霧の中に、白い虹が出るのはなぜ?
― 粒が小さすぎると、7色が重なり合って白くなります
秋の朝、霧の向こうに、色のない大きな弧がぼんやりと浮かぶことがあります。「白虹(はっこう)」とも呼ばれる霧虹です。しくみは、ふつうの虹とほとんど同じです。ちがうのは水の粒の大きさだけ。粒が小さくなりすぎると、光は「波」としての性質を見せはじめ、7色が混ざってしまいます。
よく晴れた秋の朝。川ぞいの道や盆地の町が、白い霧にすっぽり包まれています。
やがて背中のほうから朝日が差しこみ、霧が少し薄くなってきました。ふと前を見ると、霧の中に、虹と同じ形の大きな弧がかかっています。
けれど、その弧には色がほとんどありません。ミルクを流したような、白い虹です。雨も降っていないのに、なぜ虹が出るのでしょう。そして、なぜ白いのでしょう。
白い虹になる理由は、2つだけ
霧の粒は、雨粒の50分の1ほどの大きさです。これほど小さい粒を通った光は、まっすぐ進まずに少し横へ広がります。そのため、虹の色の帯が太くぼやけます。
虹の赤と紫は、もともと角度で2度ほどしか離れていません。帯が太くなると、となりの色どうしが重なり合います。光の色は、全部が重なると白になります。
つまり霧虹は、「虹のなりそこない」ではありません。水の粒が光を送り返すしくみは同じで、粒が小さいせいで色が混ざってしまった虹です。順に見ていきましょう。
霧の粒は、雨粒よりずっと小さい
ふつうの虹は、雨粒の中で光が折れ曲がり、奥ではね返って、もう一度折れ曲がって出てくることで生まれます。このとき、色によって曲がり方がわずかにちがいます。そのため、太陽と反対側の空に、外側が赤、内側が紫という順で色が並びます。
雨粒の直径は、1ミリ前後のものが多いとされています。いっぽう霧の粒は、0.01〜0.02ミリほどとされています。直径でくらべると、50分の1から100分の1です。
ここで、光のもうひとつの顔が出てきます。光は波です。波は、自分の「波の長さ」に近い大きさのすき間や粒に出会うと、その後ろで横へ回りこむように広がります。これを回折といいます。
目に見える光の波の長さは、およそ1000分の0.5ミリです。雨粒はその2000倍も大きいので、広がりはほとんど目立ちません。ところが霧の粒は、波の長さの数十倍しかありません。こうなると、粒から出てくる光は目に見えるほど広がります。図1のつまみで、粒の大きさを変えてみてください。
色の帯が太くなると、なぜ白くなるの?
ふつうの虹では、影の頭から見て赤は約42度、紫は約40度の方向に出ます。7色ぜんぶが、わずか2度ほどの幅に並んでいるわけです。2度は、腕をのばしたときの指1本ぶんくらいの幅です。
霧の粒では、それぞれの色の帯が、片側に1.5度以上も広がるとされています。帯の太さが、色と色の間隔より何倍も大きくなります。すると、ある場所には赤・黄・緑・青の光が同時に届き、目には混ざった色として映ります。
光の色は、絵の具とちがって、重ねるほど明るく白に近づきます。テレビの画面が赤・緑・青の小さな点だけで白を出しているのと同じです。こうして、弧の中ほどは白くなります。ただし、いちばん外側には赤だけが、いちばん内側には紫や青だけが届く場所が残ります。そのため霧虹は、よく見ると外のふちがほんのり赤く、内のふちがほんのり青く見えることがあります。
また、霧虹はふつうの虹より太く、少しだけ小さな円になるとされています。光が広がるぶん、明るさも薄まります。見逃されやすいのは、このためです。
よく晴れて風の弱い夜には、地面が冷えて、朝に霧が出やすくなります。夜が長くなる秋から冬は、こうした霧が多くなる季節です。とくに川ぞいや山に囲まれた盆地では、朝霧が名物になっている地域もあります。霧虹を見るには、①太陽を背にする、②太陽の高さが低い朝、③霧が日光の届く程度に薄くなってきたころ、の3つがそろうことが大切です。霧の上に出られる高台は、とくに見つけやすい場所です。
山の上で霧に自分の影が映ると、影の頭のまわりに小さな色つきの輪が見えることがあります。こちらは光輪(グローリー)と呼ばれる別の現象で、輪の大きさは数度ほどです。霧虹は、その外側の約40度という、ずっと遠い位置にかかります。同じ霧から、両方が同時に見えることもあります。
まとめ
霧虹は、ふつうの虹と同じく、水の粒が光を折り曲げ、はね返して生まれます。白く見えるのは、霧の粒が小さすぎて、光が波として横へ広がるからです。色ごとの帯が太くなって重なり合い、混ざって白になります。
虹の色を分けていたのは、水の粒の「大きさ」でした。
小さすぎる粒の前では、光は7色をほどいたままでいられません。
ふつうの虹が、なぜ太陽の反対側の決まった角度に出るのかは、虹は、なぜいつも太陽の反対側に出るの?で詳しく説明しています。光が波として重なり合って色を生む別の例は、シャボン玉は、なぜ虹色に見えるの?で読めます。朝の霧の正体については、朝の草はなぜ濡れているの?もあわせてどうぞ。
- 晴れた日の朝か夕方、太陽を背にして立ちます。ホースのシャワーで前方に水をまくと、ふつうの虹が出ます。
- 次に、霧吹き(いちばん細かい霧が出るもの)で同じ方向に吹きかけます。粒が細かいほど、虹の色が薄く、帯が太くなるのを観察します。
- 2つの虹を、色の分かれ方と帯の太さでくらべます。スマホで撮って並べると、ちがいがよく分かります。
霧吹きの粒は霧の粒よりは大きいことが多く、完全に白くはならないかもしれません。それでも、ホースより色が淡くぼやけることは確かめられるはずです。人に水がかからない場所で行いましょう。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(光学・大気光学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 霧虹(きりにじ)・白虹(はっこう):霧や雲の小さな水の粒によって、太陽と反対側にできる白っぽい虹。
- 光の屈折と分散:光が水に出入りするときに折れ曲がること。曲がり方が色によってわずかにちがうため、色が分かれる。
- 回折:波が、波の長さに近い大きさの粒やすき間の後ろへ回りこんで広がること。音でも水面の波でも起こる。
中学高校式で確かめる:霧の粒で、色の帯はどれだけ太くなる?
粒の後ろで光が広がる角度を、いちばん簡単な見積もりの式で計算します。霧の粒と雨粒の両方で求め、虹の色の間隔とくらべます。
| 記号で書くと | θ ≒ λ ÷ d |
| 言葉で書くと | 光が広がる角度(ラジアン) ≒ 光の波の長さ ÷ 粒の直径 |
| どこから来る式か | 波の回折の性質から来る。粒の端と端を通った波の道のりの差が波の長さほどになる方向で、波どうしが打ち消し合いはじめる。そのため、粒が小さいほど、また波が長いほど、広がる角度が大きくなる。 |
| θ | 光が広がる角度(単位はラジアン。1ラジアンは約57.3度) |
| λ | 光の波の長さ(単位はマイクロメートル。1マイクロメートルは1000分の1ミリ) |
| d | 水の粒の直径(単位はマイクロメートル) |
| 緑の光の波の長さ(目に見える光のほぼ真ん中) | 約0.55 マイクロメートル |
| 霧の粒の直径(代表的な値とされる) | 約20 マイクロメートル(0.02 ミリ) |
| 雨粒の直径(代表的な値とされる) | 約1000 マイクロメートル(1 ミリ) |
| ふつうの虹で、赤と紫の角度の差 | 約2 度(赤 約42度、紫 約40度) |
| 1ラジアンを度に直すと | 約57.3 度 |
| 霧の粒で広がる角度(ラジアン) | 0.55 ÷ 20 = 0.0275 |
| 度に直す | 0.0275 × 57.3 ≒ 1.58 |
| 雨粒で広がる角度(ラジアン) | 0.55 ÷ 1000 = 0.00055 |
| 度に直す | 0.00055 × 57.3 ≒ 0.032 |
| 7色のとなり合う色の間隔(6つの間に分ける) | 2 ÷ 6 ≒ 0.33 |
| 霧の粒の広がりは、色の間隔の何倍か | 1.58 ÷ 0.33 ≒ 4.8 |
霧の粒では、それぞれの色の帯が片側に約1.6度ずつ広がります。これは、となりの色までの間隔のおよそ5倍です。1つの色の光が、5つ先の色の場所まで届いてしまうので、色は混ざって白くなります。雨粒では広がりが約0.03度しかなく、色の間隔の10分の1ほどなので、色ははっきり分かれたままです。
③ 実感に直すと、1.6度は、腕をのばした先の指1本ぶんの幅とほぼ同じです。虹の7色ぜんぶが、指1本ぶんにぎゅっと並んでいるところへ、各色が指1本ぶんずつにじみ出す。それが霧虹です。
高校高校+虹の角度と、回折の広がり
高校虹の角度は、水滴の中で1回反射する光について、屈折の法則(スネルの法則)を使って求められます。入射する場所を変えていくと、出ていく光の向きがほとんど変わらない「折り返し点」があります。光はそこに集まるので、明るい弧になります。水の屈折率が赤で約1.331、紫で約1.343とわずかにちがうため、その角度が色ごとにずれます。
高校+上の式 θ ≒ λ ÷ d は、高校で習う単スリットの回折(暗線の条件)と同じ形をしています。円い粒では、係数が少し変わって約1.22倍になることが知られています。ただし虹の場合、光が出ていくのは粒全体ではなく、粒のふちに近い一部分です。そのため実際の広がりは、この見積もりより大きめになるとされています。ここでの計算は、大きさの見当をつけるためのものです。
大学エアリー理論とミー散乱
虹を波の理論で扱った最初のものは、19世紀の天文学者エアリーによるエアリー理論(虹のエアリー理論)とされています。粒から出てくる光の波面の形を考えて、虹の明るさの分布を「エアリー関数」で表します。この理論から、粒が小さいほど虹の帯が太くなり、主虹の位置が少し内側(小さな角度)へずれることが導かれます。霧虹の円が少し小さいことも、これで説明されます。さらに正確には、球形の粒による光の散乱を電磁波の方程式からそのまま解くミー散乱(ミー理論)を使い、霧虹の白さや、内側に現れる淡い過剰虹まで再現できるとされています。
📖 式の導出や、さらに先の内容:霧虹 - Wikipedia / ミー散乱 - Wikipedia
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 虹から、雲の粒の大きさを測る。雲の上にできる虹(雲虹)の明るさや偏光の分布は、粒の大きさで変わります。これを人工衛星や航空機から測って、雲の粒の大きさを推定する研究が進められています。粒の大きさがそろっていない現実の雲で、どこまで正確に読み取れるかは課題とされています。
- 霧の粒がどう育つか。霧の粒の数や大きさは、空気中のちりや汚れの量、冷え方によって変わります。霧がいつ出ていつ消えるかの予報は、いまも難しい課題とされています。
- 形がまるくない粒の場合。霧の粒がこおりかけたり、氷の粒が混ざったりすると、光の散らばり方が変わります。そうした混ざった雲で虹や光の輪がどう見えるかは、計算でも完全には再現されていません。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。霧虹の白さそのものはよく説明されていますが、その白さから雲や霧の中身を読み取る試みは、いまも続いています。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科1年「光の屈折」「光の色」 | 虹ができるしくみ、色が分かれる理由 |
| 高校 | 物理「波の性質」「光の回折」 | 粒が小さいほど光が広がる理由、式 θ ≒ λ ÷ d |
| 高校+ | 物理(発展)「単スリット・円形開口の回折」 | 係数1.22、見積もりの限界 |
| 大学 | 光学、大気光学 | エアリー理論、ミー散乱 |
| 研究 | 大気物理学、衛星による雲の観測 | 虹から雲の粒の大きさを推定する研究 |
| ― | 生活とのつながり | 秋から冬の朝霧の中で、太陽を背にして探す |
- 霧虹 - Wikipedia
- 回折 - Wikipedia
- 霧 - Wikipedia
- Raymond L. Lee Jr., Alistair B. Fraser『The Rainbow Bridge: Rainbows in Art, Myth, and Science』Pennsylvania State University Press, 2001
- M. Minnaert『Light and Color in the Outdoors』Springer, 1993
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。霧の粒や雨粒の大きさ、虹の角度は条件によって変わります。霧の中を移動するときは、見通しが悪いことに十分注意してください。