日常のふしぎ 流体 予備知識なしでOK 読了 約6分

紅茶をかき混ぜると、茶葉はなぜ外ではなく真ん中に集まるの?
― カップの底でだけ、水が内側へ流れています

ぐるぐる回すと、重いものは外へ飛ばされる。そう思いますよね。ところがカップの茶葉は、混ぜ終わると底の真ん中に小さな山を作ります。茶葉を運んでいるのは、目に見えない「底を内側へ向かう流れ」です。

公開:2026.09.14 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

ティーバッグが破れて、カップの底に細かい茶葉が沈んでしまいました。スプーンでくるくる混ぜて、手を止めます。

回っていた紅茶がゆっくり止まるにつれて、茶葉は底をすべるように動きます。行き先は、カップのふちではありません。

気がつくと、茶葉は底のまん中にこんもり集まっています。洗濯機の脱水では、服は外側へ張りつくのに。なぜ、逆のことが起きるのでしょうか。

理由は2つだけです

1
底の水は、こすれて回るのが遅くなる

回る紅茶のうち、カップの底に触れている水は、底との摩擦でブレーキがかかります。外へ振られる勢いが、上の水より弱くなります。

2
内側へ押す力は、上から下まで同じ

回る水面は、ふちが高く中央が低くへこみます。この高さの差が、水を内側へ押し戻します。底では外へ振られる力が負けるので、水は内側へ流れます。

ひとつずつ見ていきましょう。

回る紅茶の中には、「見えない力比べ」がある

水を回すと、水は外へ外へと逃げようとします。バケツを振り回すと、水が外側の底に押しつけられるのと同じです。

ところが紅茶はカップの壁に囲まれていて、外へは逃げられません。外へ寄ろうとした水がふち側に積み上がり、水面はすり鉢のようにへこみます。

ふちの水面が高いぶん、ふち側の水は下の水を強く押します。この押す力が、水を内側へ押し戻します。上のほうの水では、「外へ振られる力」と「内側へ押し戻す力」がちょうど釣り合っています。だから上の水は、ぐるぐる回るだけで内にも外にも動きません。

ところが底では事情が違います。図1の上下の段を比べてください。

上のほうの水(速く回る) ← 中心側 ふち側 → 外へ振られる力 押し戻す力 釣り合う 底の近くの水(摩擦で遅く回る) 外へ(弱い) 押し戻す力(同じ) 内側へ流れる カップの底(ここでこすれてブレーキがかかる)
図1:回る紅茶の中の力比べ。上の段では、右向きの矢印(外へ振られる力)と左向きの矢印(押し戻す力)が同じ長さで釣り合います。下の段は底の近くで、右向きの矢印だけが短くなるので、差し引きで左向き(内側)へ流れます。

底の水は、底とこすれて回るのが遅くなります。回るのが遅いと、外へ振られる力は弱くなります。いっぽう、押し戻す力は水面の高さの差で決まるので、底でも同じ強さです。

力比べに負けた底の水は、内側へすべり込みます。この底を這う流れこそが、茶葉を真ん中へ運ぶ正体です。

集まった茶葉は、なぜそこで止まるの?

底を内側へ流れてきた水は、中央でぶつかり合います。行き場を失った水は、上へ持ち上がります。そして水面近くで外へ広がり、壁ぞいに下りて、また底へ戻ります。

つまりカップの中では、ぐるぐる回る大きな流れの中に、図2のような「縦にめぐる小さな流れ」が隠れています。回転と合わさると、水はらせんを描いて動いています。

カップを縦に切って見た流れ 底の中央に集まった茶葉 水面は 中央がへこむ 底では 内向きの流れ 中央で 上がり、 壁ぞいに下りる
図2:カップを縦に切った断面。左右の四角い矢印の輪のとおり、水は底を中心へ向かい、中央で上がり、水面近くで外へ広がって壁ぞいに下ります。底の中央の小さな山が、集まった茶葉です。

水は中央で上へ向かいますが、その勢いはおだやかです。茶葉は水より少し重いので、持ち上げきれずに底に残ります。こうして、運ばれてきた茶葉だけが中央に置き去りにされ、山になるのです。

ちなみに、混ぜている最中よりも、手を止めて回転が弱まっていくときのほうが、この集まり方ははっきり見えます。回る勢いが残るあいだ、底のブレーキ役がずっと働き続けるからです。

💡 アインシュタインは、この謎で川の曲がり方を説明しました

1926年、アインシュタインは短い論文で、この茶葉の動きを取り上げました。川が曲がるところでも、底の流れが内側の岸へ向かい、砂を運びます。そのぶん外側の岸は削られ、曲がりはさらに強くなります。カップの底と川の底で、同じことが起きているというのです。

💡 回すのが「中の水」か「容器」かで、向きが逆になります

洗濯機や遠心分離機では、容器そのものが速く回ります。この場合、底が水を引っぱって速く回すので、底の流れは外向きになり、重いものは外へ寄ります。紅茶はその逆で、水だけが回り、底が止まっているから内側へ集まるのです。

まとめ

回る紅茶では、水面の高さの差が水を内側へ押し戻しています。上の水ではこれが外へ振られる力と釣り合いますが、底の水は摩擦で遅くなり、力比べに負けて内側へ流れます。茶葉はこの流れに運ばれ、中央で持ち上げきれずに山になります。

外へ飛ばされるはずの茶葉を、
底をすべる水が、こっそり真ん中へ運んでいます。

同じ流れが川の曲がり方を決める話は「川はなぜまっすぐ流れず、蛇行するの?」、渦の中心で圧力が下がる話は「シャワーを浴びていると、なぜカーテンが体に吸い寄せられてくるの?」で紹介しています。

🧪 透明なコップで確かめてみよう
  1. 透明なコップに水を入れ、ティーバッグを切って出した茶葉をひとつまみ入れます。茶葉が底に沈むまで待ちます。
  2. スプーンで数秒くるくる混ぜ、スプーンを抜きます。横からコップの底を見て、茶葉がどちらへすべっていくかを観察します。
  3. 次は、ゆっくり混ぜた場合と、勢いよく混ぜた場合で、中央の山のまとまり方がどう違うかを比べます。

茶葉のかわりに、すりごまや細かく砕いた乾燥わかめでも見られます。冷めた紅茶や水で試してください。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「物理」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(流体力学・回転流体の力学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:水面は何ミリへこむ?

水全体が同じ速さで回るとき、中央とふちの水面の高さの差は、(角速度の2乗 × 半径の2乗)を(重力の加速度の2倍)でわったものになるとされています。1秒に1回まわる紅茶で計算してみます。

記号意味と単位
ω角速度。1秒あたりに回る角度(ラジアン毎秒)
Rカップの内側の半径(メートル)
g重力の加速度(メートル毎秒毎秒)
h中央とふちの水面の高さの差(メートル)
① もとになる数値
1回転の角度(円周率の2倍)6.28
カップの内側の半径(4センチ)0.04 メートル
重力の加速度9.8
② 計算してみる
1秒に1回転の角速度を2乗する6.28 × 6.28 ≒ 39.4
半径を2乗する0.04 × 0.04 = 0.0016
2つをかける39.4 × 0.0016 ≒ 0.063
重力の加速度の2倍9.8 × 2 = 19.6
わって高さの差を出す(メートル)0.063 ÷ 19.6 ≒ 0.0032
ミリメートルに直す0.0032 × 1000 = 3.2

ふつうにかき混ぜた紅茶でも、中央はふちより3ミリほど低くなります。このわずかな段差が、底の水を内側へ押す力のもとです。

③ ふちの水が受ける「外へ振られる」加速度
角速度の2乗 × 半径39.4 × 0.04 ≒ 1.58
重力の何倍か1.58 ÷ 9.8 ≒ 0.16

重力の6分の1ほどの、弱い力です。弱い力でも、底の水のブレーキとの差し引きで、茶葉を運ぶ流れを作れます。

高校高校+円運動に必要な力は、どこから来るのか

高校円運動を続けるには、中心へ向かう力(向心力)が必要です。回る水では、水面の傾きが作る水圧の差が向心力になっています。回る水と一緒に回って見ると、外向きの遠心力と、内向きの水圧の差が釣り合って見えます。

高校+必要な向心力は「回る速さの2乗 ÷ 半径」に比例します。底の水は回る速さが遅いので、必要な向心力が小さくて済みます。そこへ上の水と同じ大きさの水圧の差がかかるので、力が余り、水は中心へ加速されます。茶葉が重いのに外へ飛ばないのは、この余った内向きの力のほうが勝っているためです。

大学エクマン層と、回転流体の「スピンダウン」

回転する流体が静止した底面に接すると、底の近くに薄い摩擦の層(エクマン層・ボーデワット層と呼ばれる境界層)ができます。その中では圧力勾配と遠心力の釣り合いが崩れ、中心向きの質量輸送が生じます。運ばれた水は中心で湧き上がり、上の流体を上下にめぐらせます。この二次循環が回転の勢いを効率よく底へ運ぶため、紅茶の回転は、粘性だけで考えた場合よりずっと速く止まるとされています。逆に容器が水より速く回る場合は層内の輸送が外向きになり、遠心分離機の挙動につながります。

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。毎日のカップの底にも、流体力学の課題がそのまま沈んでいます。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科1分野「水圧」「力のつり合い」水面の高さの差が押す力、図1の力比べ
高校物理「円運動」(向心力・遠心力)回る水が外へ振られる理由、③の計算
高校+物理の発展(回転する液体の水面の形)水面のへこみ、②の計算
大学流体力学(境界層・回転流体・二次流れ)底の摩擦層、図2の縦の循環
研究粒子を含む流れ・河川工学粒の集まり方、小さな装置、川底の砂
生活とのつながり飲み物の沈殿、川の曲がり方、洗濯機との違い
参考・出典
  1. アインシュタイン「川の蛇行の原因と、いわゆるベーアの法則」(ドイツの科学誌、1926年)
  2. ウィキペディア(英語版)「茶葉のパラドックス」
  3. トリットン『Physical Fluid Dynamics』(オックスフォード大学出版局)
  4. グリーンスパン『The Theory of Rotating Fluids』(ケンブリッジ大学出版局)
  5. 高等学校 物理の教科書「円運動」の単元

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。実際の流れ方は、カップの形・混ぜ方・粒の大きさによって変わります。