📄 日常のふしぎ 🧪 物質・材料 予備知識なしでOK 読了 約6分

新聞紙は、なぜ縦にはまっすぐ裂けるのに、横に裂くとギザギザになるの?
― 紙の中では、植物の繊維が同じ向きにそろって寝ています

紙は、どの向きにも同じように見えます。けれど中をのぞくと、細い植物の繊維が、木目のように一方向へそろって並んでいます。裂け目は、その繊維の「すき間」を通りたがるのです。

公開:2026.10.28 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

引っ越しの荷造りで、割れ物を包むために新聞紙を細長く裂いています。上から下へ引くと、定規を当てたようにスーッとまっすぐ裂けていきます。

ところが向きを変えて、横に裂こうとすると様子がちがいます。手ごたえが重く、裂け目は右へ左へとよれて、ギザギザの線になってしまいます。

同じ1枚の紙なのに、向きによってなぜこんなに裂け方がちがうのでしょうか。

理由は、2つの組み合わせです

1
繊維が、同じ向きにそろって寝ている

紙は、水に散らした植物の繊維を、網の上ですくい取って作ります。工場では網が高速で流れるので、繊維は流れの向きにそろって寝ます。これを紙の「目」と呼びます。

2
裂け目は、繊維の「すき間」を通りたがる

繊維1本1本は丈夫ですが、繊維どうしのつなぎ目はずっと弱いのです。目にそって裂けば、すき間をほどくだけで済みます。目を横切ると、繊維を何本もちぎらなければなりません。

つまり紙は、見た目は均一でも、中身は「向きのある材料」です。木の板が木目にそって割れやすいのと、よく似ています。

紙の繊維は、なぜ同じ向きにそろうの?

紙のもとは、木をほぐして取り出した細い繊維です。長さは数ミリ、太さは髪の毛の数分の1ほどです。これを水にうすく散らし、細かい網の上に流して水を切ると、繊維がからみ合った薄い膜が残ります。これが紙です。

工場の紙すき機では、この網が帯のように回り続けています。速いものでは時速100kmをこえる速さで流れるとされています。そこへ、繊維をふくんだ水が勢いよく吹きつけられます。流れの中に置かれた細長い棒は、流れにそって向きをそろえます。川に浮かんだ小枝が、いつのまにか流れと同じ向きになるのと同じです。

こうしてできた紙は、大きな巻き物になって新聞社へ届きます。新聞は巻き物の長い向きに刷られ、1ページの高さぶんずつ切り分けられます。そのため新聞紙では、繊維は紙面の縦向きにそろって寝ています。

裂け目は、なぜ繊維のすき間を選ぶの?

紙の繊維は、接着剤でつながっているわけではありません。乾くときに、繊維の表面どうしが細かい手をつなぐようにくっついています。この結びつきは、繊維そのものより、ずっと弱いのです。

図1を見てください。左の四角が新聞紙で、縦の短い線が1本1本の繊維です。斜めの太い線が裂け目です。つまみで裂く向きを変えると、右の棒の高さが変わります。これは1cm裂くあいだに横切る繊維の数の目安です。

新聞紙(繊維はたて向き) 太い線=裂け目(中心で回転) 1cm裂くあいだに横切る繊維 0本 2000本 点線:向きがばらばらな紙 (約1280本) 約1730本 いまの裂け目
0度は縦に裂く(繊維と同じ向き)、90度は横に裂く(繊維と直角)
図1:裂く向きと、途中でちぎる繊維の数。左の四角の縦の短い線が繊維、太い線が裂け目です。右の棒は、裂け目が1cm進むあいだに横切る繊維の本数の目安です。つまみを0度(縦に裂く)へ動かすと棒はほぼ0本になり、90度(横に裂く)では約2000本まで伸びます。右の点線は、繊維の向きがばらばらな紙の場合です。

縦に裂くとき、裂け目は繊維と並んで進みます。ちぎる繊維はほとんどなく、すき間をほどくだけで前へ進めます。だから軽く、まっすぐ裂けます。

横に裂くときは、裂け目の前に繊維が何本も立ちはだかります。裂け目は、少しでも弱いところを探して右へ左へと曲がります。これがギザギザの正体です。横に裂いた切り口をよく見ると、繊維の端がけば立って飛び出しているのが分かります。

実際の新聞紙では、すべての繊維がきれいに縦を向いているわけではありません。それでも、縦と横では引っぱったときの強さが2〜3倍ほどちがうとされています。

💡 製本の職人は、紙の目を本の背にそろえます

本を作るときは、紙の目が本の背と平行になるように紙を取ります。製本の現場では、これを「順目(じゅんめ)」と呼びます。目が逆だと、ページがめくりにくくなったり、湿気で紙が波打ったりしやすいとされています。紙の向きは、プロにとっては品質そのものです。

💡 和紙が手で裂きにくいのは、繊維が長いから

障子紙などの和紙は、コウゾという木の皮の繊維から作ります。この繊維は長さが1cm前後もあるとされ、ふつうの紙の数倍です。長い繊維は何本もの仲間とからみ合うので、裂け目がすき間を通り抜けにくくなります。和紙を手で裂くと、切り口に長い毛のような繊維が残ります。

まとめ

紙は、植物の繊維を水の流れの中ですくい取って作ります。そのとき繊維は流れの向きにそろって寝るので、紙には木目のような「目」ができます。裂け目は弱い繊維のすき間を通りたがるので、目にそっては軽くまっすぐ、目を横切るとギザギザに裂けます。新聞紙では、その目が縦向きなのです。

紙の中には、木目がかくれています。
裂け目は、繊維をちぎらずに済む道を選んで進みます。

紙が濡れると弱くなる理由は紙はなぜ、濡れると破れやすくなるの?で、木の「目」が板の反りを決める話は木の板は、なぜいつも決まった向きに反るの?で読めます。石にも同じような割れやすい向きがあります(石工は、なぜ大きな岩をくさびだけで割れるの?)。

🧪 身近な紙の「目」を見分けてみよう
  1. 裂いてみる:新聞紙やチラシを、縦と横に5cmずつ裂きます。まっすぐ軽く裂ける向きが、繊維のそろった向きです。
  2. たらしてみる:同じ紙から、縦長と横長の細い帯を1本ずつ切ります。端を持って水平に出すと、垂れ下がりにくいほうが目にそった帯です。
  3. ぬらしてみる:紙を正方形に切り、片面だけを水面にそっと浮かべます。紙は筒のように丸まり、その筒の向きが目の向きです。

3つの方法の答えがそろえば、見分けは確かです。ノートやコピー用紙でも試してみると、紙によって目の向きがちがうことに気づくはずです。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「数学Ⅰ」「化学」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(材料力学・確率幾何・紙パルプ工学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:1cm裂くと、繊維を何本ちぎるのか

細長い繊維が紙の中に散らばっているとき、裂け目の線が何本の繊維を横切るかは、図形の確率で見積もれます。ここでは話を単純にして、繊維がすべて同じ向きに寝ているとします。

⓪ もとになる式
記号で書くとN = ρ × ℓ × L × sinθ
言葉で書くと横切る繊維の数 = 面積あたりの繊維の数 × 繊維の長さ × 裂け目の長さ × (裂け目と繊維の角度の正弦)
どこから来る式か繊維の中心が、裂け目の両側「ℓ × sinθ の幅」の帯に入っていれば、その繊維は裂け目に横切られます。その帯の面積に、面積あたりの本数をかけたものです(ビュフォンの針の考え方)。
記号意味と単位
N裂け目が横切る(ちぎる)繊維の本数
ρ1平方センチあたりの繊維の本数(本/cm²)
ℓ繊維1本の長さ(cm)
L裂け目の長さ(cm)
θ裂け目と繊維の向きのなす角度。0度なら同じ向き、90度なら直角
① もとになる数値
新聞紙1平方センチの繊維の数(目安)約1万本
繊維1本の長さ(目安)約2mm = 0.2cm
裂け目の長さ1cm
θ が 30度、90度のときの正弦0.5、1
向きがばらばらな紙での正弦の平均(2/π)約0.64
② 計算してみる
本数 × 長さ(ρ × ℓ)10000 × 0.2 = 2000
さらに裂け目の長さをかける(ρ × ℓ × L)2000 × 1 = 2000
横に裂く(θ = 90度)2000 × 1 = 2000本
斜め30度に裂く2000 × 0.5 = 1000本
向きがばらばらな紙を裂く2000 × 0.64 = 1280本
縦に裂く(θ = 0度、正弦は0)2000 × 0 = 0本

横に1cm裂くだけで、およそ2000本の繊維をちぎる(か、引き抜く)ことになります。縦に裂けば、理想的には1本もちぎらずに済みます。実際の紙では繊維の向きにばらつきがあるので、差はここまで極端ではなく、強さの比で2〜3倍ほどとされています。それでも、手に伝わる重さのちがいとギザギザの理由は、この式で説明できます。

高校高校+繊維どうしは、何でくっついているの?

高校セルロースの分子には、水素と酸素の組(ヒドロキシ基)がたくさん並んでいます。紙が乾くとき、となり合う繊維の表面どうしが水素結合でつながります。1つ1つの水素結合は、分子の中の結合よりずっと弱いものです。

高校+水にぬらすと、この水素結合の相手が水分子に置きかわります。繊維は太さの方向に大きくふくらみますが、長さはほとんど変わらないとされています。片面だけぬらした紙が、目の向きを軸にして丸まるのはこのためです。

大学紙は「異方性材料」、裂け方は確率幾何で読める

向きによって性質がちがう材料を異方性材料と呼びます。紙の世界では、紙すき機の流れの向きを流れ方向(マシン方向)、それと直角の向きを幅方向と呼び分けます。引っぱり強さや曲げのこわさは流れ方向が大きく、裂けにくさの試験(エルメンドルフ引裂試験)では向きごとに値を測ります。上の式は、ビュフォンの針として知られる確率幾何の問題と同じ考え方です。紙すき機の網の速さと、吹きつける水の速さの比(ジェット・ワイヤー速度比)を変えると、繊維のそろい方を調整できます。

📖 式の導出や、さらに先の内容:ビュフォンの針(ウィキペディア) / 抄紙機(ウィキペディア)

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。新聞紙1枚の裂け方にも、まだ答えきれていない問いが残っています。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科「植物のつくり」「身のまわりの物質」紙が植物の繊維からできていること
高校数学Ⅰ「三角比」、化学「水素結合」正弦で本数が変わること、繊維どうしのつながり
高校+化学「天然高分子(セルロース)」ぬれると太さだけがふくらむこと
大学材料力学・確率幾何・紙パルプ工学異方性、ビュフォンの針、抄紙機での繊維配向
研究紙物性・繊維ネットワークの研究結合の強さ、裂け目の形の予測
―生活とのつながり新聞紙やチラシを裂く、本の作り、障子紙
参考・出典
  1. ウィキペディア「紙」
  2. ウィキペディア「抄紙機」
  3. ウィキペディア「ビュフォンの針」
  4. 紙パルプ技術協会 編『紙パルプ技術便覧』
  5. Niskanen, K. (ed.) "Paper Physics", Paperi ja Puu

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。繊維の本数や長さは紙の種類によって大きく異なります。