気温は32℃なのに、アスファルトはなぜ60℃を超えるの?
― 太陽が直接あたためているのは、空気ではなく地面です
同じ日ざしの下でも、空気は32℃、地面は60℃を超えることがあります。太陽の光を受け止めているのが、空気ではなく地面だからです。しかも乾いた地面には、熱を逃がすための水がありません。
真夏のよく晴れた昼下がり。天気予報は「今日の最高気温は32℃」と言っていました。
ところが、サンダルを脱いで駐車場を歩こうとすると、足の裏が熱くて数歩も進めません。すぐ横の芝生に移ると、同じ日ざしなのに、ふしぎと歩けてしまいます。
気温はどちらも同じ32℃のはずです。それなのに、どうしてこんなに違うのでしょうか。
理由は、大きく2つです
太陽の光は空気をあたためないまま通り抜け、地面で吸い込まれます。あたたまるのは、まず地面のほうです。空気は、その地面から後になってあたためられているだけです。
草や土は、水を蒸発させて熱を捨てています。乾いたアスファルトにはその水がありません。受け取った熱は、そのまま表面の温度を上げるほうに回ります。
この2つが重なると、空気の温度と地面の温度は、驚くほど離れていきます。まず1つめから見ていきます。
あたためられているのは、空気ではなく地面です
太陽の光の大半は、目に見える光と、そのすぐ外側の光でできています。空気をつくる窒素や酸素は、この範囲の光をほとんど吸いません。だから日ざしは空気の中をほぼ素通りし、地面まで届きます。
光を吸い込んで熱に変えるのは、地面のほうです。地面が熱くなり、その熱がすぐ上の空気に伝わっていきます。つまり空気は、太陽に直接あたためられているのではありません。地面という「ストーブ」の上にいるだけなのです。
天気予報の気温が地面の温度と違うのには、もう一つ理由があります。気象の観測では、気温は地上1.5メートルほどの高さの、風通しのよい日かげで測ると決められています。地面の熱がうすまった高さの、しかも日の当たらない場所の数字です。「32℃」は、足の裏がふれる温度とはまったく別ものなのです。
草地が涼しいのは、水を捨てているからです
図1の右側にある太い矢印が、草地の切り札です。水が水蒸気に変わるとき、まわりから多くの熱を奪っていきます。汗をかいた肌に風が当たると涼しいのと、まったく同じしくみです。
草地や土は、根から吸い上げた水や、すき間にたくわえた水を、日ざしを受けているあいだじゅう蒸発させ続けます。受け取った熱の半分近くが、この蒸発に使われるとされています。残った分だけが温度を上げるので、表面は40℃前後で止まります。
乾いたアスファルトには、蒸発させる水がありません。しかも黒っぽいので、届いた光をよく吸い込みます。逃がし方は「熱として放射する」「すぐ上の空気をあたためる」の2つだけです。この2つで受け取る量に追いつくところまで温度が上がり、その落ち着き先が60℃前後というわけです。
打ち水をすると路面が冷えるのは、まいた水が蒸発して熱を持ち去るからです。逆に言えば、水がなくなった瞬間に効果は終わります。日なたの真昼にまくとすぐ乾いてしまうため、夕方や日かげにまくほうが涼しさは長もちするとされています。
じゃあ、どうすればいいの?
60℃という表面温度は、うっかりふれると短い時間でやけどをする温度です。とくに、背の低い子どもや、地面に直接ふれる動物にとっては、大人が感じているよりずっと危険な高さにあります。
- 地面に手のひらを3秒あててみる3秒がまんできない熱さなら、素足や、犬の足の裏には熱すぎます
- 転んだときは、すりむけよりも先に熱さを疑う夏の路面では、ふれた面が赤くなることがあります。すぐ流水で冷やしてください
- 日かげと草の上を選んで歩く同じ時刻でも、地面の種類と日かげのあるなしで20℃以上ちがうことがあります
天気予報の気温は、日かげで測った空気の温度です。日なたの地面や、車の座席・すべり台などの温度は、それよりずっと高くなります。ふれてしまったときは、まず流水で十分に冷やしてください。水ぶくれができたり広い範囲が赤くなったりした場合は、自己判断せず医療機関で診てもらってください。
まとめ
日ざしは空気を素通りして地面に届き、地面だけが熱くなります。そして乾いた地面には、水を蒸発させて熱を捨てるという逃げ道がありません。だから、気温32℃の日でもアスファルトは60℃を超えるのです。
太陽があたためているのは、空気ではなく地面。
そして地面は、水がなければ熱を捨てられません。
街全体が暑くなるしくみは都市はなぜ暑いの?で、水がないと昼と夜の差が極端になる話は砂漠は昼あんなに暑いのに、夜はなぜ凍えるほど寒くなるの?で、日ざしが閉じこめられる例は日なたに停めた車の中は、なぜ外より20度以上も暑くなるの?で扱っています。
- よく晴れた日の昼すぎ、日なたのアスファルト・日なたの土や草・日かげのアスファルトの3か所を選びます。
- それぞれの上に、ふれずに手のひらを5センチほど近づけ、伝わってくる熱さを比べます。熱いと感じたら、無理にさわらないでください。
- 次に、日なたのアスファルトに水を少しまき、5分後にもう一度同じことをします。乾いた場所との差が、水が熱を持ち去った分です。
同じ「気温32℃の日」の中に、これだけ違う温度が同居していることが体で分かります。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理基礎」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(気象学・伝熱工学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 日射:太陽から地面に届くエネルギーのこと。晴れた夏の正午には、1平方メートルあたり1000ワット近くになるとされています。
- 反射率(アルベド):届いた光のうち、はね返す割合。新しいアスファルトは1割ほどしかはね返さず、残りを吸い込みます。
- 潜熱:液体が気体に変わるときに出入りする熱。温度計の数字を変えずに熱を運ぶので「かくれた熱」と呼ばれます。
- 熱収支:地面が受け取る熱と、逃がす熱のつり合い。表面温度は、この2つが等しくなる値で落ち着きます。
中学高校式で確かめる:草地はどれだけの水を捨てているのか
草地が涼しいのは、水を蒸発させているからです。では、その水はどれくらいの量なのでしょうか。1平方メートルの草地について、1時間ぶんを見積もってみます。
| 真夏の正午に地面へ届く日射 | 1平方メートルあたり およそ1000ワット |
| 草地が吸い込む割合 | およそ0.8(残りははね返る) |
| 吸った熱のうち蒸発に回る割合 | およそ0.5 |
| 水1グラムの蒸発に要る熱 | およそ2260ジュール |
| 草地が吸い込む熱(ワット) | 1000 × 0.8 = 800 |
| そのうち蒸発に回る熱(ワット) | 800 × 0.5 = 400 |
| 1秒に蒸発する水の量(グラム) | 400 ÷ 2260 ≒ 0.18 |
| 1時間ぶんに直す(グラム) | 0.18 × 3600 = 648 |
1平方メートルあたり、1時間でおよそ648グラム。コップ3杯分ほどの水が、熱といっしょに空へ出ていっている計算になります。アスファルトはこの逃げ道を持たないので、そのぶん表面の温度を上げるしかありません。
高校高校+表面の温度は、どこで止まるのか
高校あたためられた物体は、温度が高いほど強く赤外線を出します。地面の温度が上がるほど逃げていく熱も増え、やがて受け取る熱と等しくなります。そこで温度の上昇が止まります。
高校+放射で逃げる熱は、絶対温度の4乗に比例するとされています。4乗で効くので、温度が上がると逃げ方は急に強くなります。逆に言えば、逃げ道が放射しかない乾いた面は、放射だけで釣り合う高い温度まで上がらなければ止まれません。
大学ボーエン比という見方
気象学では、地面から空気へ直接伝わる熱と、蒸発として運ばれる熱の比をボーエン比と呼びます。海面や十分に湿った草地では小さく、乾いた舗装面や砂漠では大きくなります。都市の暑さを扱う研究では、舗装や建物によってこの比が土地ごとにどう変わるかを地図にし、街の温度の分布を説明する材料にしています。
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 保水性のある舗装がどこまで効くのか。 水をたくわえて蒸発させる舗装が試されていますが、乾く速さや長い年月での目づまり、実際の街区での効き方には幅があり、評価が続いています。
- 路面の熱が人に届く量。 人が受ける熱には、日ざしだけでなく足もとからの放射も含まれます。この足もとぶんをどう測り、どう体感の指標に入れるかは、まだ方法が定まりきっていません。
- 街路樹の日かげと蒸発の割り振り。 木が涼しさを生むとき、日ざしをさえぎる効果と、葉から水を蒸発させる効果のどちらがどれだけ効いているかは、樹種や水の条件で変わり、決着していません。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。数値は条件によって大きく動くので、目安として読んでください。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・気象と天気の変化/状態変化 | 気温の測り方、蒸発が熱を奪うこと |
| 高校 | 物理基礎・熱/地学基礎 | 放射で熱が逃げること、熱のつり合い |
| 高校+ | 物理・熱力学の発展 | 放射が絶対温度の4乗で効く話 |
| 大学 | 気象学・伝熱工学 | 地表の熱収支、ボーエン比 |
| 研究 | 都市気候・環境工学 | 保水性のある舗装、足もとからの放射の評価 |
| ― | 生活とのつながり | やけどを避ける、歩く場所を選ぶ、打ち水の時間帯 |
- 環境省・ヒートアイランド対策(舗装面と緑地の表面温度、対策技術の解説)
- 気象庁『地上気象観測指針』(気温は地上1.25〜2.0メートルの、風通しのよい日かげで測ると定められている)
- 近藤純正『水環境の気象学』朝倉書店(地表面の熱収支と、蒸発が担う熱の割合)
- 日本ヒートアイランド学会編『ヒートアイランドの事典』朝倉書店(保水性のある舗装や街路樹の効果の評価)
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。やけどが疑われるときや体調に不安があるときは、自己判断せず医療機関に相談し、暑さに関する情報は気象庁・自治体等の発表や指示に従ってください。