雪山でサングラスをしないと、なぜ夜になって目が痛くなるの?
― 雪目は、目の表面の「日焼け」です
昼間はなんともなかったのに、夜になって急に目が痛み出す。これは雪目とよばれる、目の表面の日焼けです。雪は紫外線を下から目に跳ね返します。しかも痛みは、浴びてから半日ほど遅れてやってきます。だから、浴びている最中には気づけません。
よく晴れた冬の日、雪山でスキーやスノーボードを楽しみました。ゴーグルは曇るので、途中から外して滑っていました。まぶしかったけれど、痛くはありませんでした。
ところが、宿に戻って夕食を食べ終えたころから、目がゴロゴロし始めます。砂が入ったような痛みです。涙が止まらず、明かりを見るのもつらくなってきました。
何かが目に入ったわけではありません。昼間、雪から跳ね返った紫外線が、目の表面をじわじわと傷めていたのです。
雪目が起きやすい理由は2つだけ
芝生や土は、紫外線をほとんど跳ね返しません。新雪は、最大で8割ほどを跳ね返すとされています。目は、空からと足もとからの、両方の紫外線を浴びることになります。
目の表面が傷んでも、浴びている最中には痛みません。症状が出るのは、6〜12時間ほどあとだとされています。「痛くないから大丈夫」が、通用しないのです。
順番に見ていきましょう。どちらも、ふだんの生活では目が守られているしくみが、雪の上でだけ外れてしまう話です。
目は「上からの光」には強く、「下からの光」には弱い
人の目は、もともと上からの光には守られています。まゆの骨が少し前に出ていて、ひさしの役をします。まぶたも上から目をおおっています。まぶしい真昼の太陽を、私たちはふつう直接は見ません。
ところが、足もとから来る光には、ひさしがありません。ふだんの地面は暗い色で、紫外線をほとんど跳ね返さないので、それで困りませんでした。雪の上では事情が変わります。真っ白な雪面が、紫外線を下から目に向けて送り込みます。
さらに、山の上は空気が薄いぶん、紫外線が強くなります。標高が1000メートル上がるごとに、およそ1割増えるとされています。図1を見てください。つまみで標高を変えると、雪山で目に届く紫外線が、平地の草原とくらべてどれくらい多いかが分かります。
標高2000メートルの雪山なら、平地の草原のおよそ2倍です。しかも、この「2倍」は少なめの見積もりです。目にとっては、まゆやまぶたで防げない「下から」の分こそが効いてくるからです。帽子をかぶっても雪目になるのは、このためです。
なぜ、痛みは夜になってからやってくるの?
目のいちばん外側には、角膜という透明な膜があります。紫外線のうち波長の短いものは、この角膜の表面でほとんど吸い取られます。おかげで目の奥は守られますが、そのぶん角膜の表面の細胞が傷みます。
傷んだ細胞は、すぐには壊れません。日焼けした肌が、夜になってから赤くヒリヒリするのと同じです。数時間かけて表面の細胞がはがれ落ちてから、むき出しになった神経が痛みを伝え始めます。図2を見てください。
角膜の表面は、体の中でも生え変わりの速い場所です。そのため多くの場合、1〜3日ほどで自然に治るとされています。ただ、くり返し浴び続けると、目の別の病気につながるおそれも指摘されています。治るからといって、放っておいてよいものではありません。
北極圏に暮らすイヌイットの人々は、昔から木や骨を削った雪眼鏡を使ってきました。ガラスはなく、細い横長のすき間が開いているだけです。すき間が狭いので、上下から入る光の多くをさえぎれます。前を見る視界は残したまま、目に入る光の量を大きく減らす工夫です。
金属の溶接で出る青白い光にも、強い紫外線がふくまれます。保護面をしないで見ていると、雪目とそっくりの症状が夜に出ます。溶接の職場では「電気性眼炎」とよばれ、昔からよく知られた職業上の注意点です。
じゃあ、どうすればいいの?
- 紫外線をカットするゴーグルかサングラスをかける横や下からのすき間が少ない、顔にそったものを選びます。
- 曇りの日も、晴れの日と同じようにかける雲があっても紫外線はかなり通り、雪面と雲のあいだで跳ね返り合います。
- 夜に目が痛くなったら、こすらずに眼科へコンタクトレンズは外して、目を閉じて冷やします。
紫外線をカットしない色つきのレンズは、目を暗くするだけです。暗いと瞳が大きく開くので、入ってくる紫外線がむしろ増えるおそれがあるとされています。レンズの紫外線カットの表示を確かめてください。強い痛みが続く、見え方がおかしい、というときは、自己判断で様子を見ずに、すぐ眼科を受診しましょう。雪山で見えにくくなると、下山そのものが危なくなります。
まとめ
雪目は、目の表面の角膜が紫外線で日焼けした状態です。雪が紫外線を下から跳ね返し、山の上ではその紫外線自体も強くなります。そして痛みは半日遅れてやってくるので、浴びている最中には気づけません。
雪の上では、太陽は空と足もとの2か所にある。
痛くなってからでは、もう浴び終わっている。
肌の日焼けについては「曇りの日でも日焼けするのは、なぜ?」で、雪が白く見えるしくみは「氷は透明なのに、雪はなぜ白く見えるの?」でくわしく紹介しています。
- 晴れた日に、白い紙と黒い紙を地面に置き、そのそばで顔を下に向けずに立ちます。
- 白い紙の上に立ったときと、黒い紙の上に立ったときで、あごの下や首の明るさを、手鏡でくらべます。
- 白い紙の上では、あごの下まで明るく照らされているはずです。雪の上では、これが一面に広がっています。
目に見える光での実験ですが、雪は紫外線もよく跳ね返します。太陽そのものは、決して直接見ないでください。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理」「生物」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(光生物学・眼科学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 雪目(雪眼炎):雪面で跳ね返った紫外線などで、角膜の表面が傷む状態。医学的には紫外線による角膜の障害(光角膜炎)の一種です。
- 角膜:黒目の前をおおう透明な膜。目に光を取り入れる窓で、波長の短い紫外線の多くをここで吸収します。
- 反射率(アルベド):地面に当たった光のうち、跳ね返される割合。新雪は紫外線でも高く、最大で約0.8とされています。
中学高校式で確かめる:雪山で目に届く紫外線は、平地の何倍?
目に届く紫外線を、「空から来る分」と「地面から跳ね返ってくる分」の足し算で考えます。平地の空から来る分を1として、くらべた量で計算します。
| 記号で書くと | U = k × ( 1 + R ) |
| 言葉で書くと | 目に届く紫外線 = 高さの倍率 ×(空から来る分 + 反射率 × 地面に届く分) |
| どこから来る式か | 光の量は足し算できる(重ね合わせ)。地面に届いた光のうち、反射率の割合だけが跳ね返って上へ戻る、という光の収支から来ます |
| U | 目に届く紫外線(平地で空から来る分を1とした、くらべた量) |
| k | 高さの倍率(標高による紫外線の増え方。単位なし) |
| R | 地面の反射率(0〜1。単位なし) |
| 標高による増え方 | 1000メートルごとに約0.1(約1割)とされる |
| 新雪の反射率 | 最大で約0.8とされる |
| 草地や土の反射率 | 0.1未満とされる(ここでは多めに0.1とする) |
| くらべる雪山の標高 | 2000メートル |
| 平地の草原の量(k=1) | 1 + 0.1 = 1.1 |
| 標高2000メートルでの増え分 | 0.1 × 2 = 0.2 |
| 高さの倍率 k | 1 + 0.2 = 1.2 |
| 雪面での(1 + R) | 1 + 0.8 = 1.8 |
| 雪山で目に届く量 U | 1.2 × 1.8 = 2.16 |
| 草原とくらべると | 2.16 ÷ 1.1 ≒ 2.0 |
| 草原で1時間に浴びる量に届くまで | 60 ÷ 2.0 = 30(分) |
標高2000メートルの雪山では、目に届く紫外線は平地の草原のおよそ2倍になります。草原で1時間かけて浴びる量を、30分ほどで浴びてしまう計算です。実際には、まゆやまぶたが「空から来る分」をかなり防ぐので、目にとっては足もとの分の重みがもっと大きくなります。
高校高校+波長によって、目のどこで吸収されるかが違う
高校紫外線は、波長の長いほうから紫外線A・紫外線B・紫外線Cに分けられます。紫外線Cは大気のオゾンにほぼ吸収され、地上には届きません。地上に届く紫外線Bは、波長が短くエネルギーの大きい光で、角膜の表面でほぼ吸収されます。雪目のおもな原因はこの紫外線Bです。
高校+角膜を通り抜けた紫外線Aは、その奥の水晶体で多くが吸収されます。そのため網膜まで届く紫外線は、大人ではわずかだとされています。角膜と水晶体は、波長ごとに役割を分けたフィルターの重なりになっているのです。そのぶん、吸収する側の組織に負担がたまります。
大学光角膜炎と作用スペクトル
雪目は、医学では光角膜炎(紫外線角膜炎)とよばれます。どの波長がどれだけ害になるかは、作用スペクトルという重みの曲線で表されます。目に届く紫外線の強さに、この重みをかけて足し合わせたものが「有効な量」です。国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)の指針では、この有効量に、目や皮膚が浴びてよい上限が定められています。雪面の反射率(アルベド)は可視光と紫外線で値が異なり、新雪ほど高く、汚れたり溶けたりすると下がります。
📖 式の導出や、さらに先の内容:ウィキペディア「角膜」 / ウィキペディア「アルベド」
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 目に実際に届く量の測り方。 顔の形、まゆの高さ、視線の向きで、目に入る紫外線は大きく変わります。人形の頭にセンサーを付けて測る研究が続いていますが、一人ひとりの量を正確に見積もるのはまだ難しいとされています。
- くり返し浴びることの長い目で見た影響。 紫外線は、白目が黒目にかぶさってくる病気や、白内障との関係が指摘されています。どれくらいの量を何年浴びると危ないのか、はっきりした線はまだ引かれていません。
- 痛みが遅れる詳しいしくみ。 細胞が傷んでからはがれ落ちるまでに、どんな順番で何が起きているのか。細胞が自分から壊れる「プログラム」との関係などが調べられています。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。ただ、「雪の上では目を守る」という結論は、どの研究でも変わりません。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科1年「光の反射」、2年「感覚器官」 | 雪が光を跳ね返す/目のつくり |
| 高校 | 物理「光の波長」、生物「受容器」 | 紫外線A・B・Cと吸収される場所 |
| 高校+ | 物理・地学のコラム(オゾン層・紫外線) | 角膜と水晶体のフィルターの重なり |
| 大学 | 光生物学・眼科学・環境放射 | 光角膜炎、作用スペクトル、アルベド |
| 研究 | 環境疫学・眼科研究 | 目に届く量の推定、長期の影響 |
| ― | 生活とのつながり | スキー・登山でのゴーグル、曇りの日の対策、溶接の保護面 |
- 世界保健機関(WHO)ほか「Global Solar UV Index: A Practical Guide」(地面の種類ごとの紫外線反射率、標高による増加)。
- 環境省「紫外線環境保健マニュアル」(雪面の反射、目への影響、サングラスの選び方)。
- 気象庁「紫外線の性質」(雲の透過、地表面の反射、標高による変化)。
- 国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)「Guidelines on limits of exposure to ultraviolet radiation」(作用スペクトルと目の被ばく上限)。
- ウィキペディア「角膜」
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。目の痛みや見え方の異常があるときは、自己判断せず眼科医の診察を受けてください。登山やスキーでは、施設・自治体等の案内や指示に従ってください。