川原の石でかまどを組むと、なぜ石が割れて飛ぶことがあるの?
― 石の中の水が、湯気になって内側から押し割ります
川原でたき火をするとき、まわりの石を集めて囲いを作りたくなります。ところが、水辺の石を火にかけると、ときどき「パンッ」と音を立てて割れ、かけらが飛んできます。石は燃えないのに、なぜ割れるのでしょうか。犯人は、石の中にしみこんだ見えない水と、石の外側と内側の温度差です。
秋のキャンプ。川原の丸い石をいくつか拾って輪に並べ、まん中で薪に火をつけます。飯ごうを置く台にもなって、なかなか良い出来です。
しばらくすると、火のそばの石から「パチッ」「ジュッ」と小さな音がします。石の表面に、うっすら湯気のようなものが見えることもあります。
そして突然、「パンッ」。石の一つが割れ、親指ほどのかけらが足もとまで飛んできました。燃えるはずのない石に、何が起きたのでしょうか。
石が割れる理由は、大きく2つです
石には、目に見えないほど細いすき間やひびがあります。水辺の石は、そこに水をたっぷり含んでいます。火で熱すると、その水が水蒸気に変わり、体積が千倍以上にふくらもうとします。
石は熱を伝えるのが遅い物質です。火に当たった面だけが先に熱くなってふくらみ、中はまだ冷たいままです。ふくらみたい部分と、そうでない部分が引っぱり合い、石の中に引き裂く力が生まれます。
どちらも、石が「内側から」壊れるしくみです。そして石は、押す力には強いのに、引っぱる力にはとても弱いという性質を持っています。この弱点を、2つの力が同時に突いてきます。
理由1:石の中の水は、逃げ場のない湯気になる
川原の石は、何年も水に浸かったり、雨にぬれたりしてきました。砂岩のように粒が集まってできた石は、すき間が多く、スポンジのように水を吸っています。花こう岩のように硬そうな石でも、粒と粒の境目に細いひびが走っています。
水は100℃で沸騰して水蒸気になります。このとき、同じ量の水が占める体積は、およそ1700倍に広がります。コップ1杯の水が、1700杯分の湯気になるイメージです。鍋の中なら湯気は上へ逃げます。でも石の奥の水は、細いすき間に閉じこめられています。
逃げられない水蒸気は、まわりの石を内側から押します。温度が上がるほど、その圧力は大きくなります。200℃では、大気圧のおよそ15倍にもなるとされています。図1の左側が、このようすです。すき間の出口がふさがっていると、最後は石のほうが耐えきれずに割れます。「パチッ」「ジュッ」という小さな音は、水蒸気が細いすき間から噴き出している音だと考えられています。
理由2:石は、引っぱられるとあっけなく割れる
ほとんどの物は、温めるとわずかにふくらみます。石も同じです。ただし石は熱を伝えるのがとても遅く、火に当たった表面が熱くなっても、数センチ奥はしばらく冷たいままです。
熱い表面は、ふくらもうとします。冷たい中は、それをつなぎ止めます。すると、表面はぎゅっと押し縮められ、その少し奥には引っぱる力がかかります。図1の右側のように、表面と平行な向きにひびが入り、表面の層が板のようにはがれて飛ぶことがあります。
石は押す力にはとても強い物質です。建物の土台や石垣に使われるのはそのためです。ところが、引っぱる力への強さは、押す力の10分の1ほどしかないとされています。だから、ほんの100℃ほどの温度差でも、割れるのに十分な力が生まれます。熱いガラスのコップに冷たい水を注ぐと割れるのと、同じしくみです。
そして、理由1と理由2は同時に起こります。水を含んだ石ほど、細いひびも多く抱えています。そのひびが、引っぱる力の集まる「割れ目の入口」になります。水辺の石が特に危ないのは、このためです。
サウナのストーブにのせて水をかける石は、急に熱したり冷やしたりしても割れにくい種類が選ばれているとされています。すき間が少なく、きめの細かい火山の石などです。それでも使い続けるうちに細かく割れてくるため、定期的に取り替えるのが一般的です。
じゃあ、どうすればいいの?
- 水の中や水ぎわの石は、火のそばに置かないぬれていた石、しめった砂にうもれていた石ほど、水をたくさん含んでいます。
- 石を火の中に入れたり、直接かまどにしたりしないたき火台や、備えつけのかまどを使うのがいちばん安全です。
- 「パチッ」「ジュッ」と音がしたら、石から離れる顔をのぞきこまないこと。割れたかけらは熱く、勢いよく飛びます。
石が割れると、熱いかけらが顔の高さまで飛ぶことがあります。火のまわりでは、しゃがんで顔を近づけないようにしましょう。かけらが目に入った、深いやけどを負った、というときは、こすらずに流水で冷やしながら、すぐに119番や医療機関に連絡してください。火が広がりそうなときは、無理に消そうとせず、その場から離れて避難することを優先します。なお、川原でのたき火そのものを禁止している場所も多いので、その土地の決まりを先に確かめてください。
まとめ
川原の石が火で割れるのは、すき間にしみこんだ水が逃げ場のない水蒸気になって内側から押すことと、外側だけが熱くふくらんで石の中に引き裂く力が生まれることが重なるからです。石は押す力には強くても、引っぱる力には弱いのです。見た目が乾いていても、水辺の石は中に水を抱えています。
燃えない石も、火で割れる。
危ないのは、石の中に隠れた水と温度差です。
たき火の熱がどうやって体に届くのかは、たき火にあたると、なぜ顔だけ熱くて、背中は寒いままなの?で解説しています。川原の石が丸い理由はこちらの記事へどうぞ。
- 川原や庭で、種類の違う石を2〜3個拾い、よく乾かしてから重さをはかります(キッチンばかりで十分です)。
- 石を丸1日、水に沈めておきます。取り出したら表面の水だけをふきとり、もう一度重さをはかります。
- 重さが増えた分が、石のすき間に入った水です。ざらざらした石ほど、たくさん吸っているはずです。
吸った水の重さが1グラムなら、それは湯気になると約1.7リットルに相当します。この実験では石を火にかけないでください。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理」「地学」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(材料力学・岩石力学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 状態変化:水が水蒸気になるように、物質が固体・液体・気体のあいだで姿を変えること。体積が大きく変わります。
- 熱膨張:温度が上がると物が少しふくらむこと。ふくらむ割合を「線膨張率」と呼びます。
- 熱応力:場所によって温度が違うため、ふくらみ方の差が物の中に生む力。急な温度変化で割れる現象は「熱衝撃」と呼ばれます。
中学高校式で確かめる:100℃の温度差で、石の中にどれだけの力が生まれるか
表面がふくらもうとするのを完全に押さえつけたとき、石の中に生まれる力(熱応力)を見積もります。花こう岩のような硬い石を例にします。
| 記号で書くと | σ = E × α × ΔT |
| 言葉で書くと | 熱応力 = 石のかたさ(ヤング率) × 1℃あたりのふくらむ割合(線膨張率) × 温度差 |
| どこから来る式か | 温度差でふくらみたい長さの割合(α × ΔT)を、フックの法則(力 = かたさ × 伸び縮みの割合)で力に直したもの |
| 記号 | 意味と単位 |
| σ | 熱応力。1平方メートルあたりの力(単位は パスカル、ここでは メガパスカル = 100万パスカル) |
| E | ヤング率。物のかたさ(単位は メガパスカル) |
| α | 線膨張率。1℃上がると長さが何倍ぶん伸びるか(単位は 1/℃) |
| ΔT | 表面と中の温度差(単位は ℃) |
| 花こう岩のヤング率(おおよそ) | 50000 メガパスカル とされる |
| 花こう岩の線膨張率(おおよそ) | 0.000008 /℃ とされる |
| 表面と数センチ奥の温度差(例) | 100 ℃ |
| 石が引っぱりに耐えられる強さ(おおよそ) | 10 メガパスカル 前後とされる |
| 1℃の差で生まれる力 | 50000 × 0.000008 = 0.4 メガパスカル |
| 100℃の差で生まれる力(熱応力) | 0.4 × 100 = 40 メガパスカル |
| 引っぱりに耐えられる強さの何倍か | 40 ÷ 10 = 4 倍 |
| 石が割れ始める温度差の目安 | 10 ÷ 0.4 = 25 ℃ |
完全に押さえつけた場合の上限の見積もりですが、100℃の温度差で生まれる力は、石が引っぱりに耐えられる強さを数倍上回ります。実際の石は形や割れ目で力が逃げるので、25℃の差ですぐ割れるわけではありません。それでも、たき火の数百℃の熱にさらされれば、割れる条件は十分にそろいます。
| 水1グラムの体積 | 1 立方センチメートル |
| 100℃・1気圧の水蒸気1グラムの体積 | 約1700 立方センチメートル とされる |
| ふくらむ倍率 | 1700 ÷ 1 = 1700 倍 |
高校高校+閉じこめられた水蒸気の圧力
高校1700倍という数は、理想気体の状態方程式(圧力 × 体積 = 物質量 × 気体定数 × 温度)に、水1グラム(約18分の1モル)と100℃を入れると出てきます。すき間に閉じこめられて体積が変われないと、代わりに圧力が上がります。
高校+水と水蒸気がいっしょにある閉じた空間では、圧力はその温度の「飽和蒸気圧」で決まります。飽和蒸気圧は温度とともに急に大きくなり、その関係はクラウジウス・クラペイロンの式で表されます。150℃で大気圧の約5倍、200℃で約15倍とされています。
大学岩石はなぜ引っぱりに弱いのか
材料力学では、温度差による力を「熱応力」、急な温度変化による破壊を「熱衝撃破壊」と呼びます。岩石の引張強さが圧縮強さよりずっと小さいのは、中にある無数の微小なひびの先端に力が集中するためで、グリフィスの破壊理論で説明されます。すき間の水の圧力が岩を押し広げる効果は、岩石力学では「間隙水圧」として扱われ、有効応力の考え方で整理されます。耐熱衝撃性の指標としては、引張強さを「ヤング率 × 線膨張率」で割った量がよく使われます。上の②の最後の行(10 ÷ 0.4)は、ちょうどこの指標を計算したものです。
📖 式の導出や、さらに先の内容:熱膨張と熱応力(ウィキペディア) / 蒸気圧(ウィキペディア)
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- どの石が、どの温度で割れるのか。 同じ種類の岩石でも、ひびの入り方や水の含み方で結果が大きくばらつき、個々の石について割れる温度を前もって言い当てるのは難しいとされています。
- 水蒸気と温度差、どちらが主役か。 実際の破裂では両方が同時に効くため、どちらがどれだけ寄与しているかを切り分ける実験は、今も工夫が続いています。
- 自然の岩の風化とのつながり。 山火事や砂漠の昼夜の温度差で岩がはがれ落ちる現象と、同じしくみがどこまで共通するかは、地形学でいまも調べられているテーマです。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。どの石なら安全かを見た目だけで判断するのは難しい、というのが現時点での結論です。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科1年「状態変化」 | 水が水蒸気になって体積が大きく増える |
| 高校 | 物理「熱と気体」、地学「岩石」 | 理想気体の状態方程式、熱膨張、岩石のつくり |
| 高校+ | 物理(発展)「飽和蒸気圧」 | 閉じこめられた水蒸気の圧力 |
| 大学 | 材料力学・岩石力学 | 熱応力、グリフィスの破壊理論、間隙水圧 |
| 研究 | 岩石力学・地形学 | 割れる条件のばらつき、自然の風化との関係 |
| ― | 生活とのつながり | キャンプでの石の選び方、ガラス器の急な温度変化 |
- 国立天文台 編『理科年表』丸善出版(岩石の物性値、水の飽和蒸気圧)
- 山口梅太郎・西松裕一『岩石力学入門』東京大学出版会
- Jaeger, J. C., Cook, N. G. W., Zimmerman, R. W. "Fundamentals of Rock Mechanics", 4th ed., Blackwell
- ウィキペディア「熱膨張率」(熱応力の項)
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。たき火の可否や方法は、その場所の管理者・自治体・消防の指示に従ってください。