濡れた落ち葉は、なぜあんなに滑るの?
― 葉は、水を逃がさない「すべり台」になります
同じ雨のあとでも、アスファルトの上ではふつうに歩けるのに、落ち葉が積もったところだけ足がすうっと持っていかれます。落ち葉が特別に「つるつるしている」わけではありません。葉の表面が水をはじくこと、そして葉が何枚も重なっていることが、そろって効いています。
雨あがりの朝、いつもの通学路や通勤路を歩いています。路面はまだ濡れていますが、歩きにくいとは感じません。
ところが、街路樹の下だけ落ち葉がたまっています。そこに足をのせたとたん、体が前にすべり出します。とっさに踏ん張っても、足の裏が地面をつかんでくれません。
自転車で通れば、ブレーキをかけた瞬間にタイヤが横に流れます。乾いた落ち葉なら、かさかさと踏んで終わりだったはずなのに。何が違うのでしょうか。
理由は2つだけ
葉の表面は、ろう質のうすい膜でおおわれています。水がしみこまず、玉にもならず、平らな膜になって残ります。足の裏と葉のあいだに水の層がはさまり、直接ふれ合えなくなります。
落ち葉は何枚も積み重なります。上の葉をしっかり踏んでも、その下の葉との境目がぬれていれば、そこからずれます。地面をつかんだつもりで、葉の層ごと動いてしまうのです。
この2つは、どちらか片方だけでは、あまり危なくありません。乾いていれば、重なっていても踏みしめられます。1枚だけなら、ぬれていても下の地面のざらざらが効きます。両方そろったときにだけ、足元は急に頼りなくなります。順に見ていきましょう。
ぬれた葉の上には、水の膜が残ります
ものがすべらないのは、表面どうしの細かいでこぼこがかみ合うからです。アスファルトの粒と靴底のゴムは、目には見えない高さでぶつかり合っています。ここに水が入ると、その接触がじゃまされます。
ふつうの舗装なら、水は表面のすきまへ逃げ、靴底の溝にも吸い込まれます。だから濡れていても、ある程度は踏ん張れます。ところが葉の表面はちがいます。植物の葉は、水をはじき、余分な水を外に落とすためのろう質でおおわれています。水はしみこまず、葉の平らな面の上にうすく広がったまま残ります。逃げ道がないのです。
図1を見てください。左が乾いた落ち葉、右が濡れた落ち葉の、足元を横から見た様子です。右では靴底と葉のあいだに水の層があり、でこぼこがかみ合えていません。
もうひとつの弱点は、葉と葉のあいだにあります
たとえ靴底が上の1枚をしっかりとらえたとしても、まだ安心できません。落ち葉は、ふつう何枚も重なって積もっているからです。
重なった葉の境目には、雨水がたまります。葉はうすくて平らなので、そこにたまった水はなかなか押し出されません。足が地面をける短いあいだに、水が横へ逃げきれないのです。その結果、いちばん弱いところ、つまり葉と葉のあいだから、層がまるごとずれます。
本の上に本を重ねて手で押すと、上の本ごと動いてしまうのと似ています。ふんばる相手が、地面ではなく「動く床」になってしまうわけです。しかも落ち葉は、時間がたつほど分解が進んで柔らかくなり、よりずれやすくなるとされています。
乾いた葉は、踏むとぱりぱりと折れます。折れた断面や葉脈のでこぼこが靴底に食いこむので、意外と踏ん張りが効きます。つまり落ち葉の危険は「落ち葉があること」ではなく、「落ち葉が濡れていること」で決まります。雨や朝露のあと、そして雪どけのときがいちばん危ないと考えてください。
じゃあ、どうすればいいの?
- 落ち葉のかたまりは、よけて歩く1枚の上を通るのと、積もった上を通るのはまったく別です
- 歩幅を小さく、足の裏全体でそっとおろすかかとから強く着くと、前へ持っていかれます
- 坂道・階段・橋の上ではとくに気をつける傾いている場所では、少しのずれが止まらなくなります
二輪車は、車輪が横へずれた瞬間に立て直すのがとても難しい乗り物です。濡れた落ち葉の上でブレーキをかけたり、ハンドルを切ったりすると、そこで一気に滑り出します。落ち葉の帯が見えたら、その手前でまっすぐなうちに速度を落とし、その上では急な操作をしないでください。転んで頭を打つと、重いけがにつながることがあります。異変を感じたら無理をせず、安全な場所に停めて確認してください。
まとめ
濡れた落ち葉が滑るのは、葉が水をはじいて膜のまま残すことと、葉が重なって層ごとずれることの2つがそろうからです。どちらも葉が生きているあいだに身につけた性質の名残で、人をころばせるために生まれたものではありません。それでも結果として、秋の道には毎年おなじ危険が現れます。
滑るのは落ち葉そのものではなく、
葉が逃がさなかった、うすい水です。
凍った路面が滑る理由も、実は「氷の上にのった水」でした。凍った道は、なぜあんなに滑るの?とあわせて読むと、すべりの正体が見えてきます。落ち葉が積もっても山にならない理由は、森の落ち葉は、なぜ積み上がって山にならないの?で説明しています。
- 板か厚紙を用意し、その上に落ち葉を数枚のせます。かわいた葉と、水にぬらした葉の2組をつくります。
- 葉の上に消しゴムなどの小さなものを置き、板のはしをゆっくり持ち上げます。すべり出したところで手を止め、板の高さを測ります。
- かわいた葉とぬれた葉で、すべり出すまでの高さをくらべます。ぬれた葉のほうが、ずっと低い角度ですべり出すはずです。
葉を2枚重ねて、そのあいだに水をつけると、さらに低い角度で動き出します。ゆかの上ではなく、机の上でためしてください。人が乗って試すのはやめてください。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理基礎」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(摩擦と潤滑の工学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- クチクラ:葉の表面をおおう、ろうを主成分とするうすい膜。水の出入りを防ぎ、雨をはじきます。
- 摩擦係数:すべりにくさをあらわす数値。押しつける力の何倍まで、横向きの力にたえられるかを示します。
- 潤滑:面と面のあいだに液体などをはさみ、わざとすべりやすくすること。機械では役に立ちますが、足元では困ります。
中学高校式で確かめる:止まるまでの距離は、どれだけ伸びるか
自転車が止まるまでに進む距離は、速さの2乗を、すべりにくさと重力の加速度で割ったものになります。乾いた路面と濡れた落ち葉で、数字を入れてくらべてみます。
| 自転車の速さ | 秒速 4 メートル(時速およそ14キロメートル) |
| 乾いた舗装の摩擦係数 | およそ 0.7 とされます |
| 濡れた落ち葉の上の摩擦係数 | およそ 0.2 とされます |
| 重力の加速度 | 秒毎秒 9.8 メートル |
| 速さの2乗 | 4 × 4 = 16 |
| 乾いた路面:わる数をつくる(その1) | 2 × 0.7 = 1.4 |
| 乾いた路面:わる数をつくる(その2) | 1.4 × 9.8 = 13.72 |
| 乾いた路面で止まるまでの距離 | 16 ÷ 13.72 ≒ 1.2 |
| 濡れた落ち葉:わる数をつくる(その1) | 2 × 0.2 = 0.4 |
| 濡れた落ち葉:わる数をつくる(その2) | 0.4 × 9.8 = 3.92 |
| 濡れた落ち葉で止まるまでの距離 | 16 ÷ 3.92 ≒ 4.1 |
| 何倍に伸びたか | 4.1 ÷ 1.2 ≒ 3.4 |
単位はメートルです。1.2メートルで止まれたはずの自転車が、4.1メートル進みます。その差はおよそ3メートル、横断歩道の幅ほどです。速さが2倍になれば距離は4倍になるので、落ち葉の上では「まず遅く」がいちばん効きます。
高校高校+すべりにくさは、面積では決まりません
高校摩擦の力は、面を押しつける力に比例し、見かけの接触面積にはよらない、と習います。靴底を広くしても、原理のうえでは有利になりません。効くのは、押しつける力と、面どうしの相性をあらわす摩擦係数だけです。
高校+この法則が成り立つのは、本当に接している部分が、見かけよりずっと小さいからです。でこぼこの頂点だけが当たっていて、その合計面積は押しつける力に比例して増えます。水の膜はこの「頂点どうしの接触」を減らすので、摩擦係数そのものを下げてしまいます。
大学境界潤滑から流体潤滑へ
摩擦と潤滑をあつかう工学では、面のあいだの液体の厚さと、すべる速さの関係が重要になります。液体がごく薄く、突起どうしがまだ触れている状態を境界潤滑、液体が面を完全に持ち上げた状態を流体潤滑と呼びます。速く動くほど液体は逃げにくくなり、流体潤滑に近づいて摩擦係数は急に下がります。濡れた落ち葉の上で「急いで足を出すほど滑る」のは、この移り変わりで説明できます。葉の表面は平らで、水の逃げ道がないため、境界潤滑を保てる条件がとても狭いのです。
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 樹種による差 イチョウ、ケヤキ、サクラなど、葉の厚さや表面のろうの量は樹種でちがいます。どの葉がとくに危ないのかを、そろった条件で比べた測定は多くありません。
- 腐りかけの葉 分解が進んで柔らかくなった葉には、微生物が出すぬめりも加わります。この寄与がどれくらい大きいかは、はっきりしていません。
- 靴底の設計 濡れた落ち葉を想定した靴底の溝の形は、まだ研究の途中です。水を逃がす溝と、葉をつかむ刃のどちらが効くのかも、決着していません。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。数値は条件で大きく変わるので、目安として読んでください。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・力のはたらき | すべる・止まるを、力のつり合いで考えるところ |
| 高校 | 物理基礎・運動と力 | 止まるまでの距離を計算した部分 |
| 高校+ | 物理・摩擦の法則の発展 | 接触面積によらない理由の説明 |
| 大学 | 機械工学・摩擦と潤滑の工学 | 境界潤滑と流体潤滑の移り変わり |
| 研究 | 植物の表面科学・路面の安全 | 樹種による差、腐った葉のぬめり |
| ― | 生活とのつながり | 秋から冬の歩き方、二輪車の運転 |
- 日本トライボロジー学会編による、摩擦・摩耗・潤滑の入門書。境界潤滑と流体潤滑の区分について。
- 消費者庁による、高齢者が転ぶ事故に関する注意喚起資料。屋外で転ぶ場所と時期について。
- 日本自動車連盟による、路面の状態とタイヤのすべりに関するユーザーテスト報告。
- Koch, K. and Barthlott, W., "Superhydrophobic and superhydrophilic plant surfaces", Philosophical Transactions of the Royal Society A (2009). 葉の表面のろう質と、水のはじき方について。
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。実際の路面の状態は、場所や天気で大きく変わります。道路の通行に関しては、警察・道路管理者・自治体等の指示や規制に従ってください。