日常のふしぎ 人体 予備知識なしでOK 読了 約6分

寒い日に外へ出ると、なぜ鼻水が出てくるの?
― 鼻は、吸った空気を温めてうるおす「加湿器」です

かぜをひいたわけでもないのに、冬の朝に外へ出ると、さらさらの鼻水がたれてきます。じつはこれは、鼻が仕事をしている証拠です。鼻は、冷たく乾いた空気を、肺に届く前に体温近くまで温め、水でうるおしています。その仕事の「水」があふれ出たのが、寒い日の鼻水です。

公開:2026.10.29 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

冬の朝、玄関を出て駅まで歩きはじめます。空気は冷たく、息は白く見えます。

5分ほど歩いたころ、鼻の先がむずむずして、水のような鼻水がつーっとたれてきます。熱もないし、のども痛くありません。

ところが、暖かい建物に入ってしばらくすると、いつの間にか止まっています。あの鼻水は、どこから来たのでしょう。

理由は、大きく2つあります

1
吐く息の水が、冷えた鼻先で水に戻る

体の中から出てくる息は、温かく、水蒸気でいっぱいです。その息が、冷たい空気で冷やされた鼻の入口を通ると、水蒸気の一部が水に戻ります。冬の窓ガラスがくもるのと同じしくみです。

2
神経が「水をもっと出せ」と命じる

鼻の内側は、冷たく乾いた空気を感じると、神経を通じて鼻水を作る小さな袋(分泌腺)に合図を送ります。空気をうるおすための水が増やされ、使いきれない分があふれます。

どちらの理由も、もとをたどると同じところに行きつきます。鼻は、外の空気を肺にそのまま入れないための「空気の調整室」なのです。まずは、その仕事の量を見てみましょう。

鼻は、毎回の呼吸で空気に水を足している

肺の奥はとてもデリケートで、冷たく乾いた空気がそのまま届くと傷みやすいとされています。そこで鼻は、吸いこんだ空気を、のどの奥に届くまでの短い距離で温め、ほぼ湿度100%にしています。

ここで問題になるのが、冷たい空気は、もともと水をほとんど持てないことです。1立方メートルの空気が持てる水蒸気の量には上限があり、気温が低いほど少なくなります。0℃では約4.8グラム、体温に近い34℃では約37.6グラムです。

図1を見てください。左の棒が外の空気にふくまれる水、右の棒がのどの奥に届くときの空気の水です。その差(左の棒の上の点線の枠)を、鼻がすべて自分の水で足しています。

1立方メートルの空気にふくまれる水(グラム) 鼻が足す分 (点線の枠) 2.4 g 37.6 g 外の空気(左) 湿度50% のどの奥(右) 約34℃・湿度ほぼ100% 外の気温 0℃ 鼻が足す水(1立方メートルあたり) 35.2 g 歩くときの呼吸で、1時間に 約17 g
つまみを動かすと、外の空気が持つ水と、鼻が足す水の量が変わります
図1:空気にふくまれる水の量を比べた棒グラフ。左の灰色の棒が外の空気、右の水色の棒がのどの奥に届く空気です。左の棒の上の点線の枠が、鼻が足している水です。つまみで外の気温を下げると、左の棒はほとんど消え、鼻が足す水が増えていくことが分かります。

0℃の空気なら、ふつうに歩いているだけで、鼻は1時間に約17グラムの水を空気に渡す計算になります。大さじ1杯ほどの水です。鼻の内側は、この水を休みなく作り続けています。

吐く息は、冷えた鼻先で「結露」する

吸った冷たい空気に熱を渡すと、鼻の入口に近いところは冷えていきます。そこへ、体の奥から温かく湿った息が戻ってきます。

図2を見てください。右から左へ流れる吐く息が、冷えた入口(左側)を通るとき、空気が持てる水の上限が下がります。持ちきれなくなった水蒸気は、鼻の内側に水滴として戻ります。冬の朝、部屋の窓ガラスの内側がくもるのと同じです。

入口(左):吸った冷気で冷えている 奥(右):約34℃ 吐く息(温かく、水蒸気でいっぱい) 鼻の穴 冷えた壁で、水蒸気が水滴に戻る(結露) たまった水が、鼻の穴からたれる(左下のしずく)
図2:鼻の中を横から見た模式図。右の奥は温かく、左の入口は吸った冷気で冷えています。右から左へ進む矢印が吐く息です。左側の冷えた壁に小さな丸い水滴がつき、左下のしずくのように鼻の穴からたれていきます。

じつはこの結露は、鼻にとって損ではありません。吐く息から水と熱を取り戻し、次に吸う空気を温めうるおすのに使えるからです。熱と水の一部をリサイクルしているわけです。ただ、外が寒いほど戻ってくる水が多くなり、鼻の中にためきれない分が外へたれてきます。

もう1つの理由:神経が鼻水の「蛇口」を開く

寒い日の鼻水は、結露だけでは説明しきれないほど多く出ることがあります。そこで働いているのが、神経の反射です。

鼻の内側には、冷たさや乾きを感じる神経の端があります。冷たく乾いた空気が当たると、その知らせが脳の手前の中継点に届き、折り返しの合図が鼻の分泌腺へ送られます。すると、水っぽい鼻水がどっと作られます。

この反射は、もともと空気をうるおす水を増やすためのものと考えられています。冷たく乾いた空気ほど多くの水が要るので、理にかなった仕組みです。ただ、出しすぎた分は行き場がなく、鼻先からたれてしまいます。

💡 スキーヤーの鼻

この寒さの鼻水は、医学の論文では「スキーヤーの鼻」と呼ばれたこともあります。スキー場で多くの人が鼻水に悩むためです。鼻水を出す神経の合図をさえぎる点鼻薬で、鼻水が減ることも報告されています。神経の反射が本当に効いている証拠の1つです。

💡 マフラーで鼻をおおうと楽になるのは

マフラーやマスクで鼻をおおうと、吐く息の熱と水の一部が布に残ります。次に吸う空気は、その布を通って少し温かく湿ってから入ってきます。鼻の仕事が減るので、鼻水が出にくくなると感じる人が多いとされています。

まとめ

寒い日の鼻水は、病気のサインではなく、鼻が空気を温めてうるおしている「仕事の水」です。吐く息が冷えた鼻先で結露すること、そして冷たい空気を感じた神経が水を増やすこと。この2つが重なって、さらさらの鼻水がたれてきます。ただし、黄色や緑のねばった鼻水が続く、熱がある、顔が痛むといった場合は、かぜや副鼻腔の炎症のこともあるので、医療機関に相談しましょう。

冬の鼻水は、鼻という加湿器からあふれた水。
鼻は1時間に大さじ1杯ほどの水で、冷たい空気を体に合わせています。

吐く息が白く見えるしくみは「吐く息は、なぜ冬になると白く見えるの?」、鼻の中で空気の通り道が左右交代する話は「鼻は、なぜ片方だけ詰まるの?」で解説しています。

🧪 鼻の「加湿器」を確かめてみよう
  1. 寒い日に、冷えた手鏡を鼻の下に近づけ、鼻からゆっくり息を吐きます。鏡がすぐくもるのは、吐く息が水蒸気でいっぱいだからです。
  2. 外を5分歩いたあと、鼻水が出るかを観察します。次の日は、マフラーで鼻をおおって同じ道を歩き、出方を比べます。
  3. 暖かい部屋に入ってから、鼻水が止まるまでの時間を測ってみましょう。鼻の入口が温まると、結露が減っていきます。

感じ方には個人差があります。年齢を重ねると、寒さの鼻水が出やすくなる人も多いとされています。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「生物」「物理」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(生理学・熱力学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:鼻は1時間にどれだけの水を足し、どれだけ取り戻すのか

鼻が空気に足す水の量と、吐く息から結露で取り戻す水の量を見積もります。気温0℃・湿度50%の朝に、ふつうに歩いている場面を考えます。鼻の入口の温度などは、説明のための仮の値です。

⓪ もとになる式
記号で書くとm = V ×( a出 − a入 )
言葉で書くと足す水の量 = 通る空気の体積 ×(出ていく空気1立方メートルの水 − 入ってくる空気1立方メートルの水)
どこから来る式か水の量の保存(入ってきた水蒸気+鼻が足した水=出ていく水蒸気)。湿度ほぼ100%の空気の水の量 a は、温度だけで決まる飽和水蒸気量になります。結露の量も同じ式で、出入りの向きが逆になるだけです。
① もとになる数値
0℃の飽和水蒸気量約4.8 g(1立方メートルあたり)
34℃の飽和水蒸気量(のどの奥の空気)約37.6 g
30℃の飽和水蒸気量(仮に、冷えた鼻の入口の温度とする)約30.4 g
1回に吸う空気(歩いているとき)約0.5 リットル、1分に約16回
8 リットルを立方メートルに直すと0.008 立方メートル

記号の意味:m は水の量(グラム)、V は通る空気の体積(立方メートル)、a出・a入 は出ていく空気と入ってくる空気の1立方メートルあたりの水(グラム)です。

② 計算してみる
外の空気の水(湿度50%)4.8 × 0.5 = 2.4 g
1立方メートルあたり鼻が足す水37.6 − 2.4 = 35.2 g
1分に吸う空気(リットル)0.5 × 16 = 8
1分に鼻が足す水35.2 × 0.008 ≒ 0.28 g
1時間に鼻が足す水0.28 × 60 ≒ 17 g
吐く息1立方メートルから結露で戻る水37.6 − 30.4 = 7.2 g
1分に結露で戻る水7.2 × 0.008 ≒ 0.058 g
1時間に結露で戻る水0.058 × 60 ≒ 3.5 g
足した水のうち、取り戻す割合3.5 ÷ 17 ≒ 0.21

鼻は1時間に大さじ1杯ほど(約17グラム)の水を空気に渡し、そのうち約2割を、吐く息の結露で取り戻している計算です。取り戻した水が鼻の中にとどまりきれないと、鼻水としてたれてきます。

高校高校+熱と水の「行って戻る」しくみ

高校鼻の内側の粘膜には血管がたくさん通っていて、血液が運んでくる熱で空気を温めます。水は、粘膜の表面をおおう粘液から蒸発して空気に渡ります。蒸発するときには熱も奪われるので、粘膜はさらに冷えます。

高校+吸うときに冷え、吐くときに温められる鼻の入口は、熱と水を一時的にあずかる「熱交換器」として働きます。吸う息と吐く息が同じ通り道を交互に流れるので、一方の流れから受け取った熱や水を、もう一方へ渡せるのです。

大学飽和水蒸気量の温度依存と、鼻の反射

飽和水蒸気量が温度とともに急に増えるのは、クラウジウス・クラペイロンの式で説明されます。図1のつまみでは、その近似式であるテテンスの式を使っています。寒冷性鼻漏の反射は、鼻粘膜の知覚神経から始まり、副交感神経(コリン作動性)を通って分泌腺を動かすものと考えられています。この合図をさえぎる抗コリン薬の点鼻で、鼻水が減ることが報告されています。

📖 式の導出や、さらに先の内容:クラウジウス・クラペイロンの式(ウィキペディア) / 飽和水蒸気量(ウィキペディア)

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。結露の量は物理の計算で見積もれますが、神経の反射の細かいしくみには、まだ分からないところが残っています。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科2年「天気の変化(飽和水蒸気量・露点)」図1・図2、式で確かめる
高校生物「自律神経」、物理「熱と温度」神経の反射、粘膜が空気を温めるしくみ
高校+発展:熱交換熱と水の「行って戻る」しくみ
大学生理学・熱力学クラウジウス・クラペイロンの式、副交感神経の反射
研究鼻科学・感覚の分子生物学反射の引き金、個人差
―生活とのつながりマフラーやマスクで鼻をおおう、受診の目安
参考・出典
  1. Silvers WS. The skier's nose: a model of cold-induced rhinorrhea. Annals of Allergy, 1991.
  2. Cole P. The Respiratory Role of the Upper Airways: A Selective Clinical and Pathophysiological Review. Mosby, 1993.
  3. 国立天文台 編『理科年表』(飽和水蒸気圧の表)丸善出版
  4. ウィキペディア「飽和水蒸気量」

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。鼻水の色やにおい、発熱や顔の痛みなど気になる症状があるときは、医療機関に相談してください。