春じゃないのに、なぜ9月に鼻がムズムズするの?
― 秋の花粉は、背の低い草から飛んでいます
秋の花粉は、春の花粉とは出どころが違います。高い木ではなく、道ばたの低い草から出ています。だから飛ぶ距離がぐんと短く、「近づかない」だけで効き目があります。
9月の朝、くしゃみが止まりません。鼻水も出ます。「風邪をひいたかな」と思います。
でも熱はありません。のども痛くありません。しかも、去年の同じころも同じでした。
春の花粉は終わったはずです。それなのに、なぜ今なのでしょう。
理由は2つだけです
春はスギやヒノキという高い木が花粉を出します。秋に出すのは、ブタクサやヨモギといった背の低い草です。時期が半年ずれているだけで、しくみは同じです。
花粉そのものに毒はありません。体の守りのしくみが、花粉を危険なものだと勘違いして覚え、次からは全力で追い出そうとします。その追い出す動作が、くしゃみと鼻水です。
この2つがそろうと、秋の症状になります。そして1つめの「背が低い」という点が、春との大きな違いを生みます。
背が低いと、花粉は遠くまで飛べません
花粉はとても軽い粒ですが、それでも空気の中をゆっくり落ちていきます。高いところから出れば、落ちきるまでに時間がかかります。その長い時間のあいだ、ずっと風に運ばれ続けます。
スギの花粉は、高さ20メートルほどの木のてっぺんから出ます。落ちきるまでに長くかかるので、風に乗って何キロメートルも移動できます。だから春は、近くに木が1本もなくても症状が出ます。
いっぽうブタクサの背丈は1メートルほどです。出た花粉は、すぐ地面に届いてしまいます。図1を見てください。同じ風でも、届く距離が桁違いになるのが分かります。
なぜ、去年までは平気だったのでしょう
「急に花粉症になった」という話をよく聞きます。これは体の守りのしくみの、覚える性質から説明できます。
体の中には、外から入ったものを見分ける細胞がいます。この細胞が花粉を「敵」と判定すると、その形に合う目印の道具を作って用意しておきます。これが1回目です。このときは、まだ何も起きません。
用意ができたあと、また同じ花粉が入ってくると、今度はすぐに見つかります。鼻の粘膜にいる細胞が刺激され、たくわえていた物質を放出します。その物質が神経や血管をゆさぶり、くしゃみ・鼻水・鼻づまりが起きます。図2の3つの段階です。
つまり「去年まで平気だった」のは、体がまだ用意を終えていなかっただけ、と考えられています。用意が終わった年から、急に始まります。
秋の鼻の症状は、風邪とよく間違えられます。目安になるのは、さらさらの鼻水が続くこと、目やのどのかゆみがあること、熱が出ないこと、そして毎年同じ時期に起きることです。ただし見分けは簡単ではありません。長引くときは医療機関で調べてもらうのが確実です。
ブタクサやヨモギは、河川敷・空き地・線路ぎわ・道路のわきなど、手入れされていない地面によく育ちます。ジョギングや犬の散歩の道を少し変えるだけで、吸う量が変わることがあります。
まとめ
秋の鼻のムズムズは、風邪ではなく草の花粉かもしれません。春の花粉と違って、出どころが低いところにあります。そのぶん飛ぶ距離が短く、自分の行き先を変えるという単純な方法が効きます。
春の花粉は空から降ってきます。
秋の花粉は、足もとから立ちのぼっています。
体が「敵」を覚えてしまうという同じしくみは、「ハチに2回刺されると危ない」は、本当なの?でも主役になっています。鼻がつまると味が分からなくなる理由はかぜをひくと、なぜ食べ物の味がしなくなるの?で説明しています。
- 透明なセロハンテープを5センチほど切り、粘着面を上にして紙の上に貼りつけます。これを窓ぎわやベランダに半日置きます。
- 半日たったら、テープを透明なカードやガラスにそっと貼ります。虫めがねで見ると、小さな粒がついているのが分かります。
- 同じことを、風の強い日と雨の日にくらべます。雨の日は粒が減るはずです。空気中の粒が雨で洗い落とされるためです。
花粉かどうかの判定には顕微鏡が要ります。ここで確かめられるのは「日によって空気の汚れ具合が変わる」ことまでです。症状のある人は、外に出る時間を短くして行ってください。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「生物基礎」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(免疫学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 風媒花:虫ではなく風に花粉を運ばせる花のことです。スギもブタクサもこの仲間で、量を多く出すかわりに、派手な花びらや蜜を持ちません。
- 抗体:体が作る、特定の相手にだけくっつく目印の道具です。花粉症では、この目印が鼻の細胞の表面に待ちかまえています。
- ヒスタミン:鼻や皮ふの細胞がたくわえている物質です。放出されると血管が広がり、かゆみやくしゃみの引き金になります。市販薬の多くは、この物質のはたらきを抑えるものです。
中学高校式で確かめる:出る高さが変わると、届く距離はどれだけ変わるのか
花粉は空気の中をほぼ一定の速さで落ちていきます。落ちきるまでの時間に風の速さをかければ、おおよその到達距離が出ます。記号の意味は下のとおりです。
| 記号 | 意味と単位 |
|---|---|
| H | 花粉が出る高さ。単位はメートル |
| V | 花粉が落ちる速さ。単位はメートル毎秒 |
| U | 風の速さ。単位はメートル毎秒 |
| 高い木から出る高さ H | 20 |
| 低い草から出る高さ H | 1 |
| 花粉が落ちる速さ V | 0.02(秒速2センチほどとされています) |
| そよ風の速さ U | 3 |
| 木の花粉が落ちきるまでの秒数 | 20 ÷ 0.02 = 1000 |
| そのあいだに運ばれる距離(メートル) | 3 × 1000 = 3000 |
| 草の花粉が落ちきるまでの秒数 | 1 ÷ 0.02 = 50 |
| そのあいだに運ばれる距離(メートル) | 3 × 50 = 150 |
③ 実感に直すと、3000メートルは駅3つ分ほど、150メートルは道の向かいの空き地までです。高さが20分の1になっただけで、届く先が「町じゅう」から「すぐそこ」に縮みます。実際の空では上向きの風もあるため、どちらももっと遠くまで運ばれます。それでも、この差の大きさは変わりません。
高校高校+なぜ、無害なものに反応してしまうのか
高校生物基礎では、体を守るしくみを自然免疫と獲得免疫に分けて習います。花粉症は後者のうち、本来は寄生虫などに向けられる型の反応が、無害な花粉に向いてしまったものと説明されます。
高校+この型の反応では、作られた抗体が肥満細胞という細胞の表面に結合して待機します。そこへ花粉の成分が来て、となり合う2つの抗体を同時に橋わたしすると、細胞が一気に中身を放出します。橋わたしが引き金になるので、ごく少量でも強い反応が起こります。
大学症状が「早い波」と「遅い波」に分かれる理由
免疫学では、花粉を吸ってから数分で起きる反応と、数時間おくれて起きる反応を分けて考えます。前者はたくわえられていた物質がそのまま出るもので、くしゃみや水のような鼻水が中心です。後者は細胞が新しく作った物質や、集まってきた別の細胞によるもので、鼻づまりが中心になります。薬の種類によって効く波が違うのは、このためとされています。
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- なぜ人によって差が出るのか。 同じ量を吸っても、症状が出る人と出ない人がいます。体質、幼いころの環境、腸の中の細菌の構成など、いくつもの要因が挙がっていますが、決め手は分かっていません。
- 大気の汚れとの関係。 排気ガスなどの微粒子が反応を強めるのではないか、という指摘があります。実験室では示唆的な結果も出ていますが、実際の町でどれだけ効いているかは評価が定まっていません。
- 気候の変化で、どこまで増えるのか。 暖かくなると草の育つ期間がのび、花粉の飛ぶ期間も長くなると考えられています。ただし雨や風の変化も同時に効くため、将来の予測には幅があります。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。特に「なぜ自分に症状が出たのか」という問いには、まだ誰も正確には答えられません。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・植物のなかまと生殖 | 風に花粉を運ばせる植物の話 |
| 高校 | 生物基礎・免疫 | 体が覚えてから反応するという流れ |
| 高校+ | 生物・細胞と情報の伝達 | 2つの抗体が橋わたしされる引き金 |
| 大学 | 免疫学・アレルギー学 | 早い波と遅い波に分ける見方 |
| 研究 | 環境疫学 | 大気の汚れや気候の変化との関係 |
| ― | 生活とのつながり | 通る道を変える、洗濯物の干し方を変える |
- 環境省「花粉症環境保健マニュアル」(花粉を出す植物の種類と飛散の時期について)
- 日本アレルギー学会「鼻アレルギー診療ガイドライン」(症状の分類と治療の考え方について)
- 気象庁「風の強さと吹き方」(風の速さの目安について)
- 『標準免疫学』医学書院(抗体と肥満細胞のはたらきについて)
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。症状の診断や薬の選択については医療の専門家の判断が必要です。鼻や目の症状が長引くとき、息苦しさをともなうときは、自己判断せず医療機関に相談してください。