが磁石のもとになる話 |
| 大学 | 電磁気学・固体物理学 | マクスウェル方程式の非対称、磁区と磁化 |
| 研究 | 素粒子物理学・磁性物理学 | 磁気単極子の探索、スピンアイス |
| ― | 生活とのつながり | 冷蔵庫の磁石、方位磁針、磁石の誤飲への注意 |
- 物質・材料研究機構(NIMS)「磁石の基礎 ― 磁区と磁化のしくみ」解説資料
- 日本磁気学会 編『磁気工学の基礎』(磁区構造とキュリー温度の記述)
- P. A. M. Dirac, "Quantised Singularities in the Electromagnetic Field", Proceedings of the Royal Society A, 1931
- C. Castelnovo, R. Moessner, S. L. Sondhi, "Magnetic monopoles in spin ice", Nature 451, 42-45, 2008
- 日本小児科学会「こどもの事故と対策 ― 磁石の誤飲」
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。磁石を割る観察は必ず大人といっしょに行ってください。誤飲などが疑われる場合は自己判断せず、医療機関や消防・自治体等の指示に従ってください。