光が「波」だと、どうやって分かったの?
― 丸い影のまん中に、あるはずのない光の点が現れました
光は小さな粒の流れなのか、それとも水面のような波なのか。この論争に決着をつけたのは、意外にも波の考えに反対していた人の計算でした。「もし波なら、丸いものの影のまん中が明るく光るはずだ。そんなばかなことはない」。ところが、実際に確かめると、影のまん中に小さな光の点がぽつんと現れたのです。
晴れた日に、10円玉を地面の上にかざしてみます。地面には、丸くて黒い影ができます。影のまん中は、もちろん真っ暗です。
光はまっすぐ進み、10円玉がそれをさえぎった。だから、その後ろには光が届かない。ほとんどの人は、そう考えるはずです。
ところが条件をそろえると、この「いちばん暗いはずの場所」に、光の点が現れます。しかもその明るさは、円板が無いときとほぼ同じになるとされています。
影のまん中が光ることが、なぜ決め手になったのか
波は、ものの縁で少しだけ裏側へ回り込みます。丸い円板の縁は、どこから見ても影のまん中まで同じ距離です。だから回り込んだ波は、まん中で山と山がぴったり重なり、明るくなります。
光が粒なら、円板にぶつかった粒は止まり、影の中には入れません。影のまん中は、縁から最も遠い場所です。粒の考えでは、そこが光る理由はどこにもありません。
つまり、影のまん中が光るかどうかは、2つの考えがまったく逆の答えを出す場所でした。どちらが正しいかを、たった一度の観察で決められる「勝負所」だったのです。
反対派の計算が、波の考えを証明してしまった
19世紀のはじめ、光は粒だという考えが主流でした。あのニュートンの考えとして、100年以上信じられてきたからです。イギリスのヤングが光の波の性質を示す実験を発表しても、強い批判を受けたとされています。
1818年、パリの科学アカデミーは「光が影の縁で曲がる現象」を説明する論文を募りました。応募したのが、道路や橋をつくる技師だったフレネルです。彼は、光を波として扱い、影の縁にできるしま模様を細かく計算してみせました。
審査員の一人で、粒の考えを支持していた数学者ポアソンは、この理論を丸い円板に当てはめました。すると、影のまん中が明るくなるという答えが出てきます。ポアソンは、これを理論のおかしさを示す証拠として突きつけたとされています。図1は、その理由を横から見たものです。
審査委員長が確かめると、本当に光った
この「ばかげた予言」を、審査委員長のアラゴが実際に試しました。直径2ミリほどの小さな金属の円板をガラスに貼りつけて使ったとされています。暗くした部屋で点のような光を当てると、影のまん中に、くっきりとした光の点が見えました。
こうしてフレネルは賞を受け、光が波であることは広く認められていきました。反対派の計算が、相手の理論の最大の証拠になってしまったのです。この光の点は、今では「アラゴの点」とも「ポアソンの点」とも呼ばれています。
図2のつまみで、円板からスクリーンまでの距離を変えてみてください。離すほど、光の点は大きくなります。それでも直径2ミリの円板なら、1メートル離して0.4ミリほどしかありません。
では、なぜふだんは見えないの?
10円玉の影のまん中が光って見えたことは、まずないはずです。理由は主に3つあります。
1つ目は、太陽が点ではないことです。太陽は空で約0.5度の広がりを持つ円です。太陽のあちこちから来た光が、少しずつずれた場所に光の点をつくり、ぼやけて消えてしまいます。
2つ目は、縁のでこぼこです。光の波の長さは、1ミリの2000分の1ほどしかありません。縁がわずかに欠けているだけで、まん中での波のそろい方がくずれます。3つ目は、日光がいろいろな色の混ざった光で、色ごとに点の大きさが違うことです。
この光の点は、1723年ごろにイタリア出身の天文学者マラルディが、すでに見ていたとされています。ただ、意味が分からないまま忘れられていました。理論があってはじめて、同じ光が「決定的な証拠」に変わったのです。
まとめ
光が波なら、丸い影のまん中で、縁から回り込んだ波がそろって明るくなります。粒なら、そこは真っ暗のはずです。反対派のポアソンが計算で示したこの予言を、アラゴが実験で確かめました。光の点は小さく、太陽のような広がった光ではぼやけるため、ふだんは気づけません。
いちばん暗いはずの場所が光った。
その一点が、光の正体を決めました。
光が波である証拠は、身近にもあります。シャボン玉が虹色に見える理由や、傘の布ごしに街灯が格子模様に見える理由も、同じ波の重なりです。光の速さを初めて測った話は、木星の月を使った方法で読めます。
- 明るい窓や白い壁のほうを向き、人さし指と中指を目の前5センチほどに立てます。
- 2本の指をゆっくり近づけ、すき間を紙1枚ぶんほどまで細くします。
- すき間の中に、指と平行な細い黒いすじが何本も見えたら、それが光の回り込みと重なりです。
光の点そのものを見るには、レーザー光と小さな鉄の玉などが必要です。レーザー光は、のぞき込んだり人の目に向けたりしないでください。太陽を直接見るのも避けましょう。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(光学・波動光学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 回折(かいせつ):波が、ものの縁で裏側へ回り込む現象。音が塀の向こうに届くのも同じです。
- 干渉(かんしょう):2つ以上の波が重なり、山どうしなら強め合い、山と谷なら弱め合う現象。
- アラゴの点(ポアソンの点):丸い障害物の影のまん中に現れる、光の点のこと。
中学高校式で確かめる:光の点の大きさ
光の点の直径を見積もります。直径2ミリの円板(半径1ミリ)、緑の光、スクリーンまで1メートルの場合です。長さの単位はすべてミリメートルにそろえます。
| 記号で書くと | d ≒ 0.77 × λ × L ÷ a |
| 言葉で書くと | 光の点の直径 = 0.77 × 光の波長 × スクリーンまでの距離 ÷ 円板の半径 |
| どこから来る式か | 縁の各点から来た波を影のまん中の近くで足し合わせると、まん中では全部がそろい、少し離れるとずれて打ち消し合います。最初に真っ暗になる位置から決まる係数が 0.77 です(ベッセル関数の最初のゼロ点 2.405 を π で割った値)。 |
| 記号 | 意味と単位 |
| d | 光の点の直径(ミリメートル) |
| λ | 光の波長(ミリメートル) |
| L | 円板からスクリーンまでの距離(ミリメートル) |
| a | 円板の半径(ミリメートル) |
| 緑の光の波長 λ | 0.0005 mm(0.5 マイクロメートル) |
| スクリーンまでの距離 L | 1000 mm(1メートル) |
| 円板の半径 a | 1 mm |
| 太陽の見かけの大きさ | 約0.0093 ラジアン(約0.5度) |
| 波長 × 距離 | 0.0005 × 1000 = 0.5 |
| 円板の半径で割る | 0.5 ÷ 1 = 0.5 |
| 係数をかけて、光の点の直径(mm) | 0.5 × 0.77 ≒ 0.39 |
| 比べる:太陽光でのぼやけ幅(mm) | 0.0093 × 1000 = 9.3 |
| ぼやけ幅は光の点の何倍か | 9.3 ÷ 0.39 ≒ 24 |
光の点は直径0.4ミリほどです。太陽の光だと、太陽のあちこちから来た光で点の位置が約9ミリもずれ、点の24倍ほどの範囲にぼやけます。アラゴが点のような光源と暗い部屋を使ったのは、このためです。
高校高校+波の重なりで、明るさが決まる
高校高校物理では、ヤングの実験(二重スリット)で、2つの道のりの差が波長の整数倍なら明るくなることを学びます。アラゴの点は、その考えを円板の縁全体に広げたものです。影のまん中では、縁のどの点からの道のりの差もゼロなので、必ず明るくなります。
高校+フレネルは、波の先端の各点が新しい波の出どころになるというホイヘンスの原理に、波どうしの重なりを組み合わせました。円板のまわりを同心円の帯(フレネル帯)に分けて足し合わせると、影のまん中の明るさは、円板が無いときとほぼ同じになります。
大学フレネル回折とベッセル関数
大学の光学では、これを「フレネル回折」として扱います。ホイヘンス=フレネルの原理(フレネル=キルヒホッフの回折積分)を円板に当てはめると、軸のすぐ近くの明るさは、第1種ベッセル関数 J0 の2乗に比例する形になります。円板の大きさと距離・波長の関係は、フレネル数という無次元の量で整理されます。ポアソンが求めたのも、この軸上の明るさでした。
📖 式の導出や、さらに先の内容:アラゴスポット(ウィキペディア) / フレネル回折(ウィキペディア)
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 光より重いもので、どこまで見えるか。 同じ光の点は、電子や分子の流れでも観察されています。どれほど大きく重い粒まで、波のふるまいが残るのかは、量子力学の境目を探る研究として続いています。
- 縁の乱れの影響の正確な見積もり。 縁のでこぼこが点をどれだけ弱めるかは、でこぼこの形によって変わり、実験と計算の比べ合わせが続いています。
- 星を隠して惑星を探す。 恒星の光を宇宙に浮かべた遮光板でさえぎり、そばの惑星を見る計画では、この光の点がじゃまになります。花びら形の板で点を消す工夫が検討されています。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。光が波であることは確かですが、のちに光は粒のようにもふるまうことが分かり、話はさらに深くなりました。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科1分野「光の性質」「音の性質」 | 光のまっすぐな進み方と影、音の回り込み |
| 高校 | 物理「波の干渉と回折」「光の干渉」 | 道のりの差と明るさ、ヤングの実験 |
| 高校+ | 物理(発展)ホイヘンスの原理 | フレネル帯、影のまん中の明るさ |
| 大学 | 光学・波動光学 | フレネル回折、ベッセル関数、フレネル数 |
| 研究 | 物質波の干渉、宇宙望遠鏡の遮光板 | 重い粒での光の点、花びら形の遮光板 |
| ― | 生活とのつながり | 指のすき間の黒いすじ、影の縁のぼやけ |
- ウィキペディア「アラゴスポット」
- A. Fresnel, "Mémoire sur la diffraction de la lumière", Mémoires de l'Académie des sciences (1819年の懸賞論文)
- J. Worrall, "Fresnel, Poisson and the white spot: the role of successful predictions in the acceptance of scientific theories", The Uses of Experiment (Cambridge University Press, 1989)
- E. Hecht, Optics(ヘクト『光学』), Pearson
- M. Born, E. Wolf, Principles of Optics, Cambridge University Press
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。歴史上のできごとの細部(円板の大きさや審査の経緯など)には諸説があります。レーザー光を使った実験は、目に入らないよう十分注意して行ってください。