日常のふしぎ 流体 予備知識なしでOK 読了 約6分

目薬をさすと、なぜ口の中が苦くなるの?
― 目頭には、鼻へ抜ける「排水口」があります

目と口は、顔の上と下に離れています。それなのに、目薬をさすと舌が苦みを感じます。じつは目頭には小さな穴があり、涙は毎日そこから鼻の奥へ流れ出ています。目薬も、同じ道を通ってのどまで届いているのです。

公開:2026.10.30 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

目が疲れたので、目薬を1滴さします。ひんやりして、何度かまばたきをします。

しばらくすると、のどの奥にじわっと苦い味が広がります。目薬は飲んでいないのに、です。

思い返すと、泣いたあとには鼻水も出ます。目と鼻と口は、顔の中でどこかつながっているのでしょうか。

理由は2つだけ

1
目頭に、涙の「排水口」がある

上下のまぶたの目頭側に、小さな穴が1つずつあります。涙はここに吸い込まれ、細い管を通って鼻の奥へ流れていきます。

2
目は、1滴すらためておけない

目の表面にためておける液は、ほんのわずかです。目薬1滴はそれより多いので、あふれた分は頬へこぼれ、残りもすぐ排水口へ流れます。

この2つが重なって、目薬の多くは目に長くとどまれず、鼻の奥からのどへ下りていきます。そこで舌が、目薬の苦い成分の味に気づくのです。

涙は、毎日どこへ消えているのか

涙は泣いたときだけ出るものではありません。目の外側の上にある涙腺から、起きているあいだ少しずつ出続けています。まばたきのたびに目の表面に塗り広げられ、目が乾かないように守っています。

出続けているなら、どこかへ捨てなければあふれてしまいます。その出口が、目頭にある涙点です。図1を見てください。下まぶたを鏡で軽く引き下げると、目頭寄りのふちに小さな点が見えます。

涙腺(涙の蛇口) 涙は目の表面を流れて、目頭(左)へ集まる 涙点(上下に1つずつ) 涙嚢(いったんたまる袋) 鼻涙管(鼻へ下りる管) 鼻の奥 のど → 舌の奥で「苦い!」 まばたきのたびに、まぶたの筋肉がポンプのように涙を押し流す
図1:涙の通り道。右上の涙腺から出た涙は、矢印のように目の表面を流れて、左の目頭へ集まります。目頭の上下にある2つの点が涙点で、そこから細い管を通って袋(涙嚢)に入り、縦にのびる太い線の鼻涙管を下りて鼻の奥へ出ます。目薬も同じ道をたどり、下の矢印のようにのどから舌の奥へ届きます。

涙点に入った涙は、涙小管という細い管を通って、涙嚢という小さな袋に集まります。そこから鼻涙管を下って、鼻の奥の空間に出ます。鼻の奥はのどにつながっているので、最後は飲み込まれます。

この流れを動かしているのは、主にまばたきです。目を閉じるときにまぶたのまわりの筋肉が袋を押したり引いたりして、ポンプのように涙を送るとされています。泣いたあとに鼻水が出るのは、あふれた涙がこの道を通って鼻に流れ込むからです。

1滴でも、目には多すぎる

次に、量を見てみましょう。ふだん目の表面にある涙は、およそ7マイクロリットルとされています。1マイクロリットルは、1ミリリットルの1000分の1です。小さな水滴ひと粒ほどしかありません。

目にためておける上限は、もとの涙を含めておよそ30マイクロリットルとされます。いっぽう市販の目薬の1滴は、30〜50マイクロリットルほどとされています。つまり、新しく入る余地より1滴のほうが大きいのです。図2のつまみで、さす滴数を変えてみてください。

目の中 (上限30) もとの涙7 入る余地23 ここが上限(点線) さした量 (1滴=40) 目に入る 右へはみ出た分は頬へあふれる あふれる量 およそ 17 マイクロリットル(さした量の 43%) 目に入った分も、数分のうちに大半が目頭の排水口から鼻へ流れるとされます
つまみを動かすと、あふれる量が変わります
図2:目薬の量と、目にとどまれる量。上の棒が目の中で、左の灰色がもとの涙、その右が新しく入る余地です。縦の点線が上限です。下の棒がさした目薬で、点線より右にはみ出た部分は、目に入りきらずにあふれます。つまみで滴数を増やしても、点線の左側は少しも増えず、右へはみ出る部分だけが長くなることが分かります。

1滴でも、半分近くは目に入りきらずにこぼれます。2滴さすと、あふれる分は7割をこえます。しかも目に入った分も長くはとどまりません。まばたきのポンプで、数分のうちに大半が鼻へ送られるとされています。

そのため、多くの点眼薬は「1回1滴」が基本とされます。さしたあとに目を閉じて、目頭を指で軽く押さえるのもよい方法です。排水口をふさぐので、薬が目に長くとどまり、のどへ流れる量も減ります。パチパチとまばたきをくり返すと、逆にポンプが動いて薬が流れ出てしまいます。

💡 苦いのは、目薬によります

すべての目薬が苦いわけではありません。苦みを感じるのは、苦い味の成分を含む薬の場合です。苦みが分かるのは、のどに近い舌の奥にも味を感じるしくみがあるからです。鼻の奥へ流れた薬は、鼻の粘膜からも体に吸収されることがあるとされます。目頭を押さえる方法は、その量を減らすためにもすすめられています。

💡 2種類の目薬をさすときは

続けてさすと、2つ目が1つ目を押し流してしまいます。目に入る余地は小さいからです。一般に、5分ほど間をあけるのがよいとされています。医師や薬剤師から別の指示があれば、そちらに従ってください。

まとめ

目頭には涙の排水口があり、鼻の奥、そしてのどへとつながっています。目にためておける量は1滴より少ないので、目薬の多くはこの道を通ってのどへ届き、舌が苦みに気づきます。

目薬の苦みは、目と鼻とのどが
1本の管でつながっている証拠です。

涙そのものの話は「玉ねぎを切ると涙が出るのは、なぜ?」、鼻の奥の話は「鼻は、なぜ片方だけ詰まるの?」、味と鼻の関係は「かぜをひくと、なぜ食べ物の味がしなくなるの?」もどうぞ。

🧪 自分の「排水口」を見つけてみよう
  1. 明るい場所で鏡を見て、下まぶたを指で軽く引き下げます。目頭寄りのふちに、小さな点のような穴が見えます。これが涙点です。上まぶたにも同じものがあります。
  2. 次に目薬をさすとき、さしたらすぐ目を閉じて、目頭を1分ほど軽く押さえてみます。
  3. 押さえなかった日とくらべて、のどの苦みが出るまでの時間や強さがどう違うかを感じてみます。

目に指を入れたり、強く押したりしないでください。目薬は用法どおりの回数で、ふだん使っているものだけで試しましょう。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「生物」「物理」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(眼科学・流体力学・薬物動態学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:1滴のうち、どれだけあふれるか

目の中を、上限のある小さな器と考えます。入ってきた液の体積は消えないので、器に入りきらない分はあふれます。記号の意味と単位は次のとおりです。

記号意味と単位
Dさした目薬の量(マイクロリットル)
C目にためておける上限(マイクロリットル)
Tもとからある涙の量(マイクロリットル)
Eあふれる量(マイクロリットル)
Q涙が作られる速さ(マイクロリットル毎分)
⓪ もとになる式
記号で書くとE = D − (C − T)
言葉で書くとあふれる量 = さした量 − (ためておける上限 − もとの涙の量)
どこから来る式か液の体積は消えない(体積の保存)。入る余地をこえた分は、器の外へ出るしかない
① もとになる数値
目薬1滴の量 D(30〜50とされる。ここでは中ほどの値)40 マイクロリットル
目にためておける上限 Cおよそ 30 マイクロリットル
ふだんの涙の量 Tおよそ 7 マイクロリットル
涙が作られる速さ Q毎分およそ 1.2 マイクロリットル
② 計算してみる
目に新しく入る余地(C − T)30 − 7 = 23 マイクロリットル
1滴であふれる量 E40 − 23 = 17 マイクロリットル
さした量のうち、あふれる割合17 ÷ 40 ≒ 0.43
2滴さしたときの量40 × 2 = 80 マイクロリットル
2滴であふれる量80 − 23 = 57 マイクロリットル

1滴でも4割強がこぼれ、2滴目はほぼまるごと無駄になります。目に入った23マイクロリットルも、図1の排水口から数分で大半が出ていきます。

③ 実感に直す:ふだんの涙は何分で入れかわるか
入れかわる時間 = 涙の量 ÷ 作られる速さ(T ÷ Q)7 ÷ 1.2 ≒ 5.8 分

何もしなくても、目の表面の涙はおよそ6分で新しいものと入れかわる計算です。目の表面は、止まった水たまりではなく、ゆっくり流れ続ける小川のようなものです。

高校高校+流れを決めるもの:ポンプと細い管

高校「入る量と出る量がつり合うと、たまっている量は一定になる」という考え方は、高校の生物で学ぶ体液の調節と同じ発想です。涙は作られる速さと、涙点から出る速さ(と蒸発)がつり合って、ふだんは一定の量に保たれています。

高校+涙点や涙小管は直径が1ミリメートルに満たない細い管です。細い管には、表面張力で液が吸い込まれる毛細管現象がはたらきます。まばたきのポンプに加えて、この力も涙を涙点へ引き込む助けになると考えられています。

大学細い管の流れと、薬の行き先

細い管を流れる液の量は、ハーゲン・ポアズイユの法則により、管の半径の4乗に比例します。半径が半分になると、流れる量は16分の1です。年齢や炎症で鼻涙管が細くなると涙があふれる鼻涙管閉塞が起きるのは、この強い依存性のためです。また、点眼した薬のうち目の組織まで届くのは数%ほどとされ、残りの行き先は薬物動態学で「全身移行」として扱われます。

📖 式の導出や、さらに先の内容:鼻涙管(ウィキペディア) / 毛細管現象(ウィキペディア)

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。数値は人や測り方によって幅があり、ここでは代表的な値を使っています。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科2年・感覚器官/体積涙の通り道、1滴があふれる計算
高校生物・体内環境の維持作られる量と出ていく量のつり合い
高校+物理・表面張力(発展)毛細管現象で涙点へ引き込まれる
大学流体力学・眼科学・薬物動態学ハーゲン・ポアズイユの法則、鼻涙管閉塞、全身移行
研究眼科学・製剤学涙点の分担、涙ポンプ、薬をとどめる工夫
―生活とのつながり目薬は1滴、さしたら目頭を軽く押さえる
参考・出典
  1. Mishima S, et al. Determination of tear volume and tear flow. Investigative Ophthalmology, 1966.
  2. 『標準眼科学』医学書院(涙器の解剖と涙液の排出)
  3. 日本眼科医会・日本薬剤師会などによる、点眼薬の正しい使い方の一般向け解説
  4. 鼻涙管 - ウィキペディア
  5. 涙 - ウィキペディア

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。目薬の使い方は、製品の説明書や医師・薬剤師の指示に従ってください。目の痛みや充血が続く場合は、眼科を受診してください。