屋根に積もった雪は、どれくらい重いの?
― 1メートル積もると、乗用車20台ぶんが家の上に乗っています
手のひらにのせた雪は、ほとんど重さを感じません。ところが屋根いっぱいに1メートル積もると、その重さは30トン近くになることがあります。軽いはずの雪が家を押しつぶすほど重くなるのは、雪が「日がたつほど重くなる」ことと、屋根が「思ったより広い」ことの、2つのかけ算のせいです。
雪国のニュースで、屋根の上に人が立ち、スコップで雪を落としている映像を見たことがあると思います。
雪はふわふわで軽そうです。それなのに、なぜ危ない思いをしてまで、わざわざ屋根から下ろすのでしょうか。
実は、雪を放っておくと、古い家では戸が開かなくなったり、屋根が傷んだりすることがあります。屋根の上には、見た目からは想像できない重さが乗っているのです。
雪が家を押すほど重くなる理由は2つだけ
降ったばかりの雪は、ほとんどがすき間の空気です。何日もたつと自分の重さで押しつぶされ、同じ体積でも2〜4倍ほど重くなります。
ふつうの一戸建ての屋根は、100平方メートル前後あることが多いとされます。1平方メートルあたりは軽くても、広さをかけると何十トンにもなります。
どちらも、1つずつ見ると当たり前のことです。でも、2つをかけ合わせると、数字は一気にふくらみます。順に見ていきましょう。
同じ1メートルの雪でも、重さは3倍以上ちがう
雪の結晶は、枝をのばした形をしています。降ったばかりの雪は、この枝どうしが引っかかり合い、すき間だらけで積もっています。そのため、新雪の重さは同じ体積の水のおよそ10分の1しかないとされます。
ところが雪は、積もったまま形を変えていきます。結晶の細かい枝は少しずつ丸くなり、上に積もった雪の重さで押しつぶされます。こうして締まった雪は、水の3割ほどの重さになるとされます。とけかけて水をふくんだ雪では、5割近くになることもあります。
図1は、1メートル四方の箱いっぱいの雪を、とかして水にしたときの高さを比べたものです。箱の見た目は同じでも、中身の重さは大きくちがいます。
さらに、雪の上に雨が降ると、雨はほとんど流れ落ちずに雪へしみこみます。雨が10ミリ降るだけで、屋根全体ではおよそ1トンの重さが加わります。春先や暖かい冬の日に屋根が危なくなりやすいのは、このためです。
屋根の広さをかけると、何十トンになる
次は広さです。1平方メートルの上に1メートルの締まった雪が積もると、図1のとおり約300キログラムです。大人4人ほどの重さですから、まだ想像できる範囲です。
ところが屋根は、上から見て100平方メートル前後の広さがあります。300キログラムを100倍すると、30トンになります。乗用車1台を1.5トンとすると、20台ぶんです。図2のつまみで積雪の深さを変えて、重さがどう増えていくかを確かめてみてください。
家は、この重さに耐えられるように建てられています。雪の多い地域では、たくさん積もることを見込んで、柱やはりを太くしているとされます。それでも、見込みを超えて積もった年や、古くて傷んだ家では危なくなります。
家を設計するときは、雪の重さを数字で見込むことになっています。ふつうの地域では、雪1センチにつき1平方メートルあたり約2キログラムとして計算するとされます。雪の多い地域では、それより重く見込みます。つまり設計の世界でも、雪は「水の2〜3割」の重さとして扱われているのです。
じゃあ、どうすればいいの?
- 雪下ろしは、ひとりでしない落ちたときに助けを呼べるよう、必ず2人以上で。命綱とヘルメットを使います。
- 家が出す「サイン」に気づく戸やふすまが急に開けにくくなった、柱がミシミシ鳴る、は雪が重すぎる合図とされます。
- 軒下を歩かない暖かい日や雨の日は、屋根の雪がまとまって落ちてきます。1トン近い雪が一度に落ちることもあります。
雪による事故でけがをしたり亡くなったりする人の多くは、屋根からの転落や、落ちてきた雪の下じきなど、除雪の作業中とされています。屋根に上る前には、はしごを固定し、晴れた暖かい日は雪がすべりやすいことを思い出してください。人が雪に埋まったら、すぐに119番へ通報し、周りの人を呼んでください。高齢の家族の家の雪が心配なときは、自治体の除雪支援の窓口に相談する方法もあります。
まとめ
雪は1かけらでは軽くても、日がたつと締まって重くなり、屋根の広さをかけると何十トンにもなります。1メートルの締まった雪が積もった屋根には、乗用車20台ぶんほどが乗っていることがあります。
軽い雪も、時間と広さをかければ重くなる。
屋根の上には、見えない「車の駐車場」があります。
斜面に積もった雪がなぜ突然すべり出すのかは「雪崩は、なぜ穏やかそうな斜面で突然起きるの?」で、雪のすき間の空気が持つもう1つの働きは「外がマイナス20度でも、雪の下はなぜ0度のままなの?」で解説しています。空に浮かぶ雲の重さも「雲1つの重さは、どれくらいあるの?」で計算しています。
- コップに降ったばかりの雪を、押しつけずにふんわりと口まで入れます。
- 暖かい部屋に置いてとかし、水がコップの何割の高さになったかを見ます。
- 何日かたった雪や、手で押し固めた雪でも同じことをして、水の高さを比べます。
降ったばかりの雪なら、水は1割ほどの高さにしかならないはずです。古い雪ほど、水が多く残ります。キッチンのはかりがあれば、重さでも比べられます。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理基礎」「物理」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(雪氷学・建築構造学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 密度:1立方メートルあたりの質量。雪の重さのちがいは、この密度のちがいです。
- 積雪荷重:屋根や建物にかかる雪の重さ。家を設計するときに見込む量です。
- しまり雪:積もった雪が自分の重さで押し縮められ、結晶が丸くつながった雪。新雪より密度が大きくなります。
中学高校式で確かめる:屋根の雪の重さ
屋根の上の雪を、厚さが同じ1枚の板とみなします。その質量は「密度 × 体積」で、体積は「深さ × 面積」です。
| 記号で書くと | M = ρ × h × A F = M × g |
| 言葉で書くと | 雪の質量 = 雪の密度 × 積雪の深さ × 屋根の面積。屋根を押す力 = 質量 × 重力加速度 |
| どこから来る式か | 密度の定義(質量 = 密度 × 体積)と、重さの式(重力 = 質量 × 重力加速度)の組み合わせです |
| M | 屋根の雪の質量(キログラム) |
| ρ | 雪の密度(1立方メートルあたりのキログラム) |
| h | 積雪の深さ(メートル) |
| A | 屋根を上から見た面積(平方メートル) |
| F, g | 屋根を押す力(ニュートン)、重力加速度(9.8 メートル毎秒毎秒) |
| 締まった雪の密度 ρ | 1立方メートルあたり約300キログラムとされます |
| 降ったばかりの雪の密度 | 1立方メートルあたり約100キログラムとされます |
| 積雪の深さ h | 1メートル |
| 屋根の面積 A | 100平方メートル(一戸建ての目安) |
| 乗用車1台の質量 | 約1500キログラム |
| 雪の体積 h × A | 1 × 100 = 100 立方メートル |
| 締まった雪の質量 M | 300 × 100 = 30000 キログラム |
| 降ったばかりの雪の質量 | 100 × 100 = 10000 キログラム |
| 屋根を押す力 F | 30000 × 9.8 = 294000 ニュートン |
| 乗用車にすると | 30000 ÷ 1500 = 20 台 |
| 雨10ミリ(0.01メートル)の水の質量(水の密度は1000) | 1000 × 0.01 = 10 キログラム(1平方メートルあたり) |
| 雨10ミリが屋根全体に加える質量 | 10 × 100 = 1000 キログラム |
1メートルの締まった雪で約30トン、乗用車20台ぶんです。同じ深さでも降ったばかりなら約10トンなので、雪の「年齢」だけで重さが3倍変わります。さらに雨が10ミリしみこむと、屋根全体で1トン増えます。
高校高校+屋根の傾きと、雪が「すべり落ちない」理由
高校傾いた屋根の上の雪にかかる重力は、屋根に垂直な成分と、屋根に沿った成分に分けられます。屋根に沿った力が、雪と屋根の間の静止摩擦力より小さいあいだは、雪はすべり落ちずに屋根を押し続けます。
高校+上の計算で面積を「上から見た面積」にしたのは、雪が空から真下に降り積もるからです。屋根が傾いていても、受け止める雪の量は水平に投影した面積で決まります。積雪荷重を水平投影面積あたりで表すのは、このためです。
大学雪が締まっていくしくみ(圧密と焼結)
積もった雪が時間とともに締まる過程は、雪氷学で「圧密(あつみつ)」と呼ばれます。雪は上に積もった雪の重さを受けて、粘り気のある物質のようにゆっくり縮みます。この縮みやすさは「圧縮粘性係数」で表され、温度が高いほど、また密度が小さいほど縮みやすいとされます。同時に、氷の粒どうしは接したところで分子が移動して首のようにつながります。これを「焼結(しょうけつ)」と呼び、締まった雪が固くなる原因です。建築の分野では、地域ごとの最大積雪深と密度の見込みから積雪荷重を決め、屋根の勾配による低減も考えます。
📖 式の導出や、さらに先の内容:積雪(ウィキペディア) / 雪下ろし(ウィキペディア)
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 雨がしみこんだ雪の重さの予測 雨が雪のどこまでしみこみ、どれだけとどまるかは、雪の層の重なり方で大きく変わります。屋根の雪の重さを天気予報から正確に見積もる方法は、いまも改良が続いているとされます。
- 暖かい冬の「重い雪」 気温が高めの冬には、水分の多い重い雪が一度に降ることがあります。地球の温暖化で、雪の量は減っても重い雪の大雪はむしろ増えるのではないか、という見方があり、調べられています。
- 屋根の雪がすべり出す瞬間 屋根の雪がいつ、どのくらいの量で落ちるかは、屋根の材料や雪と屋根の間の薄い水の膜に左右されます。落雪を予測する研究が進められています。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。雪の密度は降り方や日数で大きく変わるので、ここでの数値は目安として受け取ってください。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 中1 理科「物質のすがた(密度)」 | 新雪と締まった雪の重さのちがい |
| 高校 | 物理基礎「力のつり合い・摩擦力」 | 重さの式、屋根の上で雪が止まっている理由 |
| 高校+ | 物理基礎の発展(力の分解) | 水平に投影した面積で雪の量が決まること |
| 大学 | 雪氷学・建築構造学 | 圧密、焼結、積雪荷重の見込み方 |
| 研究 | 雪氷防災の研究 | 雨のしみこみ、重い雪の大雪、落雪の予測 |
| ― | 生活とのつながり | 雪下ろしの判断、軒下を避けること、家が出すサイン |
- 防災科学技術研究所(雪氷防災研究センターによる積雪の観測・研究)
- 積雪(ウィキペディア)
- 雪下ろし(ウィキペディア)
- 建築基準法施行令 第86条(積雪荷重)
- 日本雪氷学会 編『新版 雪氷辞典』古今書院
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。雪下ろしや除雪は、自治体・消防等の指示や注意喚起に従い、無理をせず安全を最優先にしてください。