日常のふしぎ 物質・材料 予備知識なしでOK 読了 約6分

金は、どこまで薄くのばせるの?
― 1グラムが新聞の見開きほどに広がり、光が緑色に透けて見えます

金箔の厚さは、およそ1万分の1ミリです。髪の毛の太さの数百分の1で、原子を数えると数百個ぶんしかありません。それでも破れずに1枚の膜としてつながっているのは、金属の原子のつながり方と、金という元素の「さびない」性質のおかげです。

公開:2026.10.29 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

お正月のお酒やお菓子に、金箔がひらひらと浮かんでいます。箸でつまもうとすると、息だけで舞い上がってしまうほど軽いものです。

お寺の仏像や屏風の金色も、たいていはこの金箔を貼ったものです。かたまりの金でできているわけではありません。

では、あの金箔はどれほど薄いのでしょう。そして、石やガラスはたたけば割れるのに、金はなぜ割れずに広がっていくのでしょう。

ここまで薄くなれる理由は2つだけ

1
原子がずれても、つながりが切れない

金属の原子は、みんなで共有する電子に包まれてくっついています。たたいて原子の並びがずれても、つながりは保たれたままです。

2
金は、空気にふれても変わらない

多くの金属は、薄くすると空気と反応して、もろい「さび」に変わります。金はほとんど反応しないので、極端に薄くしても金のままでいられます。

ひとつめは「金属ならどれでも」持っている性質です。ふたつめが、金を特別にしています。順に見ていきましょう。

たたいて割れるものと、のびるものは何が違うの?

食塩のつぶを金づちでたたくと、粉々に割れます。食塩は、プラスの電気を持つ粒とマイナスの電気を持つ粒が、交互に並んでできています。図1の右側のように、たたいて並びが1つぶんずれると、プラスとプラスが向かい合います。同じ電気どうしは押し返し合うので、その面でぱっくり割れてしまいます。

金属は事情が違います。図1の左側のように、金属の原子は、自由に動き回る電子の「海」にひたっています。原子どうしを結びつけているのは、この電子の海全体です。並びがずれても、ずれた先にも同じ原子と同じ電子の海があります。だから、つながりは切れません。

金属(金) 食塩の結晶 上の段を原子1つ分ずらす 点は自由に動く電子(電子の海) ずれても、くっついたまま → のびる 上の段を1つ分ずらす +−+−+− −+−+−+ +−+−+− 割れ目 同じ符号が上下に向かい合い、押し返す ずれた面で割れる → 粉々になる
図1:上の段を原子1つ分ずらしたときのようす。左の金属は、点で描いた電子の海がつなぎ続けるので、ずれても離れません。右の食塩は、プラス(+)の上にプラス、マイナス(−)の上にマイナスが来て押し返し合い、ギザギザの線のところで割れます。

金を金づちでたたくと、この「ずれ」が原子の面のあちこちで起きます。厚みが減ったぶんだけ、金は横へ広がっていきます。体積は変わらないので、厚さが半分になれば面積は2倍です。

金だけが「1万分の1ミリ」まで行けるのは、なぜ?

アルミニウムや銅も、たたけば薄くのびます。台所のアルミホイルは、厚さがおよそ100分の1ミリです。ところが、それより100倍も薄くすると、ほかの金属は困ったことになります。

金属の表面は、空気中の酸素とふれて、ごく薄い「さび」の層を作ります。厚い板なら、表面の数ナノメートルが変わっても気になりません。しかし、膜そのものが数百原子ぶんしかないと、さびの層が占める割合が大きくなります。さびは金属のようにはのびないので、膜はもろく崩れてしまいます。

金は、空気や水とほとんど反応しません。何百年たっても仏像の金色がくすまないのは、このためです。原子数百個ぶんまで薄くしても、最後まで金属のままでいられるのです。

図2のつまみで、箔の厚さを変えてみてください。1グラムの金が、厚さに応じてどこまで広がるかが分かります。

1グラムの金は、薄くするほど広がる(体積は変わらない) 金1グラム 新聞の見開き A4の紙 はがき 点線=くらべる紙の大きさ(縮尺はすべて同じ) 1グラムの金を広げた面積 約0.52 m² (正方形にすると一辺 約72 cm) 厚さを、金の原子の並びで数えると 約340個分 0.1マイクロメートル前後の金箔は、 光にかざすと青緑色に透けて見えます アルミホイルは約10マイクロメートル(金箔の約100倍)
つまみを動かすと、同じ1グラムの金が広がる面積が変わります
図2:1グラムの金を、つまみで決めた厚さに広げたときの大きさ。左下の金色の正方形が金、点線の枠がはがき・A4の紙・新聞の見開きです。右の数字は、面積と、厚さを金の原子の数で数えたものです。厚さを2倍にすると、面積は半分になります。

金箔をつくる職人は、金にわずかな銀や銅を混ぜ、特別な紙にはさんで何度もたたきます。途中で切り分けては、またたたく作業を繰り返して、最後に1万分の1ミリほどの箔に仕上げるとされています。

💡 金箔を光にかざすと、なぜ緑色に見えるの?

金が金色に見えるのは、赤や黄色の光をよく跳ね返し、青い光の一部を吸いこむからです。金箔ほど薄いと、跳ね返されなかった光の一部が向こう側へ抜けてきます。抜けてくるのは、金があまり跳ね返さない青緑のあたりの光です。19世紀にファラデーは、この現象を手がかりに、金と光の関係をくわしく調べました。

まとめ

金属は、電子の海に包まれているので、たたいて原子がずれても割れずに広がります。そのうえ金は空気と反応しないので、原子数百個ぶんの薄さになっても金のままでいられます。こうして1グラムの金は、新聞の見開きほどの広さの膜になります。

金箔の薄さは、職人の腕と、
「ずれても離れず、さびもしない」原子が組んだ記録です。

金属が光る理由そのものは「金属は、なぜピカピカ光るの?」で、金属にふれた手のにおいの正体は「鉄の手すりをさわった手は、なぜ「鉄くさい」の?」で解説しています。

🧪 家で確かめてみよう
  1. 食用の金箔(製菓材料として売られています)を1枚用意し、ピンセットか竹串の先でそっと持ち上げます。
  2. 明るい窓や電灯の方へかざし、金箔ごしに光を見ます。金色ではなく、青緑っぽい色に透けて見えるはずです。
  3. くらべとして、アルミホイルを同じようにかざします。こちらは光をまったく通しません。厚さが100倍ほど違うためです。

金箔はとても軽く、息で飛んでいきます。かざすときは口を閉じて、風のない部屋で行いましょう。塩のつぶをスプーンの背で押しつぶして、割れ方をくらべるのもおすすめです。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「化学基礎」「化学」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(材料科学・固体物理)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:1グラムの金は、何平方メートルに広がる?

たたいても金の量は変わらないので、体積は一定です。体積は「面積 × 厚さ」なので、厚さが決まれば面積が決まります。

⓪ もとになる式
記号で書くとA = m ÷ ( ρ × t )
言葉で書くと広がる面積 = 金の質量 ÷ (密度 × 箔の厚さ)
どこから来る式か体積の保存。体積は「質量 ÷ 密度」で決まり、たたいても変わらない。それを「面積 × 厚さ」と置いて面積について解いたもの
A広がる面積(単位は平方センチメートル)
m金の質量(グラム)
ρ金の密度(1立方センチメートルあたりのグラム数)
t箔の厚さ(センチメートル)
① もとになる数値
金の質量1 グラム
金の密度1立方センチメートルあたり 19.3 グラム
金箔の厚さ(0.1マイクロメートル)0.00001 センチメートル
金の原子1個の大きさおよそ 0.29 ナノメートル
アルミホイルの厚さおよそ 0.01 ミリメートル
② 計算してみる
1グラムの金の体積(立方センチメートル)1 ÷ 19.3 ≒ 0.0518
その体積を厚さでわると面積(平方センチメートル)0.0518 ÷ 0.00001 = 5180
平方メートルに直す5180 ÷ 10000 = 0.518
厚さ100ナノメートルを原子の大きさでわる100 ÷ 0.29 ≒ 345
アルミホイルは金箔の何倍の厚さか0.01 ÷ 0.0001 = 100

1グラムの金は、およそ0.52平方メートルに広がります。新聞の見開き(約0.44平方メートル)より少し広いくらいです。厚さは原子にしておよそ340個ぶんで、アルミホイルの100分の1ほどしかありません。

高校高校+結晶の種類と、割れ方の違い

高校化学基礎では、固体を「イオン結晶」「金属結晶」「共有結合の結晶」「分子結晶」に分けて習います。イオン結晶は、力を加えると特定の面に沿って割れます。この割れ方を「へき開」といいます。金属結晶は自由電子が結びつきを担うため、展性・延性を示します。

高校+金・銀・銅・アルミニウムは「面心立方格子」という並び方をしています。この並びは、原子がすべりやすい面と向きの組み合わせが多いため、とくにのびやすいとされます。金がさびないことは、イオン化傾向の表で金がいちばん端にあることと対応しています。

大学原子は「1列ずつ」ずれていく ― 転位

原子の面が丸ごといっぺんにずれるとすると、計算上は実際より何千倍も大きな力が必要になるとされます。現実の金属が小さな力で変形できるのは、結晶の中に「転位」と呼ばれる並びの乱れがあり、それが少しずつ移動するからです。じゅうたんのしわを送って、少しずつ動かすのに似ています。たたき続けると転位がからみ合って金属は硬くなります(加工硬化)。そのため、加熱して並びを整える「焼きなまし」をはさむことがあります。

📖 式の導出や、さらに先の内容:転位(ウィキペディア) / 展延性(ウィキペディア)

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。金箔は何百年も前からある技術ですが、その中で原子が何をしているかは、いまも調べられています。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科1年「身のまわりの物質」(金属の性質)、密度展性、1グラムの面積の計算
高校化学基礎「化学結合」(金属結合・イオン結晶)図1の、のびる・割れるの違い
高校+化学「結晶格子」、イオン化傾向面心立方格子、金がさびない理由
大学材料科学・固体物理(転位論、塑性変形)転位、加工硬化、焼きなまし
研究ナノ材料、金ナノ粒子の触媒作用原子数個ぶんの金の性質
―生活とのつながり食用金箔、仏像や屏風の金色、アルミホイル
参考・出典
  1. M. Faraday (1857) "Experimental relations of gold (and other metals) to light", Philosophical Transactions of the Royal Society of London 147
  2. 国立天文台 編『理科年表』丸善出版(金の密度)
  3. C. キッテル『固体物理学入門』丸善出版(金属結合・転位)
  4. ウィキペディア「転位」
  5. 高等学校「化学基礎」教科書の、化学結合・結晶の単元

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。金箔の厚さや面積は、製法や品種によって異なります。