びんの口を吹くと、なぜ「ボーッ」と音が鳴るの?
― 鳴っているのは、首にいる空気のかたまりです
音を出しているのは、びんのガラスではありません。びんの首につまっている、ほんのわずかな空気のかたまりです。それが、中の空気を「ばね」にして出たり入ったりしています。びんに水を入れると音が高くなる理由も、ここから分かります。
飲み終わった空きびんの口に、そっと横から息を吹きかけます。角度がうまく合うと、「ボーッ」という低い音が鳴りはじめます。
飲みかけのびんでやると、音は高くなります。中身が減っていくほど、音はまた低くなっていきます。
吹く強さを変えても、音の高さはほとんど変わりません。強く吹けば大きくなるだけです。びんが自分の「持ち歌」を持っているようです。
理由は、大きく2つです
細い首につまった空気は、まとまって出たり入ったりできます。それが中へ動くと空気が縮み、押し返されます。ばねにつるしたおもりと同じ振動です。
吹いた息は、びんの縁でこまかく乱れます。その乱れには、いろいろな高さの音が混ざっています。びんは、そのうち自分に合う高さだけを大きく育てます。
この2つを順番に見ていきます。とくに1つめが分かると、音の高さを紙とえんぴつで計算できるようになります。
びんの中では、空気がばねになっています
空気はすかすかに見えますが、閉じこめて押すと押し返してきます。びんの中の空気は、まさにこの状態です。
いっぽう、びんの首の部分の空気は、外とつながっていて自由に動けます。この首の空気を、ひとかたまりの「せん」だと思ってください。
「せん」が少し中へ入りこむと、中の空気が縮んで押し返します。押し返されて「せん」は外へ飛び出し、今度は中が薄くなって吸い戻されます。この行ったり来たりが、1秒に200回ほどくり返されます。それが「ボーッ」という音です。
図1を見てください。左が空のびん、右が水を入れたびんです。水を入れると中の空気が減り、ばねが短く硬くなります。硬いばねは速くはずむので、音は高くなります。
吹いた息の「乱れ」から、びんが高さを選び出します
では、最初のひと押しはどこから来るのでしょうか。息を口の縁にかすめると、空気の流れは縁で細かくちぎれます。この乱れには、高い音から低い音まで、いろいろな高さが少しずつ混ざっています。
びんは、そのうち自分がはずみやすい高さのゆれだけをよく受け取ります。受け取ったゆれは首の空気を動かし、その動きがまた流れの向きをずらします。こうして同じ高さのゆれだけが往復して育っていきます。
強く吹いても高さがあまり変わらないのは、このためです。高さを決めているのは息ではなく、びんの形だからです。ただし吹きすぎると流れが乱れすぎ、音は急にかすれて消えます。
歌口に息をかすめて鳴らす楽器は、どれも同じしくみで音を始めます。オカリナはとくに近く、指で穴をふさぐたびに、びんに水を入れるのと同じ効果が起きます。穴を開けると外へ通じる道が広がり、音が高くなります。
貝がらを耳に当てると聞こえるのは、まわりの小さな物音が貝の中で響いて強められたものです。びんのように自分から鳴っているわけではありません。とても静かな場所へ持ちこむと、音はぐっと小さくなります。
まとめ
びんが鳴るのは、首の空気がおもり、中の空気がばねとなって振動するからです。息の役目は、そのはずみを始めて支え続けることだけです。中の空気の量が変われば、ばねの硬さが変わり、音の高さも変わります。
鳴っているのはガラスではなく、
びんの首にいる、空気のかたまりです。
音の速さそのものについてはやまびこは、なぜ少し遅れて聞こえてくるの?を、音が吸われて消える話は雪が積もった朝は、なぜあんなに静かなの?をあわせてどうぞ。
- 同じ形の空きびんを2本用意し、片方に水を3分の1ほど入れます。両方を吹き比べると、水を入れたほうがはっきり高く鳴ります。
- 1本のびんに、少しずつ水を足しながら吹いてみます。音は階段ではなく、なめらかに上がっていきます。
- 手のひらでびんの胴を強くにぎって吹いても、音の高さは変わりません。ガラスではなく中の空気が鳴っている証拠です。
うまく鳴らないときは、下くちびるを口の縁に軽く当て、息を「びんの向こう側の縁」に当てるつもりで細く出してみてください。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(音響学・流体力学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- ヘルムホルツ共鳴:首のついた容器で、首の空気がおもり、中の空気がばねとして振動する現象です。びんの音はこれにあたります。
- 共鳴:物が自分のはずみやすい速さでゆすられたとき、ゆれが大きく育つことです。ブランコを押すタイミングと同じ考え方です。
- 固有振動数:その物がいちばんはずみやすい、1秒あたりの往復回数です。単位はヘルツで表します。
- 開口端補正:首の空気は、首の外へも少しはみ出して一緒に動きます。そのぶん首を長めに見積もる補正です。
中学高校式で確かめる:空きびんは、どれくらいの高さで鳴るか
ヘルムホルツ共鳴の振動数は、音の速さ、首の断面積、中の空気の体積、首の長さの4つで決まります。ここでは中身が空の飲料びんを想定して、実際に数を入れてみます。記号ではなく、日本語の名前のまま計算します。
使う関係は「音の速さを6.28で割った値に、(首の断面積÷(体積×首の長さ))の平方根をかける」というものです。平方根とは、2回かけると元に戻る数のことです。
| 記号を使わず、単位をそろえて並べます | 長さの単位はセンチメートル |
| 音の速さ(20℃の空気) | 34000 cm/秒 |
| びんの首の断面積(内側の直径2cm) | 3.1 cm² |
| びんの中の空気の体積 | 350 cm³ |
| 首の長さ(開口端補正を足したもの) | 6.7 cm |
| 円周率の2倍(この関係で使う定数) | 6.28 |
| ばねの弱さを表す量(体積×首の長さ) | 350 × 6.7 = 2345 |
| 首の断面積をそれで割る | 3.1 ÷ 2345 ≒ 0.00132 |
| その平方根を確かめる(2回かけて戻るか) | 0.0363 × 0.0363 ≒ 0.00132 |
| 音の速さを6.28で割る | 34000 ÷ 6.28 ≒ 5414 |
| この2つをかける(1秒あたりの往復回数) | 5414 × 0.0363 ≒ 197 |
③ 実感に直すと、1秒に約197回の往復です。ピアノの中央のドより1オクターブほど低い「ソ」のあたりで、男性の低めの歌声と同じくらいの高さです。実際の空きびんの音とよく合います。
| 空気の体積が半分になる | 350 ÷ 2 = 175 |
| 体積が半分になると往復回数は約1.41倍になるとされる | 倍率は 1.41 |
| もとの往復回数にかける | 197 × 1.41 ≒ 278 |
約278回、つまり中央のドのあたりまで上がります。水を半分入れると音がはっきり高くなる、という実感と合います。
高校高校+試験管の音とは、実は別の話です
高校高校の物理では「閉管の気柱共鳴」を習います。細長い管の中に定常波ができ、管の長さの4倍が波長になるという話です。試験管を吹いたときの音は、これで説明できます。
高校+ところが、びんのように胴が太く首が細い形では、中に定常波が立つほど波長は短くありません。空気全体がひとかたまりで動くので、ばねとおもりの振動として扱うほうが正確です。同じ「吹いて鳴らす」でも、形によって使う模型が変わります。
大学集中定数として扱えるのは、波長が容器よりずっと長いとき
音響学では、容器の大きさが波長にくらべて十分小さいとき、空気を「質量」と「ばねの硬さ」に分けて扱えます。これを集中定数近似といいます。びんの音は波長がおよそ1.7mで、びんの大きさの何倍もあるため、この近似がよく成り立ちます。首の外へはみ出して動く空気は、開口端補正として首の長さに足します。補正量は口の半径のおよそ1.7倍とされています。
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 鳴り始める条件 どのくらいの息の速さと角度で音が立ち上がるかは、流れと音の行き来で決まります。細かい予測は、いまも計算と実験の両方で調べられています。
- 大きく鳴らしたときのふるまい 音が大きくなると、首の出入り口で渦ができてエネルギーが逃げます。この損失の見積もりは、単純な関係では合わなくなります。
- 形の効き方 胴の形や、首のつけ根のなだらかさが音の高さをどれだけ変えるかは、簡単な関係には入っていません。個々の容器では実測が必要です。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。手元のびんで計算が数パーセントずれても、形のちがいのぶんだと考えてください。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科1分野・音の性質 | 音は振動であること、高さは振動の速さで決まること |
| 高校 | 物理・単振動と気柱の共鳴 | ばねとおもりの振動、閉管の共鳴とのちがい |
| 高校+ | 物理・発展(開口端補正) | 首の外へはみ出す空気を長さに足す考え方 |
| 大学 | 音響学・流体力学 | 集中定数近似、渦による損失 |
| 研究 | 空力音響学 | 鳴り始めの条件、大きく鳴らしたときのふるまい |
| ― | 生活とのつながり | オカリナ、車の窓を少し開けたときの低い響き、部屋の音の調整 |
- ヘルマン・フォン・ヘルムホルツ『音感覚論』(1863年。共鳴器を使って音を分析した原典)
- キンスラー ほか『音響学の基礎』(容器の共鳴と集中定数近似をあつかう標準的な教科書)
- 日本音響学会編『音響用語辞典』(共鳴・固有振動数・開口端補正の定義)
- フレッチャー、ロッシング『楽器の物理学』(歌口で音が立ち上がるしくみの解説)
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。実際のびんは形がさまざまで、計算どおりの高さにならないこともあります。