傘の布ごしに街灯を見ると、光が格子模様に並ぶのはなぜ?
― 糸のすき間が、光を曲げて並べ直しています
布は光をさえぎるだけの物に思えます。ところが、細かく織られた布は、光の「波」としての顔を目の前に見せてくれる道具にもなります。街灯のまわりに並ぶ点は、糸のすき間を抜けた光どうしが重なり合ってできた、光の波の模様です。
雨の夜道、傘をさして歩いています。ふと傘を前に傾けると、布ごしに遠くの街灯が透けて見えました。
よく見ると、街灯は1つの点ではありません。真ん中の明るい点のまわりに、小さな光の点が上下左右へ等間隔に並び、格子のような模様を作っています。
しかも、外側の点ほど虹色ににじみ、赤いほうが外へはみ出しています。布は白い光を、どうやって色の並んだ点に変えたのでしょうか。
理由は2つだけ
光は波なので、細いすき間を通ると、その先で輪のように広がります。たくさんのすき間から出た波が重なると、山と山がそろう向きだけが明るくなり、とびとびの点になります。
赤い光は波の長さが長く、青い光は短い。長い波ほど、強め合う向きが外側へずれます。そのため点は外ほど虹色に引きのばされ、赤が外、青が内に並びます。
格子の形になるのは、布の糸が縦と横の2方向に並んでいるからです。縦糸のすき間は光を左右へ、横糸のすき間は光を上下へ並べます。2つが組み合わさって、点の格子ができます。
光は、すき間を通ると「曲がって」広がる
水面の波が堤防の切れ目を通ると、その先で半円の輪になって広がります。光も波なので、同じことが起きます。これを回折と呼びます。ふだん気づかないのは、光の波の長さが1万分の5ミリほどと、とても短いからです。すき間がそれよりはるかに広いと、曲がり方はほとんど目に見えません。
傘の布では、糸と糸のすき間が0.1〜0.3ミリほどとされます。光の波の長さの数百倍ですが、この程度まで細かいと、曲がりが目で分かる大きさになります。
図1を見てください。左から来た光は、すき間ごとに輪になって広がります。広がった波は、隣のすき間からの波と重なります。ある向きでは山と山がそろって明るくなり、別の向きでは山と谷が打ち消し合って暗くなります。これが干渉です。明るくなる向きは、隣のすき間からの道のりの差が、ちょうど波1個分、2個分…になる向きだけです。
赤は外へ、青は内へ ― 虹とは並びが逆になる
明るくなる向きは「道のりの差が波1個分」で決まります。波の長さが長い赤は、差を波1個分にするために、より大きく斜めの向きが必要です。赤い光の波の長さは青の約1.5倍なので、赤の点は青の点より約1.5倍外側に出ます。
図2は、布ごしに見える模様を描いたものです。真ん中の白い点から離れるほど、点は薄くなり、色が分かれて帯のようにのびます。
プリズムや雨つぶでは、光はガラスや水の中で遅くなって曲がります。このときは青のほうが大きく曲がります。布の格子では、道のりの差で曲がる向きが決まるので、赤のほうが大きく曲がります。同じ「虹色」でも、色の並びを見れば、どちらのしくみで生まれた色かを見分けられます。
模様の大きさは「角度」で決まっています。布を目に近づけても離しても、見える点どうしの角度の間かくはほぼ同じです。変わるのは糸のすき間の細かさだけで、細かい布ほど点どうしが遠く離れます。網戸のようにすき間が1ミリを超える網では、点の間かくが目で見分けられる限界に近くなり、点ではなく十字の筋のように見えることが多いとされます。
布を通しても、太陽の光はほとんど弱まりません。模様を確かめるのは、夜の街灯や、昼なら遠くの車のライトの反射など、まぶしすぎない光で行ってください。太陽を見続けると、目を傷めるおそれがあります。
まとめ
傘の布は、たくさんの細いすき間が縦横に規則正しく並んだ「格子」です。すき間を通った光は広がって重なり、強め合う向きだけが点として光ります。その向きは波の長さで決まるので、点は赤が外、青が内の虹色になります。
布ごしの光の格子は、
光が「波」であることを、雨の夜道で見せてくれる証拠です。
同じ「すき間や膜で光の波が重なる」しくみで色が生まれる例は、シャボン玉の虹色やオパールの輝きでも読めます。水や光が曲がって色が分かれる、逆の並びの例は虹の記事をどうぞ。
- 夜、窓から遠くの街灯を1つ選びます。傘、薄いハンカチ、レースのカーテンなど、目の細かい布を目の前にかざし、布ごしに街灯を見ます。
- 布をゆっくり回してみましょう。点の並ぶ向きが、布と一緒に回ります。模様の向きが織り目の向きで決まっている証拠です。
- 布を斜めに引っぱって織り目をゆがめたり、目の粗さがちがう布に替えたりして、点の間かくの変わり方を比べます。細かい布ほど、点どうしが離れて見えるはずです。
遠くの小さな光ほど、点がくっきり分かれます。近くの大きな照明では、点が重なってぼやけた光の広がりにしか見えません。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(光学・波動光学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 回折(かいせつ):波がすき間や物のふちを通るとき、影になるはずの側へ回りこんで広がること。
- 干渉(かんしょう):2つ以上の波が重なり、山と山で強め合ったり、山と谷で弱め合ったりすること。
- 回折格子(かいせつこうし):細いすき間や溝を等間隔にたくさん並べたもの。光を色ごとに決まった向きへ分ける。布の織り目は、縦横2方向の回折格子として働く。
中学高校式で確かめる:光の点は、どれくらい離れて見えるのか
糸のすき間の間かくを 0.2 ミリとして、緑の光の点が真ん中からどれだけの角度で見えるかを計算します。角度が小さいので、角度とその正弦はほぼ同じとみなします(単位はラジアン)。
| 記号で書くと | d × sinθ = m × λ |
| 言葉で書くと | すき間の間かく × 見える向きの傾き = 何番目の点か × 光の波の長さ |
| どこから来る式か | 隣り合うすき間から来た光の道のりの差(d × sinθ)が、波の長さのちょうど整数倍のとき、山と山がそろって強め合う、という干渉の条件 |
| d | 糸のすき間の間かく(単位はナノメートル) |
| θ | 真ん中の点から見た、光の点の角度 |
| m | 何番目の点か(1, 2, 3…) |
| λ | 光の波の長さ(単位はナノメートル) |
| 傘の布の糸の間かく(目安) | 0.2 ミリ = 200000 ナノメートル |
| 緑の光の波の長さ | 550 ナノメートル |
| 赤と青の光の波の長さ | 赤 700 ナノメートル、青 450 ナノメートル |
| 1ラジアンを度に直すと | 約 57.3 度 |
| 満月の見かけの大きさ | 約 0.5 度 |
| 緑の1番目の点の角度(ラジアン) | 550 ÷ 200000 = 0.00275 |
| 度に直す | 0.00275 × 57.3 ≒ 0.158 |
| 満月の大きさとくらべる | 0.158 ÷ 0.5 ≒ 0.32 |
| 赤の1番目の点の角度(ラジアン) | 700 ÷ 200000 = 0.0035 |
| 青の1番目の点の角度(ラジアン) | 450 ÷ 200000 = 0.00225 |
| 赤は青の何倍外に出るか | 0.0035 ÷ 0.00225 ≒ 1.56 |
| 30メートル先の街灯の位置で、点どうしの間かく(メートル) | 30 × 0.00275 ≒ 0.083 |
点どうしの間かくは約0.16度で、満月の直径の3分の1ほどです。30メートル先の街灯なら、街灯の横に約8センチずつずらして光を並べたのと同じ見え方になります。赤の点は青の点より約1.6倍外に出るので、外側の点ほど虹色の帯として見分けやすくなります。
高校高校+ヤングの実験から、縦横2方向の格子へ
高校高校物理では、2本のすき間で光の縞を作る「ヤングの実験」と、たくさんのすき間を並べた「回折格子」を習います。すき間の数が増えるほど、明るい向きは細く鋭くなり、その間はほぼ真っ暗になります。布ごしの点がくっきりしているのは、光が何百本ものすき間を同時に通っているからです。
高校+布は縦糸と横糸の2方向にすき間が並ぶので、左右方向の条件と上下方向の条件を同時に満たす向きだけが光ります。その結果、点は線ではなく格子状に並びます。点の明るさが外ほど弱まるのは、1つのすき間の幅そのものでも回折が起き、広がりに上限があるためです。
大学遠くで見る回折模様は、すき間の形の「フーリエ変換」
光源が遠く、目のレンズで無限遠に焦点を合わせて見るときの回折はフラウンホーファー回折と呼ばれます。このとき網膜に映る明るさの分布は、布のすき間の形(開口関数)のフーリエ変換の絶対値の2乗になります。等間隔の格子のフーリエ変換は等間隔の点の並びです。1つのすき間の形は、全体の明るさの包絡線を決めます。布を斜めに引っぱって格子をゆがめると模様も逆向きにゆがむのは、実空間と逆格子空間の関係として理解できます。これは結晶に当てたX線の回折で原子の並びを調べる方法と、同じ数学です。
📖 式の導出や、さらに先の内容:回折格子(ウィキペディア) / フラウンホーファー回折(ウィキペディア)
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 織りの乱れと模様のにじみ。 実際の布は糸の太さや間かくが少しずつ不ぞろいで、しなやかに曲がります。この乱れが模様をどうぼかすかを、布の画像から逆算して品質を調べる試みがありますが、決まった方法はまだ確立していないとされます。
- 生き物の体にある「格子」の作られ方。 チョウの鱗粉や甲虫の殻には、光の波長ほどの細かい格子があり、回折や干渉で色を出しています。生き物がこれほど規則正しい構造をどう組み立てるのかは、まだ研究が続いています。
- 見え方の個人差。 同じ布でも、人によって点の見え方やにじみ方がちがうと言われます。目の瞳の大きさやレンズの細かな構造がどれだけ効いているのかは、十分に調べられていないとされます。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。とはいえ、光の点が格子に並ぶ理由そのものは、200年前から確かめられてきた波の性質で説明できます。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科「光の性質」「音と波」 | 光がすき間で広がる、波が重なる |
| 高校 | 物理「光の干渉と回折」 | 回折格子の式、赤と青の点の位置 |
| 高校+ | 物理の発展「2次元の格子」 | 点が格子状に並ぶ理由、外ほど暗くなる理由 |
| 大学 | 光学・波動光学 | フラウンホーファー回折とフーリエ変換 |
| 研究 | 構造色・布の画像計測 | 生き物の格子、織りの乱れ |
| ― | 生活とのつながり | 傘・カーテン・ハンカチで光の波を観察できる |
- ウィキペディア「回折格子」
- ウィキペディア「フラウンホーファー回折」
- E. Hecht, Optics, 5th ed., Pearson(回折格子と2次元開口のフラウンホーファー回折の章)
- 高等学校「物理」教科書(光の干渉・回折の単元、各社)
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。布の糸の間かくは製品によって大きく異なります。