🦴 物質・材料 🩻 体の中のふしぎ 予備知識なしでOK 読了 約7分

骨は、なぜ何年かごとに作り替えられているの?
― 壊す細胞がいなければ、骨はかえって弱くなります

骨は、体の中でいちばん「変わらないもの」に見えます。ところが実際には、あなたの骨は今この瞬間も、少しずつ壊され、同じ場所に新しく作り直されています。しかも、この「壊す」係がいなくなると、骨は強くなるどころか、もろくなってしまいます。

公開:2026.09.07 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

博物館に置かれた骨の標本を思い出してください。白くて、かたくて、石のようです。とても「生きている」ようには見えません。

ところが、腕を痛めて数か月ギプスをつけていた人の話を聞くと、外したときの腕は細くなっているだけでなく、骨そのものもうすくなっているといいます。

石でできた柱なら、使わなかったからといって細くなったりはしません。骨は、明らかに石とは違うふるまいをしています。

骨が作り替えられている理由は、2つです

1
小さなひびを、たまる前に捨てている

毎日の歩行や運動で、骨の内部にはごく小さなひびが入ります。骨はそのひびを表からふさぐのではなく、ひびの入った部分ごと掘り出して捨て、新しい骨で埋め直しています。

2
よく使う向きに、材料を寄せている

骨は、力がよくかかる場所を厚くし、かからない場所をうすくします。体は限られた材料を、必要なところへ引っ越しさせているのです。

この2つは、どちらも「一度こわす」ことなしには成り立ちません。順に見ていきます。

骨の中では、掘る係と埋める係が組になって働いている

骨の内部には、二種類の細胞がいます。ひとつは古い骨を溶かして掘り進む係、もうひとつはそのあとを追いかけて新しい骨で埋め戻す係です。前者を破骨細胞、後者を骨芽細胞と呼びます。

この二つは、ばらばらに働いているのではありません。掘る係が先に穴をあけ、そのあとを埋める係が追いかけます。図1を見てください。骨の中を、小さなトンネル工事の一団がゆっくり進んでいくような光景です。

ひとつの現場が掘りはじめてから埋め終わるまで、数か月かかるとされています。そして全身では、この現場が同時に何百万か所も動いていると考えられています。標本のように静かに見える骨の中で、休みなく工事が続いているわけです。

骨の中を、工事の一団がゆっくり進んでいく ← 早く始まった側 これから掘る側 → 埋め直された新しい骨 掘られた穴 まだ掘っていない古い骨 先頭:掘る係 (破骨細胞) うしろ:埋める係 (骨芽細胞) 工事の一団が進む向き(右の矢印)
図1:骨の作り替え。工事は右へ向かって進みます。右寄りにあるオレンジ色の丸が古い骨を掘る係、その左うしろにいる緑色の丸が新しい骨で埋め戻す係です。掘られた穴は黒く、埋め終わった左側は新しい骨に変わっています。

使わない骨がうすくなるのは、材料をよそへ回しているから

掘る係と埋める係の働きが同じだけなら、骨の量は変わりません。ところがこの二つは、その場所にかかる力によって、はたらき方の強さを変えます。よく力のかかる場所では埋める側が勝ち、骨が厚くなります。力のかからない場所では掘る側が勝ち、骨はうすくなります。

ギプスの中の腕がやせるのは、体が手を抜いたからではありません。使っていない場所の材料を回収して、必要なところへ回しているのです。カルシウムは食べものから取り込むほかなく、体にとっては貴重品です。使っていない柱に置いておく余裕はありません。

同じことが、宇宙でも起きます。重力のほとんど無い環境では、体を支える骨に力がかからなくなります。宇宙飛行士は運動を課されていますが、それでも骨の量は減っていくとされています。地上の私たちの骨の厚みは、毎日かかっている重力への返事なのです。

💡 骨は、かたい材料としなやかな材料の組み合わせ

骨は石とは違い、二つの材料でできています。ひとつはリン酸カルシウムを主とするかたい粒、もうひとつはコラーゲンというしなやかな繊維です。かたい粒だけならチョークのように折れやすく、繊維だけならゴムのように支えられません。両方あるおかげで、かたさとねばりを両立しています。鉄筋コンクリートが、鉄筋とコンクリートの組み合わせで強くなるのと似た考え方です。

💡 「壊す係」がいないと、骨は弱くなる

掘る係の働きが生まれつき弱い病気があり、その場合の骨は厚く重くなります。ところがその骨は、かえって折れやすいことが知られています。古い骨とひびが捨てられずに残ってしまうからです。骨の強さは量だけでは決まらない、という例とされています。

まとめ

骨は、できあがったら終わりの部品ではありません。掘る係と埋める係が組になって全身をめぐり、ひびの入った古い骨を捨て、力のかかる場所に材料を寄せ直しています。だから使えば厚くなり、使わなければうすくなります。標本の白い骨からは想像できませんが、あなたの骨は今日も工事中です。

骨は、変わらないから強いのではありません。
作り替え続けているから、強くいられるのです。

形そのものが強さを生むしくみはたまごの殻は、なぜ手で握っても割れないのに、ふちで軽く当てると割れるの?で、体が自分で自分を直していく別の例は切り傷は、どうやってふさがるの?で取り上げています。

🧪 自分で確かめてみる
  1. 食べ終わった鶏の骨をよく洗って乾かし、手で少し曲げてみます。かたい石のようにいきなり割れるのではなく、わずかにしなってから折れることがわかります。かたい粒だけの材料ではない証拠です。
  2. 同じ骨を、食酢に2〜3日ひたしてみます。かたい粒の成分が酢に溶け出し、しなやかな繊維の側が残るため、骨がゴムのように曲がるようになります(細い骨ほど変化がはっきり出ます)。
  3. 利き手と反対の手の、手首まわりの太さを測って比べてみます。よく使う側のほうがわずかに太いことがあります。テニスなど片手を多く使う競技をしている人では、差が出やすいとされています。

生の骨や肉汁は雑菌がつきやすいので、必ずよく加熱・洗浄したものを使い、触ったあとは手を洗ってください。酢につけた骨は食べないでください。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「生物基礎・生物」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(骨代謝学・生体材料学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:1日にどれだけの骨が入れ替わっているのか

体の中のカルシウムは、その大部分が骨にあります。骨が1年に入れ替わる割合から、1日あたりに動くカルシウムの量を見積もってみます。使う単位は g(グラム)と mg(ミリグラム)です。

① もとになる数値
記号と単位のきまりg はグラム、mg はミリグラム(1 g = 1000 mg)
大人の体にあるカルシウムの量約 1000 g(その大部分が骨にあるとされる)
骨が1年に入れ替わる割合約 10%(大人でのおおよその目安とされる)
牛乳コップ1杯(200 mL)のカルシウム約 220 mg
1年の日数365 日
② 計算してみる
1年に入れ替わるカルシウム(g)1000 × 0.1 = 100
1日あたりに直す(g)100 ÷ 365 ≒ 0.27
g を mg に直す0.27 × 1000 = 270

1日あたり約 270 mg、つまり牛乳コップ1杯強にあたるカルシウムが、骨から出ていき、また骨に戻っている計算になります。骨は動かない倉庫ではなく、出入りのある問屋のような場所だとわかります。

高校高校+なぜ「壊してから作る」という遠回りをするのか

高校金属や樹脂は、繰り返し力がかかると内部に小さなひびが育ち、あるとき一気に折れます。これを疲労と呼びます。骨も同じ材料の宿命を負っていますが、生きているため、ひびの入った場所を丸ごと入れ替えるという対処ができます。表からはふさげない内部のひびには、掘って捨てるほうが確実なのです。

高校+骨の中に埋まった骨細胞は、その場所にひびが入ると死んでしまいます。この死が「ここを掘れ」という合図になり、掘る係が呼ばれると考えられています。つまり骨は、傷んだ位置を自分で知らせるしくみを内蔵していることになります。

大学力が形を決める、という考え方

骨の形は、そこにかかる力の分布に合わせて変化する、という考え方は19世紀から知られており、提唱者の名からウォルフの法則と呼ばれます。20世紀後半には、骨の変形の大きさに「ちょうどよい幅」があり、それを下回れば骨が減り、上回れば増える、という枠組みで整理されました。生体材料学では、この性質を人工関節の設計にも使います。金属の部品が骨よりかたすぎると、金属が力を受け持ってしまい、周りの骨に力が伝わらず、かえって骨がやせてしまうためです。

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。骨は静かに見えて、じつは研究が今も動いている場所です。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科・動物のからだのつくり骨と細胞のはたらき
高校生物基礎・体内環境の維持/物理基礎・力と変形掘る係と埋める係の釣り合い
高校+生物・細胞どうしの情報のやりとりひびが合図になるしくみ
大学骨代謝学・生体材料学・整形外科学ウォルフの法則と人工関節の設計
研究骨生物学・宇宙医学力を感じるしくみ、宇宙での骨量の減り
生活とのつながり運動と食事が骨の量に効く理由
参考・出典
  1. 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン(日本骨粗鬆症学会ほか)― 骨リモデリングと骨量の加齢変化の基礎。
  2. Frost, H. M., "Bone's mechanostat: a 2003 update", The Anatomical Record, 275A (2003) ― 骨の変形の大きさと骨量の増減の関係。
  3. Wolff, J., "Das Gesetz der Transformation der Knochen" (1892) ― 骨の形が力に応じて変化するという古典的な提唱。
  4. アメリカ航空宇宙局(NASA)― 有人宇宙活動の解説ページ(宇宙滞在が体に及ぼす影響の概説)。
  5. 日本食品標準成分表(文部科学省)― 牛乳のカルシウム量。

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。骨の量や強さには個人差が大きく、体調や治療に関わる判断は医師など専門家にご相談ください。