ろうそくの炎は、なぜ上に向かって伸びるの?
― 下向きに燃える炎がないのは、炎が「軽いガス」だからです
ろうそくを少し傾けても、マッチを下に向けても、炎の先はいつも空のほうを向きます。炎は、燃えている「物」ではありません。光るほど熱くなったガスが、空気の中を浮かび上がっていく、その通り道です。だから重さのない宇宙では、炎は上も下もない丸い形になります。
誕生日のケーキに、ろうそくが何本も立っています。ななめに刺さってしまった1本も、炎だけはまっすぐ上を向いています。
子どもが聞きます。「どうして火は、いつも上に行くの? 下に燃えたっていいのに」。
大人は「火は上に行くものだから」と答えてしまいがちです。でも本当は、ちゃんとした理由があります。そして、その理由を知ると、宇宙ではどうなるかまで言い当てられます。
炎が上を向く理由は、2つだけ
炎の正体は、燃えて光っている熱いガスです。ガスは熱くなるほどふくらみ、同じ大きさでは軽くなります。ろうそくの炎のガスは、まわりの空気の5分の1ほどの重さしかありません。
軽いガスは、まわりの重い空気に下から押し上げられます。上へのぼったあとには、横と下から新しい空気が流れこみます。この流れが、炎を上に細長く引きのばします。
つまり炎は、自分の力で上に行くのではありません。まわりの空気のほうが重いので、下にもぐりこんで炎を持ち上げているのです。順番に見ていきましょう。
熱いガスは、なぜ軽いの?
ろうそくの芯の近くでは、とけたろうが気体になり、空気中の酸素と結びついて燃えます。そのとき出る熱で、まわりのガスは1000℃をこえる温度になります。いちばん熱いところは、およそ1400℃とされています。
ガスの粒は、熱くなるほど激しく飛びまわり、おたがいの間をおしひろげます。同じ量のガスがふくらんで、広い場所を占めるようになります。そのため、同じ1リットルの入れ物に入っている分で比べると、熱いガスのほうがずっと軽くなります。
図1を見てください。左の箱は、ふつうの部屋の空気です。真ん中の箱は、同じ大きさの熱いガスです。つまみで温度を上げると、真ん中の箱の中身がどんどん軽くなり、右端の上向きの矢印が長くなります。
1400℃では、熱いガスの重さは空気の0.18倍しかありません。水の中に浮かべたコルク栓のようなものです。コルクが水に押し上げられるように、軽いガスはまわりの重い空気に押し上げられます。
この押し上げる力は、重力の8割ほどの強さになります。物が下に落ちるのと同じくらいの勢いで、炎のガスは上へ「落ちて」いく、と言ってもよいほどです。
まわりの空気が、炎の形をつくっている
熱いガスが上へ抜けると、そのあとには何もない空間が残るわけではありません。横や下から、まわりの空気がすぐに流れこみます。流れこんだ空気には、新しい酸素がふくまれています。
この新しい空気が、ろうの気体と混ざって燃えます。燃えて熱くなったガスは、また上へ抜けます。下から入って上へ出る、という流れが休みなく続きます。その流れに乗って光るガスが伸びるので、炎は下がふくらみ、上がとがった「しずく形」になります。
図2の左側を見てください。矢印のように、空気は炎の根もとへ横から入り、先端から上へ出ていきます。炎の形は、この空気の通り道をそのまま見ているのです。
では、重さのない場所ではどうなるでしょう。宇宙ステーションの中では、熱いガスも冷たい空気も、どちらも浮いています。軽いガスを押し上げる「重いもの」が下にありません。
すると、上へ抜ける流れが生まれません。炎は芯のまわりにとどまり、丸い形になります。新しい酸素は、まわりからゆっくりしみこんでくるだけです。燃え方がおだやかになるため、炎は小さく、青く、暗くなると報告されています。炎が「上を向く」のは、地球の重さがあってこその姿なのです。
マッチを下に向けると、炎は上に向かうので、まだ燃えていない軸を下から包みこみます。軸が先にあたためられ、火が手もとへ速く進みます。逆にまっすぐ上に向けると、炎は軸から離れていき、消えやすくなります。マッチを少しだけ下に傾けて持つのは、この両方のちょうどよいところをねらった持ち方です。
上へ抜ける熱いガスは、まわりの空気とこすれ合い、小さな渦を作ります。この渦が次々にはがれていくので、炎の先は細かく揺れます。小さな炎では、1秒に10回ほどのリズムでちらつくことが知られているとされています。風のない部屋でも炎が完全には止まらないのは、このためです。
まとめ
炎は、燃えて光っている熱いガスです。熱いガスはふくらんで、まわりの空気よりずっと軽くなります。重い空気が下にもぐりこんで軽いガスを押し上げるので、炎は上へ伸びます。下から入って上へ抜ける空気の流れが、炎をしずく形にしています。重さのない宇宙では、この流れが生まれず、炎は丸くなります。
炎が上を向くのは、火が上に行きたいからではない。
まわりの空気のほうが重くて、下にもぐりこむからだ。
ろうそくの炎のどこが燃えているのかは「ろうそくは、芯が燃えているの?」で、炎の横にいても熱くなる「光の熱」のことは「たき火にあたると、なぜ顔だけ熱いの?」で解説しています。重さのない宇宙ステーションのしくみは「宇宙ステーションで体が浮くのは、重力がないから?」もどうぞ。
- お線香に火をつけて、風のない部屋で立てます。煙がまっすぐ上へのぼり、しばらくすると揺れはじめるのを見てみましょう。熱いガスが上へ抜けていく道が、煙で目に見えます。
- ろうそくに火をつけ、手のひらを炎の横20cmと、炎の真上40cmにかざして比べます。真上のほうが、遠いのに温かく感じるはずです。熱いガスが上へ運ばれているからです。顔や髪を炎に近づけないでください。
- ろうそくを立てた皿をゆっくり傾けてみます。ろうそくがななめになっても、炎の先は上を向いたままであることを確かめましょう。
火を使うときは、燃えやすい物を近くに置かず、水を入れたコップを用意してから始めましょう。終わったら、火が消えたことを必ず確かめてください。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理」「化学」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(流体力学・燃焼工学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 対流:あたためられて軽くなった気体や液体が上へ動き、かわりに冷たく重いものが下へ入りこむ流れ。炎のまわりの空気の動きは、この対流です。
- 浮力:まわりの気体や液体から、物が上向きに押される力。まわりより軽い物ほど、強く押し上げられます。
- 燃焼:物が酸素と結びついて、熱と光を出す変化。ろうそくでは、気体になったろうが燃えています。
中学高校式で確かめる:炎のガスは、どれくらいの速さで上へのぼる?
熱いガスが受ける浮き上がる加速度を求め、炎の長さだけ進んだときの速さを見積もります。図1のつまみと同じ式を使います。
| 記号で書くと | a = g × (1 − T0 ÷ T)、 v = √( 2 × a × L ) |
| 言葉で書くと | 浮き上がる加速度 = 重力加速度 ×(1 − まわりの温度 ÷ ガスの温度)。のぼる速さ = 2 × 浮き上がる加速度 × 炎の長さ、の平方根 |
| どこから来る式か | ガスの重さ(密度)は絶対温度に反比例する(シャルルの法則)。まわりの空気から受ける浮力と、ガス自身の重さの差が、上向きの力になる。その力で加速したときの速さは、落下の速さと同じ形の式で表される |
| 記号 | 意味と単位 |
|---|---|
| a | 熱いガスが受ける、上向きの加速度(m/s²) |
| g | 重力加速度(9.8 m/s²) |
| T0 | まわりの空気の絶対温度(K、℃に273を足した値) |
| T | 炎の中のガスの絶対温度(K) |
| L | 炎の長さ(m) |
| v | 炎の先でのガスののぼる速さ(m/s) |
| まわりの空気(20℃)の絶対温度 | 293 K |
| ろうそくの炎のいちばん熱いところ(約1400℃) | 1673 K とされる |
| 重力加速度 | 9.8 m/s² |
| ろうそくの炎の長さ | およそ 3 cm(0.03 m) |
| 20℃の空気1リットルの重さ | およそ 1.2 g |
| 熱いガスは空気の何倍の重さか | 293 ÷ 1673 ≒ 0.175 |
| 熱いガス1リットルの重さ | 1.2 × 0.175 = 0.21 g |
| 浮き上がる割合 | 1 − 0.175 = 0.825 |
| 浮き上がる加速度 | 9.8 × 0.825 ≒ 8.09 m/s² |
| 2 × 加速度 | 2 × 8.09 = 16.18 |
| さらに炎の長さをかける | 16.18 × 0.03 ≒ 0.485 |
| その平方根(のぼる速さ) | 0.485 の平方根は およそ 0.70 m/s とされる |
| 時速に直す | 0.70 × 3.6 = 2.52 km/h |
炎の先では、ガスが秒速70cmほど、ゆっくり歩くくらいの速さで上へ抜けている、という見積もりになります。実際には、まわりの空気とこすれる抵抗があるので、これより少し遅くなると考えられます。それでも、炎の大きさにくらべるとかなりの勢いです。この流れが、炎を上へ引きのばしています。
高校高校+気体の状態方程式と、上へ「落ちる」ガス
高校圧力が同じなら、気体の体積は絶対温度に比例します(シャルルの法則)。理想気体の状態方程式から、密度は絶対温度に反比例すると言いかえられます。燃焼でできる二酸化炭素や水蒸気は空気と重さが少しちがいますが、この記事の見積もりでは無視しています。
高校+浮力の大きさは「押しのけた空気の重さ」に等しい(アルキメデスの原理)。熱いガスの重さとの差が上向きの力になり、ガスの重さでわると加速度が求まります。上の式では、まわりの空気との密度差を空気の密度でわった形にしてあります。差が小さい場合によく使う「ブシネスク近似」と同じ考え方です。
大学自然対流と拡散火炎
ろうそくのように、燃料と酸素が燃える場所で初めて混ざる炎を「拡散火炎」と呼びます。拡散火炎の形は、燃料と酸素がどれだけ速く運ばれるかで決まります。地上では浮力による自然対流が酸素を運ぶため、炎は上へ伸びます。浮力が粘性に比べてどれだけ強いかは「グラスホフ数」という無次元量で表され、炎の長さや揺れ方の整理に使われます。重さのない環境では対流がなくなり、酸素は分子の拡散だけで運ばれます。その結果、炎は球形になり、温度が下がってすすができにくくなり、青く暗い炎になります。
📖 式の導出や、さらに先の内容:グラスホフ数(ウィキペディア) / 浮力(ウィキペディア)
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 宇宙での炎の消え方。 国際宇宙ステーションの実験では、燃料のしずくの炎が、目に見える炎が消えたあとも低い温度で燃え続ける「冷たい炎」が観察されたと報告されています。そのしくみは、まだ調べられている最中です。
- 炎のちらつきのリズム。 炎の先が1秒に10回ほど揺れるリズムは、炎の大きさや重力の強さでどう変わるのかが調べられています。複数の炎を並べると、揺れがそろったり交互になったりすることも報告されています。
- 重さのない場所での燃え広がり方。 宇宙船の中で物がどう燃え広がるかは、地上の実験だけでは確かめきれません。無人の補給船の中で、大きな布を燃やす実験も行われています。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。炎が上を向く理由は確かですが、炎の細かなふるまいには、まだ解かれていない問いが残っています。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科:燃焼、空気のあたたまり方(対流) | 炎の正体、熱いガスが上へのぼること |
| 高校 | 物理:気体の法則、浮力 | 図1、式で確かめる |
| 高校+ | 物理:アルキメデスの原理、ブシネスク近似 | 密度差から加速度を出す考え方 |
| 大学 | 流体力学・燃焼工学:自然対流、拡散火炎、グラスホフ数 | 図2、炎の形と重力の関係 |
| 研究 | 微小重力燃焼 | 宇宙ステーションでの炎の実験 |
| ― | 生活とのつながり | マッチの持ち方、ろうそくの真上に手や物を置かないこと |
- ファラデー『ロウソクの科学』(竹内敬人訳、岩波文庫)
- Law, C. K. "Combustion Physics", Cambridge University Press, 2006.
- Ross, H. D. (ed.) "Microgravity Combustion: Fire in Free Fall", Academic Press, 2001.
- シャルルの法則(ウィキペディア)
- グラスホフ数(ウィキペディア)
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。炎の温度や長さは、ろうそくの種類や置き場所によって変わります。火を使う観察は、必ず大人の立ち会いのもとで行ってください。