日常のふしぎ 地球科学 予備知識なしでOK 読了 約6分

地質学者は、なぜ石をなめるの?
― 濡らすと、石の表面の「白いもや」が消えます

野外で岩を調べる人は、割った石をぺろりとなめたり、水筒の水をかけたりします。行儀が悪いからではありません。乾いた石の表面には、細かなでこぼこが返す白い光が「もや」のようにかかっています。濡らすとそのもやが消え、鉱物の本当の色と粒の形が浮かび上がるのです。

公開:2026.10.17 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

川原で、赤や緑のしま模様が入ったきれいな石を見つけました。水の中で光っていたものです。

ポケットに入れて持ち帰り、翌日机の上で見てみると、白っぽくくすんだ、ただの地味な石になっています。

石の色が抜けたわけではありません。もう一度水につけると、模様はちゃんと戻ってきます。地質学者が石をなめるのは、この「水につけた状態」をその場で作るためです。

濡らすと見えるようになる理由は、2つだけ

1
でこぼこが返す白い光が消える

乾いた石の表面は、細かな傷や粉でざらざらです。その一つ一つが光を少しずつ、あちこちの向きへはね返します。これが色の上にかかる白いもやになります。水はでこぼこを埋めて、表面を平らにします。

2
光が石の中まで入りやすくなる

光は、空気から石に入るときより、水から石に入るときのほうが、表面ではね返りにくくなります。はね返らずに中へ入った光は、鉱物の色をまとって戻ってきます。だから色が濃く、くっきり見えます。

どちらも「石の表面で、光がどれだけはね返るか」の話です。まず1つ目から見ていきます。

乾いた石には、白いもやがかかっている

割ったばかりの石や、風雨にさらされた石の表面は、拡大すると細かな凹凸だらけです。粉のような小さなかけらも付いています。光がこうした面に当たると、ごく一部がはね返ります。一つ一つの面は向きがばらばらなので、はね返った光はあらゆる方向へ散ります。

はね返る光は、鉱物の中を通っていないので、色がついていません。つまり、どの方向から見ても、石の色の上に白い光が薄く重なって見えます。これが「くすみ」の正体です。曇りガラスが白っぽく見えるのと同じしくみです。

図1の左を見てください。乾いた面では、白い矢印があちこちを向いています。右のように水の膜が凹凸を埋めると、表面は鏡のように平らになります。はね返る光は一つの向きにそろい、その向きから見たときだけ「てかり」になります。それ以外の向きからは、もやのない石の中が見えます。

乾いた石 濡れた石 白い光が四方へ散る=もや ぎざぎざの面が、ばらばらの向きに光を返す 返る光は一方向だけ 平らな水の膜 点線の光は奥まで入り、色をまとって戻る
図1:石の表面の断面(模式図)。左の乾いた石では、ぎざぎざの面が光を白い矢印のようにあちこちへ返し、色の上にもやがかかります。右の濡れた石では、水の膜がぎざぎざを埋めて上面が平らになり、はね返る光は一方向にそろいます。残りの光は点線の矢印のように石の奥まで入ります。

水につけると、表面ではね返る光が8分の1になる

2つ目の理由は、光が「性質の違う物質の境目」ではね返るしくみにあります。光の進みにくさを表す数を屈折率といいます。境目の両側で屈折率の差が大きいほど、光はよくはね返ります。

空気の屈折率は1.00、石に多い石英という鉱物は約1.54です。差が大きいので、境目に当たった光のうち約4.5%がはね返ります。ところが水の屈折率は1.33で、石英との差はぐっと小さくなります。水と石英の境目では、はね返るのは約0.5%にすぎません。8分の1ほどです。

はね返らなかった光は、粒の奥まで入り込みます。そして鉱物に一部の色を吸われ、残りの色をまとって外へ戻ってきます。だから濡れた石は、色が濃く、暗く、鮮やかに見えます。粒と粒の境目も、光が素通りしやすくなるので、くっきり分かれて見えます。

図2のつまみで、石の表面を覆う液体の屈折率を変えてみてください。空気から水、油へと石英に近づくほど、はね返る光が減って、もやが晴れていきます。

石の表面の見え方 白いもやの濃さ=はね返る光の量(模式) 鉱物の表面ではね返る光 5% 0% 空気 4.5% 水 0.5% 油 0.05% 4.52% 石英(屈折率1.54)の場合
1.00が空気(乾いた石)、1.33が水、1.47前後が油です
図2:左は花こう岩のような石の表面(模式)、右の棒は石英の表面ではね返る光の割合です。点線は、空気・水・油で覆ったときの値の目安です。つまみで覆うものの屈折率を石英に近づけると、右の棒が縮み、左の白いもやが晴れて粒の色が見えてきます。
💡 宝石商や石屋さんも、同じことをしています

墓石や石の床は、表面をつるつるに磨き上げてあります。磨くことは、水でぬらすことと同じく「でこぼこをなくす」作業です。宝石の鑑定では、石に近い屈折率の液体に沈めて、内部の傷や模様を見ることがあります。屈折率がそろうと境目の反射がほぼ消え、外形が見えなくなるほどです。

💡 なめて分かるのは、色だけではありません

化石を探す人のあいだでは、骨の化石は細かな穴が多いので、舌が吸いつくように感じると言われます。ただし鉱物の中には、体に害のある成分を含むものもあります。知らない石は、なめずに水をかけて見るのが安心です。

まとめ

乾いた石がくすんで見えるのは、色が抜けたからではなく、表面のでこぼこが返す白い光が上に重なるからです。濡らすと水がでこぼこを埋め、しかも石との境目で光がはね返りにくくなります。光は粒の奥まで入り、鉱物の色を連れて戻ってきます。地質学者の「ひとなめ」は、その場でできるいちばん手軽な観察道具なのです。

石の色は、乾くと消えるのではなく、白い光に隠されるだけ。
水は、そのもやを晴らすレンズの役をしています。

川原の石がなぜ丸いのかは「川の石は、なぜ丸いの?」で、白い紙が暗い部屋でも白く見えるしくみは「白い紙は、なぜ薄暗い部屋でも白く見えるの?」で解説しています。

🧪 コップの水で「石の色」を取り戻してみよう
  1. 庭や公園の、白っぽくくすんだ小石を2つ拾います。1つはそのまま、もう1つを水の入ったコップに沈めます。
  2. 2つを並べて見比べます。水の中の石は、色が濃く、粒や模様がはっきり見えるはずです。
  3. 水から出してしばらく置き、乾いていくようすを見ます。ふちの細かいところから、白っぽさが戻ってくるのが分かります。

余裕があれば、サラダ油を1滴たらした石とも比べてみてください。油は水より石英に近い屈折率なので、さらに色がくっきり見えることがあります。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「物理」「地学」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(光学・岩石学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:石英の表面ではね返る光は、乾いたときと濡れたときで何倍ちがう?

光が境目にまっすぐ当たるときに、はね返る割合を計算します。

⓪ もとになる式
記号で書くとR = ( (n₂ − n₁) ÷ (n₂ + n₁) )²
言葉で書くとはね返る割合 =(屈折率の差 ÷ 屈折率の和)の2乗
どこから来る式か光を電磁波として扱い、境目の両側で電場と磁場がつながる条件から導かれる「フレネルの式」の、まっすぐ当たる場合です。

記号の意味:R は反射率(はね返る光の割合、単位なし)、n₁ は光が来る側(空気や水)の屈折率、n₂ は石英の屈折率です。

① もとになる数値
空気の屈折率1.00
水の屈折率1.33
石英の屈折率(およそ)1.54
② 計算してみる
乾いた石:屈折率の差1.54 − 1.00 = 0.54
乾いた石:屈折率の和1.54 + 1.00 = 2.54
差 ÷ 和0.54 ÷ 2.54 ≒ 0.213
2乗して反射率0.213 × 0.213 ≒ 0.045
濡れた石:屈折率の差1.54 − 1.33 = 0.21
濡れた石:屈折率の和1.54 + 1.33 = 2.87
差 ÷ 和0.21 ÷ 2.87 ≒ 0.073
2乗して反射率0.073 × 0.073 ≒ 0.0053
乾いた石は濡れた石の何倍か0.045 ÷ 0.0053 ≒ 8.5

乾いた石英の表面は約4.5%、濡れた表面は約0.5%の光を返します。一つの面では小さな差ですが、乾いた石では無数の傷や粉の面がこの4.5%をそれぞれ返すので、合わさって白いもやになります。濡らすとそれが一つの平らな水面にまとまり、しかも石との境目の反射は8分の1ほどに減るのです。

高校高校+反射と屈折のつながり

高校高校物理では、光が境目で曲がる向きを屈折の法則(スネルの法則)で学びます。曲がり方を決める屈折率の比が、そのまま「どれだけはね返るか」も決めています。差がなければ、光は曲がりもはね返りもせず素通りします。

高校+水そのものの表面(空気と水の境目)でも約2%の光がはね返ります。ただし濡れた石では水面が平らなので、この反射は一つの向きにしか行きません。その向きを避けて見れば、もやのない石の中が見えます。偏光サングラスをかけると、この水面のてかりもかなり消せます。

大学粒の集まりで光が迷う「多重散乱」

砂や岩石のように粒が集まった物質では、光は粒の境目で何度もはね返りながら進みます。これを多重散乱といいます。粒のすき間が空気だと、境目ごとの反射が大きく、光はすぐ外へ追い返されて白っぽく見えます。すき間が水で満たされると、境目の反射が弱まって光は奥まで進みます。そのぶん鉱物に吸収される機会が増え、全体が暗く鮮やかになります。この説明は、レクナーとドーフの1988年の論文「濡れると暗くなるものがあるのはなぜか」で定量的に示されました。屈折率と反射の関係は、偏光ごとに分けたフレネルの式で表されます。

📖 式の導出や、さらに先の内容:フレネルの式(ウィキペディア) / Lekner & Dorf (1988) Why some things are darker when wet

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。表面で返る光の割合は確かな式で決まりますが、粒の集まり全体の見え方は、まだ研究が続いています。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科1年「光の反射・屈折」「火成岩のつくり」乱反射の白いもや、花こう岩の粒
高校物理「光の屈折」、地学「岩石と鉱物」屈折率の差と反射の関係
高校+物理(発展)「偏光」水面のてかりと偏光サングラス
大学光学(フレネルの式)、岩石学多重散乱と濡れた物質の暗さ
研究リモートセンシング、惑星地質学土の水分推定、火星の岩の観察
―生活とのつながり川原の石、墓石の磨き、雨の日に濃く見える道路

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。屈折率は鉱物の種類や光の色で少しずつ変わります。野外で石を調べるときは、立入りの許可や足もとの安全に気をつけてください。