体じゅうのDNAをつなぐと、どれくらいの長さになるの?
― 太陽までの40倍以上。ただし「何百往復」は数えすぎでした
細胞1つに入っているDNAは、まっすぐのばすと約2メートルあります。体じゅうの分をつなぐと、地球から太陽までの距離の40倍をこえます。とてつもない数字ですが、よく聞く「太陽まで何百往復」は、じつは10倍ほど大きすぎます。体の細胞のほとんどは、DNAを持っていないからです。
理科の授業や科学番組で、こんな話を聞いたことはありませんか。「あなたの体のDNAを全部つなぐと、太陽まで何百回も行き来できる長さになる」。
聞いた瞬間は「へえ」と思います。でも、少し考えると不思議になります。2メートルもある糸が、目に見えないほど小さな細胞に、どうやって入っているのでしょう。
しかも、その「何百往復」という数字は本当なのでしょうか。この記事では、自分で計算して確かめてみます。
数字の正体を決めるのは、2つのことだけ
細胞の数で数えると、いちばん多いのは血液の赤血球です。赤血球は育つ途中で核を捨てるので、DNAが入っていません。DNAを持つ細胞は、全体の1割ほどとされます。
DNAを収める核は、直径が100分の1ミリにも満たない玉です。DNAは糸巻きに巻かれ、さらに何段にも折りたたまれて、長さの数十万分の1の玉に収まっています。
まず「どれだけ長いか」を正しく数え直し、そのあとで「どうやって収まっているか」を見ていきます。
理由1:数えるべき細胞は、思ったよりずっと少ない
人の体の細胞の数は、37兆個という推計がよく知られています。2016年には、より細かく数え直した30兆個という推計も出ました。どちらにしても、けた外れの数です。
ところが、その内訳を見ると驚きます。30兆個のうち、およそ25兆個は赤血球です。赤血球は、酸素を運ぶ袋に徹するために、育つ途中で核を外へ押し出します。だからDNAを持っていません。
血を止める血小板にも核はありません。残りの、核とDNAを持つ細胞は、およそ3兆個とされます。図1の上の帯を見てください。DNAを持つ細胞は、右端の細い部分だけです。
この3兆個に、1個あたり約2.2メートルをかけると、約66億キロメートルになります。地球から太陽までは約1.5億キロメートルです。片道でいえば、太陽まで44回ぶんに当たります。
太陽系の外れにある冥王星まで、平均で約59億キロメートルです。体じゅうのDNAは、それより少し長い計算です。「何百往復」ではなくても、十分にけた外れです。
理由2:2メートルの糸は、何段にも巻かれて収まっている
核の直径は、およそ6マイクロメートル(1000分の6ミリ)です。そこへ約2.2メートルのDNAが入っています。長さの比は、約37万倍です。
この比のまま、核をテニスボールの大きさ(直径6.5センチ)まで拡大してみます。すると中のDNAは、長さ約24キロメートル、太さ0.02ミリほどの糸になります。図2のつまみで、拡大の大きさを変えてみてください。
これほど細く長い糸が、からまらずに収まっているのは、巻き方に工夫があるからです。DNAはまず、ヒストンというたんぱく質の小さな玉に、2周ほど巻きつきます。糸巻きにミシン糸を巻くようなものです。
この糸巻きがビーズのように連なり、さらに束ねられ、輪をつくって折りたたまれます。細胞が分裂するときには、いちばん固くまとまった「染色体」の形になります。
大事なのは、ただ押しこんでいるわけではないことです。いま使う部分はゆるくほどかれ、使わない部分は固くしまわれています。巻き方そのものが、どの遺伝子を働かせるかを決める仕組みの一部になっています。
細胞が分裂するたびに、2メートルのDNAはすべて写し取られます。体の中では、1日に数千億個の細胞が新しく生まれているとされます。写し間違いを直す仕組みも、あわせて休まず働いています。
まとめ
細胞1つのDNAは約2.2メートルです。ただし体の細胞の8割以上を占める赤血球には、DNAがありません。DNAを持つ約3兆個で数えると、合計は約66億キロメートルです。太陽までの44倍、冥王星までと同じくらいになります。そして1本1本は、長さの37万分の1の核に、何段にも巻かれて収まっています。
「何百往復」は数えすぎ。
それでも、体の中には冥王星まで届く糸がしまわれています。
赤血球が血の中で何をしているかは、血が体をぐるぐる回っていると、どうやって分かったの?で、DNAが紫外線で傷つく話は曇りの日でも日焼けするのは、なぜ?で紹介しています。
- ブロッコリーのつぼみ(またはバナナ)をすりつぶし、水100mlに食塩小さじ1と台所用洗剤を数滴まぜた液に入れて、よくかきまぜます。洗剤が細胞の膜をこわします。
- 茶こしでこして、液だけをコップに取ります。冷凍庫でよく冷やした消毒用アルコールを、コップのふちから静かに同じくらいの量だけ注ぎます。
- 数分待つと、液の境目に白くもやもやした糸のようなものが浮いてきます。これが、何億個もの細胞から集まったDNAのかたまりです。
アルコールは燃えやすいので、火の気のない場所で、大人と一緒に行ってください。見えているのは1本の糸ではなく、無数のDNAがからまった束です。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「生物基礎・生物」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(分子生物学・細胞生物学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- DNA(デオキシリボ核酸):遺伝の情報を4種類の部品(塩基)の並びで記録した、二重らせんの長い分子。
- 塩基対:二重らせんの2本の鎖をつなぐ、塩基どうしの組。DNAの長さを数える単位にも使う。
- 核:細胞の中でDNAをしまっている部屋。赤血球と血小板には核がない。
- 染色体:分裂のときに、DNAが最も固く折りたたまれた姿。人では46本。
中学高校式で確かめる:体じゅうのDNAの合計の長さ
求めたいのは、体じゅうのDNAをつないだ長さ L です。細胞の数、1細胞の塩基対の数、塩基対1つぶんの長さの3つをかければ出ます。
| 記号で書くと | L = N × b × a |
| 言葉で書くと | 合計の長さ = DNAを持つ細胞の数 × 1細胞の塩基対の数 × 塩基対1つぶんの長さ |
| どこから来る式か | DNAは塩基対が一定の間隔で並んだ「はしご」なので、長さは段の数に比例する。それを細胞の数だけ足し合わせる、という数え上げの式 |
| L | 体じゅうのDNAの合計の長さ(単位はメートル) |
| N | DNAを持つ細胞の数(個) |
| b | 細胞1つが持つ塩基対の数(個) |
| a | となりの塩基対までの間隔(ナノメートル) |
| 1細胞の塩基対の数 b(父母から1組ずつ) | 約64億個(6.4 × 10⁹)とされる |
| 塩基対の間隔 a | 約0.34ナノメートル(0.34 × 10⁻⁹ m) |
| DNAを持つ細胞の数 N | 約3兆個とされる(全体の約30兆個から、赤血球と血小板を除いた数) |
| 地球から太陽まで | 約1.5億キロメートル |
| 太陽から冥王星まで(平均) | 約59億キロメートル |
| 1細胞の長さ b × a(10⁹ と 10⁻⁹ は打ち消し合う) | 6.4 × 0.34 ≒ 2.2(メートル) |
| 合計の長さ L = N × 2.2 m(単位は兆メートル) | 3 × 2.2 = 6.6 |
| 6.6兆メートルは66億キロメートル。太陽まで何回ぶんか | 66 ÷ 1.5 = 44 |
| 冥王星までと比べると | 66 ÷ 59 ≒ 1.1 |
| 赤血球も含めて37兆個で数えた場合(兆メートル) | 37 × 2.2 = 81.4 |
| 数えすぎの倍率 | 81.4 ÷ 6.6 ≒ 12 |
有名な「太陽まで何百往復」は、DNAを持たない細胞まで数えた値で、実際の約12倍になっていました。正しく数えても、冥王星まで届く長さです。
| 核の直径 | 約6マイクロメートル(6 × 10⁻⁶ m) |
| 長さ ÷ 直径(万倍) | 220 ÷ 6 ≒ 37 |
| テニスボール 0.065 m に拡大したときの長さ(万メートル) | 0.065 × 37 ≒ 2.4 |
直径6.5センチの玉に、約24キロメートルの糸が入っている計算です。図2の初期値と同じ数字です。
高校高校+巻き方の階層と、細胞の数え方
高校生物基礎では、DNAがヒストンに巻きついてヌクレオソームをつくり、それが連なってクロマチン(染色質)になると習います。ゲノムは約30億塩基対で、体細胞は父母から1組ずつ、合わせて約64億塩基対を持ちます。
高校+ヌクレオソーム1つには約147塩基対が約1.7周巻きつきます。これだけで長さは数分の1に縮みます。細胞の数は、臓器ごとに体積と細胞1個の大きさから見積もって足し合わせます。37兆個(2013年)と30兆個(2016年)の差は、主に赤血球の数え方と、基準にする体格の違いによるものです。
大学クロマチンの高次構造とループ押し出し
ヌクレオソームの連なりは、教科書では「30ナノメートル繊維」に巻かれると説明されてきました。しかし生きた細胞の中では、はっきりした繊維は見えにくいという報告が増えています。いまは、コヒーシンなどのたんぱく質がDNAの輪を引き出す「ループ押し出しモデル」や、Hi-C法で測る「トポロジカル関連ドメイン」で、核内の折りたたみを説明するのが主流です。
📖 式の導出や、さらに先の内容:ヌクレオソーム(ウィキペディア) / クロマチン(ウィキペディア)
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 核の中で、DNAはどう並んでいるのか。 染色体ごとにおおよその「なわばり」があることは分かっていますが、細かな折りたたみ方は細胞ごと・時間ごとに違い、全体像はまだ描けていません。
- からまらない理由。 写し取りや分裂のたびにねじれやからまりが生じますが、それをほどく酵素がどの順番で働くのか、全体の流れは研究が続いています。
- 体の細胞の正確な数。 30兆と37兆のように、推計には幅があります。年齢・体格・性別でも変わり、一人ひとりの数を直接数えた人はいません。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。細胞の数の推計が変われば、合計の長さも同じ割合で変わります。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科2年「生物のからだのつくり」・3年「遺伝の規則性と遺伝子」 | 細胞と核、DNAと染色体 |
| 高校 | 生物基礎「遺伝子とその働き」 | 塩基対、ゲノムの大きさ、ヒストン |
| 高校+ | 生物「遺伝情報の発現と調節」 | ヌクレオソーム、細胞数の推計 |
| 大学 | 分子生物学・細胞生物学 | クロマチンの高次構造、ループ押し出し |
| 研究 | 核内の三次元ゲノム構造 | 染色体のなわばり、細胞数の幅 |
| ― | 生活とのつながり | 科学の数字を「何を数えたか」から確かめる習慣 |
- Sender R., Fuchs S., Milo R. (2016) Revised Estimates for the Number of Human and Bacteria Cells in the Body. PLOS Biology
- Bianconi E. et al. (2013) An estimation of the number of cells in the human body. Annals of Human Biology
- Alberts B. ほか『細胞の分子生物学』ニュートンプレス
- Watson J. D., Crick F. H. C. (1953) Molecular structure of nucleic acids. Nature 171
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。細胞の数や塩基対の数は推計値で、資料によって幅があります。