地球の中心まで誰も行けないのに、中のようすがなぜ分かるの?
― 揺れが届かないはずの「影」に、かすかな揺れが届いていました
人がいちばん深く掘った穴でも、深さは12キロメートルあまりです。地球の中心までは6400キロメートル近くあります。それでも、中心に固い鉄の玉があることが分かっています。手がかりは、地震の揺れが「届かない場所」と、そこへ届いてしまった小さな揺れでした。
スイカを買うとき、手のひらでポンポンとたたいて音を聞く人がいます。割らなくても、中が詰まっているか、すかすかかが、なんとなく分かります。
地球の中を調べた科学者たちがしたことも、じつはこれに近いのです。たたく役は地震です。大きな地震が起きると、揺れは地球の中を通りぬけて、反対側の国の地震計まで届きます。
ところが、世界中の記録を集めてみると、不思議なことが起きていました。地球の上に、揺れがほとんど届かない「帯」があったのです。
手がかりは、大きく2つです
地震の起きた場所から、地球をぐるりと見て一定の範囲だけ、揺れがほとんど来ません。中に何か大きなものがあって、揺れの通り道を曲げているからです。
届かないはずの影の中に、弱い揺れが記録されていました。その「中の何か」のさらに奥に、もう1つ別のものがあると考えると説明がつきました。
1つ目で「地球には液体の核がある」と分かり、2つ目で「その核の真ん中に固い玉がある」と分かりました。順に見ていきましょう。
地球の中に、揺れの「影」ができている
地震の揺れは、波として地球の中を進みます。波は、進む速さが変わる境目で向きを変えます。水に差したストローが折れて見えるのと同じで、光が水に入るときに曲がるのと同じしくみです。
1900年代のはじめ、世界の地震計の記録が少しずつそろってきました。すると、地震の起きた場所から角度でおよそ104度から140度の帯では、最初に届くはずの揺れがほとんど記録されないことが分かってきました。地球の中心の近くに、揺れが急に遅くなる大きなかたまりがあり、そこで波が折れ曲がって、この帯を飛びこしてしまうのです。
図1を見てください。上の点で地震が起きたとします。つまみで観測点を動かすと、どこまで揺れがまっすぐ届き、どこが影になるかが分かります。
影の帯がどこから始まるかを計算すると、地表から深さおよそ2900キロメートルのところに、核との境目があることが分かりました。1913年ごろ、ドイツの地震学者グーテンベルクがこの深さを求めたとされています。
もう1つ、決め手がありました。地震の揺れには、進む向きに押し縮める揺れと、横にずらす揺れの2種類があります。横にずらす揺れは、液体の中を伝わることができません。この横の揺れは、核の向こう側へまったく届いていませんでした。こうして、核の外側は液体だと考えられるようになりました。
影の中のかすかな揺れが、もう1つの核を教えた
ここで登場するのが、デンマークの地震学者インゲ・レーマンです。彼女は、1929年にニュージーランドで起きた大きな地震の記録を調べていました。そこで、影の帯の中の観測所にも、弱いけれどはっきりした揺れが届いていることに気づきます。
液体の核だけなら、そこには揺れが来ないはずです。レーマンは、核の中心にもう1つ、揺れが速く伝わる別のかたまりがあると考えました。そこで揺れがはね返ったり曲がったりすれば、影の中にも少しだけ揺れが落ちてきます。図1の点線が、その道すじです。
1936年、彼女はこの考えを論文にまとめました。題名は、この揺れの記号を1文字書いただけの、とても短いものだったことで知られています。観測所から集めた記録を1枚ずつカードに写し、オートミールの空き箱に分けて整理していたとも伝えられています。
図2は、いまの研究で分かっている、押し縮める揺れの速さを深さごとに並べたものです。核に入ったところで急に遅くなり、中心の玉に入ると、また速くなります。この2つの「段差」が、影の帯と、影の中のかすかな揺れをつくっていました。
レーマンが示したのは「中心に、揺れが速く伝わる別のかたまりがある」ということでした。それが本当に固体だと強く裏づけられたのは、1970年代のことです。巨大地震のあと、地球全体が鐘のように何日もかすかに震え続けます。その震え方を細かく調べた研究によってだとされています。レーマンは104歳まで生き、その結果を見届けました。
病院の超音波検査も、体に音を当て、はね返りから中を見ています。地球を調べる方法も、考え方は同じです。いまも世界中の地震計の記録が集められ、地球の中の地図がつくられ続けています。
まとめ
地球の中心へは誰も行けません。それでも、地震の揺れが「どこに届き、どこに届かないか」を世界中で比べることで、中の姿が分かってきました。揺れが届かない影の帯から液体の核が見つかりました。影の中に届いたかすかな揺れから、中心の固い玉が見つかりました。
見えないものは、影の形で分かる。
そして影の中の小さな例外が、もう1つ奥を教えてくれる。
中心の玉が、あれほど熱いのに溶けていない理由は「地球の中心は太陽の表面くらい熱いのに、なぜ溶けていないの?」で解説しています。揺れの2種類の違いは「地震の『カタカタ』は、なぜ『グラグラ』より先に来るの?」を、波が境目で曲がるしくみは「水に入れたストローは、なぜ折れて見えるの?」をどうぞ。
- 暗い部屋で、懐中電灯を水の入った丸いコップの横から当てます。向こう側の壁を見ると、明るく集まる帯と、暗くなる部分ができます。
- コップを空にして、同じように当ててみます。光の当たり方が変わるはずです。中身が変わると「影の形」が変わります。
- 次に、家族に箱の中へ何かを入れてもらい、指でたたいた音や、振ったときの手ごたえだけで中身を当ててみましょう。科学者が地球にしたことを、小さく体験できます。
地震波と光は同じ波ではありませんが、「速さの変わる境目で曲がる」点は共通です。懐中電灯の光は、目に直接向けないでください。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「地学」「物理」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(地震学・固体地球物理学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- P波とS波:P波は進む向きに押し縮める揺れ(縦波)、S波は横にずらす揺れ(横波)です。S波は液体の中を伝わりません。
- シャドーゾーン(影の帯):震央から角度でおよそ104〜140度の、P波が直接届かない範囲です。S波は約104度より先にはまったく届きません。
- 外核と内核:深さ約2900〜5150kmの液体の鉄の層が外核、その内側の半径約1220kmの固体の鉄の玉が内核です。
- 震央距離:震央と観測点を、地球の中心から見た角度で表したものです。図1のつまみの角度がこれにあたります。
中学高校式で確かめる:揺れが地球の真ん中を通りぬけるのに何分かかる?
地震の場所のちょうど反対側(震央距離180度)へ、地球の中心をまっすぐ通って届く揺れを考えます。3つの層ごとに「かかる時間」を出して足し合わせます。
| 記号で書くと | t = L1 / v1 + L2 / v2 + L3 / v3 |
| 言葉で書くと | かかる時間 = 層ごとの「通る距離 ÷ その層での速さ」を、3つの層について足したもの |
| どこから来る式か | 「速さ = 距離 ÷ 時間」を時間について解き、速さの違う区間ごとに分けて足しています(道のりを区間ごとに分けて考える、中学の速さの計算と同じです) |
| 記号 | 意味と単位 |
| t | 揺れが反対側へ届くまでの時間(秒) |
| L1, L2, L3 | マントル・外核・内核を通る距離(km)。中心を通るので、それぞれの厚さの2倍 |
| v1, v2, v3 | それぞれの層でのP波のおおよその平均の速さ(秒速 km) |
| マントルを通る距離(厚さ約2890kmの2倍) | 5780 km |
| 外核を通る距離(厚さ約2260kmの2倍) | 4520 km |
| 内核を通る距離(半径約1220kmの2倍) | 2440 km |
| P波の平均の速さ(マントル/外核/内核、おおよそ) | 秒速 11 km / 9 km / 11 km |
| 地球の直径 | 12742 km |
| マントルでかかる時間(秒) | 5780 ÷ 11 ≒ 525 |
| 外核でかかる時間(秒) | 4520 ÷ 9 ≒ 502 |
| 内核でかかる時間(秒) | 2440 ÷ 11 ≒ 222 |
| マントルと外核の合計(秒) | 525 + 502 = 1027 |
| 3つの層の合計 t(秒) | 1027 + 222 = 1249 |
| 分に直すと | 1249 ÷ 60 ≒ 20.8 |
| 比較:同じ距離を空気中の音(秒速0.34km)で進むと(秒) | 12742 ÷ 0.34 ≒ 37476 |
| 時間に直すと | 37476 ÷ 3600 ≒ 10.4 |
地球の反対側まで、揺れはおよそ21分で届く計算です。実際の観測でも、中心を通りぬける揺れはおよそ20分で反対側に届くとされています。空気中の音なら10時間以上かかる距離です。この「何分後に届いたか」を世界中の観測所で比べることで、各層の速さと深さが逆算されてきました。外核の速さだけが遅いことが、図2の段差にあたります。
高校高校+波はなぜ境目で曲がり、なぜ影ができるのか
高校波は速さの違う場所へ斜めに入ると、向きを変えます(屈折)。光が空気から水に入るときと同じです。マントルの底で秒速約14kmだったP波は、外核に入ると秒速約8kmに落ちます。遅いほうへ入った波は、境目に対して立つ向きに曲がります。このため外核に入った波は中心寄りに折れ、地表の104〜140度の帯を飛びこして、その先に出てきます。
高校+マントルの中では、深いほど速さが増します。このため揺れの通り道は直線ではなく、下にたわんだ弓の形になります(図1の細い線)。一方、S波は液体を通らないので、外核の向こう側には届きません。こちらは約104度より先がすべて影になります。P波の影とS波の影の2つを合わせて、外核は液体だと結論されました。
大学スネルの法則と走時曲線:中を「逆算」する方法
屈折の向きはスネルの法則で決まります。球の形をした地球では、波の通り道ごとに一定に保たれる量(波線パラメータ)を使って通り道を追います。震央距離ごとに揺れが届くまでの時間を並べたグラフを走時曲線と呼びます。多くの地震の走時曲線から、深さごとの速さを求める計算を地震波トモグラフィーや逆問題と呼びます。内核を通る波には、外核だけを通るものと区別できるよう、記号の名前がつけられています。内核が固体であることは、巨大地震のあとの地球の自由振動の解析で裏づけられました。
📖 式の導出や、さらに先の内容:スネルの法則(ウィキペディア) / シャドーゾーン(ウィキペディア)
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 内核は、外側とずれて回っているのか。 内核がマントルより少し速く回っているという報告があります。一方で、ずれが止まった、あるいは向きが変わったとする研究もあり、議論が続いています。
- 内核の中に、さらに別の芯があるのか。 内核の中心部では、揺れの伝わりやすさが方向によって違い方を変えるという報告があります。「内核のさらに内側」があるのかどうかは、まだ確かめられている途中です。
- 内核はいつ生まれたのか。 地球が冷えるにつれて鉄が固まり、内核は少しずつ大きくなっていると考えられています。生まれた時期の見積もりは、数億年前から十数億年前まで幅があります。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。地球の中の地図は、地震計の記録が増えるたびに描き直されています。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科「大地の変化(地震)」・数学「速さ」 | P波とS波、式で確かめる |
| 高校 | 地学基礎「地球の内部構造」・物理「波の屈折」 | 影の帯、境目で曲がる波 |
| 高校+ | 地学「地震波の伝わり方」 | 弓なりの通り道、S波の影 |
| 大学 | 地震学・固体地球物理学 | スネルの法則、走時曲線、自由振動 |
| 研究 | 内核の回転・構造・年齢 | まだわかっていないこと |
| ― | 生活とのつながり | 超音波検査など、「見えない中をはね返りで見る」技術と同じ考え方 |
- Lehmann, I. (1936) "P′", Publications du Bureau Central Séismologique International, Série A, Travaux Scientifiques, 14, 87–115.
- Gutenberg, B. (1914) Über Erdbebenwellen VIIA. Nachrichten der Königlichen Gesellschaft der Wissenschaften zu Göttingen.
- Bolt, B. A. "Inside the Earth: Evidence from Earthquakes", W. H. Freeman.
- Dziewonski, A. M. and Gilbert, F. (1971) Solidity of the inner core of the Earth inferred from normal mode observations. Nature, 234, 465–466.
- インゲ・レーマン(ウィキペディア)
- シャドーゾーン(ウィキペディア)
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。地球内部の層の深さや揺れの速さは、研究によって少しずつ異なる値が示されています。