海の波は、どこまで高くなれるの?
― 高さが波長の7分の1をこえると、波は自分からくずれます
台風の予報で「波の高さ10メートル」と聞くと、波はどこまでも高くなれそうに思えます。けれども波には、それ以上高くなれない上限があります。上限をこえた波は、風がやんでも、岸に着く前でも、その場で自分からくずれてしまいます。
海辺に立って、寄せてくる波をながめています。沖のほうの波は、なめらかな丘のようにゆっくり盛り上がって、また下がっていきます。形はくずれません。
ところが岸に近づくと、同じ波が急に立ち上がり、頂上が白く泡立って、前へ倒れこみます。だれかが押したわけではありません。
沖ではあれほど静かに形をたもっていたのに、なぜ途中でこらえきれなくなるのでしょうか。
波がくずれる理由は、2つだけです
波の頂上がとがりすぎると、頂上の水が動く速さが、波が進む速さに追いついてしまいます。そうなると水は波に乗っていられず、前へ転がり落ちます。その境目が「高さが波長の7分の1ほど」です。
岸に近づくと、波は海底をこするようになって進みが遅くなり、波長が縮みます。高さはそれほど減らないので、比だけがどんどん大きくなります。こうして上限に届いてしまいます。
大事なのは、波の高さを制限しているのが「高さそのもの」ではなく、高さと波長の比だということです。同じ3メートルの波でも、波長が100メートルならまったく平気で、波長が15メートルなら耐えられません。順番に見ていきましょう。
波が運んでいるのは、水ではなく「形」です
海の波をながめていると、水がどんどん岸へ向かって流れているように見えます。けれども浮き輪を浮かべると、浮き輪は岸へは進まず、その場で丸く回るように上下するだけです。進んでいるのは水ではなく、波の形のほうです。
水の粒は、その場で小さな円をえがいて回っています。波が高くなるほど、この円は大きくなります。円が大きいということは、回る速さも速いということです。一方、波の形が進む速さは波長でほぼ決まっていて、高さを増やしてもあまり変わりません。
そこで高さだけを増やしていくと、いつか「頂上の水の速さ」が「波の進む速さ」に届きます。届いた瞬間から、頂上の水は波の前面からはみ出して、前へ落ちはじめます。これが波のくずれ、つまり砕波です。図1の左が、まだ余裕のあるなめらかな波、右が上限に届いてくずれる波です。
浅い海では、水深が波の高さを決めます
深い海では、波は海底をまったく感じていません。水の粒が円をえがいて回る動きは、深くなるにつれて急に弱まり、波長の半分ほどの深さではほとんど消えてしまいます。
ところが水深が波長の半分より浅くなると、底が邪魔をして円がつぶれ、波の進む速さは水深だけでほぼ決まるようになります。浅くなるほど遅くなるので、後ろから来た波が前の波に追いつき、波長が縮みます。高さは逆に少し増えます。
その結果、高さと波長の比は、岸へ近づくにつれて必ず上限に向かいます。おおよその目安として、波は水深の8割ほどの高さになったところでくずれるとされています。水深1メートルの場所なら、80センチほどの波しか立てません。海水浴場の波が、沖の予報よりずっと小さく見えるのはこのためです。
天気予報で言う波の高さは「有義波高」で、観測した波のうち高いほうから3分の1を選んで平均したものです。実際にはこれより高い波もまざっていて、最大の波は有義波高の1.5倍から2倍ほどになることがあるとされています。「波の高さ2メートル」の海に、4メートル近い波がまぎれこむわけです。
風の強い日、沖の海面に白い筋が点々と見えます。あれも砕波です。風が波を押しつづけると高さが増えていき、上限に届いたところで頂上だけがくずれます。白波は「風がここまで波を育てた」という、上限の目印でもあります。
まとめ
波の高さを止めているのは、岸でも風でもなく、波自身の形でした。高さが波長の7分の1ほどをこえると、頂上の水が波より速くなって前へこぼれます。浅い場所では波長が縮むぶん、低い波でも先にその限界へ達します。
波は、高くなりすぎると自分をたもてません。
くずれるのは、限界に届いたしるしです。
波の形が伝わるしくみそのものは「池に石を投げると、なぜ丸い輪が広がっていくの?」で、遠くの嵐が育てた長い波が届く話は「風もないのに、なぜ急に高い波が来るの?」でくわしく書いています。
- 平たい洗面器に水を5センチほど入れ、手のひらの端を水面につけて、ゆっくり上下させます。なめらかな波がすっと走るはずです。
- 同じ深さのまま、上下させる幅だけを少しずつ大きくします。ある大きさをこえると、波の頂上が白くくずれはじめます。これが上限です。
- 洗面器の片側に、皿などをななめに沈めて浅い坂を作ります。同じ波が、坂の上にさしかかったところでくずれることが分かります。
くずれ始めた場所の水深と、波の高さをものさしで測ってくらべてみてください。高さが水深の8割前後になっていれば、本物の海と同じ目安です。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理基礎・物理」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(流体力学・海岸工学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 波長:となり合う頂上から頂上までの長さ。記号では L で表します。単位はメートルです。
- 波高:谷から頂上までの高さの差。記号では H で表します。単位はメートルです。
- 急峻度:波高を波長で割った比。この値が大きいほど、波はとがった形になります。
- 砕波:波が形をたもてなくなり、頂上がくずれる現象。岸に打ち寄せる白い波も、沖の白波もこれです。
中学高校式で確かめる:波長100メートルのうねりは、何メートルまで高くなれるか
波の上限は「高さそのもの」ではなく「高さと波長の比」で決まります。まず、その比の式を書いてから、数を入れてみます。
| 記号で書くと | H = L ÷ 7 (H は波高、L は波長) |
| 言葉で書くと | くずれる直前の波高 = 波長 ÷ 7 |
| どこから来る式か | 「頂上の水が回る速さ」が「波の形が進む速さ」に追いつく、というつり合いの条件から来ています。この条件をみたす波の形は、頂上の角が120度にとがり、波高と波長の比は 0.142 ほどになるとされます。7分の1(0.143)は、その値を覚えやすくした言い方です。 |
| 沖のうねりの波長 | 100 メートル |
| くずれる直前の比 | 7分の1 |
| 浅い場所の目安(波高 ÷ 水深) | 0.78 とされる |
| 人の身長 | 1.6 メートル |
| 沖でくずれる直前の波高 | 100 ÷ 7 ≒ 14.3 |
| 人の身長の何倍か | 14.3 ÷ 1.6 ≒ 8.9 |
| 水深3メートルの浅い場所での上限 | 3 × 0.78 ≒ 2.3 |
波長100メートルのうねりは、14.3メートルまでなら形をたもてます。人の身長の9倍ほど、建物なら4階ぶんの高さです。ところが同じ波が水深3メートルの浅瀬に入ると、上限は2.3メートルまで下がります。そこであふれた高さは、泡と音と熱に変わります。
高校高校+波の速さは、何で決まるのか
高校高校の物理基礎では、波の速さ = 振動数 × 波長 という関係を習います。海の波でも同じです。沖から来る波の振動数は岸に近づいても変わらないので、速さが落ちると、そのぶん波長が縮むことになります。
高校+水面の波は、波長によって速さが変わります。これを分散といい、深い海の波については「表面重力波の分散関係」という式で表されます。深い海では波長が長いほど速く、浅い海では速さが水深だけでほぼ決まります。この違いが、遠くの嵐の生んだ長い波が先に届く理由でもあります。
大学限界の形を最初に計算した人たち
大学の流体力学では、水面の波を非線形の周期波として扱う「ストークス波」を学びます。ストークスは1880年に、くずれる直前の波の頂上は角が120度にとがるはずだと示しました。その具体的な比(波高と波長の比が 0.142 ほど)は、1893年にミシェルが数値計算で求めたとされています。浅い場所での砕波の目安は海岸工学の分野で整理され、波高と水深の比を使う「ミーシェの砕波基準」などの形で、防波堤の設計に使われています。
📖 式の導出や、さらに先の内容:ウィキペディア(英語版)「ストークス波」 / ウィキペディア(英語版)「砕波」
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- まれに現れる巨大な波。 周りの波の数倍という異常に高い波が、外洋でときおり観測されています。いくつかの波が偶然重なるだけで説明できるのか、それとも波同士が互いにエネルギーを集めあうしくみが働くのか、まだ議論が続いています。
- くずれた波のエネルギーの行き先。 砕波では、波が持っていたエネルギーが泡と渦と熱に分かれます。その配分を実際の海で測るのは難しく、数値予報の中ではいまも経験式で置きかえられています。
- 泡が運ぶ気体の量。 白波が巻きこむ泡は、大気と海とのあいだで二酸化炭素などを受けわたす窓になっています。世界全体でどれだけの量が動いているのかは、見積もりに幅が残っています。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。7分の1という数字も、きれいな1つの波についての理想的な値で、いくつもの波がまざる実際の海面では、もっと低い高さでくずれることもあります。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・音と光/波の性質 | 波長・波高という言葉、波が運ぶのは水ではなく形だという話 |
| 高校 | 物理基礎・物理/波の式 | 波の速さ = 振動数 × 波長、浅くなると波長が縮むしくみ |
| 高校+ | 物理/水面波の分散 | 波長で速さが変わること、深い海と浅い海のちがい |
| 大学 | 流体力学・海岸工学 | ストークス波、頂角120度の限界の形、砕波の基準 |
| 研究 | 海洋物理学 | 巨大な波の発生機構、砕波でのエネルギーと気体の受けわたし |
| ― | 生活とのつながり | 予報の波の高さの読み方、浅い海辺で立つ波の大きさの見当 |
- 気象庁「波浪の観測と予報」に関する解説資料(有義波高の定義、波浪予報の考え方)
- 合田良実『港湾構造物の耐波設計』鹿島出版会(砕波の限界波高、設計波の考え方)
- J. H. Michell, "On the highest waves in water", Philosophical Magazine, 1893(限界波の比の数値計算)
- O. M. Phillips, "The Dynamics of the Upper Ocean", Cambridge University Press(水面波の理論と砕波)
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。海辺では、気象庁の波浪情報や、消防・自治体・海上保安庁などの指示に必ず従ってください。