ガムテープを暗い部屋で勢いよくはがすと、なぜ光るの?
― はがした瞬間、テープのすき間に小さな火花が飛んでいます
真っ暗な部屋で、ロールからテープをビリッと引き出すと、はがれ目に青白い光がちらっと走ります。光っているのはのりでもテープでもありません。テープどうしが引き離されるときに生まれた電気が、すき間の空気を通って飛び移る、小さな火花です。
引っ越しの夜、電気を消した部屋で段ボール箱に封をしています。
ガムテープをロールから一気に引き出したとき、はがれ目のあたりが一瞬、青っぽく光った気がしました。「バリバリ」という音も、いつもより大きく聞こえます。
目の錯覚でしょうか。いいえ、これは本物の光です。暗さに目が慣れていれば、だれでも見ることができます。
光る理由は2つだけ
くっついていたテープとテープの面では、電気の粒が一方へ少し移っています。はがすと、プラスとマイナスが引き離され、すき間に高い電圧が生まれます。
電圧が数百ボルトを超えると、すき間の空気が電気を通し始めます。そのとき空気の窒素が光を出します。これが青白い光の正体です。
つまり、テープの光は「冬のドアノブのバチッ」とよく似た現象です。ちがうのは、とても小さな火花が、はがれ目にそってたくさん続けて起きることです。
テープのすき間で、何が起きているの?
ちがう物どうしをくっつけると、ふれ合った面で電気の粒(電子)がわずかに一方へ移ります。こすらなくても、ぴったりふれるだけで起こります。テープの場合は、のりの面と、その下のテープの裏面がこの組み合わせです。
くっついている間は、プラスとマイナスがすぐ隣にあるので、電圧はほとんどありません。ところが、はがしてすき間が開くと事情が変わります。電気の量は同じまま距離だけが広がるので、電圧はすき間に比例して高くなります。
図1のつまみで、すき間の幅を変えてみてください。髪の毛1本ほど(約0.1ミリ)開いただけで、電圧は数百ボルトに届く計算になります。
なぜ青白い色なの?
火花の中では、電気に引っぱられて速く走る電子が、空気の分子にぶつかります。ぶつけられた分子は、受け取ったエネルギーを光として手放します。
空気の8割近くは窒素です。窒素が出す光は、多くが目に見えない紫外線で、見える部分は青紫に寄っています。だから、テープの光も、雷の稲光や静電気の火花も、似た青白い色に見えるのです。
光は、はがれ目にそってパッ、パッと細かく点滅します。テープは一定の速さで滑らかにはがれるのではなく、「引っかかっては一気にはがれる」をくり返しているためです。バリバリという音も、この小刻みなはがれ方から生まれます。
2008年、アメリカの研究チームが、空気を抜いた容器の中でテープをはがす実験を行いました。すると、ごく短いエックス線の光が出ていることが分かりました。そのエックス線で、指の骨を写した写真まで撮れたと報告されています。空気が無いと、電子がぶつからずに加速を続け、勢いよくテープに当たるためです。ふつうの部屋の空気の中では、電子はすぐ空気の分子にぶつかって止まるので、心配はいらないとされています。
氷砂糖や角砂糖を、暗い所で2つこすり合わせたり、割ったりしても、かすかに光ります。結晶が割れるときに、割れた面どうしの間で電気が引き離されるためと考えられています。このように、はがす・こする・割ることで光る現象を、まとめて摩擦発光と呼びます。
まとめ
テープがくっつくと、ふれ合った面で電気がわずかに移ります。はがしてすき間が開くと、電気の量は同じまま距離だけが広がり、電圧が数百ボルトを超えます。すると空気が電気を通して小さな火花が飛び、窒素が青白く光ります。
テープの光は、はがした手が生んだ
手のひらサイズの「小さな稲光」です。
同じしくみで起きる、冬のドアノブの「バチッ」については冬に静電気がバチッとくるのは、なぜ?で、目に見えない静電気が火をつける話は給油の前に金属へ触るのは、なぜ?で解説しています。
- 部屋を真っ暗にして、10分ほど待ち、目を暗さに慣らします。
- ガムテープ(布製や透明の梱包用)をロールから一気に引き出し、はがれ目をじっと見ます。ゆっくりはがしたときと、光り方をくらべてみましょう。
- 氷砂糖を2つ、暗い所で強くこすり合わせてみます。乾いた日と、雨の日でもくらべてみましょう。
湿気が多い日は、テープの表面の電気が水分を伝って逃げやすく、光りにくくなります。テープを顔の近くではがさず、はがしたテープは丸めて捨てましょう。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(電磁気学・放電工学・固体物理)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 摩擦発光:はがす・こする・割るといった力を加えたときに、物が光る現象。
- 静電気(帯電):物の表面に、プラスかマイナスの電気がかたよってたまること。ふれ合っただけでも起こり、これを接触帯電と呼びます。
- 放電:たまった電気が、空気などを通って一気に流れること。火花や光をともないます。
中学高校式で確かめる:すき間1ミリで、電圧は何ボルトになる?
はがれたテープの2つの面を、プラスとマイナスの電気をのせた平らな2枚の板とみなします。電気のたまり方は一例の仮定として、空気中で表面に保てる上限の目安とされる値を使います。
| 記号で書くと | V = σ × d ÷ ε0 |
| 言葉で書くと | すき間の電圧 = 面にたまった電気の量(1平方メートルあたり) × すき間の幅 ÷ 真空の誘電率 |
| どこから来る式か | 平らな2枚の板の間の電場は、ガウスの法則から σ ÷ ε0 になります。電圧は「電場 × 距離」なので、電気の量が変わらなければ、電圧はすき間の幅に比例します(コンデンサの式と同じ)。 |
| 記号 | 意味と単位 |
| V | すき間の電圧(ボルト) |
| σ | 面1平方メートルあたりにたまった電気の量(クーロン毎平方メートル) |
| d | すき間の幅(メートル) |
| ε0 | 真空の誘電率(ファラド毎メートル)。空気でもほぼ同じ値です |
| たまった電気の量 σ(仮定) | 約26 マイクロクーロン毎平方メートル(空気中で表面に保てる上限の目安とされる値) |
| 真空の誘電率 ε0 | 8.85 ピコファラド毎メートル |
| すき間の幅 d | 1 ミリメートル |
| 空気中で火花が飛びうる最低の電圧 | 約300 ボルト(すき間が数マイクロメートルのときの値とされます) |
| 乾電池1本の電圧 | 1.5 ボルト |
| 電場 σ ÷ ε0(単位は100万ボルト毎メートル=キロボルト毎ミリ) | 26 ÷ 8.85 ≒ 2.94 |
| すき間1ミリの電圧(ボルト) | 2.94 × 1000 = 2940 |
| すき間0.1ミリ(髪の毛1本ほど)の電圧(ボルト) | 2940 ÷ 10 = 294 |
| 1ミリのときを乾電池の本数に直すと | 2940 ÷ 1.5 = 1960 |
すき間が髪の毛1本ほど開くだけで、電圧は火花の最低ラインの約300ボルトに届きます。1ミリ開けば、乾電池およそ2000本分です。電気の量そのものはごくわずかでも、引き離す距離が電圧を押し上げることが分かります。
高校高校+電気の量は同じなのに、なぜ電圧が上がるの?
高校はがれていくテープは、極板の間隔が広がるコンデンサと同じです。電気の量 Q が一定のとき、電気容量は間隔に反比例して小さくなり、電圧 V = Q ÷ C は間隔に比例して大きくなります。はがす手の仕事が、静電エネルギーとしてすき間にたくわえられるのです。
高校+空気が電気を通し始める電圧は、すき間が広いほど単純に高くなるわけではありません。すき間が狭すぎると、電子が分子にぶつかる回数が足りず、かえって放電しにくくなります。このため、火花が飛ぶ電圧には最小値があり、空気ではおよそ300ボルトとされています。
大学パッシェンの法則と、窒素の発光
火花が飛ぶ電圧(火花電圧)が、気体の圧力とすき間の幅の積だけで決まることを、パッシェンの法則と呼びます。テープの光の色は、主に窒素分子の「第2正帯」と呼ばれる発光で、強い線は紫外の337ナノメートル付近にあるとされます。真空中でのエックス線は、加速された電子が物に当たって曲げられるときの制動放射です。電荷が移るしくみそのものは、接触帯電(摩擦帯電)として、固体物理と表面化学で扱われます。
📖 式の導出や、さらに先の内容:パッシェンの法則(ウィキペディア) / 摩擦発光(ウィキペディア)
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- ふれただけで、何が移っているのか。 接触帯電で移るのが電子なのか、イオンなのか、物質の小さなかけらなのかは、素材によって異なり、いまも議論が続いています。
- テープの電気は、なぜあれほど多くたまるのか。 真空中の実験では、空気中の上限の目安よりずっと多い電気が局所的にたまっていたと見積もられています。
- 結晶の光は、放電だけで説明できるのか。 砂糖などの摩擦発光には、放電の光のほかに、結晶そのものが光る成分があるとも考えられています。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。身近なテープ1本の中にも、まだ解けていない問いが残っています。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科2年「静電気と電流」 | ふれ合うと電気がたまる・放電で光る |
| 高校 | 物理「電場と電位」「コンデンサ」 | すき間に比例して電圧が上がる式 |
| 高校+ | 物理(発展)「気体の放電」 | 火花が飛ぶ電圧の最小値 |
| 大学 | 電磁気学・放電工学・分光学 | パッシェンの法則、窒素の発光、制動放射 |
| 研究 | 表面科学・トライボロジー | 接触帯電のしくみ、はがれ方と発光の関係 |
| ― | 生活とのつながり | 冬の静電気、湿度と帯電、給油前の除電 |
- Camara, C. G., Escobar, J. V., Hird, J. R., Putterman, S. J. (2008) Correlation between nanosecond X-ray flashes and stick–slip friction in peeling tape. Nature 455, 1089–1092.
- 摩擦発光 ― ウィキペディア
- パッシェンの法則 ― ウィキペディア
- Sweeting, L. M. (2001) Triboluminescence with and without air. Chemistry of Materials 13, 854–870.
- 高校物理の教科書「電場と電位」「コンデンサ」の単元
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。電気のたまり方は条件によって大きく変わり、記事中の値は一例の仮定にもとづきます。