日常のふしぎ 力学 予備知識なしでOK 読了 約6分

コマは、なぜ回っていると倒れないの?
― 倒れようとする力が、回転のせいで「横へ」ずらされています

止まったコマは、指を離した瞬間に倒れます。ところが回っているコマは、少し傾いても倒れません。重さの力が消えたわけではありません。回っているものに力をかけると、その力は「倒す」向きではなく「横へ回す」向きに効いてしまうのです。

公開:2026.10.18 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

子どもにコマを回して見せたら、「なんで倒れないの?」と聞かれました。「回ってるからだよ」と答えると、「なんで回ってると倒れないの?」と返されます。

よく見ると、コマは少し傾いたまま、頭をゆっくりと円をえがくように振っています。それでも床に倒れこみません。

やがて回転が遅くなると、頭の振れが急に速く、大きくなります。そして最後は、ふらふらと床に転がります。この一連の動きには、ちゃんと理由があります。

理由は2つだけです

1
倒す力が「横向きの首ふり」に化ける

回っているコマを重さが倒そうとすると、コマは倒れる代わりに、頭を横へ回します。重さの力は、首ふりを続けるために使われています。

2
速く回るほど、首ふりはゆっくりで小さい

回転が速いほど、同じ重さの力でも、向きは少ししか変わりません。遅くなると首ふりが速く大きくなり、ある速さを下回ると支えきれずに倒れます。

大人がつい「回ってるから」で済ませてしまう部分を、順番に見ていきましょう。

重さの力は、なぜ「横」に効くの?

まず、止まっているコマを考えます。少し傾けると、重さは真ん中にかかり、とがった足を支点にして倒そうとします。止まっていれば、そのまま倒れます。

回っているコマでは、事情が変わります。コマのふちの一部分に注目してください。その部分は、いま上側にあっても、すぐに回転で横側へ運ばれていきます。重さが「下へ押した」効果は、押された部分が回って移動した先で現れます。

その結果、コマ全体としては「倒れる」のではなく、軸の向きが「横へずれる」動きになります。これを何度もくり返すと、軸の先は円をえがいて回ります。図1の上の点線が、その軌跡です。この首ふりを「歳差運動(さいさうんどう)」と呼びます。

床 重さ(下向き) 軸の先は横へずれる (点線の円をえがく) 支点(足の先) 回っているコマ:倒れずに首をふる 止まったコマ そのまま倒れる
図1:左が回っているコマ、右が止まったコマ。どちらにも、真ん中から下向きの矢印の重さが働いています。止まったコマは右の点線の矢印のように倒れますが、回っているコマは、軸の先が上の点線の円に沿って横へずれていきます。

回転が遅くなると、なぜ倒れるの?

コマの「回りの勢い」は、回転が速いほど大きくなります。重さの力が軸の向きを変える量は、毎秒ほぼ同じです。勢いが大きければ、その変化は全体から見ると小さく、首ふりはゆっくりになります。

床との摩擦や空気で回転が落ちると、勢いが減ります。すると同じ重さの力で軸が大きく動かされ、首ふりは速くなります。図2のつまみで回転の速さを下げると、首ふり1周の時間が短くなるのが分かります。

この記事のモデルのコマでは、毎秒8回転くらいを下回ると、首ふりを安定して続けられなくなります。頭が大きく揺れ始め、やがて縁が床に当たって倒れます。

ふらついて 倒れる範囲 0 10 20 30 40 コマの回転の速さ(1秒あたりの回転数) 0 1 2 3 4 首ふり1周の時間(秒) 速く回るほど 首ふりはゆっくり 1周 1.8 秒
つまみを左へ動かすと、首ふり1周の時間が短くなります
図2:右上がりの直線が、回転の速さと首ふり1周の時間の関係です。左はしの塗った範囲(毎秒8回転より遅い)では、首ふりを保てず倒れます。つまみで回転を遅くすると、白い点が左下へ下がり、首ふりが速くなることが分かります。
💡 傾けて回したコマが、だんだん起き上がることがある

勢いよく回したコマは、はじめ傾いていても、しばらくするとまっすぐ立って静かに回ることがあります。足の先と床のあいだの摩擦が、軸を立てる向きに働くためと説明されています。まっすぐ立って止まったように見える状態を、昔から「コマが眠る」と言います。

💡 地球も、大きなコマとして首をふっている

地球の自転軸も、月と太陽に引っぱられて、約2万6千年かけて円をえがいています。そのため北極星の役をする星は、長い年月で入れかわっていきます(北極星の記事)。

まとめ

回っているコマにも、倒そうとする重さの力はちゃんと働いています。ただしその力は、回転のせいで「倒す」ではなく「横へ首をふらせる」動きに使われます。速く回るほど首ふりはゆっくりで小さく、回転が落ちると首ふりは速く大きくなり、最後に倒れます。

コマは、倒れないのではなく、
倒れる向きを、回転で横へそらし続けている。

走る自転車が倒れないしくみは、コマとは少し違います。こちらは自転車の記事で、回る物が向きを変えるもう一つの例は水切りの記事で読めます。

🧪 コマの首ふりを、時計で測ってみよう
  1. コマを少し傾けて回し、頭が円を1周する時間をスマートフォンのストップウォッチで測ります。
  2. しばらく待ち、回転が遅くなってきたところで、もう一度1周の時間を測ります。後のほうが短くなっているはずです。
  3. 動画をスロー撮影すると、倒れる直前に首ふりが急に速く、大きくなる様子が見えます。

回転の速さを数えるのは難しいので、「回し始め」と「止まる直前」を比べるだけで十分です。床はなめらかで平らな場所を選んでください。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「物理」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(力学・剛体の力学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:首ふり1周は何秒?

直径6センチ、重さ50グラムの円盤のコマを、毎秒20回転で回したとします。重さの中心は、足の先から2センチの高さにあるとします。首ふり1周の時間を計算します。

⓪ もとになる式
記号で書くとΩ = m × g × r ÷ ( I × ω )、首ふり1周の時間 T = 2π ÷ Ω
言葉で書くと首ふりの速さ = 重さが回そうとするはたらき ÷ 回転の勢い
どこから来る式か「力のモーメントは、回転の勢い(角運動量)を毎秒どれだけ変えるか」という回転の運動の法則から来ます。重さのはたらきが勢いの向きだけを横へ変え続けるとき、この形になります。
記号意味と単位
mコマの質量(kg)
g重力加速度(m/s²)
r足の先から重さの中心までの距離(m)
I軸のまわりの回りにくさ=慣性モーメント(kg·m²)
ω回転の角速度(1秒あたりの回転角、ラジアン毎秒)
Ω首ふりの角速度(ラジアン毎秒)
① もとになる数値
コマの質量0.05 kg
円盤の半径0.03 m
重さの中心の高さ0.02 m
重力加速度9.8 m/s²
回転の速さ毎秒20回転
円盤の慣性モーメントは質量と半径の2乗のかけ算の半分とされる
② 計算してみる
半径の2乗0.03 × 0.03 = 0.0009
質量をかける0.05 × 0.0009 = 0.000045
半分にして慣性モーメント0.000045 ÷ 2 = 0.0000225
角速度(1回転は約6.28ラジアン)20 × 6.28 = 125.6
回転の勢い(角運動量)0.0000225 × 125.6 ≒ 0.002826
重さ(ニュートン)0.05 × 9.8 = 0.49
重さが回そうとするはたらき0.49 × 0.02 = 0.0098
首ふりの角速度0.0098 ÷ 0.002826 ≒ 3.47
首ふり1周の時間(秒)6.28 ÷ 3.47 ≒ 1.81

首ふり1周は約1.8秒。図2の白い点の初期位置と同じ値です。回転が毎秒10回転に落ちれば、勢いは半分になり、1周は約0.9秒と2倍の速さで首をふります。実際のコマで「止まりぎわに首ふりが速くなる」のは、この比例のためです。

高校高校+力が「横」に効くのを、矢印で考える

高校高校物理では、力が物を回すはたらきを「力のモーメント」として習います。傾いたコマでは、重さと床からの支えが、コマを倒す向きのモーメントを作ります。

高校+回転の勢いは「軸の向きを向いた矢印」で表せます。力のモーメントも矢印で表すと、その向きは水平で、勢いの矢印と直角です。直角な矢印を足し続けると、勢いの矢印は長さを変えずに向きだけが回ります。これが首ふりの正体です。

大学剛体の回転とオイラーの運動方程式

大学の力学では、コマは「剛体の回転」として扱います。正確な運動は、オイラーの運動方程式や、オイラー角を使ったラグランジュ形式で解きます。上の式は、回転が十分速い場合の近似(ジャイロ近似)です。このモデルが倒れる境目の毎秒約8回転は、「眠りゴマの安定条件」と呼ばれる不等式から見積もりました。軸の向きの小さな上下の揺れは「章動(しょうどう)」と呼ばれます。

📖 式の導出や、さらに先の内容:歳差(ウィキペディア) / 角運動量(ウィキペディア)

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。首ふりそのものは古くから解かれていますが、床との摩擦がからむ部分には未解明の点が残っています。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科・力のはたらき重さが真ん中に下向きに働くこと
高校物理・剛体のつり合い(力のモーメント)傾いたコマを倒そうとするはたらき
高校+物理の発展・角運動量勢いの矢印の向きだけが変わる話
大学力学・剛体の回転オイラーの運動方程式、眠りゴマの安定条件
研究非線形力学・摩擦の力学起き上がり・逆立ちゴマ・止まりぎわの動き
―生活とのつながりコマ遊び、地球の自転軸のゆっくりした首ふり
参考・出典
  1. ランダウ・リフシッツ『力学』(東京図書)剛体の運動の章
  2. 戸田盛和『コマの科学』(岩波書店)
  3. ファインマン・レイトン・サンズ『ファインマン物理学 I 力学』(岩波書店)回転の章
  4. 歳差 - ウィキペディア

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。コマの大きさや形、床の材質によって、首ふりの速さや倒れる回転数は変わります。