水に入れたストローは、なぜ折れて見えるの?
― 光は、水から出るところで向きを変えています
ストローは曲がっていません。曲がっているのは、ストローから目に届くまでの光の通り道です。そして私たちの目は、その曲がり角に気づけません。
ジュースの入ったコップに、ストローをななめにさします。上からのぞくと、水面のところでストローがカクッと折れて見えます。
子どもに「どうして折れてるの?」と聞かれて、ストローを抜いてみせます。まっすぐです。もう一度さすと、また折れて見えます。
「光の屈折だよ」と答えるのは簡単です。でも、光が曲がると、なぜストローが曲がって「見える」のでしょうか。そこまで説明できる大人は、意外と多くありません。
理由は2つだけ
光は水の中では、空気の中よりゆっくり進みます。速さの変わる境目をななめに通ると、進む向きが折れ曲がります。
目に届いた光が途中で曲がったかどうかを、脳は知りようがありません。届いた向きをまっすぐ逆にたどった場所に、物があると感じます。
この2つが重なると、水の中のストローは「本当の場所より浅いところ」に見えます。水の上の部分は本当の場所に見えるので、水面を境に位置がずれ、折れたように見えるのです。
光は、なぜ境目で曲がるの?
光の速さは、通り抜けるものによって変わります。水の中では、空気の中のおよそ4分の3の速さになるとされています。
速さが変わると、なぜ向きまで変わるのでしょうか。横に並んで手をつないだ行列が、ななめに砂浜へ入っていく様子を想像してください。先に砂に入った人から足が遅くなります。まだ舗装路にいる人は速いままです。すると行列は、砂浜のほうへ向きを変えます。
光の波も同じです。水から空気へ出るときはその逆で、先に空気へ出た側が速くなります。そのため光は、水面に対してより寝た向きへ折れます。
図1を見てください。右下の実線は、ストローの先から出た光です。水面で向きを変え、右上の目に届きます。
なぜ脳は、だまされてしまうの?
私たちの目が受け取れるのは、「どの向きから光が届いたか」だけです。光がどこで曲がったかという道のりの記録は、光には残っていません。
ふだんの暮らしでは、光は空気の中をほぼまっすぐ進みます。だから「届いた向きの先に物がある」と考えるのは、たいてい正しい判断です。脳はこの便利な決まりを、水の中を見るときにもそのまま使ってしまいます。
ストローの水の中の部分は、どの点から出た光も水面で同じように折れて届きます。そのため、水中の部分がまるごと浅いほうへ持ち上がって見えます。水の上の部分はずれないので、境目の水面で「折れ」が生まれます。
横からコップを見ると、ストローが左右にずれて、切れて見えることもあります。これは丸いコップの側面がレンズのように働くためで、光が境目で曲がるという点では同じしくみです。
真上から見ると、水の底は本当の深さの約4分の3の深さに見えるとされています。見た目で「ひざくらい」と思った場所が、実際は腰まであることもあります。水辺では、見た目の深さを当てにしないでください。
水面の上の虫に水を吹きかけて落とすテッポウウオは、光が曲がるぶんを補ってねらいを定めていると報告されています。水に飛び込んで魚をとるカワセミなども、ずれを経験で学んでいると考えられています。
まとめ
水にさしたストローが折れて見えるのは、光が水面で向きを変えるのに、脳が「光はまっすぐ来た」と思い込むからです。その結果、水の中の部分だけが浅い場所に持ち上がって見えます。
折れているのはストローではなく、光の道。
目は、光の曲がり角を知らないのです。
光が境目で曲がる話は、虹が太陽の反対側に出る理由や、蜃気楼が見える理由、虫眼鏡で紙が燃える理由ともつながっています。
- 不透明なマグカップの底に、10円玉を1枚置きます。
- 硬貨が、カップのふちにちょうど隠れて見えなくなるところまで、顔を少し下げます。そこで頭を動かさずに止めます。
- 別の人に、硬貨が動かないようそっと水を注いでもらいます。すると、見えなかった硬貨がふちの上に現れてきます。
硬貨は1ミリも動いていません。水面で光が折れて、ふちを越えて目に届くようになったのです。ストローが折れて見えるのと、まったく同じしくみです。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(光学・電磁気学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 屈折:光が性質の違うものの境目を通るとき、進む向きが変わること。
- 屈折率:光がそのものの中で、真空中に比べて何分の1の速さになるかを表す数。水はおよそ1.33、空気はほぼ1です。
- 見かけの深さ:水の外から見たときに感じる、底までの深さ。真上から見ると、本当の深さを屈折率でわった値に近くなります。
中学高校式で確かめる:水の中の光の速さと、見かけの深さ
屈折率を使うと、水の中の光の速さと、プールの底がどれくらい浅く見えるかを計算できます。
| 真空中の光の速さ(キロメートル毎秒) | 約300000 |
| 水の屈折率 | 約1.33 |
| プールの本当の深さ(センチメートル) | 100 |
| 水の中の光の速さ(キロメートル毎秒) | 300000 ÷ 1.33 ≒ 225564 |
| 真上から見たときの見かけの深さ(センチメートル) | 100 ÷ 1.33 ≒ 75 |
| 見た目より深いぶん(センチメートル) | 100 - 75 = 25 |
深さ1メートルの水は、真上から見ると75センチほどに見えます。ななめから見ると、ずれはさらに大きくなります。
高校高校+曲がる角度を決める法則
高校境目に立てた垂線と光のなす角を考えます。「屈折率 × その側の角度のサイン」は、空気側と水側で等しくなります。これを屈折の法則(スネルの法則)といいます。水の中で垂線から30度の向きに進む光を考えます。
| 水側の角度30度のサイン | 0.5 |
| 空気側のサイン(水の屈折率をかける) | 0.5 × 1.33 = 0.665 |
| 空気側の角度 | 約42度 |
水の中で30度だった光は、空気へ出ると約42度まで寝ます。これが図1の光の折れ曲がりです。
高校+逆に、水の中で垂線からの角度が大きすぎる光は、空気へ出られずに水面で全部はね返ります。これを全反射といい、水の屈折率では約49度を超えると起きるとされています。水中から見上げると、水面の外の景色が丸い窓の中だけに見えるのはこのためです。
大学なぜ遅くなると曲がるのか:最短時間の原理
光は、ある点から別の点へ行くとき、かかる時間が最も短く(正確には、少しずらしても時間がほとんど変わらない)道を通る、と表せます。これをフェルマーの原理といいます。砂浜から海の中の人のもとへ急ぐ監視員が、速く走れる砂の上を長めにとってから水に入るのと同じ理屈で、屈折の法則が導かれます。電磁気学では、境目で電場と磁場がつながる条件からも同じ法則が出てきます。
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 動物は、屈折のずれをどうやって補っているのか。 テッポウウオやサギの仲間が補正していることは観察されていますが、生まれつきなのか学習なのか、脳のどこで計算しているのかは研究が続いています。
- 人は、水の中の物の位置をどこまで学習で直せるのか。 漁師や水辺で暮らす人が見た目のずれにどれだけ慣れられるかは、まだ十分に調べられていません。
- 「光が遅くなる」の中身。 物質の中で光が遅れるのは、原子の中の電子が揺さぶられて出す光が重なるためと説明されます。光の粒としての見方でどう描くのが自然かは、今も教え方の議論があります。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。光が境目で曲がることそのものは、1000年以上前から確かめられてきた、きわめて確かな事実です。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科1年「光の屈折」 | 光が境目で向きを変える・硬貨の実験 |
| 高校 | 物理「波の屈折」 | 屈折率と屈折の法則 |
| 高校+ | 物理「全反射」 | 水中から見上げた丸い窓 |
| 大学 | 光学・電磁気学 | 最短時間の原理 |
| 研究 | 動物行動学・視覚科学 | 動物のずれの補正 |
| ― | 生活とのつながり | 水の底は見た目より深い |
- 文部科学省検定済 中学校理科教科書(1年)「光の性質」
- E. Hecht『Optics』(ヘクト『光学』)Pearson
- R. P. Feynman『QED: The Strange Theory of Light and Matter』Princeton University Press(邦訳『光と物質のふしぎな理論』岩波書店)
- L. M. Dill (1977) Refraction and the spitting behavior of the archerfish (Toxotes chatareus). Behavioral Ecology and Sociobiology 2
- R. Rashed (1990) A pioneer in anaclastics: Ibn Sahl on burning mirrors and lenses. Isis 81
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。水辺では、現地の標識や管理者・自治体等の指示に従ってください。