日常のふしぎ 人体 予備知識なしでOK 読了 約6分

体じゅうのDNAをつなぐと、どれくらいの長さになるの?
― 太陽までの40倍以上。ただし「何百往復」は数えすぎでした

細胞1つに入っているDNAは、まっすぐのばすと約2メートルあります。体じゅうの分をつなぐと、地球から太陽までの距離の40倍をこえます。とてつもない数字ですが、よく聞く「太陽まで何百往復」は、じつは10倍ほど大きすぎます。体の細胞のほとんどは、DNAを持っていないからです。

公開:2026.10.06 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

理科の授業や科学番組で、こんな話を聞いたことはありませんか。「あなたの体のDNAを全部つなぐと、太陽まで何百回も行き来できる長さになる」。

聞いた瞬間は「へえ」と思います。でも、少し考えると不思議になります。2メートルもある糸が、目に見えないほど小さな細胞に、どうやって入っているのでしょう。

しかも、その「何百往復」という数字は本当なのでしょうか。この記事では、自分で計算して確かめてみます。

数字の正体を決めるのは、2つのことだけ

1
体の細胞の8割以上は、DNAを持っていない

細胞の数で数えると、いちばん多いのは血液の赤血球です。赤血球は育つ途中で核を捨てるので、DNAが入っていません。DNAを持つ細胞は、全体の1割ほどとされます。

2
2メートルの糸が、髪の太さの10分の1の玉に入る

DNAを収める核は、直径が100分の1ミリにも満たない玉です。DNAは糸巻きに巻かれ、さらに何段にも折りたたまれて、長さの数十万分の1の玉に収まっています。

まず「どれだけ長いか」を正しく数え直し、そのあとで「どうやって収まっているか」を見ていきます。

理由1:数えるべき細胞は、思ったよりずっと少ない

人の体の細胞の数は、37兆個という推計がよく知られています。2016年には、より細かく数え直した30兆個という推計も出ました。どちらにしても、けた外れの数です。

ところが、その内訳を見ると驚きます。30兆個のうち、およそ25兆個は赤血球です。赤血球は、酸素を運ぶ袋に徹するために、育つ途中で核を外へ押し出します。だからDNAを持っていません。

血を止める血小板にも核はありません。残りの、核とDNAを持つ細胞は、およそ3兆個とされます。図1の上の帯を見てください。DNAを持つ細胞は、右端の細い部分だけです。

この3兆個に、1個あたり約2.2メートルをかけると、約66億キロメートルになります。地球から太陽までは約1.5億キロメートルです。片道でいえば、太陽まで44回ぶんに当たります。

太陽系の外れにある冥王星まで、平均で約59億キロメートルです。体じゅうのDNAは、それより少し長い計算です。「何百往復」ではなくても、十分にけた外れです。

体の細胞 約30兆個の内訳(細胞の数で比べた帯) 赤血球 約25兆個(核もDNAもない) 血小板 約1.5兆個(核なし) DNAを持つ 細胞 約3兆個 距離をくらべる(単位:億キロメートル) 0 20 40 60 太陽まで 1.5(左端すぐの点) 冥王星まで 約59(白い点) 体じゅうのDNA 約66
図1:上の帯は、体の細胞を数で比べた内訳です。左の大部分を占める赤血球と、その右の血小板には核がありません。DNAを持つのは右端の細い部分だけです。下の目盛りでは、左端すぐの点が太陽まで、白い点が冥王星まで、上の矢印の先が体じゅうのDNAの合計の長さです。

理由2:2メートルの糸は、何段にも巻かれて収まっている

核の直径は、およそ6マイクロメートル(1000分の6ミリ)です。そこへ約2.2メートルのDNAが入っています。長さの比は、約37万倍です。

この比のまま、核をテニスボールの大きさ(直径6.5センチ)まで拡大してみます。すると中のDNAは、長さ約24キロメートル、太さ0.02ミリほどの糸になります。図2のつまみで、拡大の大きさを変えてみてください。

拡大した核(左の丸) 核の直径:6.5 cm(テニスボールくらい) 中のDNAをのばすと:約24 km 糸の太さ:約0.022 mm 長さは、いつも直径の約37万倍 フルマラソン 42 km(点線) 0 100 km 200 km 300 km 400 km
つまみを動かすと、同じ倍率でのばしたDNAの長さが変わります
図2:左の丸は拡大した核、下の横棒は中のDNAを同じ倍率でのばした長さです。テニスボール大の核なら、DNAは約24キロメートルで、点線のフルマラソンより少し短い長さです。つまみで核を大きくすると、横棒も同じ割合でのびていきます。

これほど細く長い糸が、からまらずに収まっているのは、巻き方に工夫があるからです。DNAはまず、ヒストンというたんぱく質の小さな玉に、2周ほど巻きつきます。糸巻きにミシン糸を巻くようなものです。

この糸巻きがビーズのように連なり、さらに束ねられ、輪をつくって折りたたまれます。細胞が分裂するときには、いちばん固くまとまった「染色体」の形になります。

大事なのは、ただ押しこんでいるわけではないことです。いま使う部分はゆるくほどかれ、使わない部分は固くしまわれています。巻き方そのものが、どの遺伝子を働かせるかを決める仕組みの一部になっています。

💡 毎日、2メートルぶんを丸ごと写している

細胞が分裂するたびに、2メートルのDNAはすべて写し取られます。体の中では、1日に数千億個の細胞が新しく生まれているとされます。写し間違いを直す仕組みも、あわせて休まず働いています。

まとめ

細胞1つのDNAは約2.2メートルです。ただし体の細胞の8割以上を占める赤血球には、DNAがありません。DNAを持つ約3兆個で数えると、合計は約66億キロメートルです。太陽までの44倍、冥王星までと同じくらいになります。そして1本1本は、長さの37万分の1の核に、何段にも巻かれて収まっています。

「何百往復」は数えすぎ。
それでも、体の中には冥王星まで届く糸がしまわれています。

赤血球が血の中で何をしているかは、血が体をぐるぐる回っていると、どうやって分かったの?で、DNAが紫外線で傷つく話は曇りの日でも日焼けするのは、なぜ?で紹介しています。

🧪 台所でDNAを取り出してみよう
  1. ブロッコリーのつぼみ(またはバナナ)をすりつぶし、水100mlに食塩小さじ1と台所用洗剤を数滴まぜた液に入れて、よくかきまぜます。洗剤が細胞の膜をこわします。
  2. 茶こしでこして、液だけをコップに取ります。冷凍庫でよく冷やした消毒用アルコールを、コップのふちから静かに同じくらいの量だけ注ぎます。
  3. 数分待つと、液の境目に白くもやもやした糸のようなものが浮いてきます。これが、何億個もの細胞から集まったDNAのかたまりです。

アルコールは燃えやすいので、火の気のない場所で、大人と一緒に行ってください。見えているのは1本の糸ではなく、無数のDNAがからまった束です。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「生物基礎・生物」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(分子生物学・細胞生物学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:体じゅうのDNAの合計の長さ

求めたいのは、体じゅうのDNAをつないだ長さ L です。細胞の数、1細胞の塩基対の数、塩基対1つぶんの長さの3つをかければ出ます。

⓪ もとになる式
記号で書くとL = N × b × a
言葉で書くと合計の長さ = DNAを持つ細胞の数 × 1細胞の塩基対の数 × 塩基対1つぶんの長さ
どこから来る式かDNAは塩基対が一定の間隔で並んだ「はしご」なので、長さは段の数に比例する。それを細胞の数だけ足し合わせる、という数え上げの式
L体じゅうのDNAの合計の長さ(単位はメートル)
NDNAを持つ細胞の数(個)
b細胞1つが持つ塩基対の数(個)
aとなりの塩基対までの間隔(ナノメートル)
① もとになる数値
1細胞の塩基対の数 b(父母から1組ずつ)約64億個(6.4 × 10⁹)とされる
塩基対の間隔 a約0.34ナノメートル(0.34 × 10⁻⁹ m)
DNAを持つ細胞の数 N約3兆個とされる(全体の約30兆個から、赤血球と血小板を除いた数)
地球から太陽まで約1.5億キロメートル
太陽から冥王星まで(平均)約59億キロメートル
② 計算してみる
1細胞の長さ b × a(10⁹ と 10⁻⁹ は打ち消し合う)6.4 × 0.34 ≒ 2.2(メートル)
合計の長さ L = N × 2.2 m(単位は兆メートル)3 × 2.2 = 6.6
6.6兆メートルは66億キロメートル。太陽まで何回ぶんか66 ÷ 1.5 = 44
冥王星までと比べると66 ÷ 59 ≒ 1.1
赤血球も含めて37兆個で数えた場合(兆メートル)37 × 2.2 = 81.4
数えすぎの倍率81.4 ÷ 6.6 ≒ 12

有名な「太陽まで何百往復」は、DNAを持たない細胞まで数えた値で、実際の約12倍になっていました。正しく数えても、冥王星まで届く長さです。

③ 核に収まる倍率を実感に直す
核の直径約6マイクロメートル(6 × 10⁻⁶ m)
長さ ÷ 直径(万倍)220 ÷ 6 ≒ 37
テニスボール 0.065 m に拡大したときの長さ(万メートル)0.065 × 37 ≒ 2.4

直径6.5センチの玉に、約24キロメートルの糸が入っている計算です。図2の初期値と同じ数字です。

高校高校+巻き方の階層と、細胞の数え方

高校生物基礎では、DNAがヒストンに巻きついてヌクレオソームをつくり、それが連なってクロマチン(染色質)になると習います。ゲノムは約30億塩基対で、体細胞は父母から1組ずつ、合わせて約64億塩基対を持ちます。

高校+ヌクレオソーム1つには約147塩基対が約1.7周巻きつきます。これだけで長さは数分の1に縮みます。細胞の数は、臓器ごとに体積と細胞1個の大きさから見積もって足し合わせます。37兆個(2013年)と30兆個(2016年)の差は、主に赤血球の数え方と、基準にする体格の違いによるものです。

大学クロマチンの高次構造とループ押し出し

ヌクレオソームの連なりは、教科書では「30ナノメートル繊維」に巻かれると説明されてきました。しかし生きた細胞の中では、はっきりした繊維は見えにくいという報告が増えています。いまは、コヒーシンなどのたんぱく質がDNAの輪を引き出す「ループ押し出しモデル」や、Hi-C法で測る「トポロジカル関連ドメイン」で、核内の折りたたみを説明するのが主流です。

📖 式の導出や、さらに先の内容:ヌクレオソーム(ウィキペディア) / クロマチン(ウィキペディア)

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。細胞の数の推計が変われば、合計の長さも同じ割合で変わります。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科2年「生物のからだのつくり」・3年「遺伝の規則性と遺伝子」細胞と核、DNAと染色体
高校生物基礎「遺伝子とその働き」塩基対、ゲノムの大きさ、ヒストン
高校+生物「遺伝情報の発現と調節」ヌクレオソーム、細胞数の推計
大学分子生物学・細胞生物学クロマチンの高次構造、ループ押し出し
研究核内の三次元ゲノム構造染色体のなわばり、細胞数の幅
―生活とのつながり科学の数字を「何を数えたか」から確かめる習慣
参考・出典
  1. Sender R., Fuchs S., Milo R. (2016) Revised Estimates for the Number of Human and Bacteria Cells in the Body. PLOS Biology
  2. Bianconi E. et al. (2013) An estimation of the number of cells in the human body. Annals of Human Biology
  3. Alberts B. ほか『細胞の分子生物学』ニュートンプレス
  4. Watson J. D., Crick F. H. C. (1953) Molecular structure of nucleic acids. Nature 171

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。細胞の数や塩基対の数は推計値で、資料によって幅があります。