大きな噴火の音は、どこまで届くの?
― 空気の波が、地球を何周もしたことがあります
花火の音は数キロ、雷の音でも十数キロが限度です。ところが火山の大噴火では、音が数千キロ先で聞かれた記録があります。しかも耳に聞こえないほど低い波になると、地球を一周してもまだ消えませんでした。音がどこまで行けるのかを、いちばん極端な例から見てみます。
夏の夜、遠くの河川敷から花火の音が届きます。光が見えてから、音は数秒おくれてやってきます。それでも聞こえるのは、せいぜい数キロ先までです。
雷はもう少し遠くまで届きます。それでも、二十キロ以上離れると、光は見えても音は聞こえなくなります。
では、音はどこまで行けるのでしょうか。その答えを教えてくれたのが、火山の大噴火でした。
音がとんでもなく遠くまで届いた、二つの記録
1883年、インドネシアのクラカタウ火山が大噴火しました。約4800キロ離れたインド洋の島で、人々が大砲のような音を聞いたと記録されています。耳で聞こえた音としては、いまも最も遠い部類とされています。
2022年1月、トンガの海底火山が大噴火しました。このとき生まれた気圧の波は、世界中の気圧計に記録されました。しかも一周では終わらず、何周も回ったことが確認されています。
音とは、空気の圧力がわずかに高くなったり低くなったりして伝わる波です。つまり気圧計に記録された波も、正体は「耳に聞こえないほど低い音」でした。ここから二つのことが見えてきます。ひとつは波の進む道、もうひとつは音の高さです。
波は、空気の層に沿って地球を回った
大気は、地球の表面に貼りついたうすい膜のようなものです。厚さは地球の半径にくらべれば、りんごの皮ほどしかありません。噴火で押し出された空気の圧力は、この膜の中を横に広がっていきます。上へ逃げてしまわず、地面に沿って進むのが特徴です。
図1を見てください。波は噴火した場所から左右に分かれて広がります。地球は丸いので、両側に広がった波は、ちょうど反対側で出会います。そこで止まらずにそのまま進むと、やがて出発した場所へ戻ってきます。これで一周です。トンガの噴火では、この往復が何度も観測されました。
遠くまで残るのは、低い音だけ
もうひとつの理由は、音の高さです。音は空気の中を進むうちに、少しずつ熱に変わって弱まっていきます。これを減衰といいます。そして減衰の速さは、音の高さによって大きく違います。
高い音ほど、空気に吸われて早く消えます。低い音ほど、しぶとく残ります。図2のように、同じ場所から出た音でも、高い音は途中で聞こえなくなり、低い音だけが遠くまで進みます。遠くの花火が「ドン」という低い音に聞こえ、パチパチという細かい音が届かないのも同じ理由です。
噴火が生んだ波は、一回のふるえに何分もかかるほどゆっくりしたものでした。人の耳が聞き取れるのは、おおよそ一秒に20回より速いふるえからです。それよりずっとゆっくりした波は、耳には届きません。その代わり、ほとんど弱まらずに進み続けます。地球を何周もできたのは、聞こえない音だったからです。
耳に聞こえないほどゆっくりした空気の波は、専用の気圧計でとらえられます。世界各地に置かれたその観測網は、核実験を見張るために作られたものです。噴火の波が地球を回るようすが細かく分かったのも、この網があったおかげでした。
音は一秒に約340メートル進みます。速いようですが、地球一周となると丸一日以上かかります。トンガの波が一周に要したのは35時間ほどでした。同じことを光がすれば0.13秒です。同じ「波」でも、届く速さはまるで違います。
まとめ
音がどこまで届くかは、大きさだけでは決まりません。空気という薄い層に沿って進めること、そして低い音ほど弱まりにくいこと。この二つがそろったとき、音は地球を一周してしまいます。花火の音が数キロで消えるのは、高い音がたくさん混ざっているからです。
音は、大きさより「低さ」で遠くへ行く。
聞こえない音ほど、遠くまで旅をしています。
音が思わぬ遠くまで届く話は、ほかにもあります。クジラの声が数百km先まで届くしくみや、夜に遠くの音がよく聞こえる理由も読んでみてください。噴火そのもののしくみは火山はなぜ噴火するの?で説明しています。
- 音楽をかけている部屋から出て、ドアを閉めます。廊下で聞こえるのは、メロディよりも低いリズムのほうのはずです。壁と空気は、高い音を先に減らします。
- そのまま少しずつ部屋から離れ、どこで何が聞こえなくなるかを順番にメモします。消える順番は、たいてい高い音からです。
- 花火大会や遠くの雷があれば、聞こえた音を書き留めてみましょう。距離が遠いほど、低く鈍い音だけが残ります。
同じことは、通り過ぎる車から漏れる音楽でも試せます。遠ざかる車から最後まで聞こえるのは、いつも低い音です。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理基礎」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(大気科学・音響学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 微気圧振動:耳に聞こえないほどゆっくりした、空気の圧力の波。専用の気圧計で観測します。
- ラム波:大気の層に閉じこめられ、地面に沿って遠くまで進む圧力の波。噴火のときに現れました。
- 減衰:波が進むうちに弱くなること。空気の中では、高い音ほど速く減衰します。
中学高校式で確かめる:地球を一周するのに何時間かかるか
波の速さと地球の大きさが分かれば、一周にかかる時間はかけ算と割り算だけで出せます。
| 記号 L:地球一周のおよその長さ | 約 40000 キロメートル |
| 記号 v:空気を伝わる音のおよその速さ | 約 340 メートル毎秒 |
| 記号 t:1時間の長さ | 3600 秒 |
| 1時間に進む距離(メートル) | 340 × 3600 = 1224000 |
| キロメートルに直す | 1224000 ÷ 1000 = 1224 |
| 一周にかかる時間(時間) | 40000 ÷ 1224 ≒ 32.7 |
およそ33時間という答えになります。実際に観測された一周の時間は35時間ほどでした。つまりこの波は、ほぼ音の速さで地球を回っていたことになります。新幹線の速さでは地球一周に50日以上かかります。音の速さは、日常では速すぎるのに、地球を相手にすると急に遅く感じられます。
高校高校+なぜ低い音は弱まりにくいのか
高校音は、空気が縮んだり伸びたりして伝わる波です。縮むときにわずかに熱が生まれ、その一部が波に戻らずに逃げます。ふるえる回数が多いほど、この取りこぼしの回数も増えます。
高校+空気の中での減衰の強さは、ふるえる回数のおよそ2乗に比例して大きくなるとされています。ふるえる回数が10倍になると、減衰はおよそ100倍です。だから聞こえないほどゆっくりした波は、桁違いに遠くまで進めます。
大学大気に閉じこめられる波
大気には、上へ行くほど密度が下がるという構造があります。この構造のために、ある種の圧力の波は上空へ逃げずに、地表付近に閉じこめられたまま水平に進みます。19世紀の研究者ホレース・ラムがこの解を示したことから、ラム波と呼ばれます。ふつうの音波よりわずかに遅い速さで進み、球面上を広がるため、出発点の反対側で再び集まるという性質があります。トンガの噴火は、この現象を現代の観測網で詳しく記録できた初めての機会になりました。
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- なぜあれほど強い波が出たのか 海底火山の噴火で、水と高温のマグマが触れたことが関係すると考えられていますが、エネルギーの受け渡し方は完全には分かっていません。
- 上空との受け渡し このとき生まれた波は、はるか上空の電気を帯びた大気にも影響を与えたと報告されています。どこまでが一つづきの現象なのかは、いま整理されている最中です。
- 過去の噴火との比較 1883年の記録は、当時の気圧計が紙に描いた線に頼っています。現代の観測とどこまで直接くらべられるかは、慎重な検討が続いています。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。数字はいずれも目安として読んでください。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科1分野「音の性質」 | 音が空気の振動で伝わること |
| 高校 | 物理基礎「波の性質」 | 波の速さから一周の時間を求める計算 |
| 高校+ | 物理「音波と媒質」 | 振動数によって減衰が変わる話 |
| 大学 | 大気科学・音響学 | 大気に閉じこめられる波(ラム波) |
| 研究 | 火山物理学・超高層大気物理学 | 噴火のエネルギーと上空への影響 |
| ― | 生活とのつながり | 遠くの花火や雷が、低い音だけに聞こえる理由 |
- R. S. Matoza ほか「Atmospheric waves and global seismoacoustic observations of the January 2022 Hunga eruption, Tonga」Science, 2022年
- G. J. Symons 編「The Eruption of Krakatoa and Subsequent Phenomena」Royal Society, 1888年
- 包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)― 微気圧振動を含む国際監視制度の解説
- 日本音響学会 編「音のなんでも小事典」講談社ブルーバックス
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。火山の活動に関する実際の情報や指示については、気象庁・自治体等の発表に従ってください。