日常のふしぎ 熱 予備知識なしでOK 読了 約7分

ろうそくの炎は、なぜ上に向かって伸びるの?
― 下向きに燃える炎がないのは、炎が「軽いガス」だからです

ろうそくを少し傾けても、マッチを下に向けても、炎の先はいつも空のほうを向きます。炎は、燃えている「物」ではありません。光るほど熱くなったガスが、空気の中を浮かび上がっていく、その通り道です。だから重さのない宇宙では、炎は上も下もない丸い形になります。

公開:2026.10.17 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

誕生日のケーキに、ろうそくが何本も立っています。ななめに刺さってしまった1本も、炎だけはまっすぐ上を向いています。

子どもが聞きます。「どうして火は、いつも上に行くの? 下に燃えたっていいのに」。

大人は「火は上に行くものだから」と答えてしまいがちです。でも本当は、ちゃんとした理由があります。そして、その理由を知ると、宇宙ではどうなるかまで言い当てられます。

炎が上を向く理由は、2つだけ

1
炎は、とても軽い「熱いガス」

炎の正体は、燃えて光っている熱いガスです。ガスは熱くなるほどふくらみ、同じ大きさでは軽くなります。ろうそくの炎のガスは、まわりの空気の5分の1ほどの重さしかありません。

2
まわりの重い空気が、下にもぐりこむ

軽いガスは、まわりの重い空気に下から押し上げられます。上へのぼったあとには、横と下から新しい空気が流れこみます。この流れが、炎を上に細長く引きのばします。

つまり炎は、自分の力で上に行くのではありません。まわりの空気のほうが重いので、下にもぐりこんで炎を持ち上げているのです。順番に見ていきましょう。

熱いガスは、なぜ軽いの?

ろうそくの芯の近くでは、とけたろうが気体になり、空気中の酸素と結びついて燃えます。そのとき出る熱で、まわりのガスは1000℃をこえる温度になります。いちばん熱いところは、およそ1400℃とされています。

ガスの粒は、熱くなるほど激しく飛びまわり、おたがいの間をおしひろげます。同じ量のガスがふくらんで、広い場所を占めるようになります。そのため、同じ1リットルの入れ物に入っている分で比べると、熱いガスのほうがずっと軽くなります。

図1を見てください。左の箱は、ふつうの部屋の空気です。真ん中の箱は、同じ大きさの熱いガスです。つまみで温度を上げると、真ん中の箱の中身がどんどん軽くなり、右端の上向きの矢印が長くなります。

まわりの空気(20℃) 1リットル 重さ 1.20 g 炎の中の熱いガス 同じ1リットル 重さ 0.21 g 空気の 0.18 倍 浮き上がる力 重力と同じ強さ 重力の 0.82 倍
つまみを動かすと、熱いガスの重さと、浮き上がる力の強さが変わります
図1:同じ1リットルで比べた、部屋の空気(左の箱)と炎の中の熱いガス(中央の箱)の重さ。箱の中の帯の高さが重さを表します。右端の上向きの矢印は、熱いガスが受ける浮き上がる力で、上の点線まで届くと重力と同じ強さです。つまみで温度を上げると、中央の帯が低くなり、矢印が長くなることが分かります。

1400℃では、熱いガスの重さは空気の0.18倍しかありません。水の中に浮かべたコルク栓のようなものです。コルクが水に押し上げられるように、軽いガスはまわりの重い空気に押し上げられます。

この押し上げる力は、重力の8割ほどの強さになります。物が下に落ちるのと同じくらいの勢いで、炎のガスは上へ「落ちて」いく、と言ってもよいほどです。

まわりの空気が、炎の形をつくっている

熱いガスが上へ抜けると、そのあとには何もない空間が残るわけではありません。横や下から、まわりの空気がすぐに流れこみます。流れこんだ空気には、新しい酸素がふくまれています。

この新しい空気が、ろうの気体と混ざって燃えます。燃えて熱くなったガスは、また上へ抜けます。下から入って上へ出る、という流れが休みなく続きます。その流れに乗って光るガスが伸びるので、炎は下がふくらみ、上がとがった「しずく形」になります。

図2の左側を見てください。矢印のように、空気は炎の根もとへ横から入り、先端から上へ出ていきます。炎の形は、この空気の通り道をそのまま見ているのです。

地上(重さがある) 宇宙ステーション(重さがない) 新しい空気が 横から入る 熱いガスが上へ抜ける しずく形の炎 酸素は ゆっくり しみこむだけ 丸くて青い、暗い炎
図2:地上と宇宙での、ろうそくの炎のちがい。左の地上では、根もとの両側から入る矢印のように新しい空気が流れこみ、先端の上向きの矢印のように熱いガスが抜けるので、炎はしずく形になります。右の宇宙ステーションでは、軽いガスを押し上げる重さがないため流れが起きず、点線の短い矢印のように酸素がゆっくりしみこむだけで、炎は丸く暗くなります。

では、重さのない場所ではどうなるでしょう。宇宙ステーションの中では、熱いガスも冷たい空気も、どちらも浮いています。軽いガスを押し上げる「重いもの」が下にありません。

すると、上へ抜ける流れが生まれません。炎は芯のまわりにとどまり、丸い形になります。新しい酸素は、まわりからゆっくりしみこんでくるだけです。燃え方がおだやかになるため、炎は小さく、青く、暗くなると報告されています。炎が「上を向く」のは、地球の重さがあってこその姿なのです。

💡 マッチを下に向けると、火が速く進むのはなぜ?

マッチを下に向けると、炎は上に向かうので、まだ燃えていない軸を下から包みこみます。軸が先にあたためられ、火が手もとへ速く進みます。逆にまっすぐ上に向けると、炎は軸から離れていき、消えやすくなります。マッチを少しだけ下に傾けて持つのは、この両方のちょうどよいところをねらった持ち方です。

💡 炎の先が、ゆらゆら揺れるのはなぜ?

上へ抜ける熱いガスは、まわりの空気とこすれ合い、小さな渦を作ります。この渦が次々にはがれていくので、炎の先は細かく揺れます。小さな炎では、1秒に10回ほどのリズムでちらつくことが知られているとされています。風のない部屋でも炎が完全には止まらないのは、このためです。

まとめ

炎は、燃えて光っている熱いガスです。熱いガスはふくらんで、まわりの空気よりずっと軽くなります。重い空気が下にもぐりこんで軽いガスを押し上げるので、炎は上へ伸びます。下から入って上へ抜ける空気の流れが、炎をしずく形にしています。重さのない宇宙では、この流れが生まれず、炎は丸くなります。

炎が上を向くのは、火が上に行きたいからではない。
まわりの空気のほうが重くて、下にもぐりこむからだ。

ろうそくの炎のどこが燃えているのかは「ろうそくは、芯が燃えているの?」で、炎の横にいても熱くなる「光の熱」のことは「たき火にあたると、なぜ顔だけ熱いの?」で解説しています。重さのない宇宙ステーションのしくみは「宇宙ステーションで体が浮くのは、重力がないから?」もどうぞ。

🧪 自分で確かめてみよう(必ず大人といっしょに)
  1. お線香に火をつけて、風のない部屋で立てます。煙がまっすぐ上へのぼり、しばらくすると揺れはじめるのを見てみましょう。熱いガスが上へ抜けていく道が、煙で目に見えます。
  2. ろうそくに火をつけ、手のひらを炎の横20cmと、炎の真上40cmにかざして比べます。真上のほうが、遠いのに温かく感じるはずです。熱いガスが上へ運ばれているからです。顔や髪を炎に近づけないでください。
  3. ろうそくを立てた皿をゆっくり傾けてみます。ろうそくがななめになっても、炎の先は上を向いたままであることを確かめましょう。

火を使うときは、燃えやすい物を近くに置かず、水を入れたコップを用意してから始めましょう。終わったら、火が消えたことを必ず確かめてください。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「物理」「化学」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(流体力学・燃焼工学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:炎のガスは、どれくらいの速さで上へのぼる?

熱いガスが受ける浮き上がる加速度を求め、炎の長さだけ進んだときの速さを見積もります。図1のつまみと同じ式を使います。

⓪ もとになる式
記号で書くとa = g × (1 − T0 ÷ T)、 v = √( 2 × a × L )
言葉で書くと浮き上がる加速度 = 重力加速度 ×(1 − まわりの温度 ÷ ガスの温度)。のぼる速さ = 2 × 浮き上がる加速度 × 炎の長さ、の平方根
どこから来る式かガスの重さ(密度)は絶対温度に反比例する(シャルルの法則)。まわりの空気から受ける浮力と、ガス自身の重さの差が、上向きの力になる。その力で加速したときの速さは、落下の速さと同じ形の式で表される
記号意味と単位
a熱いガスが受ける、上向きの加速度(m/s²)
g重力加速度(9.8 m/s²)
T0まわりの空気の絶対温度(K、℃に273を足した値)
T炎の中のガスの絶対温度(K)
L炎の長さ(m)
v炎の先でのガスののぼる速さ(m/s)
① もとになる数値
まわりの空気(20℃)の絶対温度293 K
ろうそくの炎のいちばん熱いところ(約1400℃)1673 K とされる
重力加速度9.8 m/s²
ろうそくの炎の長さおよそ 3 cm(0.03 m)
20℃の空気1リットルの重さおよそ 1.2 g
② 計算してみる
熱いガスは空気の何倍の重さか293 ÷ 1673 ≒ 0.175
熱いガス1リットルの重さ1.2 × 0.175 = 0.21 g
浮き上がる割合1 − 0.175 = 0.825
浮き上がる加速度9.8 × 0.825 ≒ 8.09 m/s²
2 × 加速度2 × 8.09 = 16.18
さらに炎の長さをかける16.18 × 0.03 ≒ 0.485
その平方根(のぼる速さ)0.485 の平方根は およそ 0.70 m/s とされる
時速に直す0.70 × 3.6 = 2.52 km/h

炎の先では、ガスが秒速70cmほど、ゆっくり歩くくらいの速さで上へ抜けている、という見積もりになります。実際には、まわりの空気とこすれる抵抗があるので、これより少し遅くなると考えられます。それでも、炎の大きさにくらべるとかなりの勢いです。この流れが、炎を上へ引きのばしています。

高校高校+気体の状態方程式と、上へ「落ちる」ガス

高校圧力が同じなら、気体の体積は絶対温度に比例します(シャルルの法則)。理想気体の状態方程式から、密度は絶対温度に反比例すると言いかえられます。燃焼でできる二酸化炭素や水蒸気は空気と重さが少しちがいますが、この記事の見積もりでは無視しています。

高校+浮力の大きさは「押しのけた空気の重さ」に等しい(アルキメデスの原理)。熱いガスの重さとの差が上向きの力になり、ガスの重さでわると加速度が求まります。上の式では、まわりの空気との密度差を空気の密度でわった形にしてあります。差が小さい場合によく使う「ブシネスク近似」と同じ考え方です。

大学自然対流と拡散火炎

ろうそくのように、燃料と酸素が燃える場所で初めて混ざる炎を「拡散火炎」と呼びます。拡散火炎の形は、燃料と酸素がどれだけ速く運ばれるかで決まります。地上では浮力による自然対流が酸素を運ぶため、炎は上へ伸びます。浮力が粘性に比べてどれだけ強いかは「グラスホフ数」という無次元量で表され、炎の長さや揺れ方の整理に使われます。重さのない環境では対流がなくなり、酸素は分子の拡散だけで運ばれます。その結果、炎は球形になり、温度が下がってすすができにくくなり、青く暗い炎になります。

📖 式の導出や、さらに先の内容:グラスホフ数(ウィキペディア) / 浮力(ウィキペディア)

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。炎が上を向く理由は確かですが、炎の細かなふるまいには、まだ解かれていない問いが残っています。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科:燃焼、空気のあたたまり方(対流)炎の正体、熱いガスが上へのぼること
高校物理:気体の法則、浮力図1、式で確かめる
高校+物理:アルキメデスの原理、ブシネスク近似密度差から加速度を出す考え方
大学流体力学・燃焼工学:自然対流、拡散火炎、グラスホフ数図2、炎の形と重力の関係
研究微小重力燃焼宇宙ステーションでの炎の実験
―生活とのつながりマッチの持ち方、ろうそくの真上に手や物を置かないこと
参考・出典
  1. ファラデー『ロウソクの科学』(竹内敬人訳、岩波文庫)
  2. Law, C. K. "Combustion Physics", Cambridge University Press, 2006.
  3. Ross, H. D. (ed.) "Microgravity Combustion: Fire in Free Fall", Academic Press, 2001.
  4. シャルルの法則(ウィキペディア)
  5. グラスホフ数(ウィキペディア)

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。炎の温度や長さは、ろうそくの種類や置き場所によって変わります。火を使う観察は、必ず大人の立ち会いのもとで行ってください。