雷1回のエネルギーで、家の電気はどれくらいまかなえるの?
― けた外れなのは量ではなく、速さのほうです
空が白く光り、少し遅れて腹の底に響く音がとどろく。あれだけの迫力なら、家じゅうの電気くらい何年分もありそうに思えます。ところが実際に計算してみると、落雷1回でまかなえるのは、ふつうの家庭のおよそ1週間分にすぎません。それでも雷が危ないのは、その量を1万分の1秒に押しこんでいるからです。
夏の夕方、窓の外が急に暗くなります。しばらくして、あたり一面が真っ白に光ります。
数秒後、地面までびりびりと震えるような音。思わず肩がすくみます。
このとき「あのエネルギーを電気に変えられたら、電気代がいらないのに」と考えた人は多いはずです。その直感が、じつは半分だけ当たっています。
ポイントは2つだけです
落雷の電圧はおよそ1億ボルト、電流はおよそ3万アンペアとされています。かけ算すると、その瞬間の勢いは3兆ワットほど。日本の発電設備をすべて合わせても、これには届きません。
その勢いが保たれるのは、まばたきの千分の一ほどの時間です。エネルギーは「勢い×時間」なので、総量にすると意外なほど小さくなります。
この2つは、同じ現象の別の顔です。順に見ていきます。
「勢い」と「量」は、まったく別のものです
わたしたちは「すごいエネルギー」と「すごい勢い」を、ふだん区別せずに使っています。しかし理科では、この2つはきちんと分かれています。
勢いのほうは、1秒あたりにどれだけ使うかを表します。単位はワットです。量のほうは、それが何秒続いたかまで含めた合計で、単位はジュールになります。
お風呂で言えば、勢いは蛇口をひねった強さ、量はたまったお湯の全体です。細い蛇口でも一晩流し続ければ浴槽はあふれます。逆に、太い管でも0.1秒だけ開いてすぐ閉じれば、たまるのはコップ数杯です。雷は、この「太い管を一瞬だけ開けた」ほうにあたります。図1を見てください。
だから、雷は「集める」より「よける」もの
この計算からは、少し意外な結論が出てきます。雷を集めて電気として使う話が、いつまでたっても実用にならない理由です。
1回でとれる量が家庭1週間分では、そもそも割に合いません。しかも落ちる場所も時刻も選べず、届いた電気は1万分の1秒で走り抜けます。それを受け止められる装置は、送電網より何けたも丈夫でなければなりません。
逆に言えば、危険の正体もここにあります。総量は小さくても、一瞬に集中しているために、通り道になったものは瞬時に高温になります。木の幹の中の水分が一気に水蒸気になり、幹を裂くことがあるのはこのためです。
光はほぼ一瞬で届きますが、音は1秒でおよそ340メートルしか進みません。数えた秒数に340をかけると、雷までのおよその距離が出ます。3秒なら約1キロメートルです。
じゃあ、どうすればいいの?
- ゴロゴロが聞こえたら、すぐ建物か車の中へ避難する木の下や、広い場所のまん中は避けます
- 高い木、電柱、金属のさくには近づかないそばの人が倒れたときも駆け寄らず、まず安全な場所から119番へ通報します
- 音が最後に聞こえてから20分ほどは建物の中で待つ晴れ間が見えても、次の一発が来ることがあります
雷は、雨雲の中心から数キロメートル離れた場所に落ちることがあります。音が聞こえる範囲は、すでに落ちうる範囲だと考えてください。屋外で身を低くする姿勢は、避難できないときの最後の手段であり、安全を保証するものではありません。気象情報と、消防・自治体等の指示を優先してください。
まとめ
雷のエネルギーの総量は、家庭のおよそ1週間分です。けた外れなのは量ではなく、それを1万分の1秒に押しこむ速さのほうでした。ためて使うには小さすぎ、そばにいるには速すぎる。それが雷という現象の正体です。
雷がすごいのは、持っている量ではありません。
その量を、まばたきより短い時間に押しこむ速さです。
雷がなぜ木を選ぶように落ちるのかは雷のとき、木の下に隠れてはいけないのはなぜ?で、電気をためておく難しさは電気は、なぜためておくのが難しいの?でくわしく書いています。
- 家電の表示を見て、消費電力のワット数を3つ書き出します。ドライヤー、電子レンジ、照明などが分かりやすいです。
- それぞれを1日に何分使うかを思い出し、ワット数に使う時間をかけます。数字の大小の順番が、入れかわることがあります。
- 雷が鳴ったら、安全な室内から、光ってから音が届くまでの秒数を数えます。回を重ねるごとに秒数が減るなら、雷雲は近づいています。
3番は、必ず建物の中から行ってください。窓や壁からは少し離れます。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理基礎・物理」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(放電物理・大気電気学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 電力:1秒あたりに受けわたしされるエネルギーの大きさ。単位はワットです。この記事の「勢い」にあたります。
- 電力量:電力に時間をかけた合計。単位はジュール、または家庭でおなじみのキロワット時です。
- 放電:たまった電気が、空気などの通りにくいものを突きやぶって一気に流れる現象。雷はその最大級のものです。
中学高校式で確かめる:家庭の何日分になるか
落雷1回で放たれるエネルギーは、条件によって大きく変わります。ここでは、よく代表値として引かれる数字で計算してみます。
| 雷雲と地面のあいだの電圧 | およそ100000000ボルト(1億ボルト)とされています |
| 流れる電流の大きさ | およそ30000アンペア(3万アンペア)とされています |
| その電流が続く時間 | およそ0.0001秒とされています |
| 家庭が1日に使う電力量 | およそ10キロワット時が目安です |
| 1キロワット時をジュールに直すと | 3600000ジュールです |
| その瞬間の勢い(ワット) | 100000000 × 30000 = 3000000000000 |
| 放たれるエネルギー(ジュール) | 3000000000000 × 0.0001 = 300000000 |
| キロワット時に直す | 300000000 ÷ 3600000 ≒ 83 |
| 家庭の何日分か | 83 ÷ 10 ≒ 8 |
3兆ワットという勢いは、日本の発電設備をすべて合わせた値の10倍以上にあたります。それでも総量は83キロワット時、家庭のおよそ8日分にしかなりません。電気料金に直せば、数千円ぶんという見当になります。
| ボルト | 電圧の単位。電気を押し出す力の強さを表します |
| アンペア | 電流の単位。1秒あたりに流れる電気の量を表します |
| ワット | 電力の単位。ボルトとアンペアをかけると求まります |
| ジュール | エネルギーの単位。ワットに秒数をかけると求まります |
高校高校+なぜ空気が電気を通してしまうのか
高校空気はふつう電気を通しません。ところが電圧が非常に高くなると、空気の分子から電子がはぎ取られ、電気の通り道ができます。この状態を電離といいます。
高校+実際の落雷では、まず弱い流れが数十メートルずつ枝分かれしながら地面へ伸びます。地面側からも迎えの流れが立ち上がり、両者がつながった瞬間に、あの明るい一撃が走ります。目に見える閃光は、下から上へ駆け上がる流れのほうです。
大学エネルギーはどこへ消えるのか
放たれたエネルギーのうち、光として出るのは1割にも届かないと見積もられています。大半は通り道の空気を一瞬で数万度まで熱することに使われ、その急な膨張が衝撃波となって、あの音になります。つまり雷鳴は、エネルギーの落としものの音です。地面に流れこんだぶんは、土のなかで熱に変わって散っていきます。
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- そもそも、どうやって始まるのか。 雲の中で実測される電圧は、空気を突きやぶるのに必要とされる値より一けた小さいことが多く、最初の一歩がどう起きるかは決着していません。
- 雲の中の電気の分かれ方。 氷の粒とあられがぶつかると電気が分かれることは分かっていますが、その分かれる向きが温度や水の量でなぜ変わるのかは、まだ説明しきれていません。
- 雷雲から出る高エネルギーの光。 雷雲が非常に強い光を出していることが観測で分かり、放電のしくみそのものを見直す研究が続いています。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。ここに書いた数値も、1回ごとに大きくばらつく量の代表値だと考えてください。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・電流とそのはたらき | 電力と電力量のちがい、図1の見方 |
| 高校 | 物理基礎・電気とエネルギー | 勢いと総量を分けて計算するところ |
| 高校+ | 物理・気体の電離 | 空気が電気を通すようになるしくみ |
| 大学 | 放電物理・大気電気学 | エネルギーが熱と衝撃波に変わる話 |
| 研究 | 大気電気学の未解決問題 | 放電の始まりと、雲の中の電気の分かれ方 |
| ― | 生活とのつながり | 音が聞こえた時点で避難する判断、家電のワット数の読み方 |
- 気象庁「雷を伴う激しい現象について」
- 気象庁「過去の気象データ検索」
- 日本大気電気学会 編『大気電気学概論』(雷放電の電流波形と、放出エネルギーの見積もりについて)
- ウーマン, M. A.『The Lightning Discharge』(放電の進み方とエネルギーの配分を扱う標準的な教科書)
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算であり、落雷1回ごとに大きくばらつきます。雷への備えについては、気象庁の発表と、消防・自治体等の指示に従ってください。