🌕 天文の科学 🌇 光のしくみ 予備知識なしでOK 読了 約6分

皆既月食のとき、月はなぜ消えずに赤く見えるの?
― 地球をふちどる、無数の「夕焼け」が月を照らしている

皆既月食の夜、月は地球の影にすっぽり入ります。太陽の光がまったく届かないはずなのに、月は真っ暗にはならず、赤銅色にぼんやりと光り続けます。地球の影に完全に隠れているのに、なぜ光っているのでしょうか。

公開:2026.08.21 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

満月の夜、月が少しずつ欠けていき、やがて地球の影にすっぽり入ります。ここが皆既月食の始まりです。太陽・地球・月が一直線に並び、地球が太陽の光をさえぎっているのですから、月には光がまったく届かず、空から消えてしまいそうなものです。

ところが実際には、月は真っ暗にはなりません。赤銅色(しゃくどういろ)と呼ばれる、暗いオレンジ色から赤色に染まって、そこにあり続けます。この赤い光は、いったいどこから来ているのでしょうか。

赤く見える理由は、2つがそろって初めて起きる

1
地球の大気が、太陽の光を影の中へわずかに送り込んでいる

地球には大気があるため、地球の影は完全な暗闇ではありません。地球のふちをかすめた太陽の光が、大気で曲げられて、影の中心付近まで届いているとされています。

2
その大気を通るとき、赤い光だけが選ばれて残る

大気を長い距離、斜めに通り抜ける光は、青い光がほとんど失われ、赤い光だけが残ります。これは夕焼けが赤く見えるのと同じしくみだとされています。

この2つがそろって、はじめて「地球の影の中にいるのに、赤く光る月」が生まれます。順番に見ていきましょう。

理由1:地球の影は、完全な暗闇ではない

もし地球に大気がなければ、地球の影は光がまったく届かない、真っ暗な空間になるはずです。ところが地球は分厚い大気に包まれているため、話が変わります。

太陽から届いた光のうち、地球のふちすれすれを通り抜ける光は、大気の中を通るときに少しだけ進む向きが曲がります(これを屈折といいます)。この曲がりのおかげで、本来なら地球の後ろの真っ暗な空間に進むはずだった光の一部が、影の中心付近まで届くようになります。月食のときの月は、ちょうどこの届いた光に照らされています。

太陽 地球(大気の層) 地球の影(本来は真っ暗) 月(赤銅色に光る) 大気で曲げられ、赤くなった光
図1:太陽・地球・月が一直線に並ぶと、月は地球の影に入ります。このとき地球のふちをかすめた太陽の光(オレンジの矢印)が大気によって曲げられ、影の中心付近まで届きます。この光は大気を長く通り抜けるうちに赤みを帯び、月を赤銅色に照らします。

理由2:大気を長く通ると、光は赤くなる

空を見上げたとき、昼間の空が青いのも、夕方の空が赤いのも、実は同じ空気の性質から起きています。空気の分子は、光の中でも波長の短い青い光を、より強く四方八方へ散らばらせる性質を持っています。この散らばりを散乱といい、とくに空気の分子のような小さな粒による散乱はレイリー散乱と呼ばれています(空が青い理由についての記事で詳しく説明しています)。

昼間は太陽の光が大気を通る距離が短いため、青い光の一部が散乱されつつも、まだ十分な量が目に届きます。ところが夕方は、太陽の光が大気を斜めに長い距離通り抜けてくるため、青い光がほとんど散乱されつくして進行方向から失われ、散乱されにくい赤い光だけが残って目に届きます。これが夕焼けです。

皆既月食で月を照らす光も、地球のふちを長い距離かすめるように通り抜けてきます。つまりこの光は、地球上のあらゆる場所で同時に起きている無数の夕焼け・朝焼けの光が集まったものだと言われることがあります。だからこそ月は、真っ暗にならず赤く光るのです。

💡 月食のたびに、赤さの濃さが違って見える

皆既月食の月の色は、明るいオレンジ色に見えることもあれば、暗い赤褐色に見えることもあります。これは、そのときの地球の大気の状態(雲の広がり方や、火山の噴火による塵の多さなど)によって、影の中まで届く光の量や色合いが変わるためだとされています。

手元で確かめられること

🧪 30秒でできる観察:夕方の空の色の変化を見る
  1. 晴れた日の午後、同じ場所から西の空を、日没まで何度か見比べる
  2. 太陽の高さが低くなるにつれて、太陽の周りの空の色が白っぽい黄色からオレンジ、赤へと変わっていく様子を確かめる

太陽が低くなるほど、光が大気を通り抜ける距離は長くなります。その分だけ青い光が失われ、残った赤い光が濃くなっていきます。これと同じ「長い距離を通り抜けた光は赤くなる」という現象が、皆既月食では地球全体の縁で同時に起きている、と考えると理解しやすくなります。

まとめ

皆既月食の月が赤く見えるのは、2つのことが同時に起きているからです。①地球の大気が太陽の光を影の中へわずかに曲げて送り込んでいること、②その光が大気を長く通り抜ける間に、青い光を失って赤い光だけが残ること。この2つがそろって、地球の影の中でも月は光り続けます。

月食の月を照らしているのは、地球上のどこかの夕焼けの続きです。
影の中の月は、暗闇ではなく、遠くの夕焼けの光を浴びています。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から研究中の話題まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「地学基礎」「物理基礎」で習う範囲
  • 高校+高校の「地学」「物理」、または教科書の発展・コラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(大気光学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:月食をめぐる言葉

中学高校式で確かめる:地球の影は、月よりどれくらい大きいのか

「月が影にすっぽり入る」と聞いても、影の大きさに余裕があるのかどうか、実感はわきにくいものです。ここは計算で、はっきりした数字が出ます。

① まず、目安として使われる数値

影は月の何倍か = 地球の影の大きさ ÷ 月の直径

地球の影の大きさ月の軌道の位置で、およそ9200[km]とされる
月の直径およそ3474[km]

地球の影は、月までの距離のところではこれくらいの大きさになっているとされています。月の直径と比べることで、余裕がどれくらいあるかがわかります。

② 数値を入れて解いてみる
影の大きさは月の直径の何倍か9200 ÷ 3474 ≒ 2.6 [倍]
影の半径9200 ÷ 2 = 4600 [km]
月の半径3474 ÷ 2 = 1737 [km]
片側だけの余裕(影の半径 − 月の半径)4600 − 1737 = 2863 [km]

地球の影は、月をゆったり2.6個分並べられるくらいの大きさがあることになります。月食のたびに月がぴったり影に収まるわけではなく、片側だけでも月の直径よりずっと広い、2863kmもの余裕を持って影の中に入っているのです。

③ 出た数を、実感に直す

影にこれだけ余裕があるからこそ、月が影の中を通り抜けるのに時間がかかり、皆既月食は長いときには1時間以上続くことがあります。数分で終わる皆既日食とは対照的です。地球の影が月よりずっと大きいという、この単純な大きさの違いが、月食と日食の続く時間の差にもつながっています。

高校+大学なぜ「赤」なのかを、もう少し正確に

レイリー散乱の強さは、光の波長の4乗に反比例するとされています。つまり波長が半分になると、散乱される強さはおよそ16倍になります。青い光(波長およそ450nm)は、赤い光(波長およそ650nm)に比べて、はるかに強く散乱されるということです。大気を長い距離通り抜けるほど、この差はさらに大きく開いていきます。

また、月食の際に月へ届く光には、大気中のオゾン層による吸収や、雲・塵による散乱・吸収も影響するとされています。これらの影響の大きさが、月食ごとに月の色合いが変わる理由の一つだと考えられています。

研究まだよくわかっていないこと

何千年も観察され続けてきた月食も、色合いを決める大気の細部は、いまも研究の対象です。身近さと、わかっているかどうかは、別のことです。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科・月の満ち欠けと日食・月食皆既月食のしくみ、屈折の基本
高校地学基礎・大気の構造、物理基礎・光の性質影の大きさの計算、散乱の基本的な考え方
高校+地学・大気光学(発展)レイリー散乱と波長の関係
大学大気科学・大気光学波長の4乗則、オゾン層・雲による影響
研究大気科学・系外惑星科学(未解決)色合いの事前予測、シミュレーション、系外惑星大気の観測技術
身近な観察夕焼けの色の変化との比較
参考・出典
  1. 国立天文台等による、日食・月食のしくみに関する解説資料。
  2. Lynch, D.K. & Livingston, W., Color and Light in Nature(大気光学・レイリー散乱・月食の色に関する記述)。
  3. 光学・大気科学の教科書における、散乱と波長の関係(レイリー散乱の波長依存性)に関する一般的な記述。
  4. 各国天文機関による、皆既月食の際の月の明るさの記録・観測資料。

※ 地球の影の大きさなどの数値は、太陽・地球・月の位置関係により変動します。本記事では一般に用いられる目安を示しました。

※本記事は一般向けの科学解説です。地球の影の大きさや光の波長に関する数値は、条件によって幅があり、しくみを理解するための目安として示しています。