竜巻は、なぜあんなに強い風を巻き起こすの?
― 積乱雲の広い渦が、細く絞られて速くなるしくみ
積乱雲(入道雲が発達した、雷を伴う大きな雲)の中には、幅が数kmにもおよぶ、ゆるやかな渦が生まれることがあります。ところが、そこから地上へ伸びる竜巻は、地球上で観測された中でももっとも速い風のひとつになることがあります。同じ渦なのに、なぜこれほど速さが変わるのでしょうか。
オフィスチェアのような、くるくる回るいすに座り、両腕を大きく広げたまま、ゆっくり回転してみてください。そのまま腕を体に引き寄せると、回転が急に速くなるのを感じるはずです。
腕を伸ばした「広い」状態から、腕をたたんだ「細い」状態に変わっただけで、同じ体が、まったく違う速さで回り出すのです。竜巻の中でも、これとよく似たことが起きています。
発達した積乱雲の内部には、幅数kmにおよぶ、比較的ゆっくりとした回転(メソサイクロン)が生まれることがあるとされています。
渦が地上へ向かって引き伸ばされ、幅が数百分の1近くまで細くなると、角運動量保存という物理の性質によって、回転速度が大きく跳ね上がると考えられています。
この「広い渦」と「細く絞られると速くなる」しくみを、順番に見ていきます。
積乱雲の中に、なぜ広い渦ができるのか
発達した積乱雲の内部では、高さによって風の向きや強さが違うことがあります。この違いによって、空気には横向きに寝た「筒状の渦」ができることがあるとされています。積乱雲の中の強い上昇気流が、この寝た筒を持ち上げて縦向きに立たせると、幅数kmにおよぶ、ゆるやかな縦回転(メソサイクロン)が生まれます。
この段階では、回転はまだそれほど速くありません。問題は、ここから先に起きることです。
渦が細く絞られると、なぜ速くなるのか:角運動量保存
回転している物体には、「回転の勢い」を表す量(角運動量)があり、外から特別な力が加わらない限り、この量はほぼ一定に保たれるとされています。この量は、おおまかに「回転の速さ」×「渦の半径」で決まります。
つまり、渦の半径が小さくなると、回転の速さはその分だけ大きくならなければ、角運動量を保てません。積乱雲の中の上昇気流が、広い渦を上へ引き伸ばして細くすると、この関係にしたがって、回転が一気に速まると考えられています。フィギュアスケートの選手が、回転しながら腕を体に引き寄せると回転が速くなるのと、原理は同じです。
実際には、地上付近の下降気流(RFD)が渦の根もとを冷たい空気で取り囲むなど、複数の過程が同時に関わっていると考えられています。単純な角運動量保存だけで、竜巻のすべての強さが説明できるわけではありません。
すでにあった広い渦を、自然が一瞬で絞り込んだ結果なのです。
自分で確かめられること
- 回転するいす(オフィスチェアなど)に座り、両腕を大きく左右に広げる
- 誰かに軽く回してもらうか、自分の足で床を蹴って、ゆっくり回転を始める
- 回転しながら、両腕を体に引き寄せる
- 回転が急に速くなることを確かめる(安全のため、まわりに物や人がない広い場所で行ってください)
腕を縮めて「半径」を小さくしただけで回転が速くなるのが、渦が細く絞られて竜巻になるときと同じ関係です。
屋外にいる場合は、頑丈な建物の中の、窓のない部屋へすぐに避難してください。屋内にいる場合も、窓や外壁から離れ、低い姿勢を取ることが基本とされています。車や倉庫、プレハブ・仮設の建物は、飛来物や倒壊の危険があるため、頑丈な建物に比べて安全性が低いとされています。
まとめ
竜巻の猛烈な風は、突然どこかから生まれるのではありません。積乱雲の中にもとからあった、幅数kmのゆるやかな渦が、上昇気流によって細く絞られることで、角運動量保存の関係にしたがって回転速度が大きく跳ね上がった結果だと考えられています。
広く、ゆっくりだった回転が、細くなるだけで、地球上でもっとも速い風に変わるのです。
回転が速さに変わるしくみは、猫が空中で姿勢を立て直す動きにも見られます。詳しくはこちらの記事で説明しています。渦が絞られて速くなる現象は、川の流れの中にも見られます。段差の下にできる水の輪の記事もあわせてどうぞ。
もっと知りたい人へ ― 用語・数値・教科書とのつながり中学理科から研究中の話題まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理基礎」で習う範囲
- 高校+高校の「物理」、または教科書の発展・コラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(気象学・流体力学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:竜巻をめぐる言葉
- 積乱雲:雷や強い雨、突風をともなう、垂直に大きく発達した雲。
- メソサイクロン:積乱雲の内部にできる、幅数kmのゆるやかな回転。
- 角運動量:回転する物体が持つ「回転の勢い」を表す量。
高校式で確かめる:渦が10分の1に絞られると、風速はどう変わるか
「半径」×「回転の速さ」がほぼ一定に保たれる、という単純化した関係を使って、渦が絞られたときの風速の変化を見積もってみます。
絞られたあとの風速 ≒ もとの半径 × もとの風速 ÷ 絞られたあとの半径
| もとの半径 | 2000 m(メソサイクロンの目安) |
| もとの風速 | 5 m/s(ゆるやかな回転の目安) |
| 絞られたあとの半径 | 200 m(10分の1に絞られたとする) |
※ 空気の摩擦や、上下方向の複雑な動きを無視した、単純化したモデルでの概算です。実際の竜巻の風速は、これだけで決まるわけではないとされています。
| 半径×風速(もと) | 2000 × 5 = 10000 |
| 絞られたあとの風速(m/s) | 10000 ÷ 200 = 50 |
| 時速に直す(km/h) | 50 × 3.6 = 180 |
| 結果 | 単純化したモデルでは、風速およそ50 m/s(時速およそ180km) |
時速180kmは、新幹線の走行速度に近い風が、地上で吹き荒れることに相当します。半径がわずか10分の1になっただけで、これほどの変化が起きる計算になります。実際の強い竜巻では、渦がさらに細く絞られたり、ほかの過程が重なったりして、これを上回る風速が記録されることもあるとされています。
高校+フィギュアスケートと同じ、回転の物理
回転する物体の角運動量は、質量 × 速度 × 半径で表されます(正確には、質量の分布や回転の形によって係数が変わりますが、基本の考え方は同じです)。フィギュアスケートの選手が腕を引き寄せて回転を速めるのも、竜巻の渦が絞られて速くなるのも、「半径が小さくなった分、速度で埋め合わせる」という同じ関係にしたがっています。
大学気象学が扱う、竜巻発生の力学モデル
気象学・流体力学の分野では、メソサイクロンの中で、なぜ・どこで渦がさらに細く絞られて竜巻になるのかを説明するモデルがいくつか提案されています。特に、積乱雲にともなう下降気流(RFD:リア・フランク・ダウンドラフト)が、渦の根もとの温度や湿度にどう影響するかが、重要な要素として研究されています。
研究まだ、はっきりしていないこと
- どのメソサイクロンが竜巻を生み、どれが生まないのかを、事前に精度よく見分ける方法は、いまも研究が続けられているテーマです。
- 竜巻の発生(トルネードジェネシス)の詳しい過程は、気象学における有名な未解決問題のひとつとされ、移動観測車両やドップラーレーダーを使った野外観測プロジェクトが各国で行われています。
- 気候変動が、竜巻の発生数や強さ、発生する地域をどう変えるかについても、研究が進められている途中です。
竜巻という激しい現象1つにも、気象学と流体力学が交わる、いまも研究が続く豊かなテーマが詰まっています。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・気象/雲のでき方 | 積乱雲、メソサイクロンの基本用語 |
| 高校 | 物理基礎・回転運動(発展) | 半径と風速の比例計算 |
| 高校+ | 物理・角運動量(発展) | フィギュアスケートとの対応 |
| 大学 | 気象学・流体力学 | RFDと竜巻発生の力学モデル |
| 研究 | 気象学(研究中) | 竜巻発生の予測、気候変動の影響 |
- 気象学関連の教科書における、積乱雲・メソサイクロン・竜巻発生に関する解説。
- 流体力学関連の資料における、角運動量保存と渦の力学に関する解説。
- 気象庁など公的機関による、竜巻の観測・注意情報・安全確保に関する解説。
- 気象学分野における、竜巻発生(トルネードジェネシス)の野外観測研究レビュー。
※ 半径・風速の数値は、しくみを理解するための目安の値です。実際の竜巻の規模や風速は、事例によって大きく異なるとされています。
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための概算です。実際の気象状況の判断は、気象庁などの公的機関の発表・警報にしたがってください。